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十話

 外に出ると辺り一帯に土煙が立ちこめ何も見えない。

 かろうじて、足下が見えるが、建物の破片であろうか、砕けた石レンガが転がっている。

 

  キッシャアアアアアアアアアアアア!! 

 

 「ぐっ!」

 なんて咆哮だ…恐らく今回の件の元凶が発しているものだろう。俺が戦ったことのあるスライムとは比較にならない、いや比較するのも失礼なほどに『格』の違いを感じる。間違い無く俺が戦えば一瞬で捻り潰される、そんな気持ちにならずにはいられなかった。


 「冒険者殿!」

 衛兵の彼が俺を呼ぶ。

 「鍛冶屋の店主から聞きました。あなたは新人冒険者だそうですね」

 おやっさんも衛兵の後ろから続いて慌てて店から出てきた。

 「店主と共にお逃げください!彼の者は我々がどうこう出来るものではありません!」

 

 俺もここから立ち去るべきだと思う。そう言葉を返す前に土煙が晴れていった。

 約30m程離れているにも関わらずくっきりとシルエットが分かった。それほどにまで大きい体躯。おおよそ俺の二倍近い体長はありそうだった。

 「なんだぁこいつは…」

 鍛冶屋のおやっさんが驚いた声を上げる。そして完全に土煙が晴れ、やっと俺の目にもその正体が分かった。


 「…!!」


 俺は絶句してしまった。こんな街のど真ん中にでて良いのかという気持ちと、生息地的にこんな場所に何故居るのかと。

 大きな体躯に二本の足。その足は刀かと見まごうほどに鋭い鉤爪が光を反射していた。それは翼を大きく広げ再び口を開けた。

 「キッシャアアアアアアアアアアアア!!」

 間違い無いおやっさんはあの反応からするに見たことが無いのだろう。しかし俺はこいつを知っている。

 「シルディランド…!!」

 丁度見図鑑でみたあのシルディランドだったからだ。

 「冒険者殿もご存じでしたか」

 「図鑑でしか見た事無いですが…」

 どうやら衛兵もシルディランドを知っているようであった。

 「私も王都で十年ほど衛兵を務めており居りますが…近場でシルディランドを目撃した例は聞いておりません。実物は初めてです」


 やはりこの付近に生息している魔物では無い様だ。

 「現状近くに居た冒険者の方々に助力を仰ぎ、シルディランドが更に侵攻していくのを抑えてくれています!」

 どうやら誰かが戦っている様だ。恐らく衛兵は時間を稼いでくれている間に住民を逃がそうとここまで急いで来たのだろう。そう考えればあの焦りようも合点が行く。

 「騎士団はどうした!」

 おやっさんは思い出したように衛兵に問う。

 「騎士団の大部分は東の街道で魔物の掃討作戦を行っており…非番の者達に援護の要請をしましたが到着までは後十数分かかると思われ、故に私は住民を逃がしつつ助力頂ける方をさがしているのです」

 衛兵も苦しそうな顔で答えた。

 もし、俺が戦えればどれ程良かったか。しかし、まだ出来る事はあるはずだ。住民を逃がすことや協力を仰ぐように言って回る事位は出来る!

 「衛兵さん!俺も住民を逃がすのを手伝わせてください!」

 「ありがとうございます!正直私だけでは大変で…助力感謝致します」

 そうだここは俺のいる場所じゃない。俺は俺らしくサポートに徹しよう。

 「心苦しいですが、ここは彼女達に任せて彼女達の為にも救助を早く呼びましょう」

 彼女達…戦ってるのは女性の冒険者なのか。衛兵に言われてシルディランドと交戦している冒険者に目線を戻す。

 「なっ…!」


 「どうされたのですか!?早く行きましょう!」

 衛兵に急かされるも、俺の足は動かない。いや動かせなかった。

 戦っているのがアカネとユイだったからだ。

 顔はぼんやりとしか見えていないが、確実にそうだった。


 何でよりにもよってあいつらなんだよ…!つーかどれぐらいのアカネとユイはどれぐらいの実力なんだ?くそっ…!

