人生こんなところで終わらせてたまるか!第4話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLである。
身長180センチ、よく街で男の子に間違われる。大学時代は女だてらに女子プロレスにはまり、全国大会で決勝まですすんだこともある。
大学在学中に、齋藤丈治と出会い、結婚を前提にお付き合いを始めた。去年の秋にプロポーズしてもらい、それぞれの両親への挨拶も済ませ、来年には結婚の予定だったのだ。
ところが、急に別れ話をもちかけられた。その理由が宗教団体へのお布施のため、結婚資金を注ぎ込むことになったのという!
そんな男、こっちから願い下げだわ!
そして、婚活を始めた。どうなる、あたし!?
ドキドキ婚活ストーリー!
「権藤さんから返事きた?」
京子がカウンターの中から声をかけてきた。昼時間を過ぎ、ようやく客足が落ち着いてきた頃。
「まだこないわよ」
「もう振られたのかしらね?あのお固い文章にびっくりしたのかもよ?」
「振られるもなにも、まだ会ってないし…」
「佐伯!私語は慎め」
あたしが京子とコソコソ話をしていると、カウンターの向こうから纐纈課長の叱咤が飛んだ。
「すみませーん」
あたしは、小声で謝ってから、定位置に戻った。現在あたしは受付フロアの接客応対をする係になっている。来店したお客様にご用件をお伺いしたり、手続き方法をご案内したりの役である。
フロアに立つのはあたしと、警備係の金城さんの二人。金城さんはこの銀行を一旦退職した後再雇用された、62歳。小柄で優しげな風貌はとても警備係には見えない。多分、この配置は、あたしに警備係を兼任させる人事なのではないかとあたしは睨んでいる。
「にいちゃん、これ、どこ行けばいいのよ?」
パンツスーツの制服を着ていると、大体男性に間違われるのは、もう慣れた。けどね、男性は普通、上下スーツだっての。
「いらっしゃいませ。はい、お振り込みでございますね、お客様、こちらへどうぞ」
振り向くと、ちょっと風貌の悪そうな中年のおっさんだった。あたしは、にっこりと笑って振り向いてそう、案内しようとすると。
「あ、えろうすんまへんな」
と急に低姿勢になった。あたしそんなに恐いのか!?
「佐伯。交替しよう。俺が立つ」
先ほどあたしを叱ってきた纐纈課長がフロアに来てそう言った。お昼交替だった。
纐纈課長はあたしより15歳上のエリート銀行員。この支店に来てからまだ1年の本社採用組。この年で課長なのだが、次に本社に戻れば部長になるらしいという噂もあるくらい。頭もキレるし、顔もまあ、イケメンとは言える範囲。じつの事を言うとあたしの好みではある。しかし残念なことに妻子持ちなのだ。いい男なのだから、当然と言えば、当然ではあるのだが。そして、身長が低いのが玉に瑕。いや、男性としてはけっして小さい方ではないのだが、あたしより頭一つ小さい。
「すみません、よろしくお願いします」
と言って、あたしは裏に戻った。
ロッカーに戻ってケータイをチェックすると、メール着信が入っていた。キタコレ!早速メールチェック。
「佐伯美保子さん、こんにちはー。初めまして、権藤健三郎でーす。美保子さんって、素敵なNHですね!こちこそよろしくねー!もしよかったら、今週末にでもお会いしませんかー?
お返事お待ちしてまーす!」
あたしのメールとは正反対に軽快なタッチのメール内容だった。もしかして、かなり若い人?NHってどういう意味かしら?
「あらー。返事きてたんじゃーん」
座っていたあたしの後ろから京子が顔を出してきた。
「今週末会おうって。なんか、若い人みたい」
「若いって限らないじゃん?結構最近、おっさんでもそんな感じのメール送ってくる人多いわよ」
京子は結構おっさんキラーなのである。長い黒髪が団塊の世代に受けるらしい。
「ねえ、京子一緒に来てくれるわよね?」
「いいけど、今度の報酬はなにかしら?」
「あんたって本当にがめついわね…」
あたしは溜息ついた。