勇者
帝国が勇者召喚を何度も行っている。
これが事実なら、現時点でこの事を知れたのは大きい。
恐らく帝国側は俺達を奴隷然として扱うつもりで召喚したのだろう。
そんなこと、当然俺達や国民に対して知らせる事など出来ない。だから帝国はこれを秘匿したわけだ。
しかしそうなれば、帝国側は俺達の離反など許す筈もない。
手駒が減るだけならまだしも、今までの悪行がばれてしまう可能性があるからだ。
そうなれば、帝国は国内外からの批判に晒され、下手をすれば反乱等が起きてもおかしくはない。
ばれなくても、今後確実に勇者召喚は行い辛くなる。
それならば、俺達を殺してでも止めにくるだろう。
今まで以上に警戒して、事に当たる必要性が有るみたいだな。
そして、もうひとつ考えなければならないのは、帝国が勇者という切り札を持っている事についてだ。
現時点では、どれだけの力を持った勇者達がどれくらいいるのか、皆目検討もつかない。
もし、俺達程の能力を持つ勇者が100人も居たとすれば、負けは確実だろう。
流石にそれだけの戦力を持っているなら、俺達を召喚しなくとも目的を達せられただろうから、無いと思いたいが言い切れるものでもない。
まあ、情報源が酒場のおっちゃんの与太話(しかも、猛との飲み比べで酔っている)だから、本当に噂話程度の情報だが、充分注意が必要だな。
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次の日
「それじゃあ、いつも通り授業を始めるよー。今日は昨日まで教えてきた事の復習だよ。」
俺達がちゃんと6人揃っている事を確認して、魔法の訓練を開始するカテリーナ。
昨日までは魔法の基礎的な知識と初級魔法について習った。もう全部完璧なので、正直復習などいらないのだが、仕方ない。
「それじゃあ、まず、魔法とはどういう物の事を言うでしょうか? 久世君。」
初日と同様の質問だ。今度はちゃんと答えられる。
「はい。魔法とは、自分の持っている魔力を詠唱や魔方陣などによって物質に変換する事です。」
「その通りだよー。ちゃんと昨日までの授業が身に付いてるね。
注釈をつけるなら、初級魔法では物質のみの創造しか出来ないけど、中級上級と上がるにつれて概念なんかも創造出来る様になる、位かな。
例えば、時間とか空間は物質じゃないけど作る事が出来る、みたいにね。
じゃあ、次は属性について。じゃあ、鳥巻さん。」
「えーと確か、属性には多くの種類があって、火、土、風、水の4つが基本属性です。他には体、癒、無、雷、氷、時、空、闇、光があります。」
「……ありがとう。そうね、属性の種類としては今言ってくれたので大丈夫よ。
で、肝心の属性とはって事なんだけど、人間には使える魔法に向き不向きが有って、その傾向を示すのが属性なの。
例えば、土属性を持つ人は土に関連した物質を産み出すのが得意と言うこと。」
注意が必要なのは、土属性を持っていない人でも、土属性魔法を使う事は出来ると言うことだ。ただ威力や精度が低まるだけで。
あと、さっき言った属性以外にもマイナーな特殊属性が存在する。
そんな調子で、習った知識の確認で授業は進んで行く。まだ一週間しか経って居ないのに総復習とは。本当、もうちょっと進んでくれてもいいんだが。
まあ、魔法だって戦闘の為の知識だ。万が一何か重要な事を忘れてしまうと死に直結する。
過ぎた力は身を滅ぼすとも言うし、基礎からしっかりと言うことだろう。近接訓練教官のダヴィドと同じだな。
まあ、俺には瞬間記憶能力も有るし、魔力(魔素)の操作も他の異能力のお陰で慣れたものなのだが。
その後、実際に習った基本四属性の魔法の練習をした。
「じゃあ、今日はこの位にしておこっか。明日のダンジョン行きに支障をきたしてもあれだしね。」
カテリーナが授業の終わりを告げる、が……。
ダンジョン行き? なんだそれ、そんな事聞いてないが。俺が聞いてなかっただけか?
