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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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98話 カーディア正統帝国の六帝

 エラン領へ入ると、しばらくしてカーディア市が見えてくる。

 そばにあった難民キャンプのあった場所には、いくつかの建物もできており、新しい町の建設が順調に進んでいるようだ。

 僕の隣に来たケイトが、双眼鏡で町の様子を覗き、満足そうにウンウンと頷く。


 「あと少しで、難民だった人たちもベッドの上で寝れますよ」


 「そうなんだ。良かった」


 ケイトの言葉に、それは、日常の生活が出来るようになることを意味していると気付いた僕は、開発中の町を見ながら喜んだ。


 城の上空まで来ると、まだ建設中だが、城壁と隣接するように空港が配置されている。

 ここには、貴族たちの屋敷が建ち並んでいたと思ったんだけど、ほとんどが更地と化していた。


 「ここって、更地だったっけ?」


 「宰相についていた貴族たちの屋敷があったんですけど、もう、家主は逃げていないし、邪魔なんで、ズバーと壊しちゃうように指示を出しておきました。あっ、ちゃんと金目の物や資材になる物は回収するように言ってあるんで大丈夫ですよ」


 ケイトがドヤ顔で答える。


 「そ、そうなんだ」


 抜け目のないところはケイトらしい。


 空港建設地となった更地には、兵士と一般の作業員が汗を拭いながら作業をしている姿が見られる。


 「新教貴族派閥の貴族たちは、金品を貯め込んでくれていたので、市民から多くの作業員を雇うことが出来て、こちらも市民もウィンウィンです」


 「そ、そう。それは良かった」


 ケイトがウィンウィンという言葉を使ったことに、僕は複雑な思いがした。


 工事をしていた作業員たちがこちらに気付くと、手を振って、向かうべき方向を教えてくれる。

 僕たちが彼らの指示する方向へ向かうと、更地にされた地面に線が引かれ、簡易的な着陸場所が造られていた。

 そこへ降り立ち、アスールさんたちが人の姿に変わるのを待っていると、城の方角から数台の馬車がこちらへ向かってくる。


 僕たちの前で停まった馬車からは、フリーダさんとイーリスさんが降りてくる。

 僕は久しぶりに会うイーリスさんの顔を目にして、何かがジーンと込みあがってくると、目頭が熱くなり、ウルッとしてしまう。

 彼女も僕を見て、少しウルッとした目をすると、僕に駆け寄り、ギュッと抱き着いてきた。

 彼女の身体の柔らかい感触が伝わり、いい匂いがしてくると、嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔が熱くなってくる。


 「ヒューヒュー。公衆の面前でお熱いわね!」


 マイさんが冷やかしてくる。

 いい雰囲気が台無しだ……。

 僕とイーリスさんは、恥ずかしそうに離れると、皆からは「ズルい」「抜け駆け」という言葉がささやかれた。


 「フーカ様、少し合わないうちにたくましくなりましたね」


 おそらく、お世辞だろうけど、イーリスさんは僕に褒め言葉を掛けてくれる。


 「「「いやいやいや! それは気のせい!」」」


 ケイト、レイリア、マイさんの三人が手を振って否定する。

 言われなくても、そんなことは分かってる! いちいち水を差さないで欲しい。

 そのせいで、僕とイーリスさんは、お互いに気まずくなってしまった。

 責任を取って、この空気を何とかして欲しいと三人を睨むが、彼女たちは、「ヒュスー、スー」と吹けていない口笛を鳴らしながら、素知らぬ顔で明後日の方向を向いて誤魔化していた。

