表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス全員異世界無双  作者: 家人
第1章 異世界召喚
1/24

プロローグ

世の中には変わった人が沢山いる。電車の中で急に懸垂をする人もいれば、会見で泣きわめく人もいる。贔屓の球団の優勝を祝い川に飛び込む人もいれば、盲目の作曲家を偽る人もいる。

そこらを見渡せば一人くらい変わった事をしている奴はいるだろう。


でも、このクラスほど変わった奴等が多く、その質が高い集団は存在しないと思う。


俺の所属するクラス、武都高校2年A組はそんな個性派で変わった奴等の巣窟だ。



―――――――――――


少し薄暗い部屋の中に俺はいた。そして、俺の正面には女が2人、隣には男が一人。


3人はいずれも気心の知れた友人だ。

にもかかわらず、卓を囲む俺を含めた4人を取り巻くのは緊迫した重たい空気。


俺はその空気に耐えきれず、窓の外を見る。

外では連日連夜降り続く記録的な大雨。それを見て、俺はより一層気を重くする。


隣に座っている男、大和猛やまとたけるはこの空気にイライラを募らせているようで貧乏震いをしている。


女性陣、稲荷九十九いなりつくも摂津賽華せっつさいかも表情にこそ出していないが、恐らく焦れったいおもいをしているに違い無い。


どうやら時間を引き伸ばすのはこれ以上は無理そうだ。

俺は決心して言葉を告げる。


「これ以上は無理だ。流石に着いて行けない。俺は降りさせてもらうよ。」


すると、同調するかの様に猛も俺に続く。


「同じく。勝てる気がしねぇ。」


「あんたら、揃いも揃って腰抜けかいな。男やったら勝負しいや。」

「そうなのじゃ。逃げるんじゃ無いのじゃ!」


女性2人が引き止めに来るが、これは時間をかけて考えて出した結論だ。何を言われようと意見を変えることは出来ない。


「ハッハァ! 腰抜けでもかまわねぇよ。」

「俺もだよ。生憎、勝てない闘いはしない主義なんだ。」


俺達がそう言うと、渋々ではあるが女性陣は引き下がった。認めた訳では無いだろうが時間がない。俺達にかまけて時間切れにはしたくないのだろう。そう簡単に意見が変わらなそうなのを見て諦めたのだ。


