人生こんなところで終わらせてたまるか!第13話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLで、身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。
出会い系サイトで誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんからなんと偶然、あたしの初恋の人である星夜くんに再会し、相思相愛に!
と思ったら、今度は社内で気になる年上の課長から個人的にお誘いを受けたり、お局さんからお呼び出されたり、なんだかあたしの身辺、騒がしくなってきた。
終いに誘拐事件ですって!?
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
あたしは、警部と呼ばれた、その警察官に思いついたことをツラツラと述べ始めた。
「まず、先ほどからお話しました通り、清井さんはとっても厳しい方ですので、新人さんや若い社員にはあまり好かれているとは言えません。けれど、清井さんの指導内容は、基本的には正論でしたし、それに対して逆恨みを持つような社員はこの支店にはいるとは思えません。それに、お客様には非常にウケがよく、対応のしっかりしておりましたので、仕事関係の怨恨はあまり考えられません。もちろん個人的なお付き合いは知りませんから、その辺はなんとも言えませんが、少なくともあたし…私たちの知る限りにおいては、個人的にも恨みを買うような性格とは思いにくいです」
昨日店舗裏で言われもない抗議を受けたことは内緒にしておいた。話すと面倒なことになりそうだったから。
「で、その、人違いというのは?」
警部は、先を急がせた。
「はい、ここに居ます、きょ…小林さん…なんですが…」
と言って、改めて京子を見返すと、彼女は少々ぎょっとした顔をした。まあ、この話題を持ち出せば、こうなるだろうと、分かりきった当たり前の表情だった。
「私の親友でもあり、同僚でもあるんですが、清井さんとは背格好がよく似ており、時々間違われることがあります」
「ちょ…。美保子…似てないし」
あたしは京子の抗議を受けなかった。
「特に昨日は、出退勤の際、二人はどちらも似たような紺のタイトスカートに白のブラウスでした」
「で、小林さんと、清井さんを間違えたと?」
「はい、そうです」
京子はしきりにあたしの服の袖を引っ張った。もうやめて、という意味だろうけど、あたしはやめなかった。
「小林さんだと、なにか思い当たることがあるんですか?怨恨とか?」
「怨恨ではないんですが、ここ数日ストーカーにあっているという話で、私が相談を受けていたんです」
「なるほど」
ストーカーについては、第三者からの情報ではなく、本人からの相談だったということにした。その方がシンプルでわかりやすいだろうと思ったので。また、実際のことを話すと、課長に余計な心配と時間を取らせることになりそうだと思ったから。京子は…まあいいや。
「じゃあ、小林さん、大変申し訳ないんですが、ちょっと個別にお話をお聞かせいただけませんか?」
京子はあたしの背中を思いっきり叩いてきた。面倒かけさせて!と文句込みなんだろう。
ただ、京子のことも考えると、あたしは警察にちゃんと説明すべきだと思った。あたしのボディガードだって、知れたモノだし。
「あと、佐伯さんも、同行願います」
あたし達二人は会議室を出て、応接室に連れて行かれる。そこは、通常支店長が接客する部屋だった。そこであたし達は2時間程警部の質問攻めにあった。京子は始終不満げであったが、色々話をしていくうちに警部が頷いていく回数が増えた。どうやら納得しているように見えた。
「分かりました。では、その線も調査してみます。また、小林さんにはしばらくうちの捜査員を張り付かせましょう。余り邪魔にならないようにはしますが、数日我慢してください」
そう言って、警部は部下数名に囁き声でいくつかの指示をした後、
「いや、時間をお取りして申し訳ない。お仕事に戻っていただいて結構です。また、何度か質問をさせていただくかも知れませんが、これ以降はできるだけお仕事のお邪魔にならないようにいたします」
そう言って、深々と頭を下げた。
「ちょっと、美保子、どういうつもりよ。もう、まいっちゃうわ」
応接室から出ると、京子はうんざりした表情であたしに愚痴った。けれど、それほど怒っている風はなかった。
「だって、あんたのためにって考えたら、この方が良かったと思うの。それに、あたしの勘って意外に当たってるような気がするんだけど?」
「いやー、どうかしらねー。あの人達がそこまでするとは、どうしても思えないのよね」
京子は警部に伝えた3名のストーカー容疑候補者のことをそう表現した。確かにあたしから見ても、それらの男性達は、拉致誘拐なんていう大それた事ができるタイプとは考えにくいが、最近のニュース見ても、「まさかあんな人が」とか、「そんなことする人には見えませんでした」なんていうインタビューをやっているから、その辺は何とも言えない。
「佐伯、どうだった?」
あたし達が店舗に入ると、課長がいの一番に尋ねてきた。多分他の女子社員からあたしが話したことは伝わったのだろう。