 こ、こいつらは……。




 いつまでもここにいるわけにもいかず、僕たちは複数の馬車に別れて乗ると、城へと向かう。

 城内に入り、会議室へ着くと、室内のテーブルには多くの料理が並べられ、各席に取り皿が置かれていた。


 「朝からの移動でお腹もすいているでしょうから、食事を摂りながら話すことにしましょう」


 フリーダさんは手でテーブルを指すと、僕たちに席を勧める。

 それぞれが、彼女に向かって頷くと席へと座った。

 僕も席に座り、フリーダさんを見る。

 すると、彼女の片眉がピクピクとして、その視線は特定の席とその周辺に向けられていた。


 「そこ! まだ、食べ始めない! そして、そっちは酒を飲むな!」


 フリーダさんが怒鳴る。

 僕が彼女の視線の先に目を向けると、アスールさんとレイリアが、自分の皿に料理を取り分けて食べ始めていた。

 そして、マイさんがワインのボトルを片手に持ち、コップを口へと運んでいた。

 フリーダさんに怒鳴られ、フォークを置いて、口に入っている料理をモグモグとしながら、取り皿の料理をジーと見つめるアスールさんとレイリア。

 その横では唇を舐めながら、ワインの注がれたコップとにらめっこをするマイさん。

 僕たちは、「待て!」を言われた犬のような三人を見つめ、何故か、こちらが羞恥に耐えるのだった。


 僕たちも料理に手を運び、食べ始めると、フリーダさんが三人に向かって、黙って頷く。

 アスールさんとレイリアは、その合図を見た途端、料理をがっつくように食べ始め、マイさんはワインを一気に飲み干す。

 見ていて、恥ずかしい。




 僕は、三人から視線を逸らして、フリーダさんとイーリスさんに、アンテス領、バルベ領、マイネ領での経緯を話した。

 二人は僕の話しを真剣に聞いてはくれているのだが、誰も取りはしないのに、がっつくように食べているアスールさんとレイリア、ここぞとばかりに酒をあおっているマイさんが、どうしても視界に入ってしまうのか、度々、三人のほうに視線を引き寄せられていた。


 三人のいるところだけ、こちらの空気とは違うので仕方がない。

 僕は話しを続け、カイがツグモリの家名に改名して、ボイテルロック領をツグモリ領に改名したこと、ヘルマンさんたちと協議を行い、カーディア新帝国がカーディア議会国に改名し、同盟を結んだことを報告する。


 フリーダさんとイーリスさんは、途中、何かを考えている様子を見せていたが、黙ったまま、僕がすべてを話し終えるまで真剣に聞いてくれた。


 「カーディア議会国とは、国交を結んではいないので、同盟国となったのでしたら、すぐにでも国交を結ばないといけませんね。急いで準備をします」


 「ごめん。よろしく頼むね」


 イーリスさんの言葉に、僕は国交のことまで気付けなかった自分の未熟さに恥ずかしさを感じながら、後のことを彼女に任せた。

 そして、シャルとミリヤさんも、そこまで気にしていなかったことを恥ずかしがっていた。




 今度はフリーダさんとイーリスさんが話しを始める。

 最初はフリーダさんからだった。

 エルさんたちはエラン領に立ち寄って、僕の手紙を忘れずにフリーダさんへ渡してくれていた。

 彼女は、受け取った僕の手紙を読んで、エルさんたちにカルメラさんを助っ人として加え、補給物資もつけて送り出してくれたそうだ。

 補給物資までサービスしなくてもと思ってしまうが、有事なので仕方がない。


 そして、フリーダさんは、付け加えるようにカーディア市の現状を話し出した。

 カーディア市の復興は順調に進んでいて、エラン領としての治世も、各市町村に使者と現状を把握できている人材を送り、各市町村から協力的な返事が来ているそうだ。

 復興も治世も順調である事に、僕は満足して頷く。


 次にイーリスさんが話し出す。

 僕からの手紙を読んで、彼女はゲーテ領、アルセ領にプレスディア王朝へ協力をする事を伝えるべく、急ぎ、使者を放ってくれたそうだ。

 しかし、プレスディア王朝がカーディア正統帝国と開戦した後の情報は、何処からも、まだ入ってきていないと残念そうに話した。


 「開戦後の情報のことは、気にしなくていいよ。開戦したばかりで、こちらへ使者を送る余裕がないのかもしれないからね」


 僕は、申し訳なさそうな表情をしているイーリスさんを慰める。


 こうして、二人からの報告が終わると、頬を膨らませ、モグモグしながら、こちらの話しを聞いていた二人と、すでに頬が赤く染まっている一人を除いて、皆も気兼ねなしに料理へ手をつけ始めるのだった。




