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旅する台所 ~キッチンカーで日本を巡るご当地グルメ旅~  作者: ユタ


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第6話② 焼きトウモロコシ ― 匂いが呼ぶ


鉄板を温める。


ぼう、と低い音がする。

寧々が鉄板の端に手をかざす。触れない距離で、温度を確かめる。


「まだ?」


「もう少し」


鉄板が十分に温まったのを確かめてから、コーンを乗せる。


ぼっ。


皮が鉄板に当たった瞬間、音がする。

皮の内側に蒸気が溜まりはじめる。

コーンの甘い匂いが、台所号の中に広がってくる。まだ薄い。でも確かにある。


結衣さんは会場全体を見て回っている。

主催側の仕事がある。台所号には顔を出しながら、会場を行き来している。


しばらくして、皮の表面が変わりはじめる。


青かった皮の色が、端から薄い茶色に変わっていく。

鉄板に当たっている面から順番に色が動く。

皮の内側で蒸気が膨らんで、表面がわずかに膨れあがる。


寧々が鉄板の端で指先を当てる。

皮の上から、そっと押す。

最初は固い。粒がまだ返ってこない。


もう少し待つ。


皮の色が濃くなる。薄い茶から、茶へ。

端が少し焦げはじめる。

甘い蒸気が、皮の隙間から細く漏れる。


もう一度押す。

粒の丸みが指先に返ってくる。


皮をめくる。

端から一枚、もう一枚。

めくった瞬間、蒸気がどっと出た。


熱い。顔に当たる。


粒が黄色く光っている。

さっきまで青かった皮の内側が、熱で色を変えている。

粒の間が湿って、つやが出ている。

粒と粒の間から、甘い匂いが立つ。


醤油を手に取る。

刷毛を浸す。


すぐには塗らない。


鉄板の上でコーンが小さく音を立てる。

粒の水分が飛んでいる。

表面が少しだけ乾いてくる。


十秒ほど待って、刷毛で塗る。


じゅわ。


醤油が粒に当たった瞬間、香ばしい煙が上がる。

皮の焦げた匂いに醤油の甘さが乗る。

甘さと香ばしさが混ざって、鼻の奥まで来る。


「なんか来た」


結衣さんが台所号に顔を出す。


「匂い、外まで行ってる」


「行ってほしい」


寧々が短く言う。


一本目が仕上がる。


皮が黒く焦げた部分と、醤油の照りが粒の上に残っている。


最初のお客さんに渡す。


受け取って、すぐかじる。

ぱりっと皮の焦げた部分が割れる。

中から粒。かじった瞬間、汁が出る。

甘い。熱い。

醤油の香ばしさが鼻に抜ける。


一瞬だけ、目が止まる。


「うまっ」


素直な声だ。

もう一口いっている。


その声が聞こえた瞬間、後ろに並んでいた人が前に出た。


結衣さんが自然に前へ出る。


「焼きトウモロコシですよ、いかがですか」


声が通る。

イベント会社の営業だ。場慣れしている。


俺が列を整える。

寧々が焼きを回す。

結衣さんが客と話す。


三人が自然に役割を持つ。


「皮ごと焼いてるんですか、珍しいですね」


「蒸されて、中の甘さが逃げないんですよ」


「それ聞いたら食べたくなる」


「でしょ」


結衣さんが笑う。

お客さんも笑う。


三本目が仕上がる頃、列が七人になっていた。


四本目。

五本目。


「いい感じやな」


結衣さんが俺の横で小声で言う。


「うん」


「寧々ちゃん、速い」


「集中すると止まらない」


「見てたら分かる」


五本目を鉄板に乗せたとき、音が変わった。


「ぼう」が「ぼ」になる。


俺と寧々が、同時に鉄板を見る。


炎の揺れ方が違う。さっきより細い。

煙の量が少し減った。

粒の色づきが遅くなっている。


寧々の手がすでに動いている。

コーンを鉄板の中心に寄せている。

熱の集まる場所に集める。


目が合う。

一秒もない。




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