「えっ。どういう事なん、カテリーナちゃん。あたし達明日ダンジョンに行くん? なんや急な事やけど、魔族でも出たんかいな。そもそもダンジョンって聞いた事ないねんけど、どういう所なん?」
賽華も聞いてないみたいだな。あと、ダンジョンを知らないって言うのは嘘だ。まあ、一般的なゲームのあれを思い出してくれればいい。
「あれ、授業を始める時に言わなかったけ? ごめんね。
急に決まった事なんだけど、明日皆さんはダンジョンに挑戦してもらいます。」
「僕達まだ戦い方とか学んで無いんですけど、そんな所に行って大丈夫何ですか?」
「聖野君の心配も分かるけど、明日行くダンジョンの難易度は高くないし、深くまで潜るわけじゃないから大丈夫! 私たちも着いていく事だし心配無用だよ。」
難易度が高くないなら、人鬼の森のダンジョンだろう。
名前の通りゴブリンやオーガなど人形をした鬼の魔物が出るダンジョンで、新人の冒険者や若手の兵士に良く使われる、初心者用のダンジョンだ。
そこなら、まだ戦闘経験のないやつらでも危険は少ないだろう。
「そのダンジョンって魔物とか出るんだよね? わたし、怖いな。」
「大丈夫、いざという時は僕が守ってあげるよ!」
一瞬にしてお花畑空間が広がった。勿論、鳥巻と聖野だ。リア充爆発しろ。
一方、
「ふふふ。ついにこの俺の真なる力が試される時が来た様だな。大邪神の眷属として姿を表した邪悪なる鬼どもを聖なる力で消し去ってくれるわ。」
と、だれにも聞こえない程の声で言うのは布妻君だ。こっちを見ると心が落ち着くな。
彼は未だにA組以外に話し掛けられていない。頑張れ、俺は応援しているぞ!
その間にダンジョンについての説明も終わっていた。やはり挑むのは人鬼の森の様だ。
カテリーナは既に魔法使いっぽい服装からいわゆる普段着の格好に変わっている。授業は終わりのようだな。
さて、授業も終わった事だし、昼食に向かうか。
「なあ、久世君。聞いたか? ダンジョンだって。いやあ、楽しみだな。」
目をキラキラさせてそう問いかけてくる布妻君。A組だけになったとたんしゃべりかけて来た。本当、内弁慶だな。
「布妻君はえらい楽しみみたいやね。」
「それはそうだよ。何て言ったってダンジョン、異世界を象徴するものの一つじゃないか! 男のロマンだよ、なあ?」
そこで俺にふるのかよ。
「確かにな。まあ、明日は敵も弱いし、俺らの実力も出せんからロマンってほどじゃないが、テンションが上がるのは確かだな。」
「なんや男の子って単純やなあ。でも、そのワクワクする気持ちはわからんでも無いんやけどね。」
「まあ俺としては、合法的に城の外に出れる事の方が嬉しいけどな。これで離反計画を進める大きな一手を打てるかも。」
「前言撤回。全然単純じゃないやん。…双君、もっと楽に生きてもええんよ。布妻君を見てみい、何も考えんと生きとるんやから。」
「なっ!失礼な。僕だって考えて生きている!」
「それやったら、はよ、同じ班の人と喋りぃな。あんたも鑑さんも全然喋らへんから、すっごい気まずいんやけど。そうかと思えばブツブツ呟いとるし。」
「べ、別にいいだろ。どうしようと僕の勝手だ。」
布妻君は落ち込んでしまった。頑張れ、俺は応援しているぞ!
その後昼食を食べて、午後の近接訓練に向かう。
昨日までの訓練の内容は、極めて単純。
ランニング、その言葉で全てが片付く。今日もどうせランニングだ。
しかし、どうやら今日はランニングだけじゃないらしい。
ダヴィド曰く、
「お前達はまだ基礎がなっていないから、本来はまだ剣技を教えるつもりは無かった。
だが、明日の迷宮入りに備えて一つだけ剣の型を教えてやる。上段降り下ろしだ。
お前達のような初心者でもある程度威力は出る技だから、ゴブリンごときならそれで充分。
俺が手本を見せるから、真似して振れ。」
「「「「「「はい!」」」」」」
と言うことだ。
ダヴィドは持っていた大剣を上段から真っ直ぐ降り下ろして見せる。重心が安定していて体がぶれない。
剣筋も通っていて綺麗だ。顔や性格によらず洗練された剣だ。流石、第一師団長は伊達じゃないな。
そして、俺達に剣を振らせて一人一人修正していく。
そしてダヴィドは一通り見終わると前にたって声を張り上げる。
「よし、素振りはその程度だ。あとは、いつも通り走り込みだ。分かったら、剣を置いて俺に着いて来い。」
「「「「「「はい!」」」」」」
あっ、やっぱり走り込みは有るんだな。
次は閑話とキャラ紹介になる予定。月曜日更新予定。
検索ページで「なろうコン大賞」、ジャンル:ファンタジー、おすすめ順の1ページ目に「クラス全員異世界無双」の文字が!!
本当でびっくりした。
やっぱりやる気は重要。
感想のお陰ですごくやる気が出た。ありがとう。
ということで、感想、評価、ブックマークよろしくお願いします。




