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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅰ、放浪編

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5,兵は鬼道なり

 「和睦じゃとー、どういうことだ魔王殿。我らは5万の大軍ぞ! ここで和睦とはなんたる情けなさじゃ。」


 大公は怒り心頭である。


 私たちは神殿に戻り、今は作戦会議のまっただ中なのだ。


 「大公殿、説明しよう。」


 私はバッと扇を開いた。


 「女王ヒミカ、王女ツキヨミ、あれは女の城ですな。脅して和睦に持ち込む。もはやアマテラス王家に従う重臣の数も少ないと聞く。実力のある重臣で残っているのは魔導士エクストン卿くらいなものだろう。」


 大公が調略をしかけて、王家の子飼いの家臣たちをこちらの味方にしてしまったからだ。

 いつの世も同じ。人は強いものになびこうとする。


 「グランローゼ城を守っているのは、ドワーフの傭兵隊長、寄せ集めの冒険者部隊が主力だ。そして召喚者サナード。彼らは戦いの主力だが、いずれも傭兵にすぎない。戦術はあっても、政治的判断はできない。」


 「魔王殿、それはいかに???」


 「これはサナードとの戦いではないのです。城にこもる女たちとの戦いなのですよ。」


 「女との戦い?」


 私は女性を下に見ているのではない。

 ジェンダーのことを言っているのだ。

 男性は子どもの頃から、強くあれ、他人に負けるな、と言って育てられる。

 女性は、やさしく、他人と仲良く、と言って育てられる。

 性の違いというのは生物的なものだけでなく社会的な関係性の中にあるのだ。

 つまり、男は戦いを好むようになり、女は平和を望むようになる。


 「女王ヒミカ殿に和睦をちらつかせるのですよ。」

 

 「しかし、この戦い、相手は優勢ぞ。」


 「その前に、少し脅してやるのですよ。」


 「脅しとな?」


 「大砲はありませんか?」


 「大砲とな?」


 「銃はどうです?」


 「銃とな?」


 やれやれだ。この世界には火力兵器というものが存在しないようだ。

 まっ、魔法があるのだから仕方がない。

 必要は発明の母。

 必要がないから銃も大砲も発明されない。

 火や水といったインフラも生活魔法で十分供給できるのだ。


 「では、投石器を作りましょう。」


 投石器、巨大な質量の岩石をテコの原理で遠くまで飛ばす。

 原始的な兵器だが、威力は抜群だ。

 中国史において、元の皇帝フビライが南宋を攻めるとき、攻城戦において投石器を使用した。


 私は工兵たちに投石器の原理を説明し、うろ覚えであったが設計図を書いた。

 工兵たちはまたたくまに投石器を作り上げた。


 そして、第三次グランローゼ城攻略戦の火ぶたが切られたのだ。



 ***


 大公の軍勢がゆっくり巨大な投石器を引いていく。

 真田幸村の炎の剣の射程外ぎりぎりに投石器が配置された。

 大公は上機嫌だ。


 「大公殿、ここは高みの見物といきましょう。」


 「うむ、魔王殿、大儀であった。」


 攻撃開始だ。

 さーあ、投石器振りかぶった。一投目はど真ん中―っ!


 岩石は宙をはるかに飛んだ。真田丸を飛び越えて城下の街に落ちたのだ。


 -----ドゥーン!


 その衝撃が空気を震わせ、城下の町に土煙があがった。

 街には人っ子ひとりいない。戦火を恐れた町の衆は郊外へ避難している。


 「惜しいぃぃぃぃ! 城に当てるのじゃ! グランローゼ城を破壊するのじゃ! 当てた者には褒美をつかわす。者ども気合を入れてイケー!」


 大公は投石器の威力に大はしゃぎである。


 褒美と聞いて兵たちも奮い立つ。

 前回の攻城戦ではさんざんな目にあったのだ。これは復讐戦でもある。


 -----ドーンン、ドドーン、


 二投目と三投目は同じく城下の街に落ちた。土煙がグランローゼ城を包んでいる。


 「この下手くそどもめー、的はあそこじゃぁー! よく狙わんかぁー!」




 -----ドッカーン!


 四投目にして岩石は城に命中した。


 「でかしたー! 値千金《あたいせんきん》じゃぁぁぁ!」


 激しい音がここまで聞こえてくる。

 岩石は城の東の塔に命中し、塔はがらがらと音をたてて崩れ落ちたのだ。

 グランローゼ城が土煙の中に沈んでいく。


 「やったぁぁぁぁぁぁ!」


 大公のガッツポーズだ。

 握りしめたこぶしを天を衝かんばかりに突き出している。


 


 そして、投石器の攻撃は、女王ヒミカの心胆《しんたん》を寒《さむ》からしめた。


 大公は和睦の死者を城内に送った。

 使者は黒の魔導士ヴァルデーノ・オルス卿である。


 オルス卿は女王にひざまずき、和睦を勧めた。


 「この戦い、無益と存じます。大公様は和睦を求めておりまする。」


 「大公はわらわの家来ではないか。和睦というならば大公自身がこの場にひれ伏して願うがよかろう。」


 「されば、再び干戈《かんか》を交えましょうぞ。」


 女王ヒミカは震えあがり、和睦は成った。



 あとで知ったことだが、この時、ドワーフの傭兵隊長ヴァン・ダイクンは徹底抗戦を主張し、真田幸村は城から討って出る作戦を提案した。

 ただ、女王ヒミカは投石器の威力に怯えきっていた。

 白の魔導士エクストン卿は女王にひざまずき翻意を促したが、女王は和睦の意思を曲げなかった。

 白の魔導士は「御意」とのみ答えざるを得なかった。


 和睦の条件である。

 真田丸を破却すること。

 外堀を埋め、町を取り囲む城壁を取り壊す。

 和睦が成った以上、傭兵、冒険者、そして召喚者も城外へ追放する。


 大阪冬の陣と同じ結末である。

 これが私が大公に授けた策である。



 ***


 「城が丸裸になっていくニャ。」


 「大公の軍団が城壁を壊してるな。その残骸で外堀を埋めている。」


 「城壁と堀の破壊はアマテラス王家が自ら行うものと和睦の協定書に定められていたはずニャ。大公が破壊しするのは協定違反ニャ。」


 「私が大公にやれと言った。」


 「魔王様の指示なのかニャ。」


 「兵は鬼道《きどう》なり、だ。」


 「どういう意味ニャ?」


 「私の世界の軍略家の言葉だ。戦争は騙しあいという意味だ。」


 「だましあい…、ニャ。」



 だが、これで大公への一宿一飯の恩義はチャラだ。

 ここからは好きにさせてもらう。


 「ニャン子、真田幸村殿に繋《つな》ぎを取ってくれ! できるか?」


 「お安い御用ニャ。」


 ニャン子は影にもぐり、影を伝ってグランローゼ城の奥深くに侵入していった。


 さぁーて、真田幸村、どう出るかだ。


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