人生こんなところで終わらせてたまるか!第3話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLである。
身長180センチ、よく街で男の子に間違われる。大学時代は女だてらに女子プロレスにはまり、全国大会で決勝まですすんだこともある。
大学在学中に、齋藤丈治と出会い、結婚を前提にお付き合いを始めた。去年の秋にプロポーズしてもらい、それぞれの両親への挨拶も済ませ、来年には結婚の予定だったのだ。
ところが、急に別れ話をもちかけられた。その理由が宗教団体へのお布施のため、結婚資金を注ぎ込むことになったのという!
そんな男、こっちから願い下げだわ!
そして、婚活を始めた。どうなる、あたし!?
ドキドキ婚活ストーリー!
あたしの婚活は、まずはネット検索から始まった。あまりパソコンの得意ではないあたしは、当然のごとく京子の自宅で彼女のサポートの元、「婚活」「結婚」「出会い」等々、その手のあらゆる言葉からネット上の情報を検索しまくった。
その中で、口コミを辿っていくうちに見つけたあるサイトが気になった。それは『俺と天使』というサイトで、個人が運営しているらしい。そこは、独身男性のために結婚相手を探すという趣旨で、裏サイトとして『私と天使』というサイトがあり、天使役のサイト運営者が、キューピット役となり、日々マッチングをしているというのが口コミで知った内容だ。あくまでも運営者のボランティアで成り立っているサイトなので、登録も無料、情報量も無料だった。但し、いつマッチング結果が届くかは運営者次第だという。
「この運営者ってボランティアなのかしら?」
「基本的にはそうかも」
ただ、と京子は続けて、そのサイト内には無数のバナー広告が貼り付けられており、ここから得られるアフリエイト広告で十分稼げるのではないかということだった。アフリエイトがどういうものかあたしにはよく分からなかったが、お金に汚いあたしは、無料という言葉に惹かれ、早速そのサイトに登録した。というか、してもらった。もちろんプロフィール内容は適当に京子に頼んで、入力してもらう。登録にはその人のプロフィールだけでなく、好みの傾向等に関するアンケートなどが数十項目も用意されていて、正直面倒だったのだ。いや。むしろ、京子に頼んだ方があたしのことをよく知っているはず。自分のことは意外に分からないと言うじゃない。
「こんなところかな…」
京子はものすごい勢いでキーボードを叩き、あっという間に入力を終え、エンターキーを押した。
「これでOKっと。返事が来たら、あんたのケータイにメール入るようにしたからさ。まあ、いつ返事くるかは分からないけどね。なにせ無料だもん、仕方ないわよね」
そう言って、京子はにやっと笑った。
「じゃあ、報酬いただくわよ」
そう言って、京子は上にジャケットを羽織った。あたしは京子に検索代と登録代として千疋屋のフルーツパーラーでデザートを奢る約束をしたのだ。実はあたしも食べたかっただけなんだけど。
それから数日、全く例のサイトからの返事はなかった。あたしも京子も、ちょうど仕事が繁忙期にあたっていたため、登録したこともすっかり忘れていたので丁度よかったと言えば言えるのだけれど。
そんなある日曜日の午後。あたしはいつもの日課のように午前中に掃除洗濯を済ませ、昼食をとってからスポーツジムに向かおうとしていた時だった。ケータイのメール着信音が鳴ったので、メールを開く。差出人は見覚えのないアドレス。しばらく考えて、
「ああ、もしかして?」
メールを開くと果たしてあのサイトの運営者からだった。
「佐伯美保子さん、こんにちは。『俺と天使』のサイト管理者の某某です。この度は、ご登録ありがとうございます。いただきました情報を元に、様々な方面から検討させていただきました結果、マッチング相手として、下記の方をご紹介させていただきたいと思います。
氏名:権藤健三郎さん
住所:○○都○○区....
メールアドレス:****@****.jp
尚、お相手へのご連絡はご自由にとっていただいて結構です。但し、会員規約にございます通り、出会いの結果につきましては、当方は一切の責任を負いません。何卒ご了承くださいませ」
確かに、口コミで読んだとおりに返信が来た。無料で本当に紹介してくれるというのは本当だったらしい。早速、京子に電話。
「京子?例のサイトから返事来たわよ。きちんと先方さんの連絡先も来たし、特に料金請求されることもないみたい。で、どうしよう?」
「どうしようって」
京子は呆れたように笑って、
「連絡とればいいんじゃない。会うために登録したんでしょ?」
「だけど、知らない相手だしさー。もし会うことになったら、京子も一緒に来てもらえない?」
「別に良いけどさ。とりあえず、連絡だけしてみたら?」
「ん…わかった。とりあえず、メール送ってみる」
「権藤健三郎様
初めまして。『俺と天使』さんからご紹介をいただきましてご連絡申し上げます。私は、佐伯美保子と申します。今後ともよろしくお願いいたします。
もしよろしければ、お返事いただけましたら幸いです」
短い、超固い文章だったが、初めての人宛となると、どうしてもこうなってしまう。
「えい!送信!」
初めての出会いに向けて、親指が唸った。