人生こんなところで終わらせてたまるか!第31話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる残念系。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様、清井さんが誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく! そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が加わり、なんていうか、修羅場!?
あたしら襲撃に遭い、拉致されるわ、高所恐怖症なのに、ビルの屋上から落ちるわで、散々。でもなんとか事件解決?
ドキドキ婚活ストーリー!どうなるあたしの恋路!?
もう婚活どころじゃないわよね……。
病院に運び込まれ、検診を受けた結果、あたしは手足に軽い打撲と捻挫程度で済んだとのことだった。そこで受けた説明によると、あたしたちは消防隊の用意してくれた救助マットに落下し、軽傷で済んだのだ。屋上から手すりに寄り添いながら、丈治が消防車を見ていた時に救助マットが用意されていたのを見ていたのだろう。
ただ、救急隊員の話によると、あたし達が落ちたのは、救急マットが用意された直後で、もう数秒早かったら、重傷だった可能性もあるとのことだった。そもそも、本来救助マットは15メーター程度の落下にしか耐えられないらしく、あたし達が軽傷で済んだのも奇跡的だった。一つには落下地点が正しく中央にあったこと。それと、丈治が下敷きになったおかげで他の人達に影響が少なかったのだという。
そして、当の丈治は、肋骨と大腿骨の骨折で、全治3ヶ月の重傷だったが、一命はとりとめた。
手当を受けた後、あたしは病室に運び込まれ、すぐに警察の事情聴取を受けた。基本的には事前に権藤さんや丈治から聞いていた話をした。あたしと丈治が拉致された後のことは、あたしにもさっぱり事情がよく分からず、教団のことについても色々聞かれたが、ほとんど答えられない状態だった。逆にあたしが聞きたいくらいです、と話すと刑事さん達は苦笑いしていた。
事情聴取を終えると、駆けつけてきた両親と、京子、権藤さん、星夜くんが見舞いに来てくれた。両親は、京子はもちろんのこと、星夜くんのことも覚えていて、一時まるで同窓会の雰囲気になった。
が、話は今回の事件になり、両親には散々叱られた。それでもあたしの無事を確認すると、身の回りの物を用意してくれるということで、二人は一旦実家に戻っていった。
「美保子、無事でよかった!」
病室を出ていくあたしの両親に手を振ると、京子はあたしに抱きついてきた。
「あたた……」
「あ、ごめん」
「ううん。ありがとうね、来てくれて」
打撲の後は痛かったが、京子が心配していてくれたのは、よく分かった。
「それより、権藤さん、色々ありがとうございました。本当に助かりました」
あたしは、まずは権藤さんにお礼をした。やはりあたしの携帯に反応してくれた結果、警察が動いてくれたのだというところまでは聞いていた。
「いえ、むしろ遅くなってごめんねぇ。本当は夕べのうちに見つけられればよかったんだけど。美保子ちゃんの携帯を見つけるのにまず手間がかかっちゃて。しかも警察もなかなか動かなくって。だから、組織って嫌いなのよね」
「でも、おかげでみんな助かりましたから。そう言えば、清井さんは?」
「隣の病室にいるわよ。美保子達が助けた子と一緒の部屋。あの子、信者のお子さんだったらしいんだけど、両親はもうすでに他界していて、身よりのない子らしいのよね。しかも、口がきけないらしいの。耳は聞こえるから精神的なものみたい」
「二人とも元気?」
「ええ、二人はほとんど怪我がないから、経過みて明日には退院らしいわ。多分後でここにも顔出すと思うわよ」
「そっか。で、丈治は?」
あたしは、一番気になることを聞いた。
