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私は勇者だけど魔王を口説きたい〜婚活中の勇者、三日三晩の死闘の末、魔王を落としました〜

作者: 春樹凜
掲載日:2025/12/11



 その日も婚活パーティー三件目で、私は悟った。

 ――今日もダメだな、これ。


 部屋の隅で、ぬるくなったオレンジジュースをちびちびやりながら、キラキラスーツの男達と、ゆるふわワンピースの女の子達を眺める。

 自己紹介カードの趣味欄には、『カフェ巡り』『映画鑑賞』『旅行』。

 そうだよね、みんなそうだよね。私もそうだよ。

 

 でも、現実はそんなよくある趣味を共有する相手すら、なかなか見つからない。

 二十五歳、事務職、年収並、顔面偏差値中の上、なのに、なぜ……。


 勝てない争いにいつまでも身を置いてても仕方ない。

 そろそろ帰ろう、とコートを羽織ってビルを出た、その瞬間だった。


 目の前が真っ白になったかと思うと、足元から光の柱が立ち上がった。


「え、ちょ、何これ、合コンの罰ゲーム!? あ、もしかしてトラックじゃなくて光るタイプのやつ!?」


 大声で叫ぶ間もなく、私の視界は完全に光に飲まれた。



「――勇者よ!」


 気づけば、私はやたら立派な玉座のある謁見の間に立っていた。

 目の前には、ヒゲを蓄えた王様っぽい人。その横には賢者らしき老人。周囲には鎧の騎士達。


 え、これ……。

 脳内で、少女漫画とラノベのページがめくれる。


 もしや異世界召喚!? 聖女認定!? イケメン王子と政略結婚コース!? きたこれ!

 

 心の中でガッツポーズしていると、王様(仮)が厳かに口を開いた。


「私はこの国の王、バルバトスだ。我が国は今、魔王の脅威にさらされておる。ゆえに、異世界より勇者を召喚した。そなたが、その勇者だ」


 ――勇者。

 なんか、さっきも言ってた。これで三回目。


 ……ん?

 聖女じゃないの? 


「あの、確認なんですけど! 私は聖女で、魔王討伐後に王子様のお嫁さん的なポジションに収まるとかではなく……?」


 つい正直に聞き返すと、王様(確定)は一瞬だけ困った顔をしてから、咳払いをした。


「……残念ながらそなたは勇者だ。お嫁さん……に関しては、魔王を倒してくれれば、可能な限り望みの褒美を取らせよう」


 なるほど。

 ……それはそれでありでは?


 王子でも騎士でも貴族でも、イケメンを指名し放題。これはこれで新しい婚活の可能性ではないだろうか。


 ちなみに召喚されたら元の世界には帰れないらしいけど、結婚できるなら別にどこの世界でも構わない。

 どうせ現代日本でも身寄りのない独り身だったし。

 

 ほどなく紹介された旅の仲間達は、見事にイケメン揃いだった。


 クール系金髪王子。

 無口な黒髪騎士。

 穏やか微笑み神官。

 ちゃらっとした弓使い。

 やだ、逆ハーレムパーティですか……!? 

 ありがとう異世界……!


