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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真っ直ぐな男と斜めの世界

作者: リウクス

「物心ついた時から、僕はこの世界の違和感に気がついていた。


 あれは多分2歳か3歳くらいのことだったと思う。

 僕はテレビを見ていた時にふと思った。画面の形が気持ち悪い、と。どうして視線に対して平行に設置されていないのだろう、と。

 僕には見るもの全てが“斜め”になって見えていたのだ。


 何を見ても僕の視線に対して真っ直ぐ平行に置かれているものはなかった。

 床には角度がついているし、みんなは身体を曲げている。

 一体どうしてこんなことになっているのだろうと思った。


 もちろん外で例外を見たこともある。

 でも、平行な道を歩く人はなぜかみんな息を切らして少し辛そうにして見えた。


 そして、僕は幼稚園や小学校ではいつも「アイツはおかしい」と指さされていた。

 僕だけが真っ直ぐに生きているから。ちゃんと平行な世界を生きているから。

 僕だけが一人おかしいのだと、ずっとそう言われ続けていた。


 何度か親に病院へ連れて行かれたこともある。

 その時は精神的な疾患だとか、本人の考え方がどうとか言われたけれど、特定の病気を患っているというわけでもなかったから、取り立てて僕を異常だと指摘することは誰にもできなかった。

 当たり前だ。僕はごく普通の人間で、むしろ異常なのは何もかも斜めにしてしまう彼らの方なのだから。


 中学や高校に上がっても、僕はただただ周囲に忌避され続けていた。

 『あんなヤツがよく学校に通えたもんだよな』とかなんとか理不尽に揶揄されてたまったもんじゃなかった。


 極め付けは僕が道端で何匹か蛙を食べていた時のことだ。

 あの日は雨の日だったから大収穫で、僕は成長期の空腹を満たすためにただ学校帰りに食事をしていただけだったのに、こともあろうことかそれを見ていた近隣住民に警察を呼ばれたのだ。


 一体なぜそんな仕打ちを受けなければならないのか。

 僕の通っていた高校は、別に帰りに寄り道するのも買い食いするのも校則で禁止されていたわけでもなかったし、同級生がファストフード店でハンバーガーを食べているのも、カフェでフラペチーノを飲んでいるのも見たことがある。

 なぜ蛙を食べていた僕だけが糾弾されなければならなかったのか。


 この世界は何もかもが斜めになってしまっている。


 僕が性欲を満たすために下校中の小学生に性行為を仕掛けた時もそうだったし、まともになれと鬱陶しかった両親を殺した時もそうだった。


 僕がただ真っ直ぐに生きているだけで、世の中はそれを無理矢理斜めに捻じ曲げようとする。


 僕が何度訴えても、何度叫んでも、喉が千切れるくらい声を荒げても、誰も聞く耳持たず、一方的に捻じ曲がった価値観を押し付けてくる。


 僕が正しいはずなのに。

 アイツらは斜めで、僕は真っ直ぐで、アイツらは異常で、僕は世界に対して正常なはずなのに。


 どうして普通に生きた僕が非情にも裁かれなければならないのか。

 僕は最期まで理解できない。


 理解できない。」


 と、遺書には書き記しておいた。


 教誨室とやらで色々とお菓子を出されたが、蛙もなければ蝉もない、非情な扱いだった。


 今受けている仕打ちも非道極まりない。

 手錠をかけられ、目隠しをされ、首に縄をかけられて、足を縛られて。


 なぜ人を殺すのにここまで悪質な手口を使うのか。

 なぜ真っ向から命を奪いに来ない。

 なぜ一方的に窒息させられなければならない。


 なぜ。

 なぜ。

 なぜ。

 なぜ。

 なぜ。


 分からない。

 分からない。

 分からない。

 分からない。

 分からない。


 そして、足元の床が開くと僕は宙に浮いて、



 斜めに落ちたのだった。

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