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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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91話 マイネ領

 ライナルトさんに頼んで、ガイハンク国国王のレオさんに使者を送ってもらった。

 使者が着く前に、僕たちがガイハンク国の領空を飛んでしまうことになるかもしれないが、許してもらえるだろう。

 それに、シュミット王国がマイネ領へ侵攻の恐れがあるからと支援要請も含めておいたので、レオさんなら察してくれるだろう。

 これで、僕たちがマイネ領を制圧して、ユナハ国の領地にした頃には、ガイハンク軍が合流することになる。

 そうすれば、シュミット王国はむやみに手を出せなくなると思うというか、思いたい。

 クレーメンスは、何かと策を練るから油断できない。

 そして、面倒くさい。




 マイネ領へ向かう準備のできた僕たちは、朝日が昇るのと同時に出発するために集まっていた。

 そして、地平線が明るくなっていく。

 僕は、二日酔いが治ったアスールさんの背に乗ると、見送りに出てきたライナルトさんに、「バルベ領を良い領地にして欲しい」と声を掛けた。

 すると、彼は、「お任せ下さい」と笑顔で頷き返す。

 僕が彼の返事に満足な表情を浮かべると同時に、アスールさんは、羽根を羽ばたかせて舞い上がるのだった。


 僕たちは、シュミット王国を迂回するために、バルベ領からガイハンク国に入ると、その上空をマイネ領へ向かって飛び続ける。

 まだ、話しがレオさんに伝わっていないせいか、何度かペガサスやワイバーンに乗ったドワーフたちが近付いてくるが、ユナハ国の国旗をマイさんが見せてニコッと微笑むと、驚いた表情で軽く手を振って戻ってしまう。

