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旅する台所 ~キッチンカーで日本を巡るご当地グルメ旅~  作者: ユタ


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第6話④ 焼きトウモロコシ ― 音が戻る


火が戻った鉄板の上で、寧々がすぐに動く。


さっきまで中心に集めていたコーンを、端へ広げる。

皮を二枚残す。

鉄板全体を使いはじめる。


止まっていたコーンが、一気に動きはじめる。


皮の端から色が変わる。

薄い茶から、茶へ。茶から黒い焦げ目へ。

さっきまで止まっていた色が、続きから動く。


蒸気の量が増える。

皮の隙間から細く漏れていたのが、どっと出てくる。

甘い匂いが、台所号の中に充満する。

さっきより濃い。止まっていた分が一気に来る。


鉄板の音が太くなる。

「ぼ」が「ぼうぼう」になる。


待っていたお客さんが、その音で顔を上げる。


醤油を刷毛で塗る。


じゅわ。


さっきより音が太い。

醤油が粒に当たった瞬間、香ばしい煙が上がる。

甘さと香ばしさが混ざった匂いが、会場に広がる。

さっきより範囲が広い。


列の後ろにいた人も、鼻を動かす。


寧々が皮をめくる。

端から一枚、もう一枚。

めくった瞬間、蒸気がどっと出る。

中から黄色が出てくる。


粒が光っている。

さっきまで色が止まっていた粒が、今は醤油の照りをまとっている。

醤油の焦げが粒の間に入り込んでいる。

皮が焦げた黒と、粒の黄色と、醤油の照りが、一本の上に全部ある。


渡す。


お客さんがかじる。


ぱりっと皮の焦げた部分が割れる。

中から黄色い粒。かじった瞬間、汁が出る。

甘い。熱い。

粒の間に入り込んでいた醤油の香ばしさが、鼻に抜ける。


一瞬だけ、目が止まる。


「うまい」


短く言って、もう一口いく。

口が止まらない顔をしている。


結衣さんが小声で「よかった」と言う。

息を吐く。その息が少しだけ長い。


俺は次のお客さんに向く。


焼く。

渡す。

焼く。

渡す。


音が鳴るたびに、次の手が伸びる。


「これ、もう一本いいですか」


「どうぞ」


さっきより列が伸びている。

トラブル前より、人が多い。


待っている間に匂いが広がって、足を止めた人が列に加わっている。


焼く。

渡す。


お客さんが受け取るたびに、かじる音が続く。


ぱりっ。

ぱりっ。


あちこちから同じ音が鳴る。


「甘い」


「醤油がいいな」


「これ、また来よ」


声がばらばらに飛んでくる。

寧々は何も言わない。

手だけが動いている。


しばらくして、結衣さんが台所号に顔を出す。


「そろそろ終わりの時間やで」


寧々が鉄板を見る。

コーンはまだある。


「分かった」


寧々が最後の数本を焼く。

待っているお客さんに渡していく。


最後のお客さんが受け取る。

かじる。


一口目で目が細くなる。

二口目で、肩が落ちる。


「……反則やな、これ」


列が切れる。



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