 期待で胸をふくらませる私に、しかし無情な現実はすぐ突きつけられる。


 王子には幼馴染みの公爵令嬢の婚約者。

 黒髪騎士は年上女騎士団長へ拗らせ片想い。

 神官は教会への忠誠とやらで恋愛不可。

 弓使いは「……俺、女より男が好きなんだよね」と目を逸らした。


 見事に、全員埋まっていた。


「……逆ハーレムどこいった?」


 思わず呟いた私に、金髪王子が申し訳なさそうに微笑む。


「すまない、勇者ヤヨイ。確かに君を伴侶とすることは難しい。だが我々は君を全力で支える。だから、なんとか魔王を倒し、この国に平和を――」

「あ、伴侶NGってことですよね。了解了解」

「……え?」

「大丈夫です。私も略奪愛は本意じゃないんで」


 私はきっぱりと言った。

 婚活は戦争だけど、倫理は守る。

 婚活アプリでも、彼女いますの人は最初からスルーしてきたのだ。ここでポリシーは曲げない。


 公爵令嬢に女騎士団長、神様に恋人候補の男。

 そんな強豪相手から、イケメン四人を奪い取る気なんてないし、そもそもシェアする趣味もない。


「だから、その魔王ぶっ倒して、別ルート探します」

「別ルート……?」

「つまり、まだ見ぬ独身イケメンを捜す旅です。もしくはご褒美にイケメン指名して幸せな結婚をする」


 王子達は顔を見合わせたが、最終的に、


「そ、そうか、頑張れ……」


 と苦笑していた。



 そんなわけで、私は勇者として旅立った。


 ――で、戦ってみて分かったが、私はどうやら戦闘の才能だけはやたらあった。


「はあああっ!!」


 剣を一閃。目の前の巨大なオーク的な何かが、綺麗に真っ二つになって吹っ飛ぶ。


「「「すごい……」」」


 後ろで男達がざわつく。


 斬って、殴って、魔法をぶっぱなして、気づけば私は『血まみれ勇者』と呼ばれるようになっていた。


 モンスターには「ヒッ」と逃げられ、村のじいちゃんばあちゃんには「ヤヨイ様、惚れてまうやろ」と言われ、そして通りすがりに助けた子ども達やイケメンには「すげぇな勇者!」と尊敬され目を輝かせられる。


 婚活の時に欲しかった『モテ』が、なぜかモンスター退治で得られている謎。


 いや、これはこれで嬉しいけども……。

 でも私が求めてる『モテ』は、将来一緒に年金の話してくれる人を見つけるために発揮してほしいんだけど!?

 そこは皆惚れてくれていいんだよ!?


 しかし、どれだけ魔物を倒しても、イケメンとの婚活状況が進展することはなかった。


 反対に、王子は婚約者と文通で愛を育み、黒髪騎士は旅についてきた女団長と二人で稽古に明け暮れ、神官は神に祈り続け、弓使いは街で引っ掛けて連れてきた同じく男好きの冒険者と仲良くなっていた。

 

 私は完全に置いてけぼり。

 ……いや、いいことなんだけどさ。



 魔王がこの世界に姿を現したのは、ちょうど半年前――私が召喚されたのと同じ頃だった。

 本来なら魔物が各地で暴れ、人々が恐怖に震えるはず……だったのだが。


 出てきた魔物は、全部私が通りすがりに返り討ちにしてしまったので、実際の被害はゼロ。


 国民は今日も平和そのものだった。

 むしろ「勇者ヤヨイ様がいれば魔王なんて怖くない!」と、国の緊張感は日に日に薄れていったくらいだ。


 それでも王子達は「魔王討伐は義務だ」と真面目に進軍を続け……。


 こうしてついに旅の果て。私たちは魔王城にたどり着いた。


 魔王がこの世界に現れたと同時に突如できたらしいどでかい建築物。

 黒い城壁。うごめく瘴気。いかにもラストダンジョンと呼べる魔王城。

 

「ここまで来たな、ヤヨイ」


 王子が真剣な瞳で私を見る。


「君のおかげだ。最後まで共に……」

「はいはい感謝はあとでまとめてもらいます。行きましょう。一刻も早く魔王ぶっ倒して、私は血塗れ勇者なんて物騒な二つ名を返上して、真剣に婚活したいんで!」

「動機がぶれないな君は!?」


 そんなことを言いながら、石畳の階段を駆け上がり、重そうな両扉を押し開く。


 そこは、広い玉座の間だった。

 天井は高く、禍々しいシャンデリア。赤い絨毯。 

 

