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人生こんなところで終わらせてたまるか!第33話

 あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる残念系。

 5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!

 と思ったら、銀行ではお局様、清井さんが誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく! そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が加わり、なんていうか、修羅場!?

 あたしら襲撃に遭い、拉致されるわ、高所恐怖症なのに、ビルの屋上から落ちるわで、散々。でもなんとか事件解決?

 星夜くんに正式に告白され、清井さんは課長にプロポーズ!?

 

 ドキドキ婚活ストーリー!どうなるあたしの恋路!?

 それから、あたしは自分の病室に戻らずに、病院内を徘徊した。廊下の案内板を見ながらナーステーションを探す。

「あの。すみません」

「もう消灯時間ですよ。病室にお戻り下さい」

 婦長さんかと思われる看護師さんがやんわりと注意した。

「あの、ちょっと教えてほしいんですけど。あたしと一緒に運び込まれた人が、集中治療室にいるって聞いたんですけど。その人、あたしの婚約者で。その……様子だけでも見に行きたいんです」

 あたしは、できるだけ悲しげな顔を演じてみた。婦長さんは、少し困った顔をしてから、

「そうなんですか……それは心配でしょうね。わかりました。治療室は一階です。そちらにも連絡しておきますから。ただ、短時間しかいられませんけど、それでもいいですか?」

「はい、まず一目だけでもいいので、様子を見たくて」

 あたしは言われた通りに、一階に下りて、教えられた通りに進んでいった。誰もいない夜の病院は薄暗く、寂しかった。うっすらと消毒液や薬品の臭いが漂う。生きている人、死んだ人、病気の人、そんな様々な沢山の人達が昼間ここを通り過ぎていったのだろう。そんな残り香をも感じるようだった。

「集中治療室」と書かれた大きなドアがあり、手前に呼び鈴のようなボタンがあった。それを押すと、ドアが自動的に開いた。手前には、「HCU」と書かれた部屋があり、奥には「ICU]と書かれたまた別の扉があった。

「HCU」と書かれている壁沿いには、いくつかの部屋が分けられていて、それぞれの部屋には患者と治療にあたるスタッフの姿があった。

「こちらです」

 一人の女性が応対してくれた。

「今また意識がない状態になってますので、外からしか面会できません。ただ、心拍脳波ともに正常値に近いので、明日には意識が戻られると思いますので、ご安心下さい」

 その女性は気を遣ってくれた。さっきの婦長さんが話してくれたのだろう。

「ありがとうございます」

 あたしは、窓ガラス越しに病室内を見た。丈治は酸素吸入器を当てられ、周りにいろんな機械を背負った状態で寝ていた。頭は包帯でグルグル巻きになっていて、さながらミイラ男のようだった。

「本当に、バカなんだから」

 あたしはそう呟いた。

 心電図なのか脳波計なのかよく分からないけれど、モニターが丈治の生命力の強さを表していた。あの火事の時に現れた丈治はとても格好の良い登場の仕方ではなかった。むしろ、グロテスクとも言える状態だった。満身創痍で顔は血だらけ、しかもあの夜の女装状態そのまんま。扉を力一杯破壊する姿はフランケンシュタインよろしく、普通の少女が見たら卒倒するんじゃないかと思うくらいだ。

 けれど、あたしには白馬の王子様そのものだった。あたしが人生最大のピンチ(これ以上のピンチがあるとは思えない)になった時に助けに来てくれたのは、確かに丈治だった。

 一瞬、丈治の右手がぴくりとあがった。あたしはちょっとびっくりしたが、丈治は目を閉じたままだった。単なる痙攣かなにかだったのだろうか。

「すみません、ありがとうございました。あと、よろしくお願いします」

 あたしはスタッフの看護師さんに頭を下げた。その女性は、大丈夫ですから、を連呼した。よっぽどあたしが心配していると思ったようだ。

 

その夜、あたしはまた夢を見た。あたしは大学生で、丈治と知り合ったばっかりの頃のようだ。

 部活が終わるといっつも丈治は大学の前であたしを待っていて、親に買ってもらったばかりだという素朴な自動車であたしを送ってくれるのが日課だった。中古の軽で、あたしたち二人が乗ると、後部座席いっぱいまでシートをやらないと乗り込めない状態だった。

「ごめんね、小さい車で」

 が、丈治のいつもの台詞だった。不器用で、もの静かで、それでいてのめり込むと一直線になる。それが丈治のいいところで、また短所でもあった。

「本当、美保子って、ダメンズ好きよねぇ」

 付き合うようになった頃から、京子にはケチョンケチョンに言われ続けた丈治。京子は容赦なかったから、丈治の目の前でも平気で丈治のことを貶していた。けれど、丈治は一度もそれに怒ることはなかった。いつも、小さく丸くなって、笑っているだけだった。

 何故か、にわか雨が降る度に、丈治は喜んだ。

「にわか雨って、そんなにおもしろい?」

 丈治に一度そう聞いてみたことがあった。

「うん、おもしろい。にわかに降る雨なんて、神秘的じゃないか。ついさっきまで晴天だったのに。すごくない?」

 なんでも大したことのないことに、「神秘的」とつけるのが癖だった。

「俺と君の出会いも神秘的だったよ」

 プロポーズの時に、そんな歯の浮いた台詞を平気で言えた丈治。

 でも、あたしのことをずっと見ていてくれたのは丈治だった。見ていてくれただけじゃない。あたしがレスリングで何度も挫折しそうになったときに支えてくれたのは丈治だった。

 あたしは陸上トラックを挫折し、高飛びも結局は記録がつくれなかった。大学に入ってレスリングを始めた頃はメキメキと頭角を現したと言われたが、何度も壁にぶち当たった。その度に優しく手を差し伸べてくれたのが丈治だった。

 あたしが何度挫折しそうになっても、頑張れ、美保子ならできるって、地味だけれど、そんな励ましがあたしには嬉しかったし、それがあたしの力になっていた。そんなことを思い出す夢だった。

 その夜のあたしの夢は、走馬燈のようだった。

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