「まだ、集中治療室にいるみたい。あたしたちも面会できなかったわ。ただ、意識はあるみたいだから、ここ数日で普通の病棟になるみたいだって」
「相当酷いの?」
「落ちた時のより、その前に、あいつらにやられた傷とかが酷かったみたい」
「そうそう、あいつらって、何者なの?」
丈治が後で説明するって言ってた話だ。
「それは、今回の事件を最初から話した方がいいかも知れないな」
星夜くんがそう言って、今回の一件について、説明を始めた。
「まずは、清井さんの誘拐事件。これは、美保子の予想通り、人違いだった。京子ちゃんを誘拐するつもりで、たまたま見た目も似ていて、服装も似ていた清井さんが、京子ちゃんに間違われて誘拐された。誘拐の原因となったのは、宮崎。宮崎はあの教団の信者でもあり、教団の大切な資金源でもあった。そして、その教団というのがまたやっかいな組織で、ある暴力団組織というか、はぐれ者の集団の隠れ蓑だったらしいんだ」
教団はその組織の資金源でもあり、警察対策の表看板でもあった。ところが、教祖が教団の金を持ち逃げしたところから話は狂った。残った教団の幹部達は、組織からの取り立てにおののき、宮崎やその他の信者にさらなるお布施を要求した。その頃丈治もかなりの金額を巻き取られたのではないかと権藤さんの推測だった。さらに、宮崎に対し脅迫を始めたのが今年に入ってから。女をつかませて、その慰謝料という名目で多額の請求をした。ところがさすがの宮崎も資産を食いつぶし、いよいよ金の出所がなくなった。
その頃、組織からの取り立て請求がさらに激化し、教団の幹部達は組織からリンチにあったりした。丈治もその一人だった。丈治はうまく抜け出せたのだが、実はその直前に宮崎はその混乱に巻き込まれて撲殺されたのだ。資金源を失った幹部達が次に狙ったのが京子だった。宮崎が死亡する前に、京子に宮崎が多額の現金を渡したというような話を残していたらしい。
「さすがの私でも、そんな、何千万ももらってないわよ」
と、京子はげんなりした言い方をした。じゃあ、百万単位ではもらってたんですね、そうですね。元はと言えば、あんたのその男を騙す性格が災いしたんじゃないの。と言いたかったのだが。
その宮崎の話を丸呑みして、教団の幹部と、組織の一部の奴らが、京子を誘拐。するつもりが、間違えて清井さんを拉致してしまった。というのが顛末だったらしい。
「それで、何故あたしと丈治が狙われたの?」
「その前に、教団の金を持ち逃げした教祖があいつらに捕まったのよね。ところがその金は雲散霧消していて、全部使い込んだらしいの。キレた組織の奴らに消されたみたい。幹部の数名も巻き添えくらってね。それをきっかけに教団も崩壊寸前で、組織の奴ら、トンズラをはかってたのよ、きっと。けど、幹部の中で、ただ一人逃げ出した丈治くんがあまりにも事情をしていたから、あいつらも血眼になって探していたみたいよ。丈治くんが恐れおののいていたのも無理はないわね」
さらに、丈治をかくまっていたのがあたしで、京子との繋がりで拉致し、さらには京子をおびき出すつもりだったらしい。ところが、その前に警察の踏み込みがあって、それどころではなくなった。
「あの爆破も、証拠隠滅のためだったらしいわ。この一件以外にも山ほど余罪がありそうね」
あたしには、全く想像もつかない世界だった。しかも最終的に殺人事件にまで及んだとか。あたしは身震いした。
本当に生きていてよかった。
「よかったよ、本当に、美保子が無事で」
星夜くんは、しみじみとそう言った後、
「美保子になにかあったら……俺……」
相当心配してくれたのだろう、星夜くんはなんとも言えない表情をした。
「うん、ありがとう。星夜くんと権藤さんのおかげ」
「でも、俺、結局何も出来なかった」
「ううん。むしろ、星夜くんが巻き込まれなかったのが、あたしにとっては幸い」
それは本当だった。心からそう思っていた。
そんな話をしている内に、面会時間が終わりますと、看護士さんが声をかけて回っていた。
「じゃあ、また来るねわ」
と、三人は病室を出て行った。