 その奥、一段高い場所に、それは座っていた。


 漆黒のローブ。長い脚を組み、頬杖をついている。

 闇色の髪に、血のように赤い瞳。整いすぎた顔立ちが、かえって現実味を失わせている。


 ……わぁお。

 無意識に、心の中で声が漏れた。

 まおう……超絶イケメン……。


 異世界総イケメン社会においても、頭一つ二つ飛び抜けているレベル。あれはもう、存在が暴力だ。


 私が見惚れていると、その魔王がゆらりと立ち上がった。


「よく来たな、人間の勇者よ」


 低く響く声まで、いちいち良い。

 いいな、結婚したい。


 思考が最低だと自分でも思うけど、仕方ない。

 婚活戦士・弥生、日本と異世界でかれこれ二年戦い続けているのだ。

 条件の良い掘り出し物を見つけたら、反射的に「結婚したい」が出てしまうのは、もはや職業病である。


「ここまでの道中、ずいぶんと我が配下を可愛がってくれたな。礼を言おう」

 

 そう言って魔王が手を振ると、私と魔王の周囲にバチンと音が鳴り、光が走った。


「えっ」


 急に現れた見えない壁に、王子達がぶつかる。


「これは……結界!?」

「勇者ヤヨイだけが中に!?」


 どうやら私だけが、魔王のエリアに閉じ込められたらしい。


 魔王がまっすぐ私を見つめた。その瞳に、わずかな好奇心の色が浮かんでいる。


「決着は、我とお前――二人だけでつけるとしよう」


 しかしだ。

 ちょっと待ってこれ、状況は絶体絶命だけど、考えようによっては……。


 二人きり。人払い済み。相手はイケメン。

 ――婚活的には、これ以上ないチャンスでは?


「さあ、勇者よ。覚悟はできたか」


 魔王がもう一度手を振ると、彼の手のひらに漆黒の炎がゆらりと立ち上る。

 殺意も闇のオーラも本物だ。別にロマンチックな意味じゃなくて、本気で殺しにきているのだろう。


 でも私はもう、別の覚悟が決まっていた。

 ……倒すか、落とすか。両方やればいいか。


 私は剣を構え、深呼吸した。


「……よし」


 そして一歩、魔王に踏み込むと、まずはご挨拶から始める。婚活における鉄板だ。


「私の名前は竜崎弥生。ヤヨイでいいですよ!」

「……何やら馴れ馴れしいな。まあ良い」


 ここで魔王は前髪をふぁさっとさせると、腰に来るいい感じのバリトンボイスで名乗った。


「我が名は――ゼリファディアス=マギ=オルタ=ディア=アーク=ベリアル=ナーガ=ルイン=グレオス三世。いずれ全ての世界を統べる唯一の――」

「じゃあゼルね!」


 ――魔王の時間が止まった。


 いや、本当に止まった。

 さっきまでゆらめいていた闇のオーラすら、空気中でフリーズしている。

 え、バグった?


「どうしたんですか、ゼル?」


 ゼルは無言のまま、赤い瞳でじっとこちらを見つめる。

 