 フリーダさんとイーリスさんの話しも終わり、お互いの報告が済んだ途端、シャルとミリヤさんが二人のそばに行き、コソコソと何かを耳打ちしている。

 その行動が、とても怪しく見える。


 「何の話し?」


 恐る恐るシャルに尋ねてみる。


 「勧誘です!」


 さっきまでコソコソとしていたのに、堂々と返事をしてきた。

 やっぱりか……。

 僕は、深くかかわることが怖いので、これ以上は、見ざる聞かざる言わざるでいようと心に決める。

 ただ、このままでは、ユナハ国の女性が『奥様委員会』で埋め尽くされるのではと不安を抱いたが、頭を振って、その思いを頭の中から追い出す。


 シャルたちの勧誘も終わったところで、今後、僕たちは、どうしていくべきかを話し合うこととなった。

 カーディア正統帝国と戦うことに否定する者はいないのだが、プレスディア王朝、シュナ領、カーディア議会国の三か所のうち、何処に合流するかで意見が別れてしまった。


 シュナ領は、兵数において一番少ないが、イーリスさんの手配で迫撃砲と火砲馬車が配置されているので、火力は高い。

 プレスディア王朝はドラゴンが二人いるし、エルさんたちもいる。

 それに、国をあげて戦っているので、僕たちが行くまでもない気がする。

 カーディア議会国は兵数が最も多く、北上を進めて行けば、シュナ領との挟撃が出来るので、圧倒的な優位に立てるのも時間の問題だろう。


 ようは、何処の軍勢も、そこそこ強いから、僕たちが加勢するべきと思われる合流先が見つからないために、意見がまとまらないのだ。

 贅沢な悩みだが、合流先を見つけないと僕たちも動けず、前線の状況を把握することが出来ない。


 プレスディア王朝かカーディア議会国に加勢するのが貸しもできていいのかもと思うが、ユナハ国であるシュナ領へ加勢するのが筋だろうとも思ってしまう。

 選択が難しい。


 そんなことを思って悩んでいると、扉がノックされ、メイドさんが入ってくる。

 そして、アンさんのもとへ行き、数枚を束にした書類を彼女に渡した。

 アンさんは渡された書類をペラペラとめくって、内容に目を通していく。

 すると、彼女の眉間に皺が深く寄っていき、その表情は厳しいものへと変わっていく。

 これは何か悪い報せかもしれない。


 「アンさん、何かあったの?」


 「……」


 書類の内容に夢中で目を通す彼女は、僕の言葉を無視した。

 クスクスと無視されたことを笑う声が聞こえてくる。

 うるさいよ。そして、恥ずかしい……。


 書類に目を通し終えたアンさんは、顔を赤くして見つめる僕をみて、首を傾げる。


 「フーカ様? 顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」


 「「「「「ブフッ」」」」」

 「「「「「クフフ」」」」」


 彼女の言葉に、周りで吹き出し、ささやくような笑い声が聞こえだす。


 「大丈夫だから、気にされる方が困るから……」


 彼女は僕を見て、再び首を傾げる。

 もうやめて、僕をこれ以上、辱めないで……。

 何とも言えぬ恥ずかしさを耐えるので、僕はいっぱいいっぱいだった。




 アンさんは、真剣な顔へと戻ると、皆から見える場所へと立つ。

 そして、ゆっくりと大きく呼吸をした。


 「奥様委員会の情報網を使用させてもらえたおかげで、カーディア正統帝国について分かってきました。今からその情報を報告します」


 アンさんの言葉に、さっきまでの雰囲気が消え去るように、室内を緊張感が覆っていく。


 皆は彼女の言葉を一語一句聞き逃さないようにと、彼女へ視線を集中させ、真剣になる。

 アスールさん、レイリア、マイさんまでもが真剣な表情で彼女に集中している。


 「カーディア正統帝国六帝の正体がはっきりとしました。六帝とは、カーディア正統帝国内で権力を持つ六つの派閥のことでした。そして、その各派閥の代表者の素性も判明しました」


