5.誰かの気配
馬車の中で揺られている時にシンティさんから質問をされた。
「そういえばサンデルさん、一つ質問いいですか?」
「なんだい?全然いいけど。」
質問ってなんだろう。質問されることなんてあったかなと思ったけど俺自己紹介も何もしてなかったな。この質問を答えたら自己紹介をしよう。
「サンデルさんはなんで急にアルディール王国に行こうとしているんですか?私の生まれの国だから言っちゃいますけど、あの国何にもないと思うんですけど。特別な用があったりするんですか?」
彼女の質問は目的地の理由だった。妹を探しに行くんだ、そう言うのは簡単である。でも妹のことはあまりいろんな人な話したくはない。。馬鹿にされたり笑われたりしたらどうしよう、そんな考えが一瞬頭をよぎった。だけど今聞いてるのはシンティさんだ。同じパーティになったんだから秘密は少ないほうがいい。彼女は優しいから馬鹿にされることはないと信じて話そうと決心した。
「あんまり人に言いたくないから秘密にしてくれるか?」
「わかりました。絶対誰にも言いません!」
そうして俺は妹のことをシンティさんに話した。
◇◆◇
俺がルーチェの話をし終わった頃彼女の目には大量の涙が溜まっていた。
「そんなのぉ可愛そすぎるじゃないですかーー!!」
彼女が自分の身に起きたことかのように泣いていて俺はびっくりして言葉が出なかった。
「なんなんですか!!攫われること自体可哀想なのにみんなの記憶から無くなっちゃうなんて可哀想すぎますよ。それにサンデルさんも1人で探すしかなくなってるのも可哀想です!!私がもしサンデルさんだったら絶対挫けちゃってます。サンデルさんはすごいですよ。妹さんのためにそこまでちゃんと出来るのは本当に素晴らしいと思います。」
「ありがとう。でもこれだけ探してまだ見つかってないんだ。全然まだまだだよ。」
「そんなこと言わないでください!サンデルさんはすごいんですよ!それでも否定すんだったら私たちで探し出しましょう!それで見つけられたら今度こそすごいって言えますよね!」
「シンティさんはすごいなあ。」
彼女は明るくて元気で俺のことを気にして色々なことを言ってくれる。こんな最近あったばかりの人にも優しくできて本当にすごい人だ。
「あ、ありがとうございます。」
なぜかわからないけど、また彼女は顔を背けてしまった。
「今ちょっと思ったんだけどまだ自己紹介もしてなかったよね。パーティメンバーになったことだし少し自己紹介をしようか。」
そう言って俺たちは自己紹介を始めた。
「知ってるかもだけど俺の名前はサンデル。15歳の時にギルドに入って5年ぐらい経つから多分20歳かな。出身はここファンティア王国。さっきも言ったけど妹を探すために旅をしてるからよろしく。」
「はい、よろしくお願いします!!私はシンティです。今は16歳です。ギルドに入ったのは面白そうだなあって感じですね。私いろんなところに行くのが好きなんでどこでもついて行きます!!」
「16歳なんだね。俺の妹も同い年だったかな。」
「え!妹さんと同い年なんですか!仲良くなりたいです!!」
「ルーチェは人懐っこかったから多分仲良くなれると思うよ〜。てかシンティさんシンティさんアルディール王国出身なの!?」
「そうですよ。王国内は大体一度は回ってるからしっかり案内できますよっ!」
「ほんと!?実は少し不安だったんだよね。どうにかして頑張って辿りはつけると思ってはいたんだけど、急いで行くのは危ないしゆっくり行くしかないかなあって思ってた。」
「そういうことなら私にお任せあれ!私がファンティア王国に来た時安全なルートできたのでそこを通れば危険にならずに行けると思います。」
ものすごくシンティさんのことが頼もしく見えてきた。ほんと、アンジェさんいい人教えてくれたなあ。いつか会った時たくさん感謝しておこう。
「本当に嬉しいよ! シンティさんのおかげでいい旅になりそうだ。」
「あ、はい。」
彼女は顔を背けてそう言った。
そんな感じで軽く話をしていたら気づくと馬車の目的地に到着していた。
「結構着くの早かったね。シンティさんと話してたら時間を完全に忘れてたよ〜。じゃあおりよっ、いやちょっと待て動くな。」
俺はそう言って彼女の上半身を抑えながら床に伏せた。馬車の壁には一本のナイフが刺さっていた。
「あわわ!大丈夫ですかサンデルさん〜。あ、おでこに血が。」
しっかり避けたつもりが避けきれてなかったか。結構な手練れだなこれは。
「気にしないで。全然大丈夫だから。シンティさんは少し隠れてて、俺がやってくるから。」
そう言って行こうとしたら彼女が俺の腕を掴んだ。
「いやサンデルさん。ここはちょっと私の力を見てほしいので戦ってもいいですか!」
「いやダメだ。相手の強さがわからない今君に任せられない。ここは俺が行ったほうがいい。」
うんそうだ。いくら彼女が強かったとしても遠距離で攻撃してくる敵に対して大剣で戦うのは分が悪すぎる。それに相手の場所がわからないと言うのが一番だ。せめて俺が魔法を使って戦ったほうがいい。
「それは大丈夫です。今見てる方角の前方200メートル先に人間サイズのオーガがこっちに走ってきています。動き方からしてどこか負傷しているようです。見たところもう武器は持っていなさそうですね。一応武器を隠し持っているかもしれないので警戒はしながら行こうと思うのですが、いいですか?」
彼女の観察能力に驚く。俺では方向しかわからなかったのに彼女は正確な距離、しかも相手の見た目までしっかりと把握していた。
「わかった。行ってきていいよ。俺はここで身体能力アップの魔法をかけておくよ。」
ここまで正確にわかっているなら彼女に任せたほうがいいだろう。
「ありがとうございます。」
そう言って彼女は馬車から降りて一目散に敵の方へ向かって行ったのだった。