「九十九ちゃんは降りへんのか? 今ならまだ間に合うで。」


賽華は意思を確認するように尋ねる。


「妾をあんな腰抜けどもと一緒にするんじゃ無いのじゃ!」






「じゃあ、行くで。」


「これでどうじゃ! フルハウスなのじゃ!」

「おっと。残念やったな九十九つくもちゃん。フォーカードや。」

「のじゃっ! ひ、ひどいのじゃあ! フォーカードなんて……。」

「せやから、忠告したのに。降りへんのか?って。

これであたしが1位浮上で、九十九つくもちゃんが変わらずのベベ。

と言うわけやから、九十九ちゃん、今日も帰りがけにアイス頼むで~。3日連続やけど堪忍な。」


そう言って自分の席に戻ろうとする賽華に九十九が待ったを掛けようとする。


「ま、待つのじゃ。まだゲームは終わっていないのじゃ!ほら早く席にもどっ……」


キーンコーンカーンコーン


が、無情にも彼女が話し終わる前に朝礼をつげる鐘が鳴った。

ゲームの有効時間は朝礼の鐘が鳴るまで。即ち、九十九の敗北がきまったのである。


ガックリと肩を落とす彼女を尻目に俺も自分の席に戻る。

それと同時に担任の田中先生が入ってきた。





どこの学校でも見られるような普通の光景だ。しょうもない事で一喜一憂したり、喧嘩したり、怒られたり、遊んだり、笑ったり……。

そんな普通の日常。


しかし、普通の日常を暮らす肝心の俺達自身は普通ではない。クラスメイト全員が何かしらの"個性"をもっているのだ。

勿論、"人間は一人一人みんな異なった個性を持っている。だから、誰一人『普通』何ていう人間など居ないんだ!! " なんて言う頭の悪そうな事を言うつもりはない。

正真正銘、異常、なのである。


例えば、稲荷九十九いなりつくもだ。


高校2年生にしては少々幼すぎる体つきと顔立ちをしているものの、その顔は整っており、そこから伸びる天然産の金髪ロングは彼女の雰囲気に非常に合っている。

一言で表すなら金髪美ロリだ。この学校にロリコンが多いのは彼女のせいだ、とする説が有るくらいだからな。…本当に多いかは知らんが。


確かにそれも個性では有ろうが、異常と言うほどではない。

彼女の"個性"は他にある。


彼女の頭の上には普通の人には無い、ある'もの'が存在している。


獣耳。狐の耳が生えているのだ。

それも作り物とかではなく本物の。

初めて彼女を見た時は偽物かとも疑ったが、作り物の獣耳にはあり得ない質量と現実感によって、本物であることを知らしめられた。


さらに、視線を下に向けるとそこには狐の尻尾も生えている。


そう、彼女の正体は俗に言う獣人、……ではなく、九尾である。尻尾が9本も生えていることからも解る。

九尾は妖怪の一種であり、その地位は妖怪界で最上位に位置するそうだ。

彼女が言うにはお姫様って所らしい。普段の振る舞いからは想像すら出来ないが……。


とまあ、彼女の"個性"はこんなところだ。流石にこれ程までの"個性"を持つものはクラスでも珍しいけれど。


例えば、摂津賽華せっつさいかは賭博に関して大きな才能を持っているし、大和猛やまとたけるはその細身からは想像もつかないほどの筋力を持っている。


そんな感じでこのクラスには様々な摩訶不思議が存在する。

九尾にはじまり、超能力者や錬金術師、アンドロイドなんてのもいるし、仙人の弟子だと言うやつもいる。

控えめな所で言うと、格闘の達人や勉学における天才などもいる。


要するに、このクラスには全国からあらゆる才能や力を持った高校2年生が集められているのだ。様々な才能を一ヶ所に集める事で切磋琢磨させたい、という名目で。


だが、それが全てでは無いのだろう。あくまでもそれは名目であって、本音ではないはずだ。


才能を磨くだけなら、同じ種類の天才だけを集めた方が遥かに効率がいい。

学者なら学者同士、超能力者なら超能力者同士。

そして、それに特化した知識やら技術を身につけさせれば良いのだから。


しかし実際は違う分野の天才同士を集め、全員に様々な知識や技術を教え込んでいる。

明らかにおかしいし、失敗する要素しかない。


だか、その結果……

クラスメイト全員が、IQ120を超え、黒帯を締め、念じるだけで物を動かせる様になっている。


あり得ない、と言いたい所だが実際問題成功しているのだから閉口せざるを得ない。



斯くして多芸な天才集団が生まれた訳だが、その中でも元々自分の得意だった分野についてはやはり殊更天才な訳で。


例えば、先程のポーカーが良い例だろう。

クラスメイト全員がギャンブルで食べて行けるほどの力を身に付け、尚且つ賽華にはハンデを着けていたにも関わらず、最終的に勝利したのは彼女だ。


何が言いたいかと言うと、自分の得意分野が疎かになっている訳では無い、と言う事である。

寧ろ伸び幅はより大きいと言って差し支え無いだろう。


まあ、これだけの成果を挙げるために、どれ程大変な目に合って来たかを考えると当然の結果と言えなくも無いが。


そんな過去の、と言うか主に昨日の、授業内容を思いだして少し憂鬱な気分になり思考するのを止める。




すると、それとほぼ同時に朝礼も終わったようで、田中先生が部屋から出ていく。

そして、去り際に扉から顔だけ出して一言。


「そういえば、あと5分位で異世界転移するらしいから、心づもりしておけよ~。」


……は? 急になにを言っているんだ?


急に訳のわからない事をいい始めた先生に対しクラス中がざわつく。一番前に座っていた暗刈彩芽くらかりあやめが先生に対して真意を尋ねる。


「ちょっと田中先生、急に何訳わかんない事言ってんの? 異世界ってどういうこと?」

「いや~。どういう事って言われてもな。天神あまかみ先生がそう言ってただけだしなぁ。ま、心配すんな。俺たち教師陣も一緒に転移するみたいだし。わんころ達も一緒に転移するらしいから、世話の心配はしなくてもいいぞ。」


混乱するクラスを眺めながら、にやついた顔でそう返す田中先生。あまり説明になっていない回答だが、おそらくわざとそう言っているのだろう。

ついでに、天神先生も田中先生と同じく担任の先生だ。何故かこのクラスには担任が5人いる。授業を行うのも全部その5人の先生だ。


「まあ、そういう訳だからよろしくな~。くれぐれも逃げ出すんじゃねーぞ。まあ、この部屋から出れるとも思えねぇが。」


そう意味深に言い残し先生は扉から出ていった。それと同時に一層教室の中がうるさくなる。隣の奴に話しかける奴、部屋から出ようとする奴、様々だ。

俺も先程ポーカーをしていたメンバーと話に行くと、猛が話しかけてきた。


「しっかし、どういうことなんだ? 田中の野郎は何も言う気はなさそうだったしよう。」

「そうだな。嘘を言っているようには見えなかったが。賽華はどう思う?」

「あたしから見ても嘘を付いてるようには見えんかったよ。でもそうなると異世界やろ? 流石にこのクラスでも異世界出身はおらんしな。なんかちょっと不安やわ。」


ギャンブルの天才である彼女から見ても嘘を付いているように見えなかったのだから、田中先生の言う事は少なくとも嘘では無いのだろう。それよりも…


「で、部屋から出れないって言うのは本当みたいだな。」


部屋から出ようと試みている奴が何人かいるが、何らかの力によって扉や窓は全て動かないようだ。

力を加えてもダメなようだし、刀や銃を使ってもびくともしないようだ。錬金術を使っている者もいるが、何の効果も見られていない。

なぜ刀や銃があるのかは、まあ、そういうクラスだと諦めてくれ。


そうこうしている間にも時間は過ぎている。


地面の方から今まで感じたことのない力が溢れ出し、教室に光が充ち始める。

それを見て、不安がる者、テンションを上げる者、慌てる者、様々だ。

外からも騒ぎが聞こえてきている。どうやら、他のクラスの生徒たちも召喚されているようだ。


そうして一瞬光が強まったのを見るや否や、俺の視界が急に暗転した。







かくして武都高校2年A組、生徒26名、教師5名、及び飼っているペット3匹、総勢34の命が地球上から姿を消した。彼らは転移先、異世界の地においてどのような事を為すのであろうか?











読んでくれてありがとう。

これからも読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