人生こんなところで終わらせてたまるか!第21話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。
出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、銀行ではお局様が誘拐される事件発生! なんとゲイのおっさんは実は元刑事の探偵さんだった! 事件は星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく!
さらに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が満身創痍で現れ、気になる課長からは個人授業に誘われ、きゃー! あたし、どうしたらいいの!?
そして、事件解決の糸口が……。
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
「丈治、どうしてこの人知ってるの? どこで会ったの?」
清井さんを誘拐した容疑者としてテレビに映る宮崎の写真と名前を指さしながら、あたしは、丈治に食いつくように聞いた。
「え、どこって…教団で…」
丈治はしどろもどろした。どうしてそんなことを聞くのだろうという顔つきだ。さらには、教団のことについて根掘り葉掘り尋ねられるのではという恐怖感もあったのかも知れない。
「え?教団って、その宗教の関係のところ?」
「うん…そう。信者さんの一人。結構前から出入りしてるみたい」
瓢箪から駒とはこのことで。宮崎が例の宗教の信者だったとは…。
そうなると、もしかして権藤さんが言っていた、宮崎の『バックの組織』っていうのは、例の教団のことなんじゃないかと、あたしは思い至った。
ここであたしは困ったことになった。解決の糸口を掴んだのはいいけれど、このことを権藤さんや星夜くんに伝えるためには必然的に丈治を連れて行かなければならない。しかし丈治は完全引きこもりでこの部屋からは出られない。となると、彼らをここに呼び寄せなければならず、あたしの部屋で丈治と星夜くんを引き合わせなければならないことになる。
「く…」
神様、それって酷くないですか。あたしはしばらく考え込んだ。他に何か良い方法はないかと。
「美保子どうしたの?」
「ちょっと待って、色々考えてるの。ちょっと話しかけないで」
あたしは、ちょっとテンぱってしまっていた。思わず、丈治に強い言い方をしてしまったことに気付く。
「あ、ごめん…ちょっと色々あってね…。混乱してた、あたし」
「あ、いや、俺こそごめん」
丈治はちょっとだけ身を引いた。
「ううん。えっと、この人…宮崎っていうんだけど、名前も知ってる?」
「うん、会社やってるってしか知らないけど。確か宮崎って言ってたような気がする」
「そこの教団に出入りしているって、丈治が入る前から?」
「うん、多分そうだと思う」
あたしが考えつくのはこの辺まで。やっぱり、権藤さんの手を借りないとここから先は進めない気がした。
「この人、お金持ちだから、教団によくお布施を持ってきていて、すごくチヤホヤされてたから。……でも、裏では「カモ」扱いされてたんだけどね。毎回、500万円くらいは持ってきていたよ」
うわ…、それあたしの年収…。どんだけ金持ってるの…。そりゃあ、京子も「カモ」るはずだわ。
「なんかね、ここ数年、続けて両親や身内に不幸があって、それで信者になったんだって。弔いになるからって、本人は喜んでいたよ」
「そうなんだ…」
「そういう不幸につけいるのが彼らの手法だからさ……」
後を引くような語尾だった。丈治もその片棒を担いでいたわけだから、それを後悔しているのだろうか。けれど、それに気付いた丈治がリンチ対象になったってことなんだろう。その辺はなんとなく納得した。
「そこまで入っちゃってる人なら、警察も当然教団に調べ入ってるんじゃない?」
できるだけ多くの情報を丈治から聞き出したい。あたしはそれに必死だった。
「その辺は彼らも要領よくやっていて、教団には直接出入りしないようにしてたみたい。直接来る時は、幹部が出迎えに行くとかして、他の人達が分からないようにしてた。それに、前にも言ったけど、ここの教団は警察にも入り込んでいて、その辺はうまくやってるって。俺も何度か警察関係だって言う人とも会ってるし」
そこまでやってるってことは、初めから利用することしか考えてなかったということが考えられる。しかし、警察に入り込むなんて、本当に出来ることなんだろうか? その辺はあたしには分からなかった。それこそ、権藤さんの範疇だ。
「分かった。じゃあ、あたし、知り合いの探偵さんにそれ伝えなきゃならないんだけど、いいかな? 実は、その人、京子のことをストーカーしていたの。それで、知り合いの探偵さんにそれ調査してもらってるんだけど。そしたら、さっきの清井さんの誘拐事件と関係あるって分かって」
「え?京子さんが?そうなんだ……。うん、じゃあ、俺も何か手助けできるならするよ」
嬉しいけど、あたしにはすごく迷惑な申し出だった。いや、もうそうするしかないんだけどね。
「分かった。じゃあ、ちょっと電話してみる」
ええい、ままよ。あたしは、権藤さんに電話した。
「あの、権藤さんですか?その後、捜査はどうなってるみたいですか?…あ、はい、そうですか、進展なしですか…あの…実は、あたしの知り合いで、宮崎のこと知ってるって人がいて…はい…」
『知り合い』というフレーズを耳にして、丈治は一時ピクリとした。けれど、彼はそれ以上は何も言わなかった。
「そうか! じゃあ、是非話を聞きたいな。どうしようか? どこかで一緒に会えるかい? いつものとこでもいいけど?」
電話の向こうで権藤さんの声が雑踏に紛れていた。繁華街なのだろうか、街中の雰囲気がする。男言葉ということは、仕事がらみの人達と一緒なのかも知れない。
「あ、そうですね…ちょっと待って下さい。また折り返し電話します」
そう言って、あたしは一旦電話を切った。
「丈治、その探偵さんが調べてくれるみたいだけど、その前に丈治にも話を聞きたいって。一緒に出かけられる?」
「え……」
そう言われて、丈治は硬直した。
「手助けしてくれるって言ったわよね?」
あたしは念押しした。あたしとしては、できればこの場所以外で話をしたかった。
「…う…うん…。で、でも…」
丈治は少し躊躇したが、
「分かった。でも、何か変装かなにかできないかな?」
丈治はなんとか努力してくれるようだ。
「あたし、サングラスとか持ってるから、それ使う?」
「う…、うん。頑張ってみる」
「じゃあ、それでなんとかしましょう。場所は近くだから」
『バー サンセット』なら、それほど時間もかからないし、人通りの多いところを避けて行くことはできる。あたしは早速権藤さんに電話して、すぐに「サンセット」に向かう旨を伝えた。
あたしの心臓はさらに高鳴った。




