人生こんなところで終わらせてたまるか!第9話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLである。身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れ話をもちかけられ、婚活を始めたあたし。
ネットの出会いサイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんに結婚紹介所を紹介してもらったと思ったら、そこの社長さんは、あたしの小学生の時の初恋の人だった!
その初恋の人となんかいいムード。と思ったら、今度は社内で気になる年上の課長があたしに個人的にお誘いを……。
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
「ここだ」
纐纈課長の後をついて行くこと10分。駅前を過ぎ、なんだかイヤな予感がし始めた頃、課長はある雑居ビルの地下に向かう階段を指さした。「バー サンセット」と書かれた看板が立つそこは、昨夜来たばかりの場所だった。
「あ…ああ、あああ…こ、ここですかー?課長よくいらっしゃるんですか?」
あたしは、かなり慌てて、ドもった。
「ああ。行きつけという程ではないが、まあ、時々顔出す程度かな」
そう言うと、課長はさっさと地下へ下りていった。あたしは少し溜息をついてから、意を決したようにして、薄暗い階段を下りていく課長の後を着いて行った。
「いらっしゃいま…」
ケンは、昨日と同じようにカウンターで一人グラスを拭きながら客を迎えた。最初に入った纐纈課長に愛想を振りまくように挨拶した後に、確かにあたしの顔を見て、一瞬言葉を詰まらせた。あたしは、ケンに目で訴えた。
「ああ…纐纈さん、お久しぶりですね。そちらは?」
と、課長にあたしの事を尋ねてみせた。よし、ケン、さすがサービス業。
「うちの女子社員でね。私の課員だ。ちょっと、奥のボックス借りるけどいいか?」
「どうぞ、どうぞ」
昨日はまっすぐカウンターに座った星夜くんとは違って、課長は奥のボックスに進んでいった。そこは、簡単なパテーションが設置してあって、カウンターからは直接見えないようになっている。
「早速なんだが、話というのは、小林のことなんだが」
課長は座るや否や、そう切り出した。小林とは、京子のことだ。あたしは、安心したような、びっくりしたような、残念なような。
「ちょっと、悪い噂を耳にしてね」
どの噂だろう。悪い噂になりそうなネタは多分両手で足りないくらい思い当たる。
「あ、ごめんな、いきなり。何か飲むか?俺はマティーニを」
「え、ええ。じゃあ…わたしは…なにか軽めのカクテルをお願いします」
さすがに二日酔い明けなので、とは言えなかったが、その辺の事情はケンは分かっているだろうから、お任せにしてみた。ケン、空気読めよ。
「噂って、どんな話ですか?」
逆にあたしは課長に京子の噂とやらを聞いてみた。
「うん、それが…プライベートなことなので、私もあまり口出しはしたくはなかったんだが…どうも過去の交友関係のある人に問題があるようなんだ。つまり、うちのお客さんらしいということだな。いや、正しくは、交友があってからうちの客になったという方が正しいらしい。佐伯はそのこと知ってるか?」
その手の話なら、あたしが知ってるだけでも3、4人はいる。どれも、近くの中小企業の社長さん。でも、さすがに友人を売ることはできない。
「その辺は、あたしはなんとも…」
「お客様とのお付き合いという意味ではあまり好ましい話ではないのだが、ただ、私の聞いた話によるとすでにお付き合いはしてないというらしいので、特に本人を責めることもできないし、そのつもりもない。それは安心してくれ。ただ、心配なのは、その人物が最近小林のことをつけ回しているらしいという話を耳にしたんだ。何か聞いてるか?」
それはあたしも初耳だった。
「いえ、そういう話は本人からも聞いたことはありませんね」
まあただ、ストーカーされても仕方ない事情は十分ありえるなとは思ったが、それは口にはせずに。
「そうか。本当は本人に言うべきなんだろうが、最初に言ったとおり、個人的なことにはあまり上司が口を挟むべきではないと思うので、できれば、佐伯から注意するように言ってやってくれないか」
潔癖な性格の纐纈課長らしい判断だと思った。上司からその手の話をすれば、本人にプレッシャーを与えかねないと思ったのだろう。あたしからすれば、その程度のプレッッシャーはむしろ、京子にとって必要じゃないかなんて思ったりもしたのだけれど。
「わかりました。気をつけるように言っておきます」
「そうか、じゃあ、頼んだ。私も何か情報が入ったら、追って伝える。よろしく頼むな」
「はい、分かりました」
「それとな、ここからは仕事の話なんだが。佐伯、融資の仕事には興味はないか?」
急な申し出だった。
「融資ですか?それって、本社組の仕事ですよね?」
あたしは、少し躊躇した。




