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仲直りのスノーボール その2




 翌朝。

 まっ白に染まった白の中庭の異変に、王宮詰めの騎士達が飛び出したのはいうまでもない。


 王宮正門から広がる表の庭に、裏庭は変わりはない。

 ただ中庭だけが純白の世界となっていた。

 まっ白な雪。


「なんだこれは、テティはどこだ!?」


 マクシが声をあげる。なにか妙なことが起これば、昔はあの大賢者だが、今の王宮で真っ先にあがるのはあのクマの名前だ。


「僕だけじゃないよ~。グラムにも手伝ってもらったもん~」


 現れたテティはふわふわのまっ白な毛皮がついたフード付きのケープに、ミトン型の毛糸の手袋の可愛らしい姿だ。

 朝、グラムファフナーに雷雲を呼び寄せてもらって、テティの風の魔法で雪をこの中庭のみに降らせた。


「これより御前試合を始める」


 そのグラムファフナーが宣言する。静かな声であったが、低いよく通る声は中庭に響いた。テティとグラムファフナーの間には、ヘンリックもまた毛皮のマントをまとった姿で立っていた。

 御前試合との言葉に、一対一の槍試合か? 剣か? 格闘か? と双方殺気だった騎士団だったが、告げられた内容に全員呆けた顔となった。


 それは雪合戦。


 雪を投げ合うのみで、殴るのも蹴るのも、まして取っ組み合いのケンカも禁止。

 雪玉に石など危ないものを潜ませるのも禁止。

 ただし、罵詈雑言の応酬はいくらでも許す……という、なんとも奇妙なものだった。


 そんな子供の遊び……と戸惑う双方の騎士達だったが、テティの「よーい! どぉん!」の声が掛かれば、小さな王様がご臨席の試合なのだ。みんなしぶしぶ雪玉を作り投げ始めた。


 そのうち、いずれもみんな勝負事となれば負けず嫌いの者達ばかりだ。真剣に相手をねらって雪玉を投げ、それが顔面など直撃すれば「この野郎!」なんて言葉は自然に飛び出してくる。


「この犬野郎が!」

「犬じゃねぇ狼だって言っているだろうが! この丸耳が!」

「犬も狼も似たようなもんだろう!」

「違う! だったらテメェ等だって、尻尾のねぇ猿みたいなもんじゃないか!」

「それこそ違う! 猿と人間を一緒にするな!」

「だったら、犬と狼の区別ぐらいつけやがれ!」


 そのうち雪玉を投げ合いながら「バカ」だの「マヌケ」だの子供のケンカみたいな有様となる。

 もともと、なにが勝ち負けなのか決めていない雪合戦だ。罵り言葉のタネもつきて、お互い肩で息をつく騎士達に、グラムファフナーが試合の終わりを告げる。


 そして、陛下からのささやかなねぎらいがあると、雪の広場の真ん中に王宮の使用人達の手によって運ばれたのは、大きなテーブル。

 そこには温かな蜂蜜のエール。これもみんな子供の頃から馴染んだ冬の味だ。雪で冷えた身体に誘われるように、みな湯気の立つ飲み物に手を伸ばす。

 それから。


「ドンドン作るから、ドンドン食べてね~」


 もう一つのテーブルでは、テティが魔法のお鍋から次々と揚がる丸いものをお皿に移して、それに粉砂糖をかけていく。粉を練って揚げて砂糖をまぶした雪玉の菓子だ。


 「「なつかしいな」」とあちこちで声があがったことに、獣人も人間達も目を見開く。両者ともにこれが子供の頃の思い出の味であることに変わりはなかったからだ。

 獣人でも人間の家庭でも同じく、みんな冬には雪合戦をして、家に帰れば雪玉と温かな蜂蜜の飲み物が待っていた。


 大人達がそんな変わらない子供時代を思い出して居た頃、本当の子供の王様といまだ子供の心を持つ小さなクマは「おいしいね」と雪玉と蜂蜜のエールを楽しんだのだった。

 その後、二つの騎士団は廊下ですれ違うと挨拶ぐらいは交わし合うようになったという。




   END





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