七話
鍛冶屋に行った翌日。図書館で新たな教材を少し読んでみた。本当はもっと読み込むべきなのだろうけど試して見たくてうずうずしてしまう。
クエストの帰りに原っぱに立ち止まり、深呼吸をした。本によるとまずは自身に眠る魔力に気づく事から始めると書かれていた。アンドレアス著の本にも同じような事が書いてあったが、何故か説得力が増した気がする。違う点としては、具体的にどのようにするのが望ましいかが書かれていた事である。
初心や初めて魔法を扱う場合はできる限り静かな場所で集中する事が大事らしい。
「ふう…」
気持ちい風が吹いてくる。爽やかな草の匂いも同時に運んでくる。集中するのにはちょうど良い。
魔力…魔力…おっ…!なんとなく暖かい物が体を巡っている気がする。
が、気がするだけで何か特に変化があるようには思えない。
「やっぱり根気良くやるしか無いかぁ…」
本当の所は誰かが師匠になってくれれば良いんだけどなあ。魔法学校とかやっぱりあるんだろうな。ただお金かかるだろうしなあ…
「うーん」
うなっていても仕方無い。出来ると思ってやるしか無い。本にも魔法の威力は魔力と技術、応用するにはイメージが大切と書いてあった。応用にも使うがイメージだが、初歩の段階でも特に魔力を使うイメージが大切であると書いていた。出来ないと思ってしまったら、魔力を使うイメージに結びつかなくなってしまう。とにかく自分の魔力をしっかりと扱えるようにならなくては。
「巡らせる…」
はあ…少し疲れるな。何か魔法を使った訳でも無いけど、この疲れはしっかりと練習出来ている証拠だと良いがなあ。今日の所はこれぐらいにしてまたクエストの報告が終わったら図書館で違う本でも読んでみるか。
本日2度目の図書館では少し気になっていた事を調べてに来た。ある意味少しの希望も持ってと言うところである。また司書さんに目的の場所を教えて貰いたどり着いた。
「これだ…」
魔物の情報が載っている図鑑だ。俺は今まで憶測で話をしてきたことが多々ある。というか、アカネの情報ぐらいしか広範な知識は得ていない。つまりスライムがこの世界で最弱とは限らないのでは無いかということだ。俺は先入観でスライムは最弱の魔物、モンスターであると決めつけていたが、そうでは無いのかも知れない。
この世界は『スライム魔王伝説』みたいな世界の可能性も無きにしもあらずなのだ!!
というわけで、目次からスライムのページを見つけ、読むことにした!!
頼む!
『スライム
かわいい見た目をした青い魔物。しかし、可愛い見た目にだまされてはいけない。魔物は総じて危険なのである』
おおっ!これは!わんちゃんちゃんちゃんあるっっちゃん!?
『小さい子供や力の弱い女性、病人では少なからず体当たりで怪我をしてしまう可能性がある。最も怖いのは締め付けられ窒息してしまう事だ』
俺も締め付けられて天国が見えかけた。しかし、なんか嫌な予感が…小さい子供…?
『とはいえ、冒険者では無くとも農作業等である程度鍛えられた成人男性なら、軽度の打撲程度を覚悟すれば容易に倒せる。二人がかりもしくは弓等なら無傷で倒せる。間違い無く最弱の魔物である』
「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
つい叫んでしまった。ある程度、いや完全に覚悟していたが、それでも悲しい物は悲しいものだ。お仕事中の司書さんがこちらを睨め付けている。すみませんでしたぁ。
『故によほど大量に発生していない限りは危険除去の為に討伐依頼が出ることは無く、主に素材として狩られることが多い』
とここまでが全文である。はぁ…なら他の魔物の説明はどうなんだろ。比べてみなければ。俺は適当にページをめくった。
『シルディランド
大型の鳥獣。全身が銀色の毛で覆われている。体長はおよそ2.5m。しかし大型の個体になると人間の二倍ほどにもなる事がある。最も恐ろしいのはその嗅覚である。尋常ならざる嗅覚は獲物の匂いを嗅ぎつけると執拗に追いかけてくる。また群れでの行動も単独行動も得意としており二本の足に付いている鉤爪はいとも簡単に我々の体を八つ裂きにする。竜人種の屈強な戦士の体さえも紙切れ同然に切り裂く。故に鉤爪による攻撃はまともに食らえば即死は免れない為、受け流すか避けるのが賢い選択であろう。火を苦手としており、火矢等があると退けられる可能性が高い。ちなみに筆者調べであるが火属性魔法に長けた魔法使いがいるパーティーはそうでないパーティーに比べてシルディランドと遭遇した際の生存率が二倍となっている』
先程と打って変わって鬼気迫るような文面である。やはり、スライムは弱かったのだ。それと同時に冒険者というのは命の危険がある事も改めて認識させられた。背筋がピンとした気がする。もしかしたらシルルディランドという魔物は強い部類なのかも知れない。でも、どちらにせよそういう存在が居ることが確かになったのだ。俄然鍛えるモチベーションは出てくる。
色んなモチベーションはあるが、やはり折角この魔法の世界に来たのだ、怖じ気づく訳には行かない。
いずれはドラゴンの様なものも倒したいのだから、鳥なんかに負けていられない。そうと決まれば、また明日からも鍛錬をしっかりしなければならないってもんだ。
まあ、まずはスライムを倒せるようにならないとね!(泣)