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十七話

 フリッツ大草原に着くと様々な動植物と魔物達の姿があった。

 いつも薬草採集に訪れていた所よりも街道の整備が行き届いておらず、手つかずの自然が生い茂っている感じが強い。とはいえのどかな草原地帯という印象に変わりは無かった。

 「よし。じゃあ手当たり次第狩りますか」

 「はい」

 「お、おう」

 え、いきなりですか。心の準備とか無いんですか。とそんな事を考えている間にアカネが不敵な笑みをこちらに向けていた。え、どうしたんすか。

 少し笑顔の意味を考えていた間にアカネはスライム達が居る方へと手のひらを向けていた。かなり距離が開いていると思うが…まさかこの距離から何かする気なのか!?

 

 「はあああああああ!!!!!」

 「ぬおっ!」

 アカネを起点に辺りに風が立ちこめ始めた。というかなんなんだよこれぇ!明らかにとんでもないことしようとしているだろ!


 「アカネ!?そんな魔法使わなくても!?」

 え?なんかユイが狼狽えてる気がするんですけど!?

 とそんな俺らに構うこと無くアカネの攻撃動作は進んでいく。手のひらに火球が出てきたと思うとみるみる大きくなりどうやら臨界点を迎えたようだ。

 あ、これ死んだな。


 「はっ!」

 一瞬の気合いと共に明らかに必殺の攻撃がスライムの群れへと飛んでいく。

 「――!」あ

 スライムに目は付いていないのだが、付いていたら恐らく目ん玉かっぴらいていただろうと思われるような位に体をビクッと動かしていた。

 「うわぁ…」

 バコーン!!ととんでもない音と共に爆炎が上がったかと思うと、着弾したと思われる一帯そこら辺がえぐられていた。それもかなりガッツリと。当然の如くスライムは倒されていた…と思う。

 何故疑問形なのかというとそこには何も存在していなかったのである。余りにも攻撃の威力が高すぎたのか死体も消し炭になってしまったのだろう。


 「とまあこういう感じだ」

 「どういう感じだよ!」

 恐らく前日の会話での事だろう。

 俺が自らのスキルについて説明し終わった後にアカネとユイが自分についても色々と話してくれた。その中で、アカネはこう言っていた。


 『アタシは火属性の魔法と無属性…その中でも強化魔法が得意だ。それと剣術も』


 それを実践して見せてくれたのだろう。いや、それにしてもオーバーキル過ぎるだろ。これは。ていうかアカネに関してはシルディランドの戦闘で何となく分かっていたけど…何というか圧倒的過ぎるなこれは。今の一撃でスライム十五体は消し飛んだであろう。


 「全くやり過ぎです!地形をいたずらに変えてどうするんですか!」

 もう!と言ってユイはご立腹である。

 「街道から外れているとはいえ…まったく穴も埋めなきゃじゃないですか」

 「ははは、ごめんて」

 ユイはアカネに言っている最中から着弾地点に歩いて行く。当然俺たちもついて行くのだが、ユイは穴ぼこに近づくと持っていた杖を突き出し何事か詠唱し始めた。

 するとみるみる内に穴が埋まっていくではないか!てかすげえ器用じゃね!?

 「どうだ!すごいだろう!」

 「いやなんでアカネが自慢げなの…」

 

 いや実際凄いんだけどさ。因みにユイはアカネの説明の後こう言っていた。

 『私は魔法がアカネの火属性魔法ほどでは有りませんが…全属性それなりに使えます。回復魔法が特に得意です!』

 むん!と腕まくりしていたのを思い出す。…うん可愛かったなあ。

 「……?」

 おっとまずい。なんだかアカネが先程までと違って怪訝そうな表情をしている。


 と、そんな事を考えていると木々が生い茂っているほうから新たにスライムが一匹飛び出してきた。

 「…レントあのスライム倒して」

 アカネは一思案したのちスライムを俺に倒すように言ってきた。

 「え?いや、アカネがやった方が早いんじゃ…」

 どう見ても効率悪いのでは、とも思ったが。

 「そうですね!レントさんの戦いも見たいです!」

 

 …いやここは俺がやるべきだろう。三人で倒すのではなく、二人が俺に任せてくれた意味も何となく理解出来た。


 「分かった」

 

 これは成長をしているかの試験なんだ。薬草を集めつつ短い期間とはいえ自己研鑽を積んだ。そしてシルディランドとの死闘を経て今ここに居る。

 ここで勝てねば意味が無い!

