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クロクマ少年~あいとゆうきの物語~なかみなんてない!  作者: 志麻友紀
クロクマ少年~あいとゆうきの物語~なかみなんてない!
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最終話 みんなずっと一緒だよ




 空中に飛び出たテティは、グラムファフナーの腕に横抱きにされて、地上に着地した。ふわりと赤いドレスのすそがたなびく。


 地面に降りて、テティは「おいで!」と両手を銀の森の上空へと伸ばした。

 テティの手に吸い込まれるように飛びこんできたのは、真っ黒い闇。それをさらに両手でぎゅうと握りしめてあめ玉ぐらいの大きさにして、そして。


 テティはそれをこくりと呑み込んだ。


「テティ!」


 さすがにグラムファフナーが驚くが、テティはにっこり笑って「大丈夫」と言う。


「銀の森においておいたら、毎日おまじない出来ないでしょ?」


 あれはテティのキラキラ輝く気持ちを穴に落としていたのだ。


「こうしておけば闇も僕と一緒で寂しくない。グラムやみんなと一緒にいれば、僕は毎日楽しいし、嬉しいし、幸せだから……あれ……?」


 ぐらりと身体がふらつく。慣れないかかとの高い靴のせいかな? と思ったけど、グラムに「魔力切れだ」と言われて、あのときの目の回るのと同じだと気づく。

 そりゃ、グラムファフナー達を森の外に飛ばして、銀の森に結界を張って閉じこもった上に、今度は闇を小さく圧縮して……と魔力の使いすぎだ。


 ひょいとグラムファフナーにまた横抱きにされて、彼が向かった先はお城から飛んできたテティの家。


「しばらく時間がかかる。いや、朝までか……馬だけ置いて行ってくれ」


 マクシにそう告げてぱたりと扉が閉まった。


「月色の髪の姫はテティだったのか……」

「へ、陛下?」


 その声にマクシはギギギ……と音がしそうなぎこちなさで振り返れば、ヘンリックがぽろぽろと涙をこぼしていた。


「二人が助かって嬉しい……けど、けど……」


 「僕、失恋しちゃった!」と泣きつくヘンリックを、マクシはぽんぽんと背中をたたいて慰めるしかなかった。




   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇




「ん……」


 グラムファフナーの腕に抱かれて、何度も口付けを交わしながら、テティはふわりと寝台に横たえられた。

 慣れ親しんだ、自分の家の寝台。しばらく寝てなかったけれど、上を見上げた風景にあることに気づく。


「ちょ、ちょっと待って……」

「待てない。お前に魔力を供給しないと」

「そ、それはそうなんだけど……あん…っ!」


 首筋にちくりと甘い痛みが走る。気がつけば赤いドレスの上半身をまた脱がされていた。


「本当にもう手が早いんだから!」

「逆に私がヘタクソでいいのか?」

「そ、そりゃグラムはなんでも出来るだろうけど、あ、そ、そうじゃなくて……んんっ!」


 胸に唇がすべるのに声があがる。彼の形のよい頭を抱きしめてのけぞって。そうして見えてしまった光景に思わず叫ぶ。


「み、みんな、見ちゃダメ!」

「ん?」


 テティのさけびにグラムがその胸から顔をあげれば、テティのマギバックから飛んだ布きれがすべてのぬいぐるみの顔にしゅるりと巻き付いて、目隠しをしていた。

 そう、ベッドを囲むテティがクロクマのときの大きさぐらいのすべてのぬいぐるみ達に。


「こ、これでよし……あ、れ……」


 上半身を起こしていたテティの身体の力がくったりぬけて、ぱふっと寝台に倒れ込む。それをグラムが優しく抱きしめる。


「魔力切れなのに、魔法を使うからだ」

「だって、みんな見てるの恥ずかしい……」

「私の前では素っ裸でも平気だったクセに」

「グラムがイケナイことするようになったから……ん、んんっ!」

 それから何回も何回も確認しあうように口づけ会って。

 そして……。

 翌朝、お城に帰る予定が昼過ぎになったのはいうまでもない。




   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇




 お城に帰ったら「テティ!」と待ち構えていたヘンリックに抱きつかれて、散々泣かれた。「もう、勝手にどこかに行ったりしない」と約束させられたけど、さすがに二度目はないと思う。

 それからヘンリックにじっと見られて「テティは、僕の友達、最初の仲間だからね!」と笑顔で言う。なぜかグラムファフナーを挑戦するように見つめながら。


 テティはなぜそんな当たり前のこと言うのだろう? ともこもこクマの姿でこてんと首をかしげたけれど、グラムファフナーもまた微笑んでいるのだけど、なぜか目は笑っていない顔で「もちろん、テティは陛下の“友人”で“仲間”ですとも」と微笑んだ。


 “友人”“仲間”という言葉にやけに力が入っているような気がした。見ていたマクシが「旦那の余裕って奴か? それとも大人げないというべきか」なんて呆れていたけど、なにを言っているのかやっぱりわからなかった。


 ダンダルフが森の郊外に飛ばした、テティの家は城の裏庭に戻した。魔法のオーブンがないとクッキーやケーキに、他のお料理がやっぱり美味しく作れないからだ。

 だけど、家を呼ぶときは必ずグラムファフナーに言うようにと繰り返し言い聞かせられた。ちゃんと前に大人に知らせるように言われたよね? と首をかしげながら、テティが「呼んでもいい?」と言ったら、もこもこクマの頭とか身体をなでられて魔力をはかられて「呼んでもいい」とうなづかれた。


 呼んだあともしきりに「おかしなところはないか?」と聞かれた。「グラム、なんか過保護」と言えば。


「恋人を心配して当たり前だろう?」

「恋人? 僕、グラムの恋人なの?」


 テティはもこもこのお手々で、これももこもこの頬を包みこんで「きゃあ」と言う。しかしグラムファフナーはなぜか眉間に皺をよせて、その小さなクマを抱きあげて自分の膝に向かい合わせに座らせる。そして、見つめ合う。


「テティ。その自覚がなくて、どうしてお前は私と抱きあったんだ?」

「え? グラムが世界で一番大好きだから」


 緑葉の瞳で真っ直ぐ見つめての素直な言葉に、グラムファフナーは「まいった」とひと言。その小さな身体を抱きしめて。


「お互いが一番大好きな者同士ならば、恋人だろう?」

「うん、そうだね」

「いや、恋人ではたりないな。テティ、私と結婚するか?」

「うん、する!」


 こくりと素直にうなずいたテティに、グラムファフナーが真剣な表情でその顔を寄せたところで。


「……執務室でなにやってるんだ? この浮かれ宰相」


 とあきれたマクシの声。


「だいたい、その絵面だと氷の美貌の宰相殿が、クマのぬいぐ……じゃねぇ……」


 テティが空中から星のロッドを取り出したのに、マクシが言い直す。


「かわいいクマちゃんとうふふ、あははと遊んでいるようにしか見えねぇ……って、事実そうなのか?」


 そこまでつぶやいたところで、グラムファフナーの膝から飛び降りたテティが、星のロッドをぶんっとマクシに振り下ろしたので「あぶねぇ!」とさすがの素早さで避けた。


「いきなりぶっ叩こうとするな! この凶悪クマ!」

「ぬいぐるみじゃない!」

「言ってねぇだろう!」


 星のロッドを振りまわすテティから逃げるマクシに、グラムファフナーはくすりと笑う。

 そして、椅子から立ち上がり「テティ……」と可愛いクマをなだめるためにその腕を伸ばした。






   END






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