人生こんなところで終わらせてたまるか!第11話
あたし佐伯美保子は28歳、アラサーまっただ中。某都市銀行の地方支店で働くOLである。身長180センチ、元レスリング部、よく街で男の子に間違われる。
5年越しのお付き合いの末、婚約者の齋藤丈治に別れを告げ、婚活を始めたあたし。
ネットの出会いサイトを誤って出会ってしまったゲイのおっさん権藤さんに紹介してもらった結婚紹介所の社長さんが、なんとあたしの小学生の時の初恋の人!その初恋の人となんかいいムード。と思ったら、今度は社内で気になる年上の課長があたしに個人的にお誘いを。京子がストーカーされてるって? そして、あたしに本社採用枠に応募しろって?
課長に誘われた翌日、お局さんからお呼び出し。なんだかあたしの身辺、騒がしくなってきたわよ……。
どうなるあたしの恋路!?
ドキドキ婚活ストーリー!
「ちょっと、美保子、なんで喋っちゃうかなー?」
案の定、閉店直後に京子があたしに文句を言ってきた。
「だってさ、清井さんが…」
と、午前中に店舗裏のであったことを伝えた。
「あら、そうなの。へぇ…清井のババァがねぇ…課長に気があるんだぁ…。男には興味はありませんみたいな顔して、へぇ…」
と、京子はなんとも嫌らしい笑いをしてみせ、
「まあ、そういうことなら、仕方ないわね。清井ババァの弱み握れたんだから、安いもんだわ」
と言ってのけた。日頃から、京子は清井さんには目をつけられている。男にだらしがないとか、そういうプライベートなことにまで口を出す清井さんのことはいつもおもしろくないと公言して憚らないのが京子だ。対して、何事もきっちりとしていて、私生活にも隙がない清井さんからみれば、京子はとても許せない子なのだろうということも想像に難くはないが。
そして、この内面的には正反対の二人ではあるのだが、外面的にはなんとなく似てるのだ。黒髪長髪というところもそうだけれど、身長や細いスタイルもなんとなく似ている。多分後ろ姿だけだと、間違う人もいるくらい。しかし、神様もおもしろいことをしてくれる。
「それで、目星はついたの?」
と、件のストーカーの話を振ってみた。
「んー。思い当たるのは数名いるんだけどね」
複数名いるのかい。さもありなん。
「まあでも、どれだとしても、大したこと出来ない奴らだから、気にしなくてもいいわよ」
「それでも気をつけるに越したことはないわよ」
「そうねぇ。まあ、気をつけるわぁ」
京子はとてもそうとはとれないような、気楽な言い方で返事してきた。とても心配。
「しばらくは会社帰りはあたしが一緒についてあげるからさ」
「いいよぉ。美保子もなにかと忙しいじゃん。今日も行くんでしょ?ジム?」
京子にはバレバレである。
「大丈夫、あたしも一度マンションに帰って、着替えてから行くから」
「そう?じゃあ、ボディガードお願いしようかなぁ」
「そうそう、素直に聞けばよろし」
それから事務作業を淡々と進める。今日はそれほど忙しい日ではなかったので、定時には帰れそうだ。
京子を自宅のマンションまで送り届けてから、一旦自宅に戻り、ジムへ向かう。
「よお、美保子ちゃん」
権藤さんはすでにジムで汗を流していた。そういえば、この人って何の仕事してるんだろう。
「あ、どうも、権藤さん。今日は早いですね」
「今日は暇だったからね。それより、美保子ちゃんは、土日専門じゃなかったのかい…?ああ、佐藤さんかい?」
うは、権藤さんにもバレバレだった。そんなにあからさまでしたか、あたしは。猛省。
「あ、いえ、そんなんじゃ…ないんですけど」
「まあ、彼いい男だからね。…あ、大丈夫、彼はまったくのノンケだから、あたしは手ぇ出さないからね。安心して」
と、権藤さんはこっそりと付け足した。
「あ、いえ、ですから、そういうことじゃ…」
あたしは慌てて訂正しようとしたけれど、
「まあまあ。分かってるから。ははは」
と、権藤さんは全く取り合ってくれなかった。
「でもあれだね、そうなると、彼の会社に相談するってのは、またこれは困ったことになるねぇ」
確かにそうなのだった。一応は結婚相談をさせてもらうということで出会ったのだから、彼の仕事を無視するわけにもいかず。かと言って、紹介してもらったところで、どうしたものかと。
「何か考えておくよ。うん。任せておいて」
権藤さんはドンと胸を叩いてみせた。なんか頼もしい。
それからしばらくして、星夜くんがジムに顔を出した。あたしがランニングマシンで少し走り始めた時だった。
「やあ、美保子、来てたんだ?一昨日はどうも。楽しかったよ、久しぶりに話せて」
「うん、こちらこそ。あたしも楽しかった」
あたしは走りながら、そう答えた。星夜くんはあたしの隣のマシンをセットし始めた。
「ところで、うち、いつ来る?」
「え?」
「結婚相談さ。うちなら、いつでもいいんだけど」
やっぱり、そうきたか。そりゃ、仕事だもの、当然よね。
「えっと、あのー」
と、あたしが口ごもっていると、
「やあ、佐藤さん」
後ろから権藤さんがやってきて、星夜くんに声をかけた。
「あ、権藤さん、どうも」
「実はさ、その話なんだけど、美保子ちゃん、もう相談必要なくなったんだよ」
「え?そうなんですか?なんかあった?」
星夜くんはマシンのセットする手を止めて、あたしの方を向いた。
「あ、いえ、あの…その…」
「いや、実はさ、美保子ちゃん好きな人ができたらしいんだよ」
「え。って、一昨日の今日じゃないですか?」
「ちょ、権藤さん、それって…」
あたしは焦った。権藤さん、何を言い出すの。
「佐藤さん、あんただよ。あんたにホの字ってことだよ」
いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
あたしの頭はオーバーヒートした。権藤さん、何を言い出すかと思えば!
