五話
薬草採取も何度かこなしていると新たな発見もある。
小さな川があったり、鳥の巣がある場所であったり。特に役に立ったのは薬草の群生地を見つけたときだった。見つけたときは嬉しくて小躍りしたもんだ。かなりの量があるし、これなら探し回らなくても何度かはクエストをこなせるだろう。
ということで、今日は薬草の群生地から薬草を採ったのでかなり時間に余裕が出来た。その時間を有効に活用しない手は無い。
かねてより気になっていた場所に行くことにした。王都の図書館である。アカネに聞いた話によると歴史、科学、雑学、技術書などありとあらゆるジャンルの本があると聞いた。入場料は10銀貨だから、まあ払えないことは無い。
「すげえ…」
外から見ても質素なのにきらびやかという見た目が凄かったが、建物の中は中で辺り一面本棚の三階建て構造で圧巻というか気圧されるというか…まあ、高校の図書室しか知らんし比べるのが間違いか。
あんまり本が好きじゃ無い俺でも、この光景は感動を覚えたっす。はい。
多分本好きが見たらもうあれだな。うん。あれだよ。
とにかく今回は観光に来たわけじゃ無いし目当ての本を探すとしよう。司書さんに聞くのが早いな。
「すみません。魔法の本について探しているんですけど」
「魔法についてでしたら、二階に行って頂いて右半分が全て魔法関連になっております」
かなりの量があるようだ。
「ありがとうございます!」
司書さんに会釈を返して、言われたとおり階段を登ると視界一面に魔法関連の本が広がっていた。これでは探すのもしんどそうではある。
…がやらねばならない。救いは文字が読める事だ。
この世界に来てファーストコンタクトがトカゲ人だったが話は通じた。だからこそ当たり前と思ってしまっていたが、文字が読めない可能性も少なからずあった。実際、単語の意味が若干違ったりすることもあるし、覚悟はしていたがどうやら杞憂で済みそうだ。
魔法入門…これだ!これが読みたかったんだよ。そこまで厚みのあるわけでは無いから特に良いような気がする。
本の表紙にはアンドレアス・ディオデットと書いてある。著者の名前であろう。どうやら名字の概念はあるようだ。ユイやアカネは恐らく名字は無いだろうと考えている。響き的に下の名前だと思うし、名字を名乗るには何かしらの条件があるのかも知れない。
フラクシアさんについては、フルネームを名乗らなかっただけなのかまだ何とも判別が付けがたい。
とまあそれはおいといて。本の中身に移ろう。おお…久々にワクワクするぞ!薬草採取も嫌いじゃ無いがやっぱりこういうのがやりたいんだよ!
さてと…
「えぇ…」
めくってみると、何というか分かりやすいんだがポップ過ぎるというか何というか、もっと分かりやすく言うと、学術書というより漫画や雑誌っぽい印象を受ける。確かに馴染み安さはあるかも知れないが本当に学べるのかも心配ではある。
「『これで君も大魔法使い!くるっポーでも分かる最高の本だ!byアンドレアス』って自画自賛かよ!」
普通ここは推薦してくれた人とかが何か言うんじゃねえのかよ!はあ、一人ツッコミをしてしまった。周りに人が居るのに余計な声が出てしまった。図書館では静かにしなければならない。まあ、確かにノリは軽いが読みやすいと言う点では良いかもしれない。最悪他の本もあるし、気を取り直して読んでみることにする。ページをめくると第一章基本の魔力についてと書かれている。
『さあまずは己の魂に語りかけるんだ…魔法よ魔力の源よ!我の力よ湧き出ろと!すると何となく分かるんだ。魔力の在処が!それがまずは初歩だ!魔力を意識できればもう入門は終わりってな。ははははははは!』
…なんか本というより、アンドレアスと対話しているみたいだ。
『魔力は魔力のままだと効果が薄い。魔力に属性を与える事で方向性を付ける事が出来る。君のお母さんもお父さんにガミガミいうだろ?そんなかんじさ!はははははは!次からはそのやり方について教えるぞ』
どんな感じだよ!と言いたくなったがとにかく魔力を意識する事が大事ということは分かった。次は二章基本五素についてと書かれている。
『いいかここからが本番だここが終われば君も大魔法使いだ!ワシの様に山を炎で消し飛ばす事も可能だ!』
本当ならこの人は凄い魔法使いだが何となく信用出来ない。あったことも無いのに何故か鵜呑みは出来ない。どうしてでしょうか。
『火属性は情熱だ!情熱バーニンすれば指先から火が出せる!水はジュワッと頑張れ!風は…』
なんだこれ!!!わからんわ!どういうことだよ!ひでえよ!何にもやり方のってないよ!魔力の意識の方法も具体的には無いし、火属性は情熱バーニン!WHY!…いや火属性はまだマシか。情熱ならまだ何とか理解出来るが、光属性の聖なるココロでって何なんだよ…
第三章以降は魔法の応用術について実例を元に解説するらしいが…タイトルを見るにアンドレアスのただの自慢話にしか見えない。一番面白そうなのは『火属性の焼き肉しかかたん!』ではあるが、一体何なんだろうこの人。
「はあ…今日は帰るか」
まだ三十分位しか経っていないがどっと疲れた気がする。宿に帰って他の事でもしよう。今日だけに関しては10銀貨分の価値はなかった気がするが、後日改めて魔法の本を読むことにしよう。