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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【傘差し女】

「なぁなぁ、これ知ってるか?」


 短い休み時間。俺は少しでも睡眠に時間を費やしたいのにクラスメートのこいつはわざわざ俺を起こしてまで見せたいものがあるらしい。正直、「うるさい」と突っぱねたいが………クラスメート兼友人だから許すとしよう。


「んん、なに?」


「これだよ!これ!最近ウワサの【傘差し女】だよ!」


 俺の目の前にスマホの画面を向けてきた。


「凄く美人そうだな」


 わざわざ寝てる俺を起こしてまで見せてきたのだ。何かしらの感想を求めてるのだろうと思い率直な感想を述べた。


「お前、どこ見てんだよ?」


「どこって……お前が撮った盗撮画像だよ」


 人を起こしておいて、そんな風に言われる筋合いはない。まぁ、俺も寝起きだから着眼点がズレてるかもしれない。


「ほら、よく見ろ!」


「んーーー?やっぱり、美人そうな人だな」


 目を凝らして考えたが、やはり感想は変わらなかった。その画像は白いワンピースを着た長い黒髪の女性が写っている。離れた場所から撮影されていて顔はよく見えないが、やっぱり美人そうだ。


「あのな、ここだよ、ここ!」


 友人は画像を拡大し女性の横を指差した。そこには傘が差してある。女性の横には誰も居ない。なら、誰が傘を差しているのか。その答えは簡単だが、それは異様な光景でもあった。


「この人、なんで自分の隣に傘差してんの?」


 そう、傘を差していたのは女性自身だった。誰かと相合い傘なのか……それとも子供とかが濡れないようになのかとも思ったが、画像は離れた場所から撮影された事もあり足元もハッキリ写っている。だから、子供が居ない事も確認できた。


「ようやく気づいたか。そこが謎なんだよ」


 謎なのか……そんな謎をなんで俺に見せるんだ。俺に謎解きを望んでいるのか。残念だが、俺は何かに秀でた能力はない。これから先に開花する事を他人事のように願ってはいるが……


「んで、これを見せて何がしたいんだ?」


「何がしたいって………最近話題だからよ」


 ほぅほぅ、こいつは謎解きではなく、この話で盛り上がりたかった訳だ。まぁいいだろう。


「最近話題って言ってたけど、具体的に何が話題になってんだよ?」


「いわゆる都市伝説ってヤツだよ!」


 都市伝説ねぇ………昔からよくあるよなぁ。口裂け女とかメリーさんとか、身長2メートルを超える女性とか、如月だったかな、そんな駅だったりとか。


「どんな内容なんだよ?」


「それがな、雨の日に現れるらしいんだ!」


「……………………」


 俺は黙って都市伝説の内容を聞く。だが、友人が語ったのは雨の日に現れるというだけの内容だった。まだ続きがあると思った俺の沈黙で変な空気になってしまった。


「………それだけか!?」


「いやぁ、俺もチョロっと聞いただけだからさ」


 こいつはなに照れてるんだ。仕方ない、自分で調べるとしよう。俺は自分のスマホを手に取り検索にかける。


「ええと……【傘差し女】、雨の日に現れ誰も居ない隣に傘を差し徘徊する女性………か。お前の情報と対して変わらないな」


「だなぁ」


 あっという間に【傘差し女】の情報に関しては友人と同レベルに追いついた。どうせなら、その先の情報が知りたくなった俺は多彩な情報が飛び交うあの有名な掲示板にちゃんねるを合わせると案の定、活発な情報交換が行われていた。それを見るにその界隈ではタイムリーな都市伝説らしい。最新の掲示板はほぼネタ的な会話ばかりだから、一番古い掲示板を見てみる。


「えっと、【傘差し女】は雨の日に現れ誰も居ない隣に傘を差し徘徊する女性………」


 ここまでは先程も見た。知りたいのはその先だ。さすが有名なサイト。その先の情報が記載されていた。俺は無意識にそれを音読し始めていた。


 [少年が歩いていると反対側の歩道に居る女性に目を引かれた。女性は白いワンピースを着ていて長い黒髪、遠目からだと美人そうな雰囲気がある。だが、少年の目を引いたのはそこではない。その女性は曇り空とはいえ雨も降ってないのに傘を差している。それだけではない。その差している傘は自分の方ではなく、何故か誰も居ない隣に差しているからだ。少年は不思議に思いながら歩いていると雨が降ってきた。傘を持ってなかった少年は足を早める。少しすると小雨が止み少年は空を見上げるとそこには空ではなく傘の裏面が見えた。小雨は止んだのではなく少年が傘の下に入っただけだった。傘を持ってない少年はふと隣を見ると先程の女性が居た。]


