人生こんなところで終わらせてたまるか!第30話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる残念系。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様、清井さんが誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく! そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が加わり、なんていうか、修羅場!?
事件解決の糸口が見えたと思ったら、あたしら襲撃に遭い、拉致された先には清井さんが! あたしたち、どうなっちゃうの!?
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー! いよいよクライマックス!
「おい!お前ら!」
奥の方からドスの利いた声がした。あたし達が振り向くと、昨日あたし達を掠った男達が、拳銃を持ってこっちを見ていた。その数、10数名。昨夜は暗くてよく分からなかったが、やっぱりどう見ても、カタギの人ではない。かと言って、宗教関係の人達とも全く思えない。
「あんたら……まだいたのか」
丈治はあたしたちの前に移動して、彼らの盾になろうとした。あたしも清井さんとあの少女をかばうようにして手を広げた。
「もう、後がねぇからよ……。お前達を人質にして、ここから逃げ出す」
「もういい加減にしろ、もうお前達も終わりだ。教祖様に手を出した時点で、もう終わりだったんだよ」
「うるせぇ。いいから、おとなしく、俺たちの言うとおりにしろ」
教祖様? 手を出した?
「美保子、下がって」
丈治は手を広げて、あたし達をかばうようにしながら、後ろずさった。あたし達はずんずんと端に寄せられ、やがて手すりまで追い込まれた。
「ねぇ、丈治、この人達なんなの? 教団の人じゃないの?」
あたしは、小声で丈治にそう聞いた。
「説明は後でするから。それより……美保子、しっかりその二人を掴まえていろよ。絶対手を離すなよ」
「え、なに? 清井さんたち? え、ええ……いいわよ。ど、どうするつもり」
そう言われて、あたしは、清井さんと少女をぎゅっと抱きしめた。
「こうするのさ」
そう言って、丈治はくるりと振り返り、あたしたちの腰のあたりにタックルするかのようにがっしりと太い両腕を回し、その勢いのまま、手すりを乗り越えた。
「え」
あたし達はまとめて丈治に抱きかかえられるようにして、手すりを乗り越え、そのまま奈落の底へ。
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
生まれて初めてなんの反発もなく地球の重力を感じることになった。自由落下。つまり、あたしたちは屋上から飛び降りたのだ。
スローモーションで丈治の動きを感じる。力強い腕に抱きかかえられ、その勢いで倒れ込む。
それに驚いた表情の男達。
ビルの谷間によぎる青空。
太陽の光とビル影のコントラスト。
火災の煙にけむるビル壁。
足下に重力を感じない恐怖感。
遠くなっていく空。
遠くに見えた黄色い点が目の前に広がり。
あれが走馬燈というのだろうか。あたしは、走馬燈と言うからには、何かもっと長い記憶のフラッシュバックを一瞬で感じるものなのかと思ったけれど、生まれてこの方を振り返っている時間は全くなかった。何が起こっているのかを把握する時間さえなかったのだから。約三十年に満たない程度の人生だったけれど、それを思い出すには、あまりにも短い時間だったのか。はたまたあたしの人生がもうすでに長くなってしまったのか。それはあたしにも分からない。
しかも、この後に死が待ち受けていたのであれば、この一瞬にどんな意味があるというのだろう。あの世に持って行くための記録? それともあの世で待っている先祖様達へのおみやげ? 永遠の英霊に捧げるお供物?
あたしの記憶の糸はここでぷっつりと途切れた。
次にあたしの記憶が戻ったのは、救急車の中。どうやらあたしは自由落下の最中に気絶していたようだ。隣には丈治がいて、彼もまた治療を受けていた様子だった。救急隊員が必死に手当をしていたようだ。何かの専門用語が飛び交っていて、何を話しているのか分からない。
救急隊員の人達は時々こっちにも声をかけてくれて、それに対して、あたしは大丈夫、大丈夫を連呼した。そして、丈治はどうなんですか。大丈夫なんですかと。
救急隊員は、大丈夫ですよ。安心して下さい。と、無味乾燥の答えを返してくれただけだった。