 一秒。二秒。三秒。

 沈黙が続いたあと――。


「…………ま、待て」

「うん?」

「一文字しか合っておらん!!」


 ゼルが心底驚いた顔をしていた。


「せめて……せめてゼリュとかだろう! 威厳……我の威厳はどこへいった!」

「いや、ゼリュは言いにくいんで。ゼルでよくないですか?」

「決めるな!  勝手にあだ名を作るな!」

「呼びやすさは大事ですよ? 婚活でも、名前の覚えやすさって重要なんで」

「婚活基準で魔王を呼ぶな――!」


 そこで私はふと首をかしげた。


「ていうか、その言い方だと婚活って単語知ってる感じですか? なんでですか?」

「……別に普通だろう。魔界でも盛んだ」

「盛んなんだ!?」

「当然だ。我ら魔族も結婚相手には苦労する。血統だの家柄だの相性だの、色々と面倒でな。我もなかなか相手が見つからず……」

「へぇ、魔族も大変なんですね。親近感湧くー」

「勝手に親近感湧くな!」


 敵だろうと相手は人型だ。ゴーレムとかオークみたいなのより、よっぽど恋愛対象として話が通じる。

 しかもゼル、未婚。


「むしろ普通に会話できる分、可能性ありますよね」

「なんの可能性があるというのだ」

「そりゃあ勿論結婚の」

「……誰と誰のだ」

「私と、ゼルの」

「するわけないだろう!」


 ゼルが全力でツッコんできたところで、勢いに乗った私は口を開いた。


「で、趣味は?」

「……は?」

「趣味です! 休日に何してるかとか! インドアかアウトドアかとか、そういうの!」

「なぜ聞く? なぜ今聞く!?」


 魔王の出した黒い炎が一瞬だけしゅっと萎む。


 婚活パーティーお決まりの質問を叩き込んでいくスタイル。これが社会で鍛えられたコミュ力というやつだ。


「じゃあ好きな食べ物はなんですか!? 辛いのとかは? 甘党ですか? 酒もいける口ですか!?」

「待て! いや待てと言っている! 真剣勝負の最中の会話ではないだろうそれは!!」

「いえ、価値観のすり合わせって大事なんで」

「だからさっきから何の前提で話している!?」


 ゼルは混乱しながらも、ちゃんと攻撃はしてくるあたり、さすがラスボスだ。黒い炎と槍が飛んでくるのを私は紙一重で避けた。


 その間にも、口は止めない。


「で、休日何してるんですか? 人間界攻めとか? 結局インドア派? 読書とか?」

「っ、世界征服の準備と魔力供給だ!」

「あー、仕事人間タイプだ。ワーカホリックですね。休みましょう、一緒に。温泉とか行きません?」

「誰が勇者と温泉に行くか!」


 そんな調子で、私はゼルと斬り結びながら、楽しく婚活トークを続けた。



 二日目の朝。

 外に置き去りにされている仲間達は、壁越しに私達の戦いをずっと見守っていた。

 何を話しているかは聞こえないけれど、どうやら「頑張れ!」と応援してくれているらしい。


 ――まさか私が口説き落としている最中だとは知らずに。

 

