人生こんなところで終わらせてたまるか!第23話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様が誘拐される事件発生! 事件は元刑事の探偵であるゲイのおっさん権藤さんや星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく!
そこに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が満身創痍で現れ、気になる課長からは個人授業に誘われ、きゃー! あたし、どうしたらいいの!?
そして、事件解決の糸口が見えてきたと思ったら、今度は修羅場!?
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
丈治があたしの家に転がり込んで来たところからの説明を一通り終えた後、権藤さんと星夜くんはしばらく腕を組んで考え込んだ。
最初に声を発したのは、星夜くんの方だった。
「それで、婚約破棄した相手の家に転がり込んだって訳だ。恥も外聞もないとはこのことだな」
星夜くんは吐き捨てるような言い方をした。丈治は一瞬、ギリっと歯ぎしりしたが、何とか堪えた様子。そりゃあ、言われても仕方ないもの。
とは言え、星夜くんの言い方もなんとも言えない言い方ではあったのだけれど。
「まあ、まあ。でも、大体事情は分かったわ。それに、そういう状況なら、仕方ないわよね」
権藤さんはなんとなく空気を読んで、いつものゲイバージョンで軽く二人の仲裁に入ってくれた。
「その、教団のことなんだけど、さっき、某某さんから情報が入ったの。これ、かなり怪しい教団よね。それと、宮崎のツイッターアカウントを見つけたみたい。教団の関係者から当たったら、どうもこれじゃないかというアカウントがあったって」
権藤さんは、アイパッドを取り出して、ある人のツイッターを表示してくれた。@miya336411というアカウントで、ちょうど事件の直後あたりでツイートが止まっていた。もちろん実名ではなく、ニックネームのような名前で登録されているようだ。
「これ見てると、誘拐を臭わすようなつぶやきがあったりしてるのよね。しかも、ちょうど事件の後からつぶやきが止まってるの。宮崎のツイッターアカウントでほぼ間違いないわね」
「それって、何か役に立つんですか?」
「そうね…内容を精査してみないと分からないけど、もしかしたら、宮崎の行動が読める可能性があるわね。まあ、何にしろ、この教団と関わりがあるってことが分かったから入手できた情報だから、丈治くんのおかげってところね」
権藤さんは、そう言って、丈治に微笑みかけた。丈治は小さくなって、頭をぺこぺこさせていた。星夜くんは、おもしろくなさそうな表情を浮かべていた。
あたしは、話を一段落つけたところで、ケンが運んできてくれたお酒に口をつけた。なんだか不思議なお酒だった。
「ケン、これなに?」
「モヒート。ラムベースのカクテルだよ」
「へぇ。さっぱりしておいしいわね」
あたしは、場を和ませるつもりで、そんな話をふってみたけれど、丈治と星夜くんの表情はほとんど変わることがなかった。むしろ、お互いに牽制するような目線が痛かった。もう、二人ともそんな顔しないで!
「で、今後どうするかなんだけど」
星夜くんはしばらく黙っていたが、ここで口を開いた。
「そうね、まずはこの情報を明日警察に流しておくわ。多分、すぐに動くと思う」
「ただ、『こいつ』の言う話が本当なら、警察内部に潜入がいるんでしょ?」
いちいち、星夜くんの言葉が刺さる。
「その辺はあたしも疑ってるとこなんだけど。そう簡単にはいかないと思うのね。過去のカルト教団の事例から、その辺は割と厳しくなってるはずから。ただ、宗教関係って、本当にややこしいの。しっかりした証拠とか、状況がないと、捜査しずらいってことは確かにあるわね」
「あ、あの…何か役に立てることがあれば…?」
丈治がそう言うと、
「引きこもりが何出来るってんだ?」
星夜くんが挑発する。一発触発とはこのことか。
「ちょっと、星夜くん、そんな言い方ないんじゃないかな?」
あたしは、さすがに星夜くんをやんわりと牽制した。彼は口を尖らせて、イスに深く腰掛ける。
「まあ、そうだね。本当に警察の内部に教団に通じるようなルートがないってことが分かれば、一度事情聴取というか、協力を仰ぐことになるだろうね。それまでは、美保子ちゃんのところにかくまってもらうのがいいかも知れない」
「でも、美保子が元婚約者だってバレたら、美保子の身にも危険が及んだりしませんか?」
星夜くんは再び前のめりになった。
「んー。その辺はなんとも。まあ、今まで特に動きがなかったんだから、問題はないとは思うんだが……」
「美保子、うち来いよ。そいつ、美保子の家に置いて。その方が安全だ」
「いや、それはさすがに……」
星夜くんが心配してくれるのはありがたかったけれど、さすがにそれはどうかと。
「あんたね、一体なんなんだ?」
ついに、丈治が星夜くんに食ってかかった。
「美保子の幼なじみでね。結婚を前提にお付き合いさせていただいてます」
星夜くんは、ドヤ顔でそう言った。優越感むき出しだった。
「え? そうなのか? 美保子?」
あたしは困った。そうだと言えば、そうとも言えるけれど、あくまでも、星夜くんの会社が軌道に乗ればという条件付きだったわけで。
「ええ……まあ、その……。まだ、そこまで、話が進んだわけじゃないんだけど……」
あたしはどっちともつかない言い方に終始した。すると今度は、丈治がドヤ顔で、
「美保子は違うって言ってるけど?」
と、挑発する始末。
「『元』カレシには関係ないだろ?」
「関係ないとはなんだ!?」
「なんだ、こらぁ!やるか?」
二人は同時に立ち上がった。すぐにでも拳が飛び交いそうな勢いで。
「やめんか!」
権藤さんが喝を入れた。
「二人とも座れ。全く大人げない。美保子ちゃんがかわいそうじゃないか」
二人は渋々言われる通りに座った。あたしは、もうどうしたらいいのか分からない。
「とにかく二人は頭を冷やせ。美保子ちゃんがこれからどうするかは、あたしが明日警察と相談して決める。今日ももう遅いし、今日のところは丈治くんは美保子ちゃんのところに戻るしかないんだから。それでいいだろ?」
権藤さんは、男言葉と女言葉が入り交じった口調で、星夜くんを諭すようにそう言った。
「分かりました」
星夜くんは、丈治から眼を逸らした。
「じゃあ、俺は今日は先に帰ります。これ以上いると、本当に手ぇ出しそうだ」
そう言って、星夜くんは席を立って、出口に向かった。




