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第4話

 武田和子は、房総地方の法華宗徒が北米への移民を武田家を介して望んでいることを、兄の上里勝利に手紙で伝えることにした。

 更に、夫の義信の了解を得た上で、房総地方と同様に、備前、備中の法華宗徒が北米へ移民してくるのなら、武田家は同様に援助する用意がある。

 但し、そうは言っても、これまでの住民に対し、法華宗の教えを押し付ける等して騒動を起こされても困るので、新たな開拓地を切り開いてほしい旨、夫は房総地方の法華宗徒に求めており、自分もそれならば、と矛を収めた、と手紙には書いておいた。


 さて、後は文面の裏を読んでもらわねば、と和子は考えた。

 もっとも兄自身も聡いし、父も聡い。

 私の手紙で意は充分に伝わる筈だが、と和子は考えた末に、もう一つ手を打つことにした。

 こちらは、猶弟が乗るかどうか微妙だが、やってみる価値はある。

 和子は、もう一通、暗号文で書いた密書を本願寺顕如宛にしたためた。


 さて、和子が書いた手紙は、初夏の頃に太平洋を越えて、目的の場所に届いた。

 まずは和子が兄宛に書いた手紙のことから書くと。


「ほう、房総地方の法華宗徒が北米への移民を図ろうとしている。協力して備前、備中の法華宗徒も北米に赴いてはどうか。武田義信殿は、内陸部に新たな開拓地を切り開いて、そこに法華宗徒が住まれては、と提案しているとのこと。備前、備中の法華宗徒も考えてみてはどうでしょうか、と和子が手紙を書いてきたのか」

「ええ。宗派の壁を乗り越えて、肉親の情から協力するとのことです」

 上里松一は、養子の勝利とそんな会話を交わしていた。


 勝利は汗を拭きながら想った。

 妹が前向きになってくれて助かった。


 自分の結婚に加えて、大喪の礼に際しての千僧供養問題で、宇喜多家の親類縁者が騒動を起こすとは思わなかった。

 義兄の宇喜多直家も苦慮していた。

 何しろ実弟の忠家まで直家に味方するどころか、騒動を起こす側に回ってしまったのだ。

 そんなに法華宗徒として不受不施を護りたいなら、北米へ移民して新天地を開拓したらどうか、と言ったら、そうだ、それなら北米に移民しようと言う声までが挙がる始末。

 半ば売り言葉に買い言葉的な所もあるが、本当にここまでの騒動になるとは思わなかった。


 とはいえ、本当に北米へ移民して、新天地を開拓するとなると、それなりに現地での協力があることは必要不可欠になる。

 そうしたことから、妹の和子に手紙を書き、何とかならないものか、と頼んだのだが。

 妹にしても、本願寺顕如の猶姉という立場だ。

 法華宗徒のために動く等、トンデモナイ、という手紙が届くか、と思ったが。


 そう言われれば、武田義信殿の弟、信之殿は、上総(庁南)武田家に養子で入られている。

 そういったつながりがあるのを、自分は忘れていた。

 成程、こういった繋がりを持ち出せば、備前、備中の法華宗徒としても、実際に北米への移民に踏み切りやすくなるだろう。

 本願寺顕如の姉に世話になるのではない、武田家の縁から移民するのだ、と言い訳できる。


 だが、その一方で。

「しかし、法華宗徒が大量に北米に赴けば、北米に既に住んでいる本願寺門徒との間で問題を引き起こさないだろうか」

 養父の松一は心配するような声を挙げた。

「確かに」

 養父が仕事上の上司であることもあり、勝利はそう言った背景からの無言の圧力も感じて、養父の言葉に同意せざるを得なかった。


「和子は、その辺りをどのようにしようと考えているのか、浅慮でなければ良いのだが」

 松一は更に心配したが。

「その辺りは援ければよいでしょうに。15歳の妹の考えなのですから」

 勝利は楽観的に考えていて、養父にそう助言した。


「全くその通りだが」

 何故か、松一は心配が拭えなかった。

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