 私はまだ元気だった。

 なぜなら、私は社会人だ。

 終電逃して、オールでカラオケからの始発出勤を何度かやってきた女だ。三日三晩の斬り合いと婚活トークなんて、イベントとしてはむしろ盛り上がる。


 一方、ゼルはといえば。


「……なぜだ……なぜ、これほど……疲れる……」


 肩で息をしていた。

 魔力はまだ尽きていないらしい。攻撃は鋭い。しかし、明らかに集中力が落ちている。


 斬り合いの途中で、


「お前は……なぜそんなに元気なのだ……」


 と真顔で聞かれた。


「婚活パーティ三件はしごした翌日も八時間労働した女だからです」

「何の自慢だそれは……!」


 そろそろ畳みかけどきかな、と思ったところで、私は剣をくるりと回して指先をゼルに向けた。


「ゼル」

「……なんだ」


 正式名称で呼べと律儀に毎回訂正してきたのに、疲れているのか諦めているのか、もはやその気力もないらしい。


「私と勝負しません?」

「今しているだろうが!」

「いえ、条件付きで」


 私はニヤリと笑った。


「私が勝ったらあなたは私のもの。あなたが勝ったら、私があなたのお嫁さんになる」


 ゼルが固まった。と、思ったら。


「……どっちも一緒だ!」

「バレたか」


 ツッコまれた。

 薄々感じていたけどゼル、ツッコミ属性だった。ポイント高い。


「ふざけるな。そもそも、なぜ我がその勝負を受ける前提なのだ!」

「だって受けたほうが得ですよ?」

「どこがだ!?」

「私はノーリスク!」

「どっちに転んでも我の敗北だろうが!」


 ゼルは額を押さえ、ふぅ、と深く息を吐いた。

 長い睫毛が影を落とす横顔が、やっぱりやたら色っぽい。

 その顔をまじまじ見ていると、ゼルがじろりとこちらを睨んできた。


「……なぜ、そんなに我を見つめる」

「いや、イケメンだなって」

「……」


 ゼルの耳が、ほんの少しだけ赤くなった気がした。

 気のせいかもしれない。気のせいじゃないといい。


「とにかく。消耗しているのはお前も同じはず――」

「ゼル」

「なんだ」

「私、けっこう本気で、あなた落とす気なんで」

「落とすな! 我は魔王だぞ!?」

「いいじゃないですか。魔王と結婚。肩書きとして強すぎる。最高です」


 履歴書の家族欄に『配偶者:魔王』とか書けるんだよ? 激レア。


「だから……なぜすぐ結婚単位で物事を……」


 ゼルは完全に疲弊した顔で天井を仰いだ。

 その弱った姿も私的にはポイントが高い。



 三日三晩続いた攻防は、案外あっけなく終わった。


 最後の一合。

 お互いの剣がぶつかり合い、ぎり、と押し合う。

 魔力と魔力が拮抗する中、私はにっこり笑った。


「ちなみに、浮気は許さないタイプなんで」

「するかそんなもの……!」

「ですよね、ゼルって好きになったら一途っぽいし」


 そう言って、私は足を払った。

 バランスを崩したゼルの胸元に、私の剣がぴたりと突きつけられる。


 ゼルは床に膝をつき、しばらく黙っていた。

 やがて、小さく笑う。


「……参った」

「私の勝ちですね」

「……ああ。好きにしろ」


 それは、敗北宣言であり、降伏であり。

 ――魔王ゼルのプロポーズのようにも、私には聞こえた。



 結界が解けたのか、


「ヤヨイ!!」


 王子達が名前を叫びながら駆け込んでくる。

 彼らの視線が、床に膝をついたゼルと、その胸元に剣を当てている私を見て、固まる。


「……これから魔王にトドメを刺すのか?」


 王子が、おそるおそる口にする。

 私は剣をおろし、首をかしげた。


「うーん……いや、そっち系じゃなくて」

「?」

「口説き落とした感じです」

「は???」


 仲間達の「え??」「は?」「どういうこと?」のハモりが響く中、ゼルがふらふらと立ち上がった。


 見るからに疲れている。

 魔力より精神が削られたタイプの疲労だ。そういうの、私現代日本でも見てたからよく分かる。


「……人間ども。お前たちの我を討つ試みは失敗に終わった」

「いや、成功ですよね!? 私の婚活的には大成功ですよね!?」

「お前は少し黙れ!」


 ゼルは私の腰をひょいと抱き寄せた。


「ちょ、ちょっと、いきなり距離が近い! ゼルって意外と積極的――」

「……勘違いするな。お前がふらふらしているから支えているだけだ」


 低い声でぼやきながら、しかしその腕は意外と優しい。そして安定感がある。筋肉、いいな……。


「……どこへ行くつもりだ、魔王!」


 王子が剣を構える。

 ゼルはちらりとそちらを見やった。


「どこって、魔界に戻る」

「ヤヨイをどうするつもりだ!」

「連れて帰るに決まっているだろう」

「ひぇ」


 ストレートお持ち帰り宣言。婚活パーティでもここまでの直球は聞いたことがない。

 王子が動揺してこちらを見る。


「ヤヨイ……それでいいのか?」

「え? はい。寿退社的な?」

「軽いな!」


 だって、魔王だよ? 年収とか福利厚生とか住居とか、絶対安定してるでしょ。国一個持ってるようなもんだよね?


