それは、明かり差す深海の物語。
夜月瑠璃さまへ。
(Aコース:堕ちる瞬間)
※小説というより散文詩
※一貫して重い
※いわずもがな病んでる
※バレンタインにぶっこむものじゃない
以上を踏まえてお読みください。
ゆぅらり ゆぅらり 揺れる声
ふるえて つぶれて 届かずに
ひぅらり ひぅらり すさぶ風
おどって こごえて 留まらずに
さらい逝く さらい逝く
「いくの?」
「いまさら、私を置いて、いくの?」
「……ばっかみたい」
けれど、本当に、愚かしいのは。
* * *
いまだからこそ言える昔話を、ほんのすこしだけ、語ろうと思う。
それは、本当に遠い、いつかの物語で、きっとあなたが出会う日はこない。
さみしくて残酷な、お伽話になりそこねた悲劇と、悲劇になりそこねたお伽話。
私は謳うことしかできないから、こうして、時に失せた面影を、音のなかに託すの。
――を好きになれたなら、きっとすべてが丸く収まった。
「忘れていい。――の心が俺に向いてないのはわかってるから」
なにをわかっていたの。
「わかってるだろ!? これだけ一緒にいたんだから、そんなの」
わかってないのは、貴方のほうだ。
「待ったって、どうせ変わらない……!」
伝えそこねた言葉が、いくらでもある。
伝えずにおけばいいと思った言葉が、いくらでも。
聞いてみたいと思っていたこと。
聞くべきだとわかっていたこと。
宙に浮いた言葉が、切れた糸のように、ゆらりゆらりと、揺れている。
貴方をさらっていった風を追いかけて、二度とつながることもないまま、揺れている。
ねぇ、悲劇の王子様。
残酷でひたむきな王子様。
――たぶん、きっと、好きでした。
それでもいいから、と伸ばされた手を、受け入れたのが、私の罪。
ならば彼の罪は、なんだったのだろう。
歯車は、どこで狂ったのか。
手を伸ばしたところからまちがっていた?
重ねたところからまちがっていた?
けれど、それでも、私は。
彼の手を、とるのだろう。
――堕落せしめよ。
深く昏く。
沈まばもろとも、水底へ。
そうして始まった関係だから、タイムリミットはおのずと決まっていた。
窒息するまで。
身体が耐えきれなくなる、そのときまで。
自然の摂理に逆らって、心の声に逆らって、息苦しさにさえ喜びを見出そうとして。
潜りつづけた。
深く。
深く。
深く。
深く。
ただ、潜りつづけた。
遠ざかる水面。遠ざかる陽射し。
気づかずに笑う、水上の民。
おそろしく透明度の高い水が、私を殺した。
目に見えない毒素が、しらずしらず身体を侵すように。
不純物のない真水こそが、私の首を締めていた。
ゆるやかに。
ひとしれず。
あたりまえの顔をして。
「好きじゃなかった。たぶん、きっと、はじめから」
なにが貴方を壊したのか、わからないままに。
「別れてください」
こんな言い方は、したくないけれど。
「私のために、別れてください」
私よりも先に、酸素を失くしたのは、貴方でしょう。
壊れていくのを知っていて、先の見えた戯曲を演じられない。演じたくない。……もう。
終わりに、したかった。
壊したくない。傷つけていることを知りながら、なんてエゴイズム。壊さないために傷つけて。結局、手のうちに遺るのは。
空虚な時の記憶だけ、なんて。
「……お伽話にしても笑えないね」
紙一重の狂気を、名残りと抱いて。
cry for xxx.
涙の代わりに、真実を捧げよう。