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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】婚約破棄され追われる「私」を助けてくれたのは未来から来た『私』でした

作者: 水定ゆう

これは二人で一人の少女の復讐劇の序幕である。

※あらすじから引用

「おい、いたぞ!」

「すぐに捕まえて殺せ!」


 鎧姿の男性達の罵声が飛び交う。

 手には槍を持ち、森の中を五人~十人程度で行進する。

 如何して何人もの騎士達が真っ暗な森の中を走っているのか、それは視線の先を行く少女を捕えて殺すためだった。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 少女は長い綺麗な金髪を薄汚れたフードで隠し、体中から汗を流して走っていた。

 顔中が泥だらけになり、息も絶え絶えで今にも倒れてしまいそうになる。

 それでもただひたすらに走っていた。私は無実で、殺されたくないから。理由なんてただそれだけだった。


(私は死にたくないです。殺されたくなんかないです!)


 それでも少女一人では限界も近かった。

 後ろを追う騎士達は日々修練を積み体を鍛えている。

 いくら重たい鎧を着ているとは言っても少女一人捕まえるには容易すぎて、気が付けば真後ろにまで迫っていた。このままでは捕まってしまう。だけど少女には何もできない。


「止まれ、ソニア・ソリューズ。貴様にはドクトル侯爵令息様を暗殺しようとした罪で手配書が出ている。いつまでも逃げ続けられるわけもない。大人しく捕まれ!」


 騎士の一人が私=ソニアに叫んだ。しかしソニアは止まらなかった。止まったら殺されると判っていたからだ。


 そもそもこうなったのは全く謂れの無いことからだった。


 ソニア・ソリューズはドクトル侯爵令息とありがたいことに婚約させていただいていた。何てことの無い男爵家のソニアのことを気に入ってくれたのだ。

 侯爵家の令息に婚約して貰えたことで、両親は大変喜び、ソニア自身も両親の期待に応えるために頑張った。

 それから半年が過ぎた頃だった。それもつい昨日のことで、ソニアはお屋敷のパーティーに招かれていた。見たこともない絵画や大変豪華なシャンデリア。綺麗なドレスを身に着けた男性女性。その中には当然ドクトル侯爵令息もいた。

 しかし周りには他の女性もいたせいで、ソニアは声も掛けることすらできなかった。

誰とも仲が良くないソニアは、ひっそりとパーティーの会場の隅にいた。

 そんな中、ドクトル侯爵令息は用意されていた壇上に上がると、盛大に声を張り上げた。


「今日は皆様にお話ししたいことがある! ソニア・ソリューズはいるか!」


 ソニアは顔を上げた。まさかこれだけの人前で名前を呼んでいただけるとは思わなかったのだ。

 パーティーに参加していた他の貴族や給仕、メイドの方々の視線も右往左往してざわめきが起きました。

 呼ばれたソニアは「は、はい!」と声を張り上げて、ドクトル侯爵令息の下に駆け寄りました。


「は、はい。ここにいます、ドクトル様!」


 ソニアは人だかりの中から顔を出しました。

 するとドクトル侯爵令息の顔がすぐ近くにある。

 人のことを舐めるような目ではありましたが、ソニアは慣れているので一切気にしない。

 そんなことより、一体何故呼び出されたのかと思い尋ねようとした瞬間、ドクトル侯爵令息はソニアをごみ同然と言いたげな目で睨んだ。


「ソニア・ソリューズ。この俺を暗殺しようとした罪でお前を起訴する!」

「えっ、ドクトル様?」

「俺の名を呼ぶな、ソニア・ソリューズ! お前は俺の厚意をあやかり近付き、暗殺を得計画していた。このワインが証拠だ。このワインには毒が入っていた。ワイン蔵に立ち入ることができる人間で、俺の味方ではないのはお前だけだ!」