「らしいな」


 読み終えた俺はなんとも言えないモヤモヤした感覚だった。この後、その少年はどうなったんだろう。


「なぁ、少年はどうなったんだ?」


 俺が知るわけない。というか、俺の方が知りたい。


「他の人のレスを読んでみよう」


 俺はいつの間にか、この【傘差し女】の情報を持ってきた友人より前のめりになりスマホに目を向ける。掲示板には俺と同様の疑問がいくつもあったが、匿名性が高いという事もあり掲示板では次第に憶測を事実として認識し始めていた。更に進むとネタ扱いされ知りたい情報はほぼ無くなった。


「いい加減な情報ばかりだな」


 友人の発言に同意だ。他に情報を得られそうなのは………無い頭で考える。少し考えると他の情報源に行き当たった。


「そうだ!盗撮したお前は何か知らないのかよ?」


「おいおい、あれは盗撮じゃなくて、テキトーに探した画像を見せただけだよ」


 なんだよ。目撃者の証言が聞けると思ったらネットの情報を鵜呑みにする典型的な現代人か………それは俺もか。いや待てよ、テキトーに探したって事はネットの画像検索で何か少しでも情報があるかも。俺は気づいた時には【傘差し女】の画像を探していた。


「なんだ、こういう話好きだったのかよ?」


 うるさい。お前が中途半端な情報を見せるからだろ。友人の言葉を軽くスルーし画像検索の結果に目を向けると思いの外あっさりと見つかった…………あっさりとというか大量にあった。友人の見つけた画像を探すのが難しい程、そりゃあもう大量に。


「お前、よくその画像見つけられたな」


「まぁな!」


 こいつはなに自慢気にしてんだよ。俺の言葉には「よくこんなくだらない画像の中からそんなオーソドックスな画像を見つけられたな」という意味が含まれているんだぞ。実際、目に飛び込んで来る画像は明らかにニセモノ……恐らくブームに敏感な陽キャ達が承認欲求剥き出しで撮った画像や芸能界の生き残り戦略の話題作り。そして、コスプレイヤー。後は………ちょっとセクシー系の画像。それとその系統に近いイラスト。なんでもかんでも性欲に繋げられる世の中……ある意味、こっちの方が怖い。


「へへへ♪」


 友人はニヤけながら肘で俺を小突く。俺はムッツリを演じていたかったが、友人同様にニヤけながら小突き返す。


 さて、俺の頭で思いつく情報収集の手段は尽きた。そして、休み時間も尽きた。


 昼休み、俺と友人は消化不良気味な【傘差し女】の話をしていた。


「結局、【傘差し女】ってなんなんだろうな?」


 知らん。俺は全知全能じゃないんだ。軽く疑問を投げかけられても答えなんて出ない。某掲示板や画像検索、文字と画像で得られた情報は微々たるものだ。これ以上の情報は…………いや、あった。動画だ。ある意味、承認欲求の最上級とも言える動画サイトがあるではないか。もうこれ以上はない。これ以上、俺の頭で思いつく情報収集先は絶対に思いつかない。さぁ調べよう。


「なにしてんだ?」


 良さそうな動画を探していると友人は俺のスマホを覗き込む。その友人を気にも留めず探す。とりあえず、再生回数の多い動画に的を絞る。最初に気になった動画は[傘差し女の正体わかりました!]と銘打たれた動画。結論から言うと、その動画は憶測を前提とした内容だった。内容は雨の日、母親とその子供が相合い傘で歩いていると車の事故に巻き込まれ子供を守った母親だけが犠牲になってしまう。その後、幽霊になった母親は自分の子供を探しているという内容だった。


「これが傘差し女の正体なのか?」


「さぁな」


 友人の問いに素っ気なく返す。俺だって答えを求める側だから仕方ない。それに俺はその考察にはあまり納得していない。なんていうか、ありきたりというか。動画には決め手と言わんばかりに雨の日の親子の自動車事故の新聞記事が紹介されていた。その記事が偽物とは言わないが、それが正体とは思えなかった。


