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第5話

 実際、後になって考えればの話になるが、結果的に武田(上里)和子は、トンデモナイ事態を引き起こすことになってしまった。

 更に言えば、その時限りで言えば、極めて妥当に想える内容だったのが、性質が悪かった。


「ほう。法華宗徒の強硬派(不受不施派)が、北米大陸への移民を積極的に図ろうとしている。万が一、彼らの矛先が北米で本願寺門徒に向けられた場合に備えて、本願寺もそれなりの行動をすべきですか」

 猶姉の和子からの暗号文による密書に目を通した本願寺顕如は、和子の書面の内容に唸った。

(この時、暗号文の解読に半日以上かける羽目になり、多少どころではなく疲れていて、顕如の頭が微妙に回っていなかった、という側面もある)


「確かにその辺りを考えていませんでしたね。更に言えば、法華宗徒が、北米大陸で布教活動を積極的に行い、それによって教勢を強めてしまっても問題です」

 顕如はそう考えて、後見人の二人と話し合うことにした。


「何。法華宗徒の一部が、北米大陸に移民しようとしている動きがあるだと。更に北米で積極的な布教活動をして、本願寺門徒を攻撃するかもしれない気配があるだと」

 顕如の後見人の1人の鎮永尼は、和子から顕如に送られた手紙の内容を聞いた瞬間に気色ばんだ。

 鎮永尼にしてみれば、法華宗徒は不俱戴天の仇敵といってもよい。

 そうしたことからすれば、法華宗徒が北米で積極的に布教活動をして、そのような行動をするならば、本願寺も積極的な対抗策を講ずべきだ、という考えにすぐに至ることになる。


 だが、その一方で。

 もう一人の後見人である永賢尼は、冷静な対応を示した。

「余り先走るのも、どうでしょうか。北米大陸に移民しているのは、本願寺門徒の方が圧倒的に多いのが現状です。そうそう法華宗徒が、北米で本願寺門徒に攻撃を仕掛けてくることはありますまい」

 永賢尼のその言葉に、鎮永尼は反射的に反論した。


「甘いにも程がある。いざという時になってから動けばいい、と言われるのかもしれぬが、北米と日本との距離を忘れては困る。北米での出来事の詳細が分かるのには時間が掛かる。その間に手遅れの結果が起こらないと断言できる根拠があるのか、そうなった場合にどうするつもりだ」

 永賢尼を罵倒していると執られても仕方のない言葉を、永賢尼は半ば聞き流したが、義母を侮辱されたと取った顕如の方が、祖母の鎮永尼に噛みつくことになった。


「幾ら何でも私の後見人同士、相手を誹謗するような言葉は慎んでください」

「ああ、分かった。だが、こちらも何らかの対応を採った方がいいと思うぞ」

 孫の諫めの言葉に、少し冷静さを鎮永尼は取り戻したが、気色が完全に治ってはいなかった。


「そうですね。下間氏を始めとする坊官の方々を中心とする面々を、北米に送り出すのはどうでしょうか。本願寺もいざという際には自衛できるようにしておくべきでしょう」

 永賢尼は少し考えた末に発言し、その発言に他の二人も耳を貸した。


「それは良い考えだ。下間氏の面々が北米にいれば、いざという場合に武力で対抗して自衛することができよう。永賢尼殿の考えに賛同しよう」

 孫の顕如に諫められたこともあり、鎮永尼がまずは賛成の言葉を発した。


 顕如も少し考えた末に、永賢尼に半ば同意する言葉を吐いた。

「確かにその辺りが無難というか、妥当でしょうね。それに加えて、こちらも僧侶を北米に重点的に送り込んで、法華宗徒に対抗できるようにしましょうか。法華宗が積極的に布教するのなら、こちらも対抗して積極的に布教活動を行わねば」


 顕如の言葉に他の二人も同意した。

 この話の結果、後々だが下間氏等の面々は北米に送られ、本願寺の布教活動を進めることになる。 

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