十四話 フィジカル最弱だとしても 前編
なんかぽかぽかしてねむたい。
めーっちゃねむい。
「レント!!レント!!!」
「うあああああ!???!?」
いきなり大声で呼ばれた。疲れた体にキンキンと声が効く。
「なんだアカネか…」
「何だってなによ…もう…」
アカネの顔を見ると少し涙目になっている。何やら心配させてしまったらしい。ここまできてぼけていた俺の頭が状況を理解し始めてくれた。
「そうか…俺はシルディランドと戦って…」
シルディランドとの戦闘はとてつもない死闘だった。既に消耗していたシルディランドとアカネは互角の打ち合いを見せていた。ただ途中から、シルディランドの底なしにも思える持久力に押され初めて…何とかシルディランドの動きを制限して倒せた。ただ最後の最後までシルディランドはアカネを道連れにしようとしていた。結果俺が無理矢理な攻撃でとどめを刺す形になった。いや正確に言えばとどめを刺したと言うよりは、最後の一撃を放たせないようにしただけというとこだろうが。
「どれくらいの期間俺は…」
どれ程俺は眠っていたのだろう。ふと気になったのでアカネに聞いてみる。
「約一週間だよ」
「そんなにか…」
一週間も倒れていたのか…そりゃ心配もするわな。そういえばユイの姿が見えない。
「ユイは!?ユイは…ぐっ!」
「レント!?まだ安静にしなきゃ!」
少し手を動かしただけで脇腹が痛い。やっぱり骨が折れているだろうし、まだ治りきってはいないんだな。でもユイはどうしたんだろう。シルディランドは倒れたんだし大丈夫だとは思うんだけど…
「ユイならシルディランドを倒した日の内に目を覚ましたよ怪我もレントより軽傷だったし」
「そっか…」
安心した。折角戦ったのにユイが無事でなかったら、俺に取って意味は無い。でもシルディランドとの戦闘が激化する前に離脱したのがかえって良かったのかも知れない。
「レントはまだ治ってないから、安静が必要だよ。治癒魔法は掛けてあるけど当分は宿で過ごした方が良い」
「そうか…」
どうやら治癒魔法とやらも万能では無い様だ。あくまで静養は必要なのだ。
「それにレント、無理矢理な魔力の使い方したでしょ。あんなの体壊してもおかしく無いから。基本も無いのにあんな魔法…レントがこんなに眠り続けたのも、怪我やシルディランドによるものよりもあの一撃を出した反動なんだよ?」
アカネは真剣な目で俺に語りかける。アカネのいつも説教するときの様な棘は無いが寧ろ真剣味が凄かった。
「…もうあんな無茶なことしないで」
「すまん」
アカネは俺の手を握り俺をじっと見ながら語りかける。アカネの小さい手には包帯が巻かれシルディランドとの死闘が思いだされる。こんなに傷ついてもなお俺の心配をするアカネの真剣さに、謝る以外の言葉が見つからなかった。何となく目を合わせていられなくなって俺は俯く。
「でも…」
アカネ小さく区切って話を続ける。
「本当にありがとう…私と一緒に戦ってくれて…!」
アカネの俺の手を握る力が強くなる。感謝するのは俺の方だ、アカネ無しにはシルディランドを倒す事は絶対に不可能だった。最後の一撃だってシルディランドが瀕死を超えて絶命している状態だったからどうにかなったわけで。
そこまで頑張った多くの冒険者とアカネとユイの力があってこそなんだ。
「シルディランドが私に向かってきた瞬間私は死ぬんだって思った…もう動けなかったから」
俺は黙ってアカネの話を聞く。
「でも不思議と怖さは無かった。これまでの…私がしてきた事の報いだって思ったから」
報い…アカネはそういった。こんなに根性があって気が強くて…底なしに優しい少女が受ける報いとは一体何があるんだ。でも、俺はアカネの全てを知ってるわけじゃない。俺だって少なからず話したくないこともあるし、アカネも何か背負っているのかも知れない。俺が異世界から来たように、俺の知らない過去が。ただ今はそんな事はどうでも良い。
「でもユイはどうなるのって…まだユイと冒険したいこともあるし、それに私にだってやりたいことは沢山あるそれが出来なくなる事が悔しくて…!」
気づいたらアカネは泣いていた。決してシルディランドという魔物にも怯まなかったアカネが、だ。それだけアカネとユイは苦楽をともにしてきた大切な仲間なのだろう。
「あなたのスキルが無かったら、あの土壇場でシルディランドにレントが一撃を入れていなかったら、私もユイもここにはいなかったかも知れない…だからこそあんなむちゃな事しないでって…ああもう…そういう事が言いたいんじゃないのに…」
アカネは一人称がずれてしまうほどにしっちゃかめっちゃかだった。でもアカネの気持ちは全部伝わった。綺麗な言葉じゃなくても良く伝わった。だから俺はちゃんと伝え返さなきゃいけない。
「俺はスライムに負けて死にかけた様な男だ。アカネとユイには助けてもらった恩がある。ここでシルディランドを倒すことでその恩に報いたかった。まさにお前ら二人は命の恩人だからな」
アカネも黙って俺の話を聞いている。
「でも、恩がどうかとかそう言うこともあったけど、単純に二人を助けたいって…そう思ったんだ」
「…!」
アカネは一旦止っていた涙がまたあふれてきた。アカネは意外と涙もろいのか?いや…そうじゃ無いよな。本当に感謝してくれているからだよな。こんなアカネとユイだからこそ俺は助けたいと思ったんだ。死にそうな俺を助けてくれた、そしてあったばかりの俺にこの世界について沢山教えてくれた。何も自分たちには利益なんて無いはずなのに。
「だからアカネに感謝して貰えたらそれで十分な対価なんだ。だから泣かないで初めて会ったときのようにツンツンしててくれよ」
いつか二人に並べる冒険者になりたい。俺の中でやりたい事はあっても明確な目標は無かったのに、いつの間にか出来ていた。だから二人には元気でいて欲しいし、笑顔でいてほしい。折角救ったのに泣かれてたんじゃ、なんだかねぇってな。
「うぐっ…泣いてなんか無い!バカレント!!」
そういうと握っていた手を離し涙を拭った。そうだアカネはこうでなくてはな。
「全くなんでレントはこんなにかっこつかないのかなあ…」
「しゃーねーよスライムに負ける冒険者なんだからな!」
俺はスライムに負け、シルディランドに勝った意味が分からない男だ。
「だから意気込んで言うことじゃないでしょ…」
「それもそうだな」
でも生きている。まだ魔法もろくに使え無くても、まあこれから覚えれば良い。気がかりが無くなったら腹が鳴った。そういえばお腹が空いてきた…一週間なにも食べてなければそうなるよな。
「ははっ…全くレントは…アタシが朝食持ってきてあげるからレントは待ってて」
「はーい」
「全く…ふふっ」
「ん?どうした?」
なんかアカネが笑った気がしたが気のせいだったかな?
「いーや何でもなーい」
「そうか…」
少し気になるがまあいいや。アカネもいつもの調子完全に戻ったな。うん。これの方が調子が狂わなくて済む。
「…ありがと」
アカネは俺の部屋からでた。出るときに何か言っていた気がするがよく聞こえなかった。まあ、大事なことじゃないはずだしいいっか。