 次に再生した動画は動物の覆面を被った人物が面白おかしく【傘差し女】の都市伝説を紹介していた。この動画はほぼ収穫ゼロ。それより、俺が気になったのはその動画投稿者が時より挟む感想ついでの下ネタだ。正直、顔を隠してこういう発言する人はあまり好きになれない。


 そして、次の動画。この動画の投稿者は都市伝説に特化した動画をよく投稿している。その動画を見て最初に気になったのは投稿者の喋り方だった。大体の人は「〜と思いまして」という言葉だが、この人が言うと「〜と思いましてぃぇぇ」と語尾が伸び独特な喋り方だ。だが、その後はそれが気にならないくらい喋りに迷いがなく引き込まれた。そして、その動画には【傘差し女】が世に広まったキッカケとされる目撃者の友人のスマホに残されたメッセージアプリのやり取りが画像付きで紹介されていた。その内容はこうだ。


A『スマホデビュー!』 16:14


B『俺達わざわざ別々に帰る必要あんのか?』 16:14 既読


A『はやっ!てか、必要大アリだよ!隣にいるやつにメッセージ送ったら意味ないだろ。せっかくのスマホなんだぜ』 16:19


B『早くねぇよ。ふつう』 16:20 既読


B『それにスマホを楽しみたいならゲームとかやりゃいいじゃん』 16:20 既読


A『おい、連投すんな!焦るわ』 16:23


B『こういうのも慣れないとな』 16:23 既読


 [スタンプ] 16:23 既読

 [スタンプ] 16:24 既読


A『なんだ、その変なキャラ?どうやんの?』 16:27


B『自分で考えな(´ε` )』 16:27 既読


A『なんだよ。その顔文字は?って、顔文字って書いたら出てきた(*´ω`*)』 16:31


B『一つ成長したな。ま、他に簡単な方法もあるけど、それも自分で勉強しな』 16:32 既読


A『なぁ、お前のトコ、雨降ってる?』 16:34


B『いや。降ってないな。曇ってはいるけど。なんで?』 16:34 既読


A『なんかよ、反対の歩道を歩いてる女の人が傘差して歩いてんだよ』 16:36


B『日傘とかじゃねぇの?』 16:37 既読


A『俺もそう思ったけど差し方も変なんだよ』 16:39


B『どう変なんだよ?』 16:39 既読


A『うーん、自分の隣に傘差してんだよ』 16:42


B『相合い傘とか?』 16:43 既読


A『いや。隣には誰も居ないんだよ』 16:46


B『ちょっとヤバい人なんじゃね?』 16:47 既読


A『かもな!でも、美人そうな人だったぜ♪』 16:50


B『美人そうって……ちゃんと見てねぇのかよ』 16:50 既読


A『遠くからだったからよ。それにジロジロ見たら、なんか失礼だろ』 16:54


B『それだったら俺らの会話も失礼なんじゃね』 16:54 既読


A『それはお前だけだろ。俺は美人そうって言っただけだし』 16:58


B『そんな事より雨降ってきたわ』 16:59 既読


A『サイアク。こっちも。傘持ってないのに』 17:01


B『俺は傘持ってるから問題ないぜ』 17:02 既読


B『残念だったな。俺と帰ってれば濡れずにすんだのに』 17:02 既読


A『小雨だし問題ナシ!てか、男二人で相合い傘はキツいわ』 17:05


B『じゃあ、さっきのヤバい美人そうな人の傘に入れてもらえ(*´艸`*)』 17:06 既読


A『なんか、お前の言った通りになった』 17:15


B『は?なんの話?』 17:17 既読


A『さっきの美人そうな人がいま隣に居て傘差してくれてる』 17:19


B『お!それなら、連絡先とか聞いておけ!』 17:20 既読


B『まともな人だったら今度紹介よろしく!美人は大歓迎(≧∀≦)』 17:21 既読


A『のほら』 17:25


B『は?なんかの呪文か?』 17:26 既読


B『シカトすんな!』 17:45 既読


B『既読スルーって聞いた事あんだろ?一応、こっちにはメッセージを読んだ事わかってんだぜ』 18:20 既読


B『まさか!お前、美人そうな人と……!!』 19:33 既読


B『明日、説教な!』 23:17 既読


 メッセージアプリの内容はここまでだった。目撃者であるAがどうなったのかは不明。動画投稿者は目撃者の友人Bと直接接触しAのその後を尋ねたらしいが答えてくれなかったらしい。


