十六話
翌日俺たちはギルドに集合していた。昨日アカネが言った通りクエストを受けてみようということである。
「これなんかどう?」
「ええ。私は良いと思います」
アカネとユイが依頼書を見て頷いている。依頼書には『フリッツ草原に置ける魔物の討伐』であった。
「フリッツ草原?」
「うん。レントが薬草群生地の報告してたでしょ」
アカネに言われて頭の中に思い浮かべる。
「その辺一帯の正式名称がフリッツ大草原。因みにレントと初めて会った場所もフリッツ大草原」
「ほへー…」
最初に会った場所…つまりは俺がスライムに窒息させられそうになっていた場所。群生地はそこから一キロぐらいは離れていると思う。大と言うだけあって中々に広い草原地帯なのであろう。だからこそ俺の様にくまなく薬草採集でもしないと薬草の群生地に気がつかない程に広く、植生等の日々の変化にも広すぎて気がつかない事は想像が付く。
「じゃあ申請してくるよ」
俺に説明を終えるとアカネは手早く書類をまとめ、カウンターへと向かった。因みに受付は以前少しお世話になったフラクシアさんであった。
「アカネさんお久しぶりです」
「こんにちはフラクシアさん」
「知り合いか?」
少し離れた場所の椅子に腰掛けているので、二人の会話は聞こえないが親しげな様子を見るに、どうやら顔見知りのようである。
「まあ、ここに来て半年近くになりますからね。殆どの受付の方とは顔見知りですよ」
「そうか。結構長いこと滞在してるんだな」
冒険者というとお宝探して色んな所飛び回ってたりするイメージもあったけど、ユイ達は定住して仕事としてこなしているのかも知れない。でも定住というよりは宿を借りたりしてるし、長期滞在っていう方が合ってそうである。
「冒険者の人って旅好きだったりお宝好きの人も結構居るので、一カ所に留まる人はだいたい何かしらの目的が有るんですよね」
「へーていうことはユイ達も?」
この付近に何かしらの宝でもあるのだろうか?
それとも何か珍しいモンスターを狩って名声を高めたいのであろうか?
そんな事を考えていると、ユイは少し苦笑した。
「私達はどちらかというと何となく滞在しているって感じですかね。ここに来るまでは結構転々としてたんですけど」
「居心地が良いって事かな?」
「そうなんですよね…ご飯も美味しいし…」
そう言うとユイは遠い目をしている。…どうやらここに来る前は口に合わない料理を食べていたのかも知れない。何というかかわいそうな気持ちになった…
「おすすめしたい屋台があるんだけどさ」
「屋台ですか?」
あれ…?もしかしてこの世界は屋台という言葉は無かったのか?
「屋台っていうのはだな」
「屋台が何かは知ってますよ」
「そうか」
おお。どうやら俺が思ったことは杞憂で済んだようだな。
「何を売っているんですか?」
「フラダ鳥の串焼きだよ」
「フラダ鳥ですか…初めて聞きました」
ユイも初めて聞いたのか…まあ、知らない事があっても不思議では無いわな。俺だって外国の料理について全く知らない物もあるし。ユイにとってはここは出身の国では無いからそう考えると変では無い。
「今度食べに行こうよ」
自然とそんな言葉が出ていた。
ユイは俺のそんな言葉を聞くと嬉しそうに頷いた。
「はい!アカネも誘ってみますね!」
「ん?アタシがどうかしたのか?」
と、どうやら受付を終えたアカネが帰ってきた様である。
「ん?今度フラダ鳥の串焼きを売っている屋台に行こうって話になっててな」
「へぇフラダ鳥かあ…懐かしい」
ん?懐かしい?以前から食べたことのあるような口ぶりである。というか最近は食べてなかった食事を思い出しているような感じだ。
「ああ、故郷でよく食べてたからね」
アカネは俺の心の声に答えるかの様に話す。というか俺の顔が不思議そうな、何か聞きたがっている様な顔になっていたんだろう。
「食いに行くか」
「うん。もちろんだ」
アカネは少し微笑んで頷いた。二人とも少し喜んでくれたみたいで何よりである。
「よしじゃあ出発しよう」
「OK」
「はい!」
初めての魔物の討伐依頼をこなすとなると感慨深い物がある。恐らくこれからもこなしていく内にこう言った感情はなくなってしまうのかも知れない。でも初心の頃のこの感動を忘れずに邁進していきたいと思うレントであった。
「ユイ…なんでレント出口の前で握りこぶし作って『くう~!』みたいな顔してんの?」
「まあ、レントさんですから。はは…」
あのお二人さん聞こえてるんですけど。わたくし格好よくモノローグ決めていたのになんか悲しいんですけど。
あと、ユイさんあきれたように笑わないで!アカネからなんか言われるより悲しいよ!