「はい、とりあえず、該当者を調べてくれるのと、小林さんの保護をしてくれるそうです。あ、あと、ストーカーの噂については、本人から相談を受けたと伝えてあります」
あたしはそうやって、課長に報告した。業務報告をするかのように、淡々と。
「そうか、それはかえってよかった。普通に相談に行ってもなかなか保護とまではいかないらしいからな。これだけの事件になれば、当然警察も動いてくれるだろう。佐伯の機転もなかなかだな。…そうか…その辺はちゃんとありのままに報告してもらっても良かったんだが。悪かったな」
課長に気を遣ったのは伝わったようだ。そう言ってもらえるだけでもあたしは嬉しかった。
「とりあえずここに居る間は問題ありませんから、通常通りに仕事はします。あと、帰宅、出勤時は警察の方が見張ってくれるそうですから、心配ないと思います。では、仕事に戻ります」
そう言って、あたし達は持ち場に着いた。と言っても、もう間もなく昼の時間であった。
昼時間にロッカーに戻ると、あたしの携帯にメール着信があった。それは、星夜くんからのメールだった。一気にあたしの脳裏には昨日の出来事が蘇って、顔が真っ赤になった。
「どうしたの、美保子?」
京子は動揺しているあたしにちょっと驚いた。
「星夜くんからメール」
「あら、まあ。お熱いこと」
京子はちょっと嫌みっぽい言い方をした。
「あ。でも、これ…って」
あたしがメールに目を通すと、予想外の内容に驚いた。
「To:美保子
今日、うちの会社に警察が来たんだけど、美保子の会社の人が誘拐されたんだって?うちのお客さんに容疑者かも知れない人がいるからって、調べに来たよ。また詳しい話するから、電話出来るときでいいから、連絡ください。
星夜」
「星夜くんの会社にも警察来たって」
「え?」
「ちょっと電話してみる」
「う、うん」
あたしは急いで星夜くんに電話した。はたして彼はワンコールで出た。
「おう、美保子、今いいか?」
「うん、今昼休みに入ったところだから、大丈夫。で、警察が行ったの?」
「そうなんだ。美保子の会社の人なんだろ?清井さんって」
「そう、あたしの先輩なの。警察の人、そんなことまで話したの?」
その手の話は、捜査中はあまり公にしないはずだったんじゃないかな。火曜サスペンス劇場ではそう言っていたはず。
「うん、俺が聞いたときにはそこまで教えてくれなかったんだけど、話聞いた後に、権藤さんに調べてもらったら、美保子の銀行の社員だって分かったから」
「権藤さん?」
一体あの人は何者?
「まあ、それはさておいて、宮崎省吾って知ってる? うちに登録しているお客さんなんだけど、その人が容疑者の一人なんだって言われたんだけど」
宮崎省吾と言えば、京子のストーカー容疑者の3人の内の一人だった。
「うん、知ってる。さっきその人のこと警察に話したから」
「そうか…それで…あ、ちょっと待って」
携帯の向こうで、何か話をしている様子だった。
「宮崎が星夜くんのところに登録してたらしいわ」
あたしは、一応京子に簡単に説明した。京子は軽く頷いた。
「あ、ごめん、ちょっとこっちもバタバタでさ。今晩会えないかな?」
「うん、あたしも聞きたいことあるし」
「じゃあ、いつもの…ジムじゃまずいな…ケンのとこのバーにしようか? 7時頃でどうだい?」
「わかった、また今晩」
星夜くんはまた慌てているようで、すぐに電話を切った。
「宮崎さんが結婚相談所に登録ねぇ?」
京子は何かを考えるようにして、ぽつりと言った。
「星夜くんも何か知ってるっぽかったから、今晩会って聞いてくるわ」
「あたしも行く!」
「ダメよ、京子は自宅でおとなしくしてなさいって、さっき警部さんからも言われたばかりでしょ」
あたしは京子を止めた。外出は極力なくすようにと、釘をさされたばかりだというのに。
「星夜くんから話を聞いたら、すぐに電話するから。それでいいでしょ?」
「うん」
京子は駄々っ子みたいな表情であたしを見上げた。京子、その表情はズルいぞ。
「まずは、ご飯食べましょ」
腹が減っては戦はできぬ!
夕方、あたしたちは早めの退勤をした。見張り役の刑事さんにも悪いし、こうざわついていると他の社員にもあまり良い影響がないという判断で、課長が先に帰るように指示してきたからだった。
「お先に失礼します」
会社を出て、帰り道に着く。前と後ろに数名の人影が判別できた。こんなにあからさまに見張るものだろうかとちょっと疑問に思った。なんだか、あたしたちは魚の餌なんじゃないかと錯覚するくらい。それは半分当たっているのかもしれないけれど。
あたしは昨日と同じように、京子を彼女のマンション前まで送り届けてから自宅に帰ることにした。マンション前にはすでに見慣れない黒塗りの車が止まっていた。多分あれが、よく刑事ドラマで見る、見張り役なのかもしれない。ご苦労様です。
京子を送ってから、自宅に戻る帰り道。さすがにあたしの後を追う人達はいなくなり、人影もまばらになってきた。急いで自宅のマンションに向かおうと、少し早足になった、その時。
「美保子!」
背後から、あたしを呼ぶ声がした。その声には聞き覚えがあった。
ふと、振り向いてみると、そこにはボロボロの服を着た丈治の姿があった。