あたしは、マシンのスイッチを押して、走るのをやめた。
「え?」
星夜くんはきょとんとした顔で、権藤さんとあたしを交互に見つめた。
「権藤さん、いい加減にしてください!」
あたしは、恥ずかしくなって、そう叫んで駆けだした。
「あ、美保子…!」
後ろで星夜くんが叫ぶ声が聞こえたが、それを振り切ってそのままロッカールームに駆け込んだ。ロッカールームに飛び込むと、ベンチに座り込んだ。だって、確かに星夜くんは気にはなったけど、それが好きかどうかとかわかんないし、自分で告白する前に人に言われるとか。しかも面と向かって。
「権藤さんの、バカバカ!」
タオルに顔を埋めて、あたしは叫んだ。
あたしはいつの間にか泣いていたらしく、タオルが軽く濡れていた。汗と涙と鼻水が混じっていたみたい。なんか、超かっこわるい! しかもあたし、一体いくつだよ! 中高生じゃあるまいし。でも、恥ずかしくて泣きたくなることに変わりはない。
「あのー、大丈夫ですか?」
ジムのインストラクターの女性がロッカールームに入ってきて、あたしに尋ねた。
「あ、はい。すみません。大丈夫です」
あたしはタオルに顔を埋めたまま答えた。
「あの、佐藤さんって方から伝言を頼まれまして。あの…話したいことがあるから、出てきてくれないかって」
「あ…分かりました。あと5分くらいで戻りますって、伝えてもらえませんか? すみません、お世話お掛けしまして」
「分かりました」
その女性はおどおどしながら、ロッカールームを出て行った。何か痴話喧嘩に巻き込まれた見知らぬ通りがかりの人のようだった。
あたしは、彼女に伝えたとおり、5分ちょうどくらいにロッカールームを出た。
「美保子」
はたして星夜くんはロッカールームの前で待っていた。権藤さんはそこにはいなかった。
「あのさ。…なんていうか、その…嬉しいよ」
星夜くんは鼻の頭を掻きながら、そう言った。あたしたちはまるで中学生の頃に戻ったかのようだった。あたしは、「嬉しい」って言われて、頭パーン。ええ。それって…。
「俺もさ、美保子のことは好きだったし、一昨日再会して、いい女になったなって本当に思ったさ」
え。ええ。えええ!
「でもさ。この前話した通り、今、俺、仕事を軌道に乗せることが最優先で、誰かとお付き合いとかって考えられないんだ」
「うん、知ってる」
あたしは、ぽつりと言った。そうよね、そういうことよね。
「でも、もし軌道に乗って、そういう余裕ができたら。できたら、俺とお付き合いしてもらえないかな?
…って、そんな都合の良い話ってないかな?」
「ううん。あたしも嬉しい。そう言ってくれて。あたしもね、星夜くんのことは好きよ。本当のことを言うと、初恋の人だったし。でも、今はどうって言われたら、まだ自信ない。再会したばかりだしね。今の星夜くんのことももっと知りたいし。そんな時間があればいいかなって思ってる」
「そっか、じゃあ、改めて、よろしく頼む」
そう言って、星夜くんはあたしに握手を求めた。握った手はゴツゴツしていて、なんか、立派な大人になったんだなって、改めて思った。
ジムの方では、権藤さんがこっそりとこちらを見ていた。酷いキューピットだこと。
なんて、あたしが青春している頃、京子の周りでは大変な事件が起こっていた。




