第9話③ 日〇焼きそば――動くで、もう
飯を食い終わって、エンジンルームの前に戻った。
イグニッションコイル。コネクターを確認する。奥まった場所に手を入れる。指先で一本ずつたどる。
あった。
一本、浮いていた。押し込む。かちっと音がした。
エンジンをかける。
かかった。
低い音が戻ってきた。台所号が、また動いている。
「……よっしゃ」
誰もいないのに声が出た。
扉が開いた。
寧々が顔を出す。
「かかった?」
「かかった」
寧々が少し目を細める。それだけだ。
結衣さんにメッセージを入れた。
「直りました。ありがとうございます」
さっきの写真も一緒に送った。
すぐ既読がついた。
「よかった! うわずるい」
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台所号の横腹は、閉めたままだった。
今日はもう営業しない。片付けをして、夕方が来た。
空き地の端に、電柱が一本ある。街灯がついて、足元だけ少し明るくなった。
寧々が台所号の扉を開けて、外に出てきた。腕を伸ばす。
「疲れた?」
「……何もしてないのに疲れた」
「それはしんどいな」
寧々が空を見上げる。星が少し出ている。
しばらく、二人とも黙っていた。
「今日、何もできんかったな」
俺が言う。
「焼きそば、食べた」
「……それはそうやな」
空き地に風が来た。街灯の光が、足元の砂利を照らしている。
「でも直ってよかった。もう少しかかるかと思ってた」
「佑が直したんやから」
「結衣さんのおかげやけどな」
「みんなに感謝」
寧々が台所号を見る。少し間があって、また空を見上げる。
「明日、ちゃんと動かそう」
「動くで、もう」
寧々が小さく笑った。
俺はスマホを開いて、投稿画面を開いた。
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【PHOTO】日〇焼きそば
台所号、今日は動かなかった。
修理待ちの昼に、二人で食べた一皿。
うまかった。それだけ。
#旅する台所号 #今日の一皿 #動かない日
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投稿して、スマホを閉じようとしたら通知が来た。
結衣さんだった。
俺は寧々に画面を向けた。
「佑、ちょっと相談がある。会って話せる? 寧々ちゃんも一緒に」
寧々が読む。俺に返して、短く言う。
「行ってみたら」
「俺たち二人やけど」
「それでも」
少し間があって、寧々がぽつりと言う。
「結衣さん、何食べたいんやろ」




