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十一話

 「俺のスキルはアカネの能力を引き出す効果があるんだ」

 「だからあの瞬間力が湧いたんだね…」

 アカネはユイを助けるコンマ数秒前、ほんの少しではあるが加速した。

 その結果あと一歩足りないように見えたユイまでの距離を詰め切ってみせた。まさにミラクルとしか言いようが無かった。 

 でも奇跡でもまぐれでも何でも良い。とにかくユイが助かったという事実があるだけだ。

 

 「詳しい事は後で話す!それより今はこいつを倒す事に集中しろ!」

 先程のユイへの攻撃が外れたことで勢い余ってシルディランドの足は舗装された街道に突き刺さっていた。シルディランドはもがきながら、足を引き抜き自身の体を低空まで持ち直す。先程は足が刺さったその状態から、アカネに翼での強打を試みていたのだから恐ろしいちゃありゃしない。

 体勢を整えると、鳥獣はその二つの瞳を俺たちに向ける。まだ交戦するには距離があるが、シルディランドは次のターゲットを俺たちに定めたようだ。

 

 「本当に戦うの…?」

 アカネは心配と色んな感情が混じった声で俺に問いかける。

 言いたいことは分かる。俺にはこの戦場では戦えない、力不足だと。

 「アカネ一人で勝てるのか?」

 「それは…」

 アカネは口ごもる。宿屋でのハキハキとした彼女の姿からは想像も出来ないような返答であった。

 「俺は勝てるとは思わない」

 「そんな事ない!」

 「根拠はあるぞ」

 根拠は二つある。まずはアカネの状態が万全では無い事だ。

 アカネの防具を見ると所々欠けていたり、服が破れ、肌が見えている部分もあった。鉤爪の攻撃を受けたのか、血が出ている所もある。まともに食らったわけでは無いのだろうが、幾度と無い攻防で体にダメージが入っているのはその痛々しい見た目と、疲労の蓄積した表情を見れば俺でも簡単に分かった。

 こう説明すると、

 「シルディランドだってアタシと一緒だよ。アタシや他の冒険者達からの攻撃を食らってたし…」


 シルディランドもただでは済んでいなかったようで、アカネの言うようにシルディランドもかなりの疲労とダメージは負っているようであった。

 だがそれがある意味では、アカネはシルディランドに勝てない事の証明でもあった。

 「それだけの人数が居ながらシルディランドは倒れていない…ならアカネ一人じゃ尚更無理だ」 

 「ぐっ…」

 束になっても倒せなかったのだから、アカネが挑んだ所で同じ結果になる。シルディランドが進んできた道に倒れている冒険者達がそれを証明している。


 「それにさっきまでユイと連携してギリギリ耐えていたんだ…」 

 先程まではユイと二人で戦っていたにも関わらずシルディランドを打ち倒す事はおろか、あと一歩でユイの命が失われる寸前まで追い詰められた。これが一番の決め手となる俺の中での根拠だった。

 だからアカネになんと言われようとも、ここは退く訳には行かない。


 「アカネの言いたいことは分かる。フィジカル最弱と言われてもおかしくない様な結果を聞いて不安なのは分かる。なら俺の事は信用しなくていいから、俺のスキルと今起こった事実を信じてくれ!」

 大事なステータス。冒険者にとって大事な基礎能力が軒並み低い事はアカネも不安なのだろう。それは重々承知している。ユイの代わりは到底務まらないかも知れない。だがユイには無いスキルが俺にはある。戦えなくてもこの場にとどまる事で、アカネの戦闘能力をほんの少しではあるが挙げる事が出来る。

 一か八かやらなきゃいけない。というかここまで来たらやるしか無いという事実もある。

 「というか、もう俺ここから逃げれないんだよね」

 「はあ!?」

 アカネが驚いた様に声を上げるが言葉通りの意味だ。

 シルディランドとは未だ戦うには距離があるが、逃げるには近づきすぎた。だって俺素早さもすっげー低いし()

 仮にここでアカネを置いて逃げようとしたところで、俺の方にだけがっつり来られたら普通に死ぬ。いや、アカネが足止め出来る可能性が高いからそうはならない可能性の方が高いけど、今はアカネを説得するためにもそんな事は言わない。

