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十二話

 アカネが一気にシルディランドとの間合いを詰めた。

 と、同時に俺は後ろに後退し、シルディランドとの間合いを大きく取ることにした。とにかく俺は支援に徹する。間違い無く生きている事が大切だ。

 「はあっ!」

 アカネは凄まじい気合いでシルディランドへと斬り掛かる。アカネの剣撃をシルディランドは翼で受け止める。なんてことだ。あの翼は剣すらも通さないのか。いや若干傷ついてはいるな。でなければ、シルディランドがここまで疲弊し、ダメージを負ったりはしない。

 俺も剣は腰に提げているが、提げたままになりそうだな。これは。

 

 「うおっ!あぶねえ!」

 一人と一体の攻防で瓦礫が吹き飛んで来る。何とか避けるも、やはり近づき過ぎるのは良く無い。やれることはスキルでアカネを補助することと、

 

 「これでも食らえ!」

 手近にある瓦礫をシルディランドにぶん投げること位だ。

 全くダメージにはなっていないが、目潰しや若干の攻撃の軌道をずらすぐらいの意味はありそうだ。

 「アカネ左の払いが来るぞ!」

 「くっ!」

 アカネの死角からシルディランドが一撃を叩き込もうとする。しかし、そこは俺が見れている。その報告を聞いたアカネは的確に自らの体をコントロールする。アカネは相当手練れの冒険者なんだと思う。とっさに聞こえた俺の声から自らの判断までが尋常じゃない。

 というか、俺も報告はなまって無くて良かった。プロゲーマーの経験がここで生きてくるとはおもわなんだ。体が弱いなら声でカバー。基本だ。


 「おりゃ!」

 アカネの一撃を作り出す為に俺はできる限り、シルディランドに嫌がらせをする。鉤爪の攻撃の軌道に合わせて石を投擲、アカネが攻撃を打ち込みやすくする。とはいっても自分の思ったようには石を飛ばせないし、決め手にはならない。


 「うおっと!」

 シルディランドが少し間合いを取っている俺に対して迫ってきた。どうやら今のが癪に障ったのか俺にターゲットを変えてきた。

 早めに逃げる。躱せる自信が無いので攻撃の意思を感じたら間合いを保つ様にただ走る。しかし、シルディランドの方がやはり早い!翼の殴打が来る。まともに食らえば骨を持って行かれるか、当たり所が悪ければ即死もあり得る。食らうの覚悟で直撃だけさけるしかねえ!


 「キシャア!」

 「エルフレイム!」

 俺に対する翼の殴打と同時にアカネが何やら唱えると、アカネから火の玉がシルディランドに向かって放たれる。

 「キシャアアア!」

 直撃。シルディランドは呻き声を上げる。

 「うぐっ…やったか!?」

 アカネの援護のおかげもあって俺に対するシルディランドの攻撃カス当たりで済んだが、くそいてえ…骨折れてないよな?

 期せずしてシルディランドに隙が出来たように見えたが、シルディランドは未だ健在。苦手なはずの炎を食らっても獰猛な瞳のきらめきは衰えていない。寧ろ、自らの敵絶対に許さないという意思が強くなったように見えた。

 また、シルディランドはアカネに向かって行く。鉤爪の剣舞とアカネの連撃が交わり火花を散らす。

 薙ぎ、二連撃、袈裟切り。アカネはシルディランドの攻撃を様々な技で受けていく。二者の実力は伯仲している。

 「隙がねえ…」

 シルディランドの強さは攻撃力が高い事だけじゃ無い。それが今よく分かった。明らかに今意識は俺の方に向いていたはず。それでもアカネの攻撃に反応して俺に殴打した左翼にたいして、右の翼を防御に使っていた。獣の狩猟本能で戦っている訳では無い。俺らしく言えば戦闘IQが高い。


 怒りに任せて俺に向かってきたとばかり思っていたが…そうじゃない。シルディランドなりに邪魔な敵を倒すべきと考えて向かってきた。

 ただの獰猛な獣って訳じゃなさそうだ。手強い。強いだけじゃねえ。

 そんな事を考えている間もアカネとシルディランドは凄まじい攻防を魅せている。

 「っ!」

 「アカネ!」

 シルディランドの鉤爪の連撃から翼での払い。アカネはそれまで反応していたものの今回は反応しきれずに食らってしまった。

 「ぐああ!!」

 アカネの体が跳ねる。そこに間髪入れずにシルディランドが鉤爪を振りかぶってアカネに襲いかかる。俺には反応する間も無かった。

 「ハアアアアアッ!」

 気合いでどうにかアカネはすんでの所で避けきった。

 今は完全に危なかった。伯仲していた両者の力の差は開き始めた。

 「アカネ!」

 シルディランドとの間合いが開いた瞬間俺はアカネに駆け寄った。

 「レント…」

 アカネは剣を杖の代わりにして立っている。本当に立っているのもやっとに見えた。

 明らかだった。アカネとシルディランドは一時的な戦闘能力は同じでも持久力は圧倒的にシルディランドが勝っていた。いまアカネが休んでいる間も、シルディランドは次はどう攻撃するのか思案している様なうなりを上げている。

 隙が無い。シルディランドを倒すには油断を誘うとかそういった類いの物は考えるべきじゃ無い。物理的に動きを封じるしか無い。


 「ごめんレント…ぐっ!」

 「大丈夫か!?」 

 今の一撃で何処か痛めてしまったのだろうか。苦しそうだ。

 「一人で戦うなんて啖呵切ったのに…レントが居なかったらまずかった」

 どういうことだろうか。俺がいなかったら心が折れていたのだろうか?アカネは何処か悲壮感を漂わせながら剣を握り直す。

 「シルディランドは強かった…」

 そう言うとアカネは俺に左手を向けた。

 「ユイを連れて逃げて…レント。今ならアタシがここで耐えられる」

 違かった。心が折れるどうこうじゃなかった。ユイを助ける為にも俺が必要だったと言う話だった。何処までもこいつは優しい。…でも俺はその言葉には賛同できねえ!!


