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第8話

 もっともこういった情報を、武田(上里)和子は、手元に握っておくだけにはしなかった。

 何しろ和子は、本願寺顕如の猶姉なのだ。

 本願寺門徒のために奮闘するのが当然の立場でもあった。

 それにもう一つ、気を遣うべき相手もいる。

 そうしたことから。


「武田和子様から松平家によろしくとのことです。それから」

 春日虎綱は、それとなく手元の資料を松平元康に、1558年晩秋に差し出した。

「色々とお役に立つ資料と思うとのこと。更にこれを本願寺門徒にお渡しくださいとのことです」

「何に役立つ資料かな」

「さて、内容については和子様は言われませんでしたが、松平家が内陸部に赴くのには色々と役立つでしょう、と微笑みながら、私には伝えられました。是非とも、カリフォルニアにいる本願寺門徒にもお渡しくださいとも」

「委細、承知した、と和子殿にはお伝え下され」

「はっ、必ずや」

 虎綱はそう返答して、元康の下を去った。


「ほう」

 元康は虎綱がもたらした資料と、それに添えられていた和子の手紙の内容を読んで一驚した。

「酒井忠尚らに伝えねばな。それから、本願寺門徒にも」

 元康は呟いて、酒井忠尚らを呼んで評議を開いた。


「一体、何事ですか」

 現在、松平家の筆頭家臣と言ってよい酒井忠尚は、急に呼ばれたことに不機嫌だった。

(尚、このような態度を他の事でも忠尚は執ったことから、間もなく元康によって筆頭家臣の立場から追われることに結果的にはなる)

「武田和子、いや、織田信長殿の義妹の和子殿から資料が送られて来た。その内容だが」

 元康は、そこで言葉を切って、周囲を見渡した後で言い放った。

「法華宗徒が大挙して、この北米の地に来るそうな。更に内陸部を目指していて、原住民を法華宗徒に改宗させようとしているとも伝えてきた。我々はどうすべきかな」


「それは気に障る話ですな。我々の多くが本願寺門徒です。法華宗徒が原住民を改宗させようとしているのなら、こちらも本願寺に協力して、原住民を本願寺門徒に改宗させるように動くべきでしょう」

 本多正信が、まずは口火を切り、他の多く面々も肯いた。

「我々も更なる内陸部の入植活動を試みようと考えていた。本願寺と協力して北米大陸内陸部へと進み、それによって原住民を協力させて、我々の植民地を容易に広げられるようにしていこう」

 元康が更に言葉を継ぐと、他の面々は更に肯いたが。


 本多正信は、少し別の事を頭の片隅で考えた。

 新婚早々といってよい元康殿と正妻の瀬名殿の仲は微妙に冷える一方らしい。

 今川家の策謀によって、松平家が三河から追い出されたという噂まで聞かされては、幾ら瀬名殿が懸命に尽くそうとしても、元康殿が瀬名殿に好感を持てないのも当然だが。


 それに二人の生まれ育ちが違い過ぎる。

 片や北米大陸植民地開拓のためとはいえ、両親に日本に置いて行かれて、半ば孤児めいた生活を送った末に父に先立たれたために、小学校を中退して北米にたどり着いたら、母は新しい夫を迎えていて別の家庭を築いており、半ば継子扱いをされる羽目になった元康殿。

 それに対して、両親の揃った家庭に育ち、名門今川家の一族の関口氏の御令嬢にして、今川家当主の義元の姪(妹の娘)としても育ち、初等女学校を卒業した上で、義元の養女として嫁がれて来た瀬名殿。


 酒井忠尚殿らの忠言もあり、元康殿は渋々、瀬名殿を妻に迎えたが、家柄、育ち、学歴等々で内心では瀬名殿に小馬鹿にされているのでは、と元康殿は勘繰っているらしい。

 瀬名殿が懐妊したことで、少しは夫婦仲が直ればよいのだが。

 この様子では、育児が大変だろうから、とこれ幸いと元康殿は植民地開拓を口実にして、ここを出て夫婦別居生活を始めることになるやも。 

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