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クロクマ少年~あいとゆうきの物語~なかみなんてない!  作者: 志麻友紀
クロクマ少年~あいとゆうきの物語~なかみなんてない!
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第4話 月夜の秘め事 その2

 続けてグラムファフナーもバスを使い、続きの寝室に戻れば、寝台の上、敷布もかけないでテティが丸まって寝ていた。

 くまの姿ではもちろんなく。月色の長い髪に、今は長いまつげをふせて隠れている緑葉の瞳の。貸してやったグラムファフナーの黒いガウンはぶかぶかで細い肩が片方見えている。


「風邪を引くぞ」


 言いながら、テティの細い身体の横に横たわり、敷布をかけて抱きしめて、目を閉じたグラムだった。






 翌日、グラムファフナーが目を覚ますと、横には抱きしめて寝た姿はなかった。


 朝食を共にいかがですか?とヘンリックからの誘いがあった。今まではカウフマン大公という怖い存在がいたために、縮こまっていた小さな王は少しずつ自分の意思を示し、のびのびとふるまうようになった。それもきっかけは「自分の言いたいことを言わなきゃダメだ!」とさけんだテティのおかげだろう。


 朝食は緑の庭にテーブルを出して、小さな王様の横には、仲間となった小さな黒いクマ……の姿に戻ったテティの姿があった。

 隣の席に座れば、バターに蜂蜜をたっぷりぬった、パンを手にしたテティはこちらを見上げて、小さな声で言う。


「昨日の事は内緒だよ」


 『もちろんだ』とグラムファフナーは無言でうなずいた。





 そして、その夜から。


 グラムファフナーの私室。ノックの音がして「どうぞ」と言えば、扉が薄くひらいてするりと黒い小さな身体が入って来る。とことこと椅子に座り本を読むエルフの長身のそばにやってきたテティは「今夜もお世話になります」と律儀に言う。


「先に風呂を使うといい」


 グラムファフナーも口にするのは同じ言葉なのだが、それを聞いたとたん「お風呂!」とクロクマの毛皮を脱ぎ捨てて、あらわになる白い若木のような少年の裸体。月色の髪をなびかせて、浴室へと飛びこんでいく。


「…………」


 脱いだらガウンを着ろという言いつけをいつも守らない。子供が裸で動き回るのが気持ちいいのはわかる。いや、細いがすらりと伸びた背丈は五ペース半(百六十五センチ)より、少し大きい。人間なら歳の頃は十七歳ぐらいか?とっくに元服している年齢だから、子供とは言い切れない。


 それより毎度、素っ裸になるのがわかっていて、本を読んでいるフリで見てしまう自分はなんなんだ?とグラムファフナーの眉間にしわがよる。しかし三ペース(約九十センチ)の小さなクマの“皮”の中に、どこをどう圧縮してあのすらりと細い少女とみまごう少年の身体がはいっているか不思議ではある。


 長い月色の髪だけで、この中に満杯になるのではないか?グラムファフナーは東方渡りの絨毯の上に脱ぎ捨てられた、クロクマの小さな毛皮を拾い上げる。ぽんぽんとほこりを払ってやり、畳んでいつもの場所となった小卓の上に置いてやる。


「お風呂気持ちよかった~」


 行く時は素っ裸だったが、出て来たときはガウンをまとっている。初日にグラムファフナーが貸した自分の黒いガウンではない。テティ用に用意した白いレースのものだ。


「じゃあ、おやすみなさい~」

「ああ」


 ほこほこ薔薇のしゃぼんの香りをさせながら、テティはグラムファフナーのベッドに当然のように向かう。


「…………」


 それを見送り、グラムファフナーも浴室に向かうのだった。




 風呂から出て黒いガウン姿。グラムファフナーは己の寝台にむかった。自分の寝台で寝るのは当然だが、この頃は先客がいる。


「ん……」

「…………」


 横たわると背を向けて寝ていた身体がコロリと転がってきて、すり寄ってくる。それをグラムファフナーは腕の中に入れてやりながら。


「テティ」

「ん?」


 もうすっかり半分夢の中だろう。返事はふわふわと寝ぼけた声だ。


「お前、今年で幾つになる?」

「ん……三歳」

「…………」


 その言葉にグラムファフナーの長身はぴきりと固まった。腕の中の子供は知らずに、その広い胸にすりすりと月色の頭をすりつける。


「三歳か?」

「ん」

「そうか、三歳か」

「しつこいって、テティは三歳なの」

「三歳、三歳……」


 なんか三歳ってうるさいなぁ~とテティは夢の中思う。

 ダンダルフに知らない人に会って歳を聞かれたら、三歳って答えなさいと言われたから言っただけだ。


 ちなみにテティが生まれたのは、勇者が魔王を倒してすぐのことだ。

 かれこれ百年近くはたっている。






 翌朝、グラムファフナーが目覚めると、ベッドの横のぬくもりはなくなっていた。テティは朝早く目覚めて、クロクマの毛皮を着て己の部屋に戻るのだ。


 そして、自分のベッドで二度寝を決め込む。天蓋のカーテンを開けて「おはようございます」と声をかける世話係のメイドのイルゼは、自分の主人が夜に抜け出て、この国の宰相と共寝してるなんて知らないだろう。


 共寝とは文字通り、一緒の寝台ですやすや眠る“だけ”なのだが。


「……三歳か……」


 寝台から身を起こしたグラムファフナーはもう一度つぶやいたのだった。





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