 この動画も真相には程遠いが今まで見た怪談のような情報とは違い一番リアリティー……生々しさを感じる内容だった。


「Aは【傘差し女】と何があったんだろうな♪」


 友人……あ、友人Bではなく俺の友人はニヤけながら俺に言った。こいつは恐らく、さっきの休み時間の時に見たセクシー系のイラストのような事を想像してるんだろう。正直、俺はそんな気にはなれず【傘差し女】に対して不気味さを感じていた。


 放課後。俺は一人で下校中。別に友人が居ない訳ではない。現に今日は【傘差し女】という都市伝説で盛り上がったのだから。ただ同じ下校ルートの人が少ないだけだ。


(【傘差し女】か………結局、何もわからなかったなぁ。まぁ都市伝説とかって真相は曖昧なもんだよな。トイレの花子さんとか出現パターンが様々だし)


 足りない頭………いや、これは俺の頭ではなく情報が限られてるだけだ。うん、そうだ。足りない情報………それはやはり都市伝説の結末だ。目撃情報じゃダメだ。体験した体験者の体験談が必要だ。それが俺が求めてる最後のピースだと思う。


 そんな俺に予期せぬ………いや、むしろ求めていたモノが目に映る。


(美人そうな人だなぁ……………ウソ!アレって【傘差し女】!?)


 その感想のせいで反応が遅れたが、逆にその感想のおかげでデジャヴを感じ【傘差し女】らしき人物に気づいた。


 その【傘差し女】らしき人物は道路を挟んだ向こう側の歩道を俺とは逆方向に平然と歩いている。すると【傘差し女】らしき人物は俺に気づいたのか、こっちを見て微笑んだように見え、俺は咄嗟に顔を逸らす。向こう側の歩道だから直接横を通ってすれ違う訳ではないが、道路を挟みすれ違うだけなのに俺の鼓動は早く冷や汗も出ていた。


(アレは……考えるのはやめよう)


 気になる都市伝説の埋まらないピースの事を忘れ今は……今だけは別の事を考えようと考える。そうだ、スマホゲームでもしよう。


 早速、ゲームを始めるが見計らったようなタイミングで雨。


(サイアク。傘持ってねぇし)


 幸い小雨がチラつく程度ではあるが俺はスマホをポケットに入れ足を早める。


「止ん……だ?……………っ!」


 数秒後に雨が止み、俺は足を止め空を見上げる。だが、俺が見たものは空ではなく傘の裏の部分だった。真っ白なナイロン生地に傘を形作る上で重要な放射状に広がる骨組み。傘を持ってない俺は反射的に隣を見た。皆も同じような反応をするだろうが、今日、【傘差し女】に夢中になった俺の反応は意味合いが違う。


「あ、ああ」


 俺の隣に居たのはさっき反対側の歩道を歩いていた【傘差し女】らしき女性だった。探し求めていた最後のピースを目の前の人物が持ってるかもしれないのになんて言えばいいのかわからず言葉が出ない。そもそも本人に話を聞こうだなんて想定してなかった。


「大丈夫?」


「え、あ、はい」


 予期せぬ出来事にパニックになりかけていた俺を気遣ってくれたのは【傘差し女】らしき女性だった。その余りに普通の人間らしい声に少し落ち着きを取り戻せた。


「傘、持ってないの?」


「はい」


 自分は濡れながら俺に傘を差す女性。遠目で見た美人そうな女性は近くで見ると美人だった。そして、その優しさに年上の魅力を感じ照れながら返事を返した。


「私の傘に入る?途中まで送るよ」


「え、でも」


 傘にはすでに入らせてもらってるんだけど……それは置いといて、断った方がいいのだろうか。


「遠慮しないで」


「それじゃあ、お言葉に甘えます」


 断るタイミングを逃し女性の傘に入らせてもらう事になった。


「あの、濡れますよ?」


 女性は小雨とはいえ雨が降ってるのに目撃した時と変わらず隣に傘を差し歩く。唯一変わったのはその傘の下に俺が居る事だ。


「心配しないで。それより青春真っ只中の君が風邪とか引いたら青春が勿体ないよ」


「は、はぁ」


 俺はこの時、ある映画のワンシーンを思い出していた。それは少年が女性型アンドロイドと一緒に雨の中、下校中に少年が恥ずかしさで女性型アンドロイドから傘を奪い少年だけ傘を差し帰るというシーンだ。女性型アンドロイドは文句は言わない。それが仕事だから。それでも罪悪感を感じるシーンでもある。傘を差してる人物に差異はあるが、俺はその映画で感じた罪悪感を感じていた。


