老け顔すぎて老け専美少女に告白されたけど嬉しくない
校舎裏で瞳をキラキラさせているツインテールの美少女。
彼女こそがクラス1の美少女『福家セン』。身長150ぐらい。少しウェーブのかかったセミロングヘア。かわいい。圧倒的にかわいい。
俺も高校生になったことだしこんな美少女と付き合ってみたいけど……残念ながら俺はモテる方じゃない。なぜなら俺は老け顔。そして若ハゲ。小学生の頃、小学生だと信じてもらえなくて大人料金を支払ったこともあるほど筋金入りの老け顔。つまり、俺がモテるはずがない。と思っていたのに。
「及田家央太郎くん!入学式で初めて会った時から、素敵なM字ハゲだなって思ってました!私と付き合ってください! 」
と、俺に告白してきたのは美少女にして美少女……っておい。
「M字ハゲ......って言った? 」
「はい!セクシーでスイートなM字ハゲだなって! 」
いや~、さすが福家さん。わかってくれるか。俺のセクシーでスイートな頭は、たしかにM字ハゲだ。って、なるかーい!!
「俺のM字ハゲと今の告白にどんな関係性が? 」
「私、老け専なんです」
……老け専?え?それって、つまり、老け顔だから好きってこと?
「私、及田河くんに会うまで、同年代の彼氏作ること諦めてたんです。だから介護の資格とってヘルパーになろうって」
嫌だよ、そんな邪なヘルパー。完全に出会い目的じゃないか。
「でも本物のおじいちゃんはすぐに死んじゃうじゃないですか……」
綺麗なアーモンド型の瞳を潤ませて、悲しげな顔の福家さんも最高に美少女だ。言ってる内容はナチュラルにヤバいけど。
「私、とっても悲しくて、心がどんよりして。でも及田河くんに会って、私もみんなと同じように好きな人と一緒に老いていくことができるんだなって、それが、すごく嬉しくて」
…………。はぁ……そういうことか。まあ人の好みはそれぞれだし、福家さんが老け専でも俺がそれに口出しする権利は全くないのだが。それにしても、M字ハゲが好かれるなんて、思いもよらなかった。
「……福家さんはどういう老け顔が好みなの? 」
「そうですね、首相でいうと......」
ストップストップ!
「首相で例えるの?普通芸能人とかじゃない? 」
びっくりして福家さんの言葉を遮ってしまった。でも福家さんは怒った様子はない。
「芸能人はハゲ隠したり髪染めたりするじゃないですか!ナシです!あと私的に後ろの髪を前に持ってくる髪型もナシです。そう思いません? 」
そう言われても、俺が他人の髪型にどうこう言うのはナンセンスだと思う。
「そうかもね」
そう言うと、彼女はにっこりと笑った。かわいい。彼女の笑顔を見た後になって初めて自分が幸せ者だと確信できた。こんな美少女に告白されるなんて俺はなんて幸せ者なんだろう。
「さすがM字ハゲ!わかってらっしゃる! 」
……褒められたのに微妙な気分になるのは何故だろう。
福家さん、俺のこと好きになってくれるのはいいけれど、もう少し言葉の選び方とか知ってほしい。
「で、返事は?すぐにとは言いませんけど……」
期待に満ちた表情の福家さん。非常にかわいい。かわいいんだが……。
「一旦持ち帰らせてください」
「へ?あ、まあ、いいですけど……」
困惑気味の福家さんをおいて、一人、家路を急いでしまった。
家に帰って夕食を食べながら、福家さんのことを考えた。高校に上がって、見た目も相まってすっかりひねくれた暗い性格から、うまくやれるか不安だったが、今じゃ毎日楽しく過ごしている。友達だって、多くはないがいる。まあ彼女が欲しくないと言えば嘘になるけど。福家さんの告白は彼女を作るチャンスだと自分に言い聞かせた。でもやっぱり、嬉しいけど、複雑だ。
彼女みたいな美少女なら、こんな俺なんかと付き合わずにさっさと彼氏を作ればいい。そうも思ったけど、俺だから好きになったのは確かだ。理由は顔だけど。
