十三話
「グギャオオォ…」
シルディランドのこれまでに聞いたことの無い様なうめき声がこだまする。それも頷ける一撃だと思う。どういう原理か分からないが恐らく魔力で作られた炎を纏い剣が纏いシルディランドの脇腹に深々と刺さり、その後超火力の極炎が横に柱状となって貫いた。とんでもない威力だった。
「うぐっ…」
炎の余波で近くに居た俺まで熱い…
「ぐはっ!?」
攻撃の余波で俺は少し吹っ飛んだ。空を飛ぶ気分とはこういうものなのだろうか。
受け身になりきれてない受け身を取るが…くそいてえ!!
これ絶対肋逝ってるわ。
攻撃を終えたアカネは肩で息をしているが立っているのもやっとのようだった。もはや攻撃は愚か、動く事もままならない様子だった。
シルディランドもその瞳からは光が消えている。生きている様には見えない。
…え?
「キシャ…キシャアアアアアア!!!!!」
くちばしが少し動いたと思ったらとてつもない咆哮と共に立ち上がった。
体に大穴が開いているのにまだ獲物を求めている。アカネによる攻撃で体の中心にはとてつもない風穴が開いている。それだけではない。魔力の余波によって、その傷口だけでなく前進にまで炎が燃え移っている。その姿はさながら不死鳥の様であった。何という生命力…まだ生きているのか。
「いや…違う!!死んでる!!」
正確に言えば動いているから死んでいるというのが正しい表現では無いのかも知れない。でも明らかに生命力といったら良いのであろうか、そういった物は感じない。動いているのに確実に死んでいると断言出来る。今は動いているが後数秒で地に伏すはずだ。
「キシャアアアアアア!!!!!」
アカネに向かってシルディランドは突進して行く。己を殺した敵を許さないと。何という執念、いやもう怨念だ。不死鳥なんかじゃない。まさに地獄の鳥獣だ。
シルディランドの意思は明らかだった。己殺したアカネ道ずれにするつもりだ!!
「アカネ!!避けろっ!!」
シルディランドの突進は相当な威力に見えるが、当然先程ほどの速さは無い。アカネなら避けられるレベルのスピードだ。それに追撃は飛んでこないはず。正真正銘最後の一撃だろう。
しかし、アカネは俯いたままピクリとも動いてくれない。先程の攻撃で出し切ってしまったのか…!
それも仕方無い、そう言える程の威力だった。明らかに致命傷だし、今の状態がおかしいのだ。
シルディランドの執念がアカネを殺そうとしている。威力が下がっているとはいえ、このままではモロに食らって即死の未来だ。
「うおおおおおおお!!!!」
行くしか無い!この場で動けるのは俺だけだ。シルディランドまでの距離は幸い直ぐに間合いに入れる程度でしか無い。火力が出せるアカネをサポートするスキル『IGL』は今アカネが動けない状態だと
何の役にも立たない。まさに俺はただの人状態だ。
でも行くしか無い。スライムと戦ったぶりに腰に提げていた剣を抜く。心なしか前より軽く感じる。成長なのか…それとも火事場の馬鹿力なのか…そんな事は今更どうでも良い。
シルディランドは俺の接近にも目をくれずアカネに向かって行く。抵抗されたら怪しかったが、これならば攻撃が刺さる。
「くたばれ!シルディランド!!」
俺はアカネが大きくダメージを与えた傷口に向かった剣をぶっ刺した。…がシルディランドは止まってくれない。
「くそが!!」
ああ…やはりフィジカル最弱なんだ。体の内側さらけ出してる死に体の相手に攻撃してもこのざまか…
くそっ…くそおおおおおおお!!!!
俺が強ければ、もっと訓練していれば…俺の中でそんな感情ばかりが渦巻く。何処まで行っても俺は人頼みなんだ。NPGの時も重要な撃ち合いは仲間に任せて、シルディランドとの打ち合いはアカネに任せて。結果アカネは消耗しきって動けないままシルディランドにやられるんだ。そうして俺は生き残るんだ…
アカネにどんどんとシルディランドと俺は近づいていく。
「何馬鹿な事考えているんだ俺は!!」
アカネの姿が大きくなるにつれどうにか気持ちが持ち直せた。アカネとの約束、そしてユイを悲しませる様な結果にしてはいけない。
考えろ…考えろ…
剣が無理なら他の手段しかない。これまで俺がやってきたことは少なからずある。
図書館に通った、シルディランドの弱点も分かる。
『炎に弱い。火属性の魔法が得意とする者が居るパーティは…』
魔力の在処もつかんだ。
『静かな場所で、集中する。イメージが大切』
そうだ、負けるイメージなんかじゃ駄目だ。俺は最強…俺は最強!!手立ては一つしか無い。
「火属性の魔法をシルディランドの体内にぶちかます!」
出来るかどうかでは無い。タイムリミットは迫ってきている。でも焦らず、落ち着いて順序をたどる。魔力を体に循環させる。薬草採集の合間を見つけてはずっとやってきた。でも火属性魔法は未だ習得していない。でもやれるって思うしか無い。
まずはイメージ…でもどうやってイメージすれば?俺には魔法の唱え方も基礎も無いし。空想だけでは意味が無い。あくまで初歩がイメージなのだ。イメージの材料は、アカネのエルフレイムとエルフレイムブラストのみ…どう考えても自分には出来る気がしない。自分らしく思い描くにもこの土壇場じゃ頭が回らない。
いや…
『これが出来ればワシと同じように大魔法使いだ…炎は、』
ある!イメージしやすいのが!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
やるしかねえ!うさんくさくても、俺よりはずっと頼りになる。今のアカネを守りたいという気持ちも載せるには丁度良い!!
「炎は情熱バーニン!!」
心に情熱を滾らせる。すると体が死ぬほど熱い。
ぐ…意識が持って行かれそうになる。しかし、ここで耐えなければ何も出来ない。魔力が少ないのに無理矢理出そうとしているからなのか、詠唱に無理があるからなのか原因は分からない。少なくともアカネはこんなに苦しんで魔法を出しては居ない。
でもどうでも良い。シルディランドを止められれば。
魔力が俺の腕に収束していく感覚が分かる。ありったけ持って行け!
「はあああああああ!!エルフレイムブラストォオオオ!!」
腕から剣へ魔力が移る。その瞬間爆炎が炸裂した。俺の体からごっそりと何かが持って行かれる感覚があった。
明らかにアカネよりは威力は低い。しかし何が原因か誘爆したのかシルディランドの体内で炸裂した炎は俺のだせた威力よりも強化されていた。シルディランドがアカネに対して振り下ろしていた鉤爪はアカネに触れる紙一重で止った。
「キシャア…ア、アァ…」
俺の炎によって硬直していたシルディランドはそのまま鉤爪を振り下ろせずに力尽きた。
今度こそ動く気配は無い…
「やったぞ…アカネ…」
シルディランドが倒れたからか…安心したら力がはいらな…
「う…」
「レント…!!」
何とかアカネも立ち上がり、ボロボロの状態で今度は俺の心配をし始めた。
でも言葉を返す余裕すらも俺には無い…使えないはずの魔法を使った副作用なのか。
骨も逝かれている。ああ…何か眠たくなってきた。
「――!!レン――!!」
アカネが何か言っているがよく分からなかった。
シルディランドは地に伏した。しかし、それと同時に俺も力尽きた。アカネの声が遠くなっていき…そこで俺の意識は途切れた。