 「アカネ俺はお前と約束したはずだ生きて帰るって。その約束はやぶらせねえ!!」

 「…!!」

 何を俺は言っているんだろうとも思う。全然実力が伴っていないのにとも。でも俺は怒っている。そんな自分を犠牲にするような事を言っているアカネに。気持ちは止められないもんだ。後でアカネには怒らないと気が済まない。

 だが、それよりもシルディランドてめえは絶対許さねえ。アカネにキレる前にまずお前は地獄送りだ。

 …もちろんアカネの手によってな!!!!(泣)

 何とも格好が付かねえ。とにかくアカネは限界だ。これ以上の持久戦はこりらがジリ貧。ならば大勝負をするしか無い。

 

 「アカネ…後でその馬鹿げた考えは捨てさせるけど、まずこのくそったれな鳥公をしばくぞ」

 「何をいって…!」

 「策がある」

 アカネがシルディランドと戦っていて何もしていなかった訳じゃない。しっかり作戦を練るだけの時間はあった。凄い危険な賭けだけどやるしか無い。絶対に成功させる。

 「アカネ何秒動きを封じればあいつをやれる?」

 「二秒あれば…」

 十分だ五秒は封じれる見込みがある。


 「アカネ!!」

 「はいっ!!」

 俺の大声でビックリしたのか何故か敬語になっている。可愛いですね……げふんげふん。

 「お前の一撃に全てを託す!!必ずアカネならやれる!」

 アカネが後ろ向きになってたらこの作戦は成功しない。俺も全然覚悟は決まりきってないけど、内心ちびりそうだけどアカネを鼓舞する。

 「俺を助けてくれ!!!」

 「レント!?」

 驚いた様にアカネが叫ぶのも仕方が無い。俺はシルディランドに向かって全力で向かって行ったのだから。

 「――――!」

 アカネが何か言っているが聞こえない。

 もう心臓がバクバクしてなんも分からない。でも思考と視界だけはクリアになっていく。

 


 ――この感覚久しぶりだ



 「キッシャアアアアアアアアアアアア!!」

 シルディランドは俺の姿を捕らえ、臨戦態勢に入る。間合いに入ると翼の殴打が飛んでくる。

 「くっ!」

 俺はギリギリの所で躱す。予めシルディランドの攻撃してくるであろう軌道を読んで攻撃に来る前から体をずらす。相手がピークしてくる位置を読むみたいなもんだ。決め打たなきゃ避けられない。なんせ俺は弱いもんで。


 シルディランドは避けられたのが意外だったのか左で急いで追撃をしてくる。

 …これは避けられない。

 「ぐああああ!!」

 いってえ…もろに入ったはずじゃ無いのに、肋何本か折れたかも知らん、

 ただ、下は少し柔らかかった。辺りを見渡すと俺が戦う前にほっぽり出した特大の薬草がふんだんに詰まったバックが転がっていた。どうやらクッションになっててくれたらしい。

 シルディランドは吹っ飛ばした俺の事を追撃してくる。必殺の意思を込めて鉤爪を振り上げる。


 「そうだよな…やっぱり鉤爪が一番自信のある攻撃だよな」

 「レント!!!」

 アカネは泣きそうな声で俺を呼ぶ。

 そうだな…確実に死ぬな。


 「ありがとう。やっぱりお前は賢い魔物だな」

 手近にあったバックを思いっきり俺はシルディランドに向かって投擲した。するとシルディランドは思わぬ攻撃を振り上げていた鉤爪で対処した。結果中に入っていたとてつもない量の薬草がシルディランドの顔面に自らの突進と鉤爪の威力により直撃し、鉤爪は勢いを落とすことは無かったものの俺の手前で空振りに終わった。

 俺はこれを狙っていた。もし鉤爪で攻撃してこなかったら詰むだろうが、シルディランドの抜けのなさ、油断しない性格から必ず自信のある鉤爪で来ると思っていた。

 空振りに終わった攻撃はユイに放った時よりも激しく地面に突き刺さっていた。


 これで終わりだ。シルディランドが!


 「アカネェ!!!!!決めろおおおおおおおお!!!!」

 「…!」

 アカネはそれまでの俺を心配するような表情を直ぐさま切り替えて一気にシルディランドへ肉薄した。アカネの剣は熱を帯び美しい炎を纏っていた。

 「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 シルディランドはもがく。本能的にあの攻撃はまずいと、食らったら致命傷だと告げていたのかも知れない。だが無情にも足は抜けなかった。

 「我が剣よ!我の魔力に応じよ!!」

 油断しないならば、動きを封じれば良い。例えそれが俺自身の力で無くとも。もがくシルディランドにアカネの渾身の一撃は完全に脇腹を捉えた。その一閃はこれまで堅牢な翼に守られ続けた弱点を突いた。アカネの剣は脇腹深くまで刺さったがまだ足りない!どんだけしぶといんだこいつ!!だがまだアカネの攻撃は終わっていない。アカネの体からなにか…魔力だ。とてつもない魔力が剣に注ぎ込まれていく。

 「吹っ飛べええええええええ!!エルフレイムブラスト!!!」

 これが私の全力だ!と言わんばかりの絶叫は、詠唱に応じるように剣から轟音をあげ業火になり、シルディランドの体を横一文字に貫いた。

 爆炎必撃…気迫に違わぬアカネの一撃はシルディランドの胴体を横一文字に穿った。

 

 








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