私じゃなくて顔が好きなんでしょ!ってそんな美女みたいな悩みができるとは思わなかった。それでも、彼女はそんな俺を選んでくれるんだ。ありがたいとは思う。俺は正直なところ福家さんのことを好きになりかけている。美少女に告白されて、好きにならない男なんているだろうか。いや、いるかもしれない。でも俺は単純な男なので美少女に好きだと言われれば、好きになってしまう。告白してきた人に告白されてから好きになるのなんてそう珍しいことではない。
風呂に入って鏡をみた。とても十六歳には見えないM字ハゲの男がそこにいた。ここ数年で、さらに顔が老け込んだ。たぶんコンビニで酒を買っても年齢確認を求められないだろう。買わないけど。俺の容姿は、一般的に好まれるものではない。福家さんはセクシーでスイートだと言ってくれたけど。
もし俺がイケメンで
「イケメンなところが好きになりました! 」
って告白されたなら、こんなに悩まなかったんだろうか。
「そうだね俺はイケメンだね!俺も君がかわいいと思うよ!付き合おう! 」
ってなったかもしれない。俺は、モテない。たぶんこれからも。だからこそ、卑屈になってしまうんだ。
「私と付き合ってください! 」
そう言った福家さんは、とてもかわいかった。断る理由なんてないんだけどな。俺は結局答えを出せないまま、眠りについた。
翌朝、通学路で福家さんを見かけた。何となく話しかけられずに気づかれないように後ろを歩いていると、小さな男の子が一人で歩いていた。五歳くらいの子が一人で歩いているのは、ちょっと心配だ。福家さんの様子を伺うと、福家さんもその子のことが気になるらしく、足早に近づいていた。
「君一人でどうしたの? 」
男の子はキョトンとした顔で答えた。
「ママがちょっと待っててって言った」
「ママはどこにいるのかな? 」
その子は視線を逸らして答えた。
「わからない!急にいなくなったから、どうしようーって」
「じゃあお姉ちゃんと一緒に探そうか」
福家さんはそう言ってその子の手を引いて歩き出した。
「何してるの?! 」
「あ!ママだ! 」
どうやら男の子は、お母さんの買い物中にお店を出て行ってしまったらしい。お母さんはだいぶテンパっていて、福家さんへの感謝もそこそこに、急いでどこかへ行ってしまった。
「よかった! 」
それでも嬉しそうな顔の福家さんを見ると、福家さんは美少女なだけでなく、親切な人だと思った。俺なんて通報されたらどうしよう、なんて考えて話しかけられなかった。
ちょっとした自己嫌悪に陥っていると、福家さんに見つかった。
「及田家くん! 」
思わずドキッとした。
「一緒に学校いきません? 」
ドキッとしたことは俺だけじゃないと思いたい。でも福家さんはとびきりの笑顔で、とてもかわいかった。
「いいよ!行こうよ! 」
その笑顔に、俺は思った。福家さんが老け顔が好きで俺のことを好きになったんだとしても、そんなことどうでもいいじゃないか。俺だって福家さんのことをよく知らない。
だから俺は、福家さんの告白を、素直にうれしいと受け取ることにした。だって福家さんの笑顔がきれいだったから。俺はその笑顔を見られたことを嬉しく思えるし、これからもずっと笑顔が見たい。これから二人で、お互いの好きなところをもっともっと見つけていけばいいんだ。
俺はそう思いながら、学校の校門へ、福家さんと一緒に歩いていった。高校に入学してもう一ヶ月が経とうとしている。
放課後、俺は校舎裏に福家さんを呼び出した。
「あの、それで、昨日のことはどう? 」
こちらが話す前に、福家さんに尋ねられた。
「老け顔が好きって言われて、正直いってうれしいかっていわれると微妙だった」
「そっか...」
福家さんが不安そうな顔になる。
「だから、これからもっと俺のこと知ってほしいし、俺も福家さんのこと知りたい。俺と、付き合ってください! 」
その答えに、福家さんはとびっきりの笑顔になった。これでよかったと思う。俺と、福家さんが付き合ってもなにも問題ない。
「これから、よろしくね央太郎くん」
「よろしくセンさん」
俺たちのちょっと変わった付き合いは始まったばかりだ。