 六つの派閥……おそらく、政党のようなものなのだろう。

 一度話しを区切った彼女を僕たちは息をのんで見守り、再び彼女の口が開くと、その言葉に集中する。


 「各派閥の名称までは分かりませんでしたが、その代表者は、元カーディア帝国貴族のランドン・フォン・レーデ、ナイジェル・フォン・シンケル、オルランド・フォン・コンツの三名。そして、ブレイギル聖王国貴族のホレス・フォン・クスケ。ハウゼリア新教国司祭のバスク・コーデン。そして、最後の一人が、シュミット王国国王のクレーメンス・フォン・シュミットであったことが判明しました。この者たちが各派閥を作り、カーディア正統帝国の内政などを(にな)っています」


 彼女の報告を聞いた僕たちは、驚き、そして、厳しい表情となる。


 ハウゼリア司教とブレイギル聖王国の貴族が六帝に含まれていたことにも驚いたのだが、最も驚かされたのは、クレーメンスも六帝の一人だったということだった。

 そして、各派閥を六帝として、いかにも六人の人物が牛耳っているように見せている発想も凄いが、派閥の代表に国外、それも他国の者を据えていることも凄いと思ってしまう。

 誰がこんなことを考えつくのだろう?

 カーディア正統帝国よりも、その国の母体を作った水面下で暗躍している者の存在のほうが気になる。


 確か、アンさんは奥様委員会の情報網を使ったと言っていた。

 僕は、マイさんならある程度の情報を掴んでいたのではないかと、彼女の様子が気になり、視線を向ける。

 彼女は、チッと舌打ちをすると、親指の先を咥えて悔しがっていた。

 彼女も、カーディア正統帝国については調べ上げられなかったようだ。

 その様子を見ていた僕は、何故かホッとしてしまう。


 「アンさん、カーディア正統帝国についてのこの情報を同盟国にも伝えておいて。特に開戦をしているプレスディア王朝と侵攻を始めているかもしれないカーディア議会国には、急いで伝えてあげて」


 僕がアンさんに頼むと、彼女は頷き、そばで控えていたメイドさんに命令を下す。

 彼女は軽くお辞儀をすると、足早に部屋を出て行った。




 アンさんは、再び書類をパラパラとめくると、難しい表情をする。


 「もう一つ、重要な報告があります」


 僕たちは、少しげんなりしながらも、緊張感を保つようにする。


 「シュナ領に対して配置されたカーディア正統帝国軍の中に、エトムント・フォン・シュナと思しき姿が確認されました」


 彼女の言葉に、レイリアがバンとテーブルを叩いて立ち上がると、青ざめた顔色をして驚く。

 相当、嫌いなんだね。


 「あの男は、まだ生きていたんですか!?」


 「「「「「……」」」」」


 僕たちは唖然とする。

 行方をくらましていただけで、死亡の報告はこれっぽっちも入っていない。

 そりゃあ、死んだと決めつけていた者が、生きいたら驚くよね……。


 エトムントの姿が確認されたことで、僕たちはシュナ領軍へ合流する方向で話しがまとまった。というか、レイリアが駄々をこねて、なかば強引に決まってしまった気がする……。


 会議が終わって解散となると、シリウスを中心として、カーディア正統帝国軍と一戦を交えることを前提にした準備が始められ、城内の兵士たちが慌ただしくなる。

 準備が整うまでは、皆、忙しくなりそうだ。

お読みいただきありがとうございます。


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