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人生こんなところで終わらせてたまるか!第7話

 あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLである。身長180センチ、よく街で男の子に間違われる。大学時代は女だてらに女子プロレスにはまり、全国大会で決勝まですすんだこともある。

 5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れ話をもちかけられ、婚活を始めたあたし。

 ネットの出会いサイトで誤って出会ってしまったのがゲイのおっさんだったのだけれど、親切に知り合いの結婚紹介所を紹介してくれた!

 ようやく、あたしの婚活がまともに始まる?


 ドキドキ婚活ストーリー!

 あたしの通うジョイジムで権藤さんに会ったことがない理由はすぐに分かった。あたしは日曜の午後から通う習慣になっていたのに対し、権藤さんは平日の夕方以降という時間帯に主に通うという都合があったためらしい。権藤さんは仕事柄、週末の方が仕事が入ることが多いので、平日に通うことが多いのだという。あたしは逆に銀行員というのもあって、土日は必ず休みなので、平日に行くことは滅多になかった。

 権藤さんとは、火曜日の夜にジョイジムで会う約束をした。その日であれば、紹介してくれる約束になっている結婚紹介所の社長さんも大体の場合顔を出す曜日とのことだった。

「おはようございます」

 ジムに着くと、権藤さんはすでにジムに着いていて、バーベルを持ち上げていた。

「よお、おはよう」

 あたしがジムに入ってくるのを視認すると、権藤さんは先日会ったときとはうって変わって、男らしい声で答えた。バーベルを定位置に戻すと、あたしの方に近づいてきて、

「ここでは、ゲイなのは内緒だからね」

 と、あたしに耳打ちした。無精髭は相変わらずだが、先日会ったときのようには化粧はせず、男臭い感じになっていた。若干デオドラントの香りがする程度で、見た目は普通のおじさんだった。ジャージを履いて、ラフなTシャツという出で立ち。袖から覗く上腕筋は年齢の割にはかなりしっかりしたものだった。うん、あと10歳若ければ……。

「わかりました。内緒で」

 あたしは、にっこりと営業スマイルで応えた。

「佐藤さんね、まだ来てないようです。あ、その結婚紹介所の社長さん。来たら、声かけますよ」

 権藤さんは男らしくそう言って、また次のマシンに向かった。約束の時間より30分は早く来てしまったのだから、当然なのだけれど。

 あたしは最初に軽くストレッチをしてから、ランニングマシンに向かった。備え付けのテレビでは、ドラマをやっていた。この春から始まった新番組だった。タイトルは「名付けるならばそれは夕日」。どうやら青春モノらしい。最近花マル急上昇中の女優が主人公役で、教師の役らしい。高校が舞台で、新任でやってきた女性教師が様々な苦労をして、生徒達の信頼を得ていくみたいなストーリーらしい。それにしても、この女優さん、先生役としては若すぎないかしら。

 走り始めて、軽く汗をかき始めた頃、権藤さんが声をかけてきた。

「美保子ちゃん、来たよ。軽く話ししておいたから。あっちでコーヒーでも飲みながら話しないかい?」

 あたしは軽くタオルで汗を拭いてからマシンから降りた。

「こちら、佐藤さん。こちら、佐伯さん」

 権藤さんから紹介されると、軽く会釈した。

 え?

 あたしは驚いた。まずは何より若かった。権藤さんの知り合いの社長というので、彼と同じくらいの年齢を想像していたのだが、どう見てもあたしと同年代。しかも、身長が高い。あたしより目線が高い。190センチは軽く超えている。けれど、巨体というほどでもなく、かと言って華奢というのでもない。それなりに鍛えられた肉体がTシャツの上からでも伺える。顔より先にその肉体に惚れた。

 そして、最後に驚いたのは、その顔に見覚えがあることだった。絶対にどこかで見たことがある。

「さえきみほこ?あれ?佐伯って、美保子じゃね?」

 やっぱり。佐藤…佐藤…

「佐藤…せいや、星夜?」

「そそ、小学んとき一緒だったよな?」

 一緒だったどころか。

 初恋の相手でしたよ!