「…………………あの、やっぱり……いえ、なんでもないです」


 女性も傘に入った方がいいと言葉にしたかったが、俺に笑みを向け結局その言葉を口に出来なかった。よく考えればそれは相合い傘をしたいと言ってるみたいじゃないか。まぁ、こんな美人と相合い傘も悪くないけど……


「ねぇ、君なに考えてるの?」


「え!?いえ、なにも!」


 色恋に奥手な俺が「美人と相合い傘したい」だなんて言えるはずがない。


「嘘。私が声を掛けた時、怯えてたよ?」


 ああ、その事か。てっきり下心が見透かされたのかと。


「えっと、あれは……」


「言い難い事なの?」


「気を悪くしないで聞いてくれますか?」


「うん」


 前置きをし女性はそれに頷いた。今から話す事は女性が都市伝説としてウワサになっているらしいという内容だ。もしかしたら、誰も居ない隣に傘を差す行為は女性にとって何かしら信念があり、下手したらアレやコレやと面白おかしく盛り上がるのは不謹慎かもしれない。だが、好奇心が勝り引き返す選択肢は消えていた。


「【傘差し女】って知ってますか?」


「なに?それ?」


 この呼び名にはピンと来てないようだ。


「えーとですね。誰も居ない隣に傘を差して歩いている女性の事らしいんですが……」


 これで女性も誰の事か理解するだろう。


「………………………ふふふふ♪」


 キョトンとした表情と沈黙。その後に口に手を当て女性は笑った。


「あ、あの」


「それどう考えても私の事ね」


 俺が戸惑っていると女性は自ら認めた。女性も自分の行為が他者から見たら不思議な行為だと自覚があるようだ。


「理由とかって聞いていいですか?」


「ひみつ♪」


 理由は教えてもらえなかったが、余りにも普通に会話ができ今日調べた情報の不気味さがなくなっていた。むしろ俺の友人がAは【傘差し女】と何があったんだろうという邪な妄想を思い出し、それに期待していた。


「そっかぁ、私はそんな風にウワサになってるんだぁ。それで君は怯えてたんだね」


「ええ、まぁ」


 否定は出来ない。都市伝説の話をした後だ。否定しても説得力は無いだろう。


「そんな嫌な話をした君に質問してもいい?」


「え?あ、はい」


 からかうような茶目っ気のある口調で女性は尋ねた。


「君、色は何色が好き?」


「色ですか……あまり考えた事ないですけど、強いて言うなら青ですね」


 この返答はホントに強いて言うならだ。色にそこまで拘りはない。


「私は赤かなぁ♪」


 にこやかなその表情はそれだけで本心を言ってるのだと伝わってくる。


「そうなんですね。そういえば、傘が好きなんですか?都市伝説のウワサにもなるくらいですし」


「うん♪好きだよ。お気に入りの赤い傘を差してそれを見上げながら歩くのが好き♪」


 好きな色から傘の話題。色の話題で会話を広げた方がよかったかもしれないが傘の話題で女性の反応も良かった。女子との会話なんてほとんどした事がない俺だったが確かな手応えを感じていた。


「それじゃあ、今日はお気に入りの傘は忘れたんですね」


 俺は頭上を見上げる。そこには今も真っ白なナイロン生地に放射状に広がる骨組みがある。


「ううん。お気に入りの傘だよ」


「え?だって……」


 女性の言葉に疑問を持ち女性の顔を見る。すると急に俺の視界が安定しなくなり視界は徐々に下へ下へと落ちていく。ヤバい、これってもしかして熱中症かも。


 一瞬だけ見えたのは直立する俺と同い年くらいの首の無い少年。そして、首の無い少年の首から吹き出る鮮血。その鮮血は真上にある傘を彩る。今まで隣に居た女性は俺を気遣う素振りは無く彩られる傘を恍惚の表情を浮かべ眺めていた。


 それが俺が最後に見た光景だった。

 どうもです!梅雨真っ只中に書き上げたかったんですが、たぶん明け始めてますよね? 途中で映画の話もありましたが私の好きな一本です。ホッコリ泣けて笑えるアニメ映画です! そして【傘差し女】が隣に傘を差す理由……………あるかもしれないし無いかもしれません(*´艸`*) 良ければ感想とかもお待ちしております♪ それでは

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