 アカネが納得出来る、するしか無いようなそれっぽい理由を言えれば良いだけなのだ。フィジカルが弱いことが、この場面で説得の材料に出来たのだ。

 「だからシルディランドを倒すしか無いって訳よ」

 キラリーン。多分効果音をつけたらこんな感じになる様な言い方をした。緊張した場面には不釣り合いだが、アドレナリンでおかしくなってるかも知れない。

 

 「だから頼む!俺を救うためにも一緒に戦ってくれ!」

 「ああ、もう!!」

 アカネはシルディランドに向き直ると鞘に収めていた剣を抜いた。どうやら不満ありありでも、俺と共に戦うしか無いと腹を括ってくれたのだろう。

 「そこまで言うなら何か作戦はあるんでしょうね」

 アカネはシルディランドに目を向けたまま俺に問うてくる。

 「ない!」

 「元気よく言うことじゃないでしょ!」


 鋭いツッコミが入った。折角盛り上がった所に水を差すようだが仕方無い。アカネにはすまんすまんと謝っておくことにした。謝っておいたところで、事実俺には何の作戦も無い。ただ、勝機はあるとみている。まあ、人頼みなんだけどね。

 「アカネには作戦とか無いのか?」

 「ある訳ないでしょ!レントと一緒に戦った事なんて無いんだし!」

 当たり前なこと言わないでよねとでも言いたげである。というか顔がそういっている。

 「でも、シルディランドを倒す手立てはあるんだよな」

 「それは…そうだけど」


 俺の勝機というのは、アカネが諦めていないということだった。アカネは疲れているものの、顔に悲壮感は漂っていない。先程まで一人で戦うと言ったりと勝てないと悟った人間の言動とは思えなかった。どちらかというと、分の悪い賭けに命がけで挑むという気迫を感じた。

 諦めていないからというよりかは、何かシルディランドを倒す手段をアカネは持っていると俺は思ったのだ。


 「シルディランドに大きな隙があれば、致命傷になり得る一撃を叩き込めると思う。でも、魔力的にも体力的にもシルディランドを倒す攻撃は一回しか撃てない」

 「隙が出来れば良いんだな?」

 俺はアカネに答える。それを聞いてアカネはニッと笑う。

 「でも作戦は無いんでしょ?」

 「作戦はアカネ自体だ。俺がスキルを中心にサポートする」

 ここまでの戦闘での疲労を無理矢理補填する事が俺のスキルならできる。万全のアカネにはほど遠いものの無いよりはマシだ。分の悪い賭けなんだ。使える物は何でも使わなければ。

 「なるほどねつまり…」

 「「隙は俺(私)達で作るって事だ(ね)」」

 アカネと顔を見合わせて頷く。作戦は決まった。作戦と言うには大雑把すぎるし、頼みはアカネの大技のみ。しかも俺はそのアカネ自身のある一撃を見たことも無い。不確かな物に命を賭けているのだ。それはアカネも一緒だ。

 この際余計な事は考える必要はない。

 プロゲーマーやってた頃も、試合になったら自分たちが最強だって思って戦う。じゃなきゃ勝てる物も勝てなくなる。


 「前線は基本的にアタシが維持する。…いいよね」

 「もちろん。寧ろそうして貰えないと死んじまう」

 どれだけ覚悟が決まっていても、事実を冷静に見れる余裕も持っていないと駄目だ。俺自身はアカネをスキルで強化しつつ、攻撃出来る時に仕掛ける。

 生きていることでアカネを強化できるし、攻撃はカスみたいなもんだし、無理する必要はない。

 まさにいのちだいじに、だ。


 「ははっ。かっこつかないなあレントは」

 アカネにつられて俺も少し笑顔になる。良い意味で力が抜けた気がする。 

 「しゃーねーだろ。事実なんだから」

 

 シルディランドは遂に歩みをこちらに進めてきた。アカネがユイとの連携を持ってしても超えられなかった壁ではあるが超えるしか無い。


 「死なないでよレント。約束だから」

 横顔しかは見えないが、表情は真剣そのものだろう。アカネも死なせないし、ユイもつれて帰る。そんな気持ちを込めてアカネに答える。

 「ああ、生きて帰ろう!!」



 キッシャアアアアアアアアアアアア!!



 シルディランドが咆哮する。

 それが、俺のこの世界での二度目の戦いの火蓋を切る合図となった。




 





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