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人生こんなところで終わらせてたまるか!第18話

 あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。

 5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。

 出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!

 と思ったら、今度は社内で気になる年上の課長から個人的にお誘いを受けたり、お局さんからお呼び出されたり、終いに銀行では誘拐事件発生! なんとゲイのおっさんは実は元刑事の探偵さんだった! 事件は星夜くんも巻き込んで次第に深刻さを増していく!

 

 さらに宗教団体から追われて逃げてきた元フィアンセ丈治が満身創痍で現れる始末! あたし、どうしたらいいの!?


 どうなるあたしの恋路!?


 ドキドキ婚活ストーリー!

 事件が膠着状態で全く糸口が見えなくなっていた頃、あたしの身辺が騒がしくなってきた。


 事件の方はというと、宮崎の失踪と、宮崎を脅迫していたらしい人達とその手先だったある娼婦の存在。権藤さんと警察の捜べで浮かび上がったのはそこまでで、そこからぴたりと捜査が難航しているようだった。

 そんな日が続いていたある週末の金曜日。清井さんが連れ去られてから数日が過ぎ、支店もようやく落ち着きを取り戻したかのようだった。ただ一つ、清井さんの姿がないことを除けば。

 部課長は、清井さんの件でここ数日バタバタとしていて、ほとんど支店にはいなかった。本店への報告や警察の取り調べの連絡役になっていたらしいという話は聞いていた。ただ一人、支店長だけが留守番のように一番奥の席で多忙そうにしていた。出張っている数名の中間管理職の分の仕事を一気に引き受けていたのだ。繁忙期ではなかったのが不幸中の幸いだった。

 そして、金曜日の閉店直後に、課長が帰社した。

「おかえりなさい。お疲れ様です」

 順に行員の皆が課長に慰労の声をかけていく。あたしもそれに習って課長に挨拶した。

「お疲れ。お疲れ」

 課長は声を掛けてきた行員全員に丁寧に返事をしていく。

「佐伯、ちょっといいか?」

「はい?」

 あたしは急に課長に呼ばれて、一オクターブ高い声で返事した。まさかあたしが呼ばれると思ってなかったから。

「ちょっと、会議室へ」

 一瞬皆一同にあたしの方を向いたけれど、多分事件絡みなのだろうと思ったのだろう、すぐに自分の仕事に戻った。

「はい」

 あたしは課長に着いて会議室に入った。

「どうだ、小林の様子は?」

「いつもと変わりなく」

 京子は今日も通常営業であった。あの事件の後もさほど変化はなかった。なんというか、タフというか。

「ところで、この前の提案なんだが。考えてくれたか?」

「はい?なんでしたっけ?」

 あたしは最初何のことか分からなかった。

「融資課の件」

 あたしはこの事件のせいもあって、すっかり忘れていた。

「ご、ごめんなさい。すっかり忘れてました」

 あたしは深々と頭を下げた。課長は苦笑いして、

「いや、謝ることもないんだが。ただ、佐伯にその気があるのかないのかを聞きたかったんだ」

「あー…」

 あたしとしては、特にやりたいということでもないし、かといって断ることでもないし、どちらとも言えない状態だった。しかも、こんな状態の時に。

「もう少し考えちゃだめですか?」

「本社採用枠の試験は再来月末だから、もしやるならそろそろ準備しなければならないからな。正直時間がない」

「そうですか…」

 正直な話、今のあたしにはそういうことを考えている余裕はなかった。

「実は来年には俺も……多分なんだが、本社に戻ることになりそうなんだ。できれば今年の試験は合格させたい」

 あ、そうなんだ。先日はあと2年と言っていたけれど、少し早まることになりそうってことなのか。本社に行ったり来たりしているのは、そのせいもあるのかも知れないなとあたしは思った。

 そうなると話は別だ。まさかその再来月の試験に一発で受かるとは全く思ってはいないけれど、せっかくかけてくれた期待には応えたい。

「わかりました。では、お言葉に甘えさせていただいて、頑張ってみます」

「そうか。やってくれるか。じゃあ、早速だが今日から特訓だな」

「特訓ですか? 今日から?」

「そう、この前言っただろう?俺が教えてやるって。今晩時間あるか?」

 今晩は特に用事はなかった。星夜くんからも特に連絡はなかったし。もしあっても、連絡が入れば、遅くにでも「バー サンセット」に向かえばいい。丈治の方は昨日あたしが買い物しておいた食材で夕食の用意をしているだろうけれど。ここ数日、帰宅すると丈治が夕食を用意してくれていた。あたしの部屋に引きこもる代わりに、家事をこなすという、暗黙の了解だったのだ。勝手知ったるあたしのお家だったし。京子は相変わらず、追い出せ追い出せの一点張りだったが、追い出せばホームレス確定な状況で、あたしは鬼にはなりきれなかった。

「は、はい」

「じゃあ、就業後、ここでやろうか。とりあえず、今日は2時間くらいかけてやろう」

「わかりました。よろしくお願いします」

 会議室から戻るとあたしは京子に、今日は一緒には帰れない旨を伝えた。

「どうせ、刑事さんたちいるから大丈夫よ。それより、課長、ずいぶんあんたにお熱ね」

「ばか、変な言い方しないで。仕事なんだから、仕事」

「はいはい」

 京子はなんとも微妙な表情をして手をひらひらした。


 就業後、会議室であたしはしっかり絞られた。

「なんで、こんなことが分からないんだ?」

 初っぱなから怒号が飛んだ。課長は簡単だと言ったけれど、やっぱりあたしにはハードルが高かった。四則計算できれば、あとはコツと聞いていたけれど、とてもそのレベルではない。

「す、すみません…」

 それから、2時間みっちり指導された。

「じゃあ、今日はここまで。で、これとこれを、来週の月曜日までやっておくこと。宿題。はい、お疲れさん」

 課長は参考書を山積みにして、あたしの目の前に置いた。あたしは魂が抜けかけていた。

 課長は、思った以上にサドだった!

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