第八章 入り込む影
朝、無線が鳴った。
予定していない時間。
予定していない周波数。
「……九条です」
短い応答。
ノイズの向こうで、男の声がした。
『連絡が遅れて申し訳ない』
あかねは、顔を上げる。
九条の表情が、変わった。
『共同調査の件で』
九条は、すぐに遮った。
「正式な契約は、ありません」
『承知しています。
ですが、文化庁からの打診です』
——上だ。
空気が、張る。
「現地調査は、単独で行っています」
『安全確保のため、
我々のチームが合流します』
あかねは、九条を見る。
九条は、即答しなかった。
沈黙。
『明日には、到着します』
それだけ言って、通信は切れた。
テントの中が、静まり返る。
「……来るんですね」
あかねが言う。
「ええ」
九条は、ゆっくり息を吐く。
「止められませんか」
「公式ルートです」
あかねは、地図を見る。
ルートが、重なる。
「邪魔、されます」
「ええ」
九条は、否定しない。
「ですが、排除もできません」
あかねは、腕を組む。
「目的、違いますよね」
「成果です」
九条の声が、少し硬い。
「彼らは、結果を急ぐ」
その夜、ライトが増えた。
遠くの斜面に、動く影。
——人だ。
あかねは、無意識に拳を握る。
「先生」
「はい」
「境界、決めましょう」
九条は、頷いた。
「触らせない場所を」
「壊させない順番を」
二人の視線が、同じ点に集まる。
介入は、避けられない。
だが、線は引ける。
それが、緊張の始まりだった。