「心配しないでください。私、幸せになります!」

「完全に結婚報告のテンションなんだが!?」


 そんな騒ぎをよそに、ゼルは片手を上げた。

 足元に魔法陣が浮かび上がる。


「……人間ども。これ以上の戦いは不要だ。我はこの世界への侵攻を当面やめる」

「当面なんですか?」

「……正直、今はお前に振り回されるだけで手一杯だ」

「え、じゃあこれからもガンガン振り回しますね!  

 存分にツッコんでください!」

「遠慮という概念を覚えろ!」


 ゼルが小さくため息をつく。


 光が私達を包み、視界が白く染まる。

 最後に見えたのは、ぽかんと口を開けた王子達と、なぜかちょっと泣きそうな顔の弓使いだった。


 ……あ、そうだ。この子、魔王系イケメンがタイプだったわ………!

 しかし婚活とは戦いだからね。ごめんけどゼルは諦めて!

 私は唇を引き結んで、志半ばの戦友を見るような目になった。


 みんな、今までありがとう。私は先に幸せになります!



 転移は意外と時間がかかるらしく、白い光の中をゆっくり漂っているような感覚だ。

 その途中、ふと上を向くと、ゼルがこちらを見ていた。


「……なんです?」

「いや。まだ実感が湧かないだけだ」

「何がです?」

「勇者を連れ帰っている自分にな」


 ゼルはおそろしく正直な男だ。

 そこがまた、いい。


「安心してください。すぐ慣れますよ。おはようからおやすみまで、常に永遠に隣に私がいる生活」

「怖いことをさらっと言うな!」

「夜はちゃんと寝て、三食ちゃんと食べて、たまに人間界デートとか行きましょうね」

「誰が行くか」

「魔界のブラック企業体質、ホワイトにしてみせますからね」

「我の何を見てそう判断した」

「働き方が昭和臭かったんで」


 世界征服と魔物管理、残業だらけっぽいもんね。労基署案件だよ。


「そういえば、ゼル以外の魔物って全部獣っぽかったですよね。なんでゼルだけ人間っぽいんですか?」

「当然だ。我ほどの魔力がなければ人の形は保てん。魔族はそのほとんどが、人間界では姿が崩れるからな。故に他の人型は連れてきておらん」

「なるほど……だからゼルだけイケメンだったんですね」

「そこは関係ないだろう!」


 ゼルはしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。


「……勘違いするなよ、人間」

「はい?」

「我は、色々と……面倒になっただけだ。好きになったわけではない」


 ふいっと視線をそらす横顔は、どう見ても照れている。赤い瞳が、さっきより柔らかく見えた。

 私はくすりと笑う。


「大丈夫ですよ」

「なにがだ」

「そのうち絶対、好きにさせてみせるんで。あと私の名前も呼ばせます!」


 ゼルの肩が、びくりと震えた。


「……お前のその前向きさが、一番恐ろしい」

「メンタルには自信があるんですよね!」


 そう言って笑う私に、ゼルは観念したように目を閉じた。

 

 ――世界の行く末? 魔界と人間界の関係?

 そんなの、あとから何とでもなる。

 まずは、ゼルとの共同生活と、恋愛の攻略だ。


 私の次の戦場は、どうやら魔界らしい。



婚活パーティーのフリータイムが本当にトラウマだった……。まだあるんですかね?婚活パーティーって。

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― 新着の感想 ―
婚活頑張っている方を見ると凄いな、勇者‥と感じ入りますわ。 下に見ているのではなくそういうエネルギーがなかったわねえ、わたくし、と。 自分でお金を稼ぐ手段を得て、好きな本を読んで、という心に傷がつかな…
久しぶりにツンデレを讃える踊りを踊りたくなる案件…ありがとう魔王!!そして婚活が盛んな魔族、すり合わせが大変そう…!! まぁ幸せになれそうなのでガンバレ…!
面白すぎですw その後が気になりすぎます!!
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