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二話

 暖かいふわふわとした気分。

 「あ…気がついたみたい!」

 暖かくて良い気分だ。目の前には美しい、まさに天使のような顔をした少女…いやまさに天使なのだろう。頭に輪っかは無いが実際の天国の天使は輪っかが無いんだ。世紀の大発見だと思う。でも伝える手段も無い。

 「天使…」

 ぼやけた頭で何となく手を伸ばす。そのまま天使の頬をつまむ。ふむ素晴らしい柔らかさだ。まさにこの世の物とは思えない。

 「あ…えっと…」

 少し困惑したような声を出すが、手を払いのけられる事も無いのでもう少し…

 「いい加減やめんか!!」

 「んあ!?」

 すると天使の逆側から、とてつもない声と共に額を叩かれた。

 「いてえ!」

 「ったく何するんだ!起きて直ぐセクハラかよ馬鹿が!!」

 起きて直ぐ…?そうか俺は今寝てる状態なのか…。どうやら死んだわけでは無いらしい。少しだるいが、眠気は先程の大声とビンタである程度覚めたので上体を起こす。ベットの脇には先程の天使…もとい黒髪の少女と、赤い髪をポニーテールにまとめた少女が居た。

 「俺は…スライムに窒息させられそうになって…」

 そうだ。意識が途切れる前の記憶はそこで途切れている。

 「たまたま通りかかったアタシ達に助けられたって訳さ。スライムに遅れを取るなんて情け無い」

 「ちょっとそんな言い方は駄目です!アカネ!」

 「けっ!起きて直ぐユイにセクハラするような奴だし別に良いっての」

 彼女たちは何か話している様だったが俺の耳には入らなかった。スライムに負けたどころか命までとられかけたという事実に心底空しい気持ちになった。でも今言うべき言葉はスライムに負けた事への恨み節では無く、助けてくれたことへの感謝だ。

 「二人とも本当に有り難うございます。感謝してもしきれません。…ありがとう」

 「いえいえ。人が襲われているのを無視は出来ませんから」

 黒髪の少女はそう答え、少しばつが悪そうに赤髪の少女は横を向く。

 「ふん…まあ、無事で良かったよ。ユイの治癒魔法も効いたと思う」

 「…優しいんだな」

 俺は自然と笑顔になっていた。すると照れた様に赤髪の少女はしている。


 「やさっ…!ふん…まあおんなじ目には遭うなよ」

 そう言うと少女は部屋を後にした。少し不機嫌そうになったが大丈夫だろうか?

 「大丈夫ですよ。あれはアカネの照れ隠しですから」

 どうやら少し不安そうになった俺の顔を見て察したのだろう。黒髪の少女はそういった。

 「アカネ…か。ああ、すまん俺の名前はレントだ。宜しく」

 赤髪の少女の名前を聞いて思い出したが、名乗っていなかった。まあ、名乗れるような状態では無かったから仕方無い事なのだが。

 「私の名前はユイです。もし元気になったのなら一緒に朝食は如何ですか?アカネも一緒の方が色々お話も出来るでしょう」

 「ああ。そうさせて貰うよ」

 ユイに言われて気づいたが、お腹がペコペコだ。なんせ、スライムに襲われて今は朝と言うことは少なくとも半日は何も食べていないのだから。


 階下に行くとアカネがテーブル席に座っており、手招きしていた。

 「私とおんなじ物でいいかえっと…」

 「レントだ。おんなじ物で良い」

 「そうか。私の名前はアカネだ。よろしく」

 「よろしく」

 うむ。やはりアカネも気の良い人だ。叩かれはしたが、アカネは悪い奴じゃない。寧ろ助けてくれたのだから良い人だ。少なくとも俺にとっては。

 

 「で、レントあん時はなんでスライムと戦闘していたんだ?」

 なんと答えたら良いのだろうか。あの時は半ばやけくそ気味に冒険者の力量を試そうとしてたからな。やはり根本の事から話すしかない。気は進まないが。

 「アカネ達は冒険者だよな。

 「ああ」

 「なら冒険者適正検査は受けたことあるよな」

 「ああ…それは当然あるがそれがどうかしたのか?」 


 少しの間をおいてから話す。

 