 そう、星夜くんは小学生の時に同じくクラスで、あたしの初恋の相手だった。もちろん小学生のことだから告白なんてしてないし、心の中に閉じこめておいた、かわいらしい少女の思い出の一欠片だった。ただ、当時の星夜くんはちびっ子で、小学5年生ですでに160センチになっていたあたしの胸元までしか身長がなかった。中学に入ってグンと身長が伸びたことは聞いていたが、まさかこんなに大きくなっているとは。しかも、あのかわいらしい顔からは想像できないくらい、男らしい顔つきになっていた。端正な輪郭はその当時の面影を残していると言えば、言えなくもない。

「そうそう、あの時は身長があたしのこんくらいしかなかったわよね」

 そう言って、あたしは胸元に手をやった。

「いっつも、チビチビって、いじめられてたよ」

「あたしはいじめてなんかないわよ」

「そうだっけか?あはは。でも、どうよ?今じゃ俺の方が大きいぜ。高校で一気に伸びたんだよ。バスケやってたせいもあるけど」

「へえ、バスケやってたんだ?あたしは、大学でレスリングやってたのよ」

「美保子らしいな。おてんばだったもんな」

 等と、こっちで勝手に盛り上がってると、まるでのけ者にされたような権藤さんが、きょとんとして、

「あれ?お二人、知り合いだったのかい? へえ、小学生のね。そりゃまた奇遇だね」

 と、狐に鼻をつままれたような顔をした。

「すみません、勝手に盛り上がっちゃって。あ、お茶しましょうか?」

「いやいや、全然構わないよ。せっかく久しぶりに再開したんだし、会話も楽しんだらいい」

「で、美保子、婚活してるんだって?」

 星夜くんは、話を元に戻してくれた。さすがに職業にしてるだけある。けど、初恋の人にそんな相談しなきゃならないとか、神様どんだけあたしに試練を与えてくれるんですか。

「あ、うん…いいえ…あ、いや、その…」

 あたしがしどろもどろしてると、

「あ、じゃあさ、その辺の話は後でしないか?そうだなぁ…この近くに行きつけのバーがあるんだけど、ジム終わったら、そこでゆっくり話しないか? まあ、改めての話は会社で聞くのもいいしさ。うちの担当員が相談に乗るから」

 星夜くんは空気を読んで、そう提案してくれた。この気遣いはあの頃から変わってない。というか、さらに洗練されたと言った方がいいのか。

「権藤さんも一緒に来ませんか?」

「私は、明日早いから遠慮しておくよ。後は佐藤さんに任せる」

 権藤さんも気を遣ってくれたのか、結局その後ふたりっきりでジムを出ることになった。

「いやー。本当にしばらくぶりだな。中学以来?」

 星夜くんは開口一番、そう言った。

「そうね。中学では同じクラスになったことなかったものね。何度か話はしたような気はするけど」

 あたしたちは、高校が別々だったので、一緒の学校だったのは中学が最後だった。クラス変えの度に同じくクラスになるようにって神様に祈っていたことを今更のように思い出した。あの頃は純情だったなぁ。

「中体連の時に何度か見かけた気がするな。美保子って、あの頃、陸上部だったよな?」

 確かに、あたしは陸上部にいた。そんな事を覚えてくれていたってことは、それなりにあたしのことを見ていてくれたんだろうか。なんて、ちょっと期待してしまう。

「そうそう、陸上やってたんだけどさ、どうしても足が速くならなくて、高跳びに転向させられてね。まあ、身長はあったからね」

「そういや、飛んでたっけ。時々見てたよ。俺は室内だったから、中からだったけど。あ、ここ。着いたよ」

 ジムのある駅前から線路沿いに歩いて5分程度のところだった。星夜くんは雑居ビルの地下に向かう階段を指さした。

「バー サンセット」と書かれた看板がその横に立っていた。サンセット。夕日。先ほど観ていたドラマを思い出した。そう言えば、あのドラマでは何に夕日と名付けるのだろう。

「俺の友達がやってるんだ。覚えてるかな?小林健吾ってヤツなんだけど。美保子同じクラスになったことあったかな?」

 小林健吾。その名前にはあまり覚えがなかった。

「んー。あんまり覚えてないけど」

「そっか。じゃあ、同じくクラスにはなったことないのかもな。俺は中学の時ずっと一緒だったからな」

 星夜くんと中学同じクラスだったのなら、あたしとは同じクラスになったことないということだ。覚えがないはずだ。

 薄暗い階段を下りていくと、突き当たりにシックな扉があり、それを押すと、暗がりの中にバーカウンターが見えた。

 あたしはドキドキしながら、彼について店に入っていった。

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