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第二章 若すぎる教授

 昼の研究棟は、夜とは別の顔をしている。


 人の声。

 足音。

 ドアの開閉。


 動木あかねは、少しだけ歩調を落とした。


 ここは、仕事場じゃない。

 今日は、頼まれて来ただけだ。


「動木さん」


 背後から声がする。


 振り返ると、昨日の男がいた。

 車いす。

 きちんとした服装。


「九条です。

 改めて」


「動木です」


 それだけで、十分だった。

 年齢は、近い。

 だが、立っている場所が違う。


 あかねは学生で、彼は教授だった。


 研究室に入る。


 机の上は、昨日より整っている。

 片づいてはいるが、整然とはしていない。


 ——必要なものだけ、残した感じ。


「昨日のことですが」


 九条が切り出す。


「なぜ、ああ言ったんですか」


 あかねは、椅子に座らなかった。

 立ったまま答える。


「順番が違ったから」


「何の順番ですか」


「触る順番です」


 九条は、否定しなかった。


「触ると、何が起きると思いました?」


「壊れる」


 即答だった。


 九条は、指先を組む。


「……根拠は?」


「ないです」


 あかねは、平然と言った。


「でも、夜の仕事では、

 根拠がないほうが当たります」


 九条は、少しだけ笑った。


「それは、経験則ですね」


「体で覚えたやつです」


 九条は、車いすをわずかに前に出した。


「あなた、現場向きですね」


「よく言われます」


 褒め言葉ではないことも、わかっている。


「実は」


 九条は、資料を一枚差し出した。


「助手を探しています」


 あかねは、紙を見る。


 海外。

 遺跡。

 フィールドワーク。


「……体力仕事ですか」


「ええ」


「危険?」


「あります」


 九条は、隠さない。


「給料は?」


「出せるだけ出します」


 具体的な数字が書いてあった。


 悪くない。

 学費が、頭をよぎる。


「私、専門じゃないですよ」


「それがいい」


 九条は、即答した。


「専門家は、先に触りたがる」


 あかねは、少し考えた。


 ——順番。


「条件があります」


「どうぞ」


「私が止めたら、止まってください」


 九条は、間を置かずに言った。


「約束します」


 その速さで、信用した。


「じゃあ、やります」


 九条は、深く息を吐いた。


「助かります」


 それは、軽い言葉ではなかった。


 研究室を出るとき、

あかねは一度だけ振り返る。


 机の上のルーン文字。


 ——まだ、触るときじゃない。


 その感覚は、変わらなかった。

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