第8話① ツガニ汁――煙を追う
高知の街は、横に広い。
山が遠くて空が広い。建物が低いから視線が抜けて、海沿いの町とも山間の町とも違う空気がある。路面電車が走っていて、線路が道の真ん中にある。車で走ると、レールの上を踏む感覚がある。
「街やな」
俺が言うと、寧々は窓の外を見たまま頷く。
「カツオ、どこで食べる?調べてきた?」
「歩いたら分かる」
「なんで?高知、初めてやのに」
「煙、探せばいい」
それだけ言って、もう扉を開けている。
台所号を商店街の近くに停める。昼前の時間で、観光客と地元の人が混ざって歩いている。土産物屋の前に段ボール箱が積み上がっていて、乾物の匂いが薄く漂っている。
歩き出してすぐだった。
煙が来た。
匂いが先だ。焦げた草の匂い。藁が燃えた青い匂いに、脂の甘さが混ざっている。
「あれ」
寧々が足を止める。
前方、店の軒先で炎が上がっていた。白い煙がどっと出て風に流れ、煙の端が通りまで届いてきて目が少し痛い。
通りすがりの観光客がスマホを向けて立ち止まっている。でも店の人は動じない。モリを持ったまま、慣れた手つきで炎の中にカツオを入れている。
「……すごい火や」
俺が言っても、寧々は答えない。炎を見たまま、瞬きが少ない。
店の前まで近づいて、立って見る。
台の上に藁の束が積んである。握っても両手が回らないくらいの太さで、何束も重なっている。店の人が一束手に取って、火をつけた。
ぼう。
一瞬で燃え広がる。炎が縦に伸びて人の背丈を超え、白い煙がどっと出て熱が顔まで届いた。距離があるのに、頬が熱い。
カツオがモリに刺してある。皮の面を炎に向けると、脂が弾ける音がする。ぱちぱちと細かく、でも確実に鳴る。煙の中に脂の甘い匂いが混ざってきて、藁の青い匂いとは違う、甘くて香ばしい匂いが腹に来る。
十秒もない。
炎が収まって、店の人がカツオを取り出す。表面が黒くて皮の端が焦げているが、身はまだ見えない。氷水には入れず、そのまま台の上に置いて少し待つ。
「焼き切りや」
寧々が小声で言う。
「焼き切り?」
「氷水に入れてない。締めると身が縮んで、中の熱が逃げる。焼き切りはそのまま切る。外は焦げてて、中はまだ熱い。その境目を食べる」
「境目?」
「焦げと生の間。藁の香りが一番残ってるとこ」
煙がまだ上がっている中で、店の人が包丁を持ってカツオを押さえ、引く。
断面が見えた。
外は黒い。皮が焦げていて、その内側だけ数ミリほど白っぽくなっている。そこから先は赤い。鮮やかで、加熱されていない赤が中心まで色を変えていない。
俺の喉が鳴る。
「中、入ろっか」
寧々はまだ炎の跡を見ている。次の藁束に、また火がついた。
ぼう。
炎が上がって煙が来る。脂が弾けて、甘い匂いが通りに広がる。
寧々がその音を聞いて、短く言う。
「うん、入る」