 「実は昨日冒険者になったばっかりで、適性検査を受けたんだ…でも散々な結果でね」

 「なるほどな。恐らくレントは防御力が若干悪かったのか」

 ふむふむと頷くアカネ。違う、防御力だけじゃ無い。

 「違うんだ…賢さ以外全ての項目でこれまでに見たことも無い位に低いって」

 「なっ!」

 アカネは驚きのあまり椅子から立ち上がってしまったようだ。まあ、こういう反応になるよなあ…受付のお姉さんの反応を見るからにも。

 「そうか…答え辛い質問をしてしまったみたいで悪かった…」

 「いや良いんだ。俺も今は受け止めているから」

 そうだ。やけっぱちになって、現実を受け止められなくて、プロゲーマーの時は努力したのにそれすら出来ないほどに混乱してしまっていたんだ。でもある意味死にかけた事で冷静になれたんだと思う。

 「質問しておいて何なんだけど、あまり自分の弱点は喋らない方が良い。どんな奴がいるか分からんからな」

 「でも君たち二人はそんな事しないでしょ?」

 「まったく…さては田舎の出身だな?少なくとも王都で生まれ育った訳ではないだろう」

 警戒心が無いとでもいいたいのだろうか。確かにこの世界の人間程は警戒心は強く無いのかも知れない。あ、出身かぁ。

 「出身は東の国ヒノモトだよ」

 「ヒノモト!?それは奇遇だなあ!レント!ユイと同じ国出身なのか」

 「そうなの?」

 それは何とも奇遇だユイと同じ国出身だったとは。まあ、俺は設定なんだけど。

 「はい。私はヒノモトのアズサ村出身です。レントさんは何処の出身なんですか?」


  あ、まずい。わかんねええええええええええええ!!!!どうしよどうしよ…というかこの二人には嘘はなるべく付きたくない…いや待てよ嘘はつかずに済むかも。

 「レントさん?」

 黙っている俺を不審に思ったのかユイは問うてくる。アカネも声にはしていないが顔が話の続きを待っていると言っている。

 「実は…記憶が少し欠けていて…」

 「な…!まさかスライムとの戦闘で後遺症が…!」

 「いや、そうじゃ無いんだ。実は王都に来たところまでのどうやって来たのかも良く覚えていないし、昔の事も所々曖昧なんだ。ただ冒険者になりたいことだけは覚えていたんだ」

 これなら嘘じゃ無い。実際日本の時の記憶も一部曖昧な所もある。しかも何がきっかけでこの世界に飛ばされたのかもよく分からないし。

 「そうなのか…」

 また少し暗い感じになってしまったので話題を切り替えることにする。

 「だから冒険者について色々教えて欲しいんだ。基本的な事で良いから」

 「ああ!お安いご用だ!なあユイ!」

 「はい!レントさん何でも聞いてください冒険者の先輩としてお教え致します!」

 とそこまで話て頼んでいた朝食が運ばれてきた。良い匂いが漂ってきて腹が鳴った。

 「ったくレント…スライムにシメられるわ記憶は少し欠けてるわなのに食欲には勝てないか…ははっ!」

 アカネが笑ったつられてユイも俺も笑顔になった。

 「まったくだ。でも食べながらでも話は聞けるだろ?さあ、食べようぜ!」

 「それが教えられる奴の態度かよ…ふふっ、でも辛気くさいよりはいいな」

 「はいっ!」

 ユイが元気よく答えると、アカネとユイは手を合わせた。とそこでアカネが思い出したように呟く。

 「あーそっか。レントはヒノモトの出身だったか。ユイと一緒で食事前の挨拶が違うのか。というか食事前の挨拶って覚えてるか?」

 「ん?ああ、いただきますだけど」

 「おお!そっかあ…一緒なんだな」

 どうやら食事前の挨拶が日本と一緒の言葉らしい。なら話は早い。俺も二人に習って手を合わせた。


 「じゃあ…今日も一日良い日になるようにっ!いただきます!」

 「「いただきます!」」


 色々気になることはあるけど少しは気が軽くなった気がした。何も問題は解決していないはずだけど、それでも今は前向きになれた気がした。








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