「そ、そんな……それだけではありませんか!」


 ワインに毒が入っていた。そんな話は知らない。もしそうなら、ソニアは絶対に違う。何故ならワイン蔵に入ったことは一度たりとも無いからだ。

 しかしドクトル侯爵令息は一切を無視しました。とても横暴で言葉の価値を蔑ろにしています。都合の良いように解釈し、ソニアを威圧しました。


「その言い分、認めるんだな?」

「み、見止めません! 私はそんなことしていません。するつもりもありません」


 ソニアは必至に弁明した。自分はそんなことしていない。やっていない。やろうともしていない。

 けれどドクトル侯爵令息は全く聞く耳を持たず、自分の意見を正しいと振り上げて突き付けた。


「言い訳はいい。お前達、今すぐ捕えて殺してしまえ!」


 ドクトル侯爵令息は騎士達を呼び寄せました。

 ソニアはその瞬間、殺されるという意識に駆られ、踵を返してその場を逃げました。

 人だかりを掻き分けて、とにかく逃げられるだけ逃げて逃げて今に至りました。

 誰も私の味方はいない。きっと両親も家のことを考えて侯爵家の味方になる。一人孤独になってしまい、森の中で騎士達に追われてついには捕まってしまいました。


「きゃっ! や、やめてください」

「俺達はお前を殺すために雇われたんだ。おい、とっととコイツを……」

「だ、誰か助けて! 助けてください!」

「誰もお前の味方いないよ。ドクトル侯爵令息はお前を庇う奴を全て殺すと言っていた。暗殺にうるさい方だからな。残念だがお前の両親も既に……分かるよな?」

「そ、そんな……」


 酷い。酷すぎる。ドクトル侯爵令息はソニアの心を傷付けた。

 ズタズタになって今にも泣き崩れてしまうそう。言え、発狂してしまいそうだった。

 腕も足も力が入らなくなり、もう全部投げ出してしまいそうになりました。

 そんな時、耳元で声が聴こえました。


「諦めるな。お前はそんな奴じゃないだろ」

「えっ!?」


 ソニアは顔を上げた。突然聞こえてきた声。まるで自分が話しかけているみたいで気味が悪かった。けれど周りにはソニアを捕える騎士しかおらず、挙動不審な態度に騎士達は首を捻った。

 きっと幻聴だ。そう思ったのも束の間。突然青い炎が上がった。


 ボフッ!


「な、なんだ?」

「気を付けろ。魔法使いがいるかもしれない」

「魔法使い? 騎士の俺達に刃向かう魔法使いがいるのか?」

「笑わせるな」

「笑っていればいいよ」


 騎士達がピタッと止まった。

 ソニアも顔を上げた。目の前に確かに青い炎がある。

 その炎は騎士達へと向かい飛んで行くとあらゆるものに干渉せずに触れたいものに触れた。ソニアを捕えた騎士の鎧に触れた瞬間、もの凄い熱さで全身が焼かれたようだった。いや、実際に焼かれていた。