 「戦っているのが知り合いなんだ!それも大切な!」

 会話は1日しか交わしていない。でも命の恩人だ。それはスライムから救ってくれた事だけじゃ無く、俺の心も前向きにしてくれた。そんな二人が、あのシルディランドと戦っている思うと足が止まってしまった。

 「ならばこそです!貴殿もシルディランドの力は大まかにであってもご存知でしょう!!我々では何も出来ません!犬死するのが確実です!」

 衛兵のいうのが正論だった。


 

 「危ない!!」

 俺の声は二人に届く訳は無い。しかし叫ばずにはいられなかった。シルディランドの鉤爪による猛攻から、一転、死角からの翼による強打だった。アカネはその範囲から退く事が出来たが、反対側に飛び退いた、ユイは良く見えなかった。

 「キャアアア!」

 「っ!」

 叫び声だ。今のは明らかにユイの声だった。見るとぐったり倒れている。

 直撃したんだ。


 シルディランドはそれを見て取るや否や、鉤爪を振り上げた。

 「坊主!何を!!」

 俺はその場を飛び出していた。

 ああ、なんでだか分かんねえ!魔法も使えない、スキルも???だけ、戦闘の知識はゲームだけ、フィジカルも弱いなんもかんも勝てるわけが無い。でもこのまま見ているだけは、自らが退いて助けを求める事は出来ない!


 後悔しないようにと生きてきた。プロゲーマーになってまだやり残したことも沢山あったのに死んでしまった。だからこそこの世界では後悔しないように生きるんだ、魔法で暴れてやるんだってそう誓った。ここで死んでしまったらその願いは叶わない。

 

 でも…


 「後悔しない人生ってのは!後悔しない死に方を選ぶってことだああああああ!!」

 そうだ。ここでユイを助けに行かなかったら俺は大切な何かを失う。絶対に。

 日本でも俺の大切な仲間を結果的には、世界一になる前に置いてきてしまった。この世界でも、自分に取って大切な人を、命の恩人と永遠の別れを告げるわけにはいかないんだ。

 例えユイの身代わりに死んだとしても、後悔は無い。

 

 

 全力で駆ける。俺の限界を超えて、短距離の限界を。

 アカネも吹き飛ばされたところから、シルディランドの意図を察しユイの元に駆けだした。


 「ああ!」

 シルディランドの鉤爪に光が収束していく。ここで見たどんな攻撃よりも更に威力の増した攻撃が襲いかかろうとしている。シルディランドの必殺の意思を感じる。図鑑で見た八つ裂きという言葉が現実身を帯びて俺に浴びせてくる。

 「かはっ!!」

 届かない。シルディランドはどうやら振り下ろすタイミングに入ろうと身じろぎをしだした。お前の足では届かないんだと、現実は残酷な結果を俺に伝えようとしてくる。

 明らかに俺ではたりない。俺では駄目だ!


 あああああ!…誰かユイを助けてくれ!


 「アカネェ!!ユイを助けてくれえぇえええええええ!!!!」

 みっともないと自分でも思った。おやっさん達の静止を振り切ってユイを救う為に来たのに、最後は人頼みだ。

 アカネは俺よりは可能性はあるが…一歩足りなさそうだ。

 シルディランドは無情にもタイムリミットを告げる。


 「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 シルディランドが鉤爪を振り下ろそうとした瞬間。自分の中で何かが爆発した。

 力があふれ、思考が研ぎ澄まされほんの少しの全能感が体を満たす。魔力を流した時に近い感覚だったが別物だった。

 時間にして一瞬。でも明らかに変わった。

 次の瞬間、シルディランドの必殺の攻撃がスローに見えた瞬間、

 

 アカネが明らかにそれまでよりも素早いスピード駆け抜け、でユイを抱えて離脱した。

 


 「アカネ!ユイ!」

 シルディランドの攻撃で視界が再び悪くなったため。俺はもっと近づいて、声を掛けるが返事は無い。今度は視界の回復は早く状況が見えてくると、ユイとアカネは無事だった!

 一歩足りないと思われたが最後の最後でアカネが魅せてくれた。

 しかし、シルディランドも自信の一撃を交わされたことが頭にきたのか無理矢理翼の強打で追撃を心みる。予想外だったのか、ユイを抱えたアカネは気がついていない。

 「アカネ!右後ろに大きくバックステップだ!!」

 今度は俺の声がしっかり届いた様だ。俺の報告を聞いて、アカネはシルディランドの翼でのなぎ払いを躱す。

 アカネはシルディランドの攻撃範囲外にユイをそっと優しく横たえると俺の方に向かってきた。

 

 「レント!なんでここに?いやそれより今のは…」

 ユイを助けようとしたあの瞬間、明らかにアカネの動きは素早くなった。アカネはどうやら困惑しているようだが、俺には心あたりがある。

 「今のは俺のスキルだ」

 「レントのスキル!?スキル使えたの!?」

 「ああ、今さっき覚えた」

 「え!」

 俺も驚いている。あの土壇場で奇跡が起こるとは。どうやら俺はまだ抗えるようだな。

 

 「俺も驚いているよアカネ。だから落ち着いてくれ」

 


 ???だった俺のスキルのイメージは『IGL』に変わっていたのだから。






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