 「はあぁっ!」

 俺は柄に手を掛けて剣を一気に抜いた。ギルドから支給された両刃の剣が太陽の日差しを浴びて輝く。剣術を習った訳では無いが、身体能力自体が上がったおかげか幾分か軽く感じる。 

 「ねえ、ユイ…あの剣の構え方、レントって本当に初心者なんだな…ひそひそ」

 「まあ、冒険者になって一ヶ月ぐらいですし、何なら半月ケガで動けてませんでしたからね…ひそひそ」


 …けんじゅつをならったわけではないがぁ!いくぶんかかるくかんじる!!うわああああん!!


 「批評してないで応援してくれよぉ!」

 「「ごめんなさい」」


 二人はハッとしたような顔をして俺に頭を下げた。何というか情け無いが、いつもなら気にならない小言も今は気になってしまうのだ。手足は若干震えている。剣の重さや防具の重さを考慮に入れてもおかしい。やはり心理的な物である事は明白であった。

 

 「――!」

 「っ!来る!」

 そんな俺の葛藤を余所に、スライムが俺を認識したのか勢い良く飛びかかって来た。それはあの日のスライムと同じような動きだった。あの日と同じように放物線を描いて俺の顔に向けてまっしぐら。ただ今回違うとすれば、

 「同じ手は食わねえ!」

 飛んできたスライムに対して寧ろ間合いを詰めて攻撃をいなす。それと同時に抜いていた剣でスライムの体を撫でる様に切りつける。

 「!」

 スライムは予想外の攻撃だったのかぷるぷる体を動かしていた。

 「そっちが来ないならこっちからいくぞ!」

 

 少し低い姿勢を取りながら間合いを詰めていき、良い頃合いで一気に加速する。

 「はあっ!」

 頭上から振り下ろした剣は確実にスライムの体を捉えた。手応えのある一撃だった。スライムの体には傷のような物は付いていなかったので少し不安になったが、動かなくなった所を見るに、どうやら倒せたようである。


 「やったのか…?」

 何というか実感が無かった。自分をあれだけ苦しめ、ましてや一瞬とはいえ、三途の川が見えたような相手に僅か二太刀で快勝したのだから。

 「おめでとうレント」

 「おめでとうございます!レントさん!」

 二人の祝福の声で少し現実に引き戻されると共に嬉しさが込み上げてくる。

 「よかった…!」

 自分がやってきた事は無駄では無かったんだと証明できた気がする。本当に小さな一歩。でも凄く自信に繋がる出来事であった。まだ今日の依頼を初めてさほど時間は経っていない物のもう既に自分としては一日の目標を全て達成したような気分であった。


 「さてレントもしっかりスライムを倒した事だし本格的にクエストをこなしていこう」

 「はい」

 いやーでもこの世界に来て初めて単独で魔物を倒せた…!やっぱりこの世界で楽しい嬉しい冒険ライフを送れるようにこれからも頑張らねば!


 「おーいレントさーん作戦決めるよ?」

 アカネが俺を呼んでいる。

 「おっとすまん」

 「じゃあ基本的には私が前衛。レントとユイが後衛って形ね」

 ふむ。実に的を得ている陣形である。

 アカネは剣士で身体能力に優れている。ユイは魔法が得意で援護するのに向いているだろう。そして俺はそこに居るだけで良い。

 そこに居るだけでいい……


 「いやいやいや」

 ちょっと待ってくれ。確かに俺は戦闘能力がほぼ無いとはいえスライムは倒せる。魔物相手の戦闘も沢山しなくては強くもなってはいけない。

 弱いからこそ頑張って経験を積まねばいけないんだ!!

 「当然レントにも戦って貰うよ。アタシだけでは死角もあるし。ユイに攻撃が届かない様にすることと、間合いを適正に保つことを忘れないで」

 「おう」

 そう言うことなら良かった。出来るだけ頑張りつつ、そしてあまり深入りしすぎないポジションを保ち続ける…これはプロゲーマー時代の感覚も役立ちそうな予感がする。

 「よしじゃあ気合い入れていこう!」

 「「おー!」」

 アカネに続いて俺たちも気合いを入れる。


 しっかり冒険者やっていくぞ!




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