「熱い、あっっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 全身が青い炎に包まれて焼かれた。

 叫び嗚咽を漏らしながら狂ったように焼けると、騎士の鎧だけが取り残された。

 人が一瞬で死んだ。ソニアは突然のことで驚き、足が震えて座り込んでしまった。


「な、なにが起きているんだ!」

「何処にいる。何処にいるんだ、姿を現せ!」


 騎士達はしどろもどろになりながら叫んだ。

 槍を持つ手が震えてしまい、今すぐにでもここから逃げたい。

 そんな気持ちで足が竦むと、ソニアの声をした魔法使いは何処からともなく姿を現し、一言呟いた。


「もちろんいいよ。ただし、私の姿を見た以上ここで死んでもらうけどね」


 魔法使いはフードを被り、騎士達の目の前に現れた。

 姿を現すと容赦なく青い炎を出し、騎士達を焼いて回る。

 鎧に触れた。ただそれだけで騎士達の体が炎に否応なく包まれて、最後には叫びながら鎧だけを残して姿を消した。

 あまりの光景にもう声も出ないソニア。きっと次は私の番だ。そう思うと今にも死にたいと泣き叫びそうになった。

 けれど魔法使いはそれを許さない。ソニアが舌を噛み切ろうとすると、ポンと肩に手を当てて優しく語り掛ける。


「死にたくないんだろ。だったら死ぬな」


 ソニアは顔を上げた。魔法使いの顔がそこにあった。

 驚いて声も出なくなる。今にも漏らしてしまいそうで、「あっ、あっ、えっ」と嗚咽を漏らすだけで精一杯だった。

 何故ならそこにいた魔法使いの顔はまるで……


「言いたいことは分かってる。だからお前には死んでもらっては困るんだ」


 そう言うと魔法使いはフードを外した。

 髪の色は真っ白でとても短い。目の色は魔法を使っているのか赤い。

 頬には火傷の様な傷痕があり、痛々しさが滲み出る。けれどその顔立ちは、眼光は、声音は全て……


「私はそにあ・そりゅーず。未来から来たお前だ。そう言えば信じてくれるかな?」

 

 おかしな話でした。そこにいた魔法使いは本当に私でした。

 魔法使いが嘘を付いている。口調も全部違っていたから幻覚だと吐き捨てることもできました。でも私にはそれができませんでした。だって、そこにいたのは私自身だったからです。


「み、未来? 未来から来た私なの?」

「もちろん。証拠もあるよ……ほら」


 そう言うとそにあは胸のペンダントを見せました。それはこの世に二つとないものでした。精巧な造りで、ペンダントを構成するクリスタルの中に刻まれた紋章はソニアが持っているペンダントと全く同じでした。

 それがここにあるということはつまりそう言うことです。

 もう信じるしかなくなり、私は涙を流しました。


「う、うっ、ぐすん。うっ……うわぁぁぁぁぁん!」


 急に激しく泣き出すソニアにそにあは驚きました。

 何かしてしまったと思い宥めようとしました。


「ど、どうしんだ? もしかして信じて……」

「いいえ、違います。未来から来たということは……その、私は生きて……無実の罪だと証明されたんですよね。本当に本当に良かったです」


 ソニアはそれが嬉しくて仕方なかった。

 けれど未来から来たそにあは悲しそうな顔をしていた。


「悪いけどそれは無理だったよ。私の知る未来で、私は無実の罪だと証明することはできなかった。本当に時間が無かった。時間さえあれば、私は……くっ」


 そにあは悔しい表情を浮かべた。

 けれどソニアは絶望した顔を浮かべる。

 未来で起きたことを知っているソニアは無理だったと言うのなら、今を生きるソニアはその道を歩むことになるんだ。だったらここで死んだ方がマシ。そう思ったのも一瞬で、そにあは全てを諦めたソニアの顔をソッと抱き寄せた。


「確かに未来ではダメだった。でもこの時代なら? 過去の私ならどんな未来だって変えることができる。だから諦めるな、絶望するな。無実の罪を証明できるのはこの時代しかないんだ」

「そんなこと言われても……私には誰も味方はいないんです」

「そんなことない。今、お前の目の前にいるだろ!」

「えっ!?」


 ソニアは顔を上げた。そこにいたのはそにあだった。

 真剣な表情を浮かべるそにあの顔がカッコ良くて仕方ない。

 心臓がドキドキし始めて、鼓動で死んでしまいそうになる。今までにない感覚で、頭がおかしくなりそうだった。


「私の味方……になってくれるんですか?」

「もちろんだよ。私はそのために来たんだ。そのために、私はソニア・ソリューズからそにあ・そりゅーずになってこの時代にやって来た。それが私達の未来を切り拓く唯一無二の方法なんだからさ」


 本当にカッコよかった。未来の私には過去の私にはないものを全部持っていた。

 胸がトキめいて惹かれてしまう。これが恋なのかと、不思議なことにソニアはそにあの手を取っていた。

 行動に一切の迷いはなかった。ゆっくり伸ばした手を繋ぎ同時に立ち上がる。


「できるかな、私に?」

「できるよ、私達ならね」


 ソニアとそにあは自分の欲しい未来を手にするために手を取り合う。

 その手は硬く繋がれて決して解けることはなく、自分達を悪者した貴族に復讐を誓うのだった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

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