 その様子は、領空を通る許可をくれたというよりも、面倒くさいことに巻き込まれたくないようにしか見えなかった。


 「なんか、態度が微妙よね。この国旗のせいかしら?」


 マイさんは、そうつぶやくが、きっと、マイさんのせいだと思う。


 ガイハンク国の上空を通過してマイネ領の領内へと入る。

 僕たちは、ここまでシュミット王国との国境に沿って飛んできたのだが、シュミット王国が侵攻を企てている様子は見られなかった。

 隠れているのか、それとも、もっと南側で軍を配置しているのだろうか? 僕たちの航路からでは判断がつかない。

 敵の様子が分からないというのは、精神的にけっこうくるものがある。

 僕は、偵察や情報収集の大切さを実感させられるのだった。




 シュミット王国側を見つめながら飛んでいると、首都マイネ市が見えてくる。

 マイネ市は領地の北側に位置していてガイハンク国に近かった。

 そのさらに先には、海岸線もうっすらと見えた。


 マイネ市の上空に入ると、下にいる人たちがこちらを見上げて騒ぎだす。

 まあ、ドラゴンの編隊が現れて、平然としていられるほうがおかしいだろう。

 しかし、毎回、目立つのもどうかと思う。


 城が近付くと、その上空を旋回し、城からの着陸許可を待つ。

 このわずらわしさを解消するためにも、各領地での空港の建設を、早く進めたほうがいいかもしれない。

 ふと、ユナハには、しばらく帰っていないことを思い出す。

 帰った時には、以前とどのくらい変わっているのだろうか? 少し楽しみだ。

 そんなことを思っていると、城からの着陸許可がおりた。

 僕たちは、城の広い庭へと降りる。


 着陸したアスールさんから降り、彼女が人の姿になるのを待っていると、城からぞろぞろと兵士が出てくる。

 その中から、細身でひげを生やした四〇代くらいのおじさんが、次々に降り立つドラゴンたちに驚いた表情を見せながら僕の前へとやって来た。

 そして、彼は僕に向かって、ひざを折り、頭を下げる。


 「マイネ領の領主モーリッツ・フォン・マイネと申します。フーカ陛下方々にご来訪いただいたこと、心より感謝申し上げます」


 「えーと、どういたしまして。僕がフーカ・モリ・ユナハです。しばらく滞在するかもしれないので、よろしくお願いします」


 「はっ!」


 初見の挨拶は何処に行っても堅苦しくて苦手だ。

 挨拶は、もうすこし気楽な感じで済ませて欲しい……。




 彼は、シャルたち他の者にも、順に挨拶を済ませていく。

 そして、その後は、僕たちを城内の応接室へと案内してくれた。

 主要メンバーが席に着いていくと、従者がお茶を出していく。

 そのお茶を一口飲んだ僕は、すぐに本題をきりだすことにした。


 「モーリッツさん、早速で申し訳ないんだけど、今はシュミット王国の件もあるので単刀直入に聞くけど、マイネ領はユナハ国を認め、ユナハ国の一部となってもかまわないんだよね?」


 「はい、その通りです」


 「あいわかった」


 「「「「「ブハッ!」」」」」


 ちょっと、カッコつけて返事をしてみたら、皆が吹き出した。

 そして、呆れた視線を送られる。

 いつも文句を言われるから、王様らしくしてみたのに……。


 「フー君、使い方が違うと思います。それは頼みごとを了承する時にする返事です」


 ヒーちゃんが、僕の耳元でこっそりと教えてくれた。

 僕は送られた視線の意味を理解すると、顔に熱が帯び始め、真っ赤になっていくのを自覚する。

 やってしまった……は、恥ずかしい。


 「コホン。では、モーリッツさん、後でユナハ国がどういった国かを、シャルとミリヤさんから教えてもらって下さい」


 僕は恥ずかしさを誤魔化すように、話しを続けた。


 「はっ! ……えっ? シャ、シャルティナ様からですか……」


 「うん。そうだけど」


 「わ、分かりました。シャルティナ様、ミリヤ様、よろしくお願いいたします」


 彼は、シャルから教えられることに、困惑しているようだった。

 そんなに困惑しなくても……。

 僕は、軽く首を傾げた。


 「フーカ様。皇女であったシャル様から直にお言葉をいただくんですから、皆、緊張するんです。おかしいのはフーカ様だけですから、その辺りを取り違えないようにして下さい」


 アンさんが耳打ちしてくれたので理解できた。

 だけど、僕だけがおかしいって……。




 引き続き、モーリッツさんからは、クレーメンスについてのこととシュミット王国からの侵攻状況について聞くことにする。

 彼の話しでは、クレーメンスが反ユナハ国を掲げ、手を組む話しを持ち掛けてきたそうだ。

 しかし、モーリッツさんが断ると、「シュミット領は、これから大きな力を持つことになるが、その時に後悔しても知りませんよ」と述べて去っていったそうだ。


 その後、僕たちも知っているように、シュミット領はトロスト領を制圧し、シュミット王国を宣言、さらに、ハウゼリア連邦に加盟したとのことだ。


 そのことを知ったモーリッツさんは、クレーメンスの「後悔しても知りませんよ」と残した言葉が気になり、国境付近を兵士に見張らせていたところ、南方面にシュミット王国軍が集結していると報告を受け、危機感を感じたそうだ。

 そして、ちょうどその時に、僕がバルベ領を訪れていることを聞きつけ、もともとユナハ国の一領地として認めてもらうつもりだったモーリッツさんは、すぐに使者を送ったと話しを続けた。


 全てを話し終えたモーリッツさんは、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。


 「モーリッツさん、何か気になることでもありそうな表情だけど、他に何かあるの?」


 「実は……申し上げにくいのですが……。よろしいでしょうか?」


 何かあるとは思ったけど、本当にあると、リアクションに困る。


 「う、うん。とがめることは無いから続けて」


 「ありがとうございます。実は、陛下方がこんなに早く訪れてくれるとは思いもよらず、ガイハンク国のレオパルト王にも事情を記した手紙をだし、救援を要請してしまったのです」


 彼の言葉に、僕たちは驚く。

 そして、しばらく頭の中を整理する必要があった。

 何故、マイネ領とガイハンク国に繋がりがあるのかが分からず、シャルたちのほうを向くと、彼女たちも首を横に振っていた。


 「モーリッツさん、ガイハンク国とは、いつから繋がりがあるの?」


 「カーディア帝国時代、いえ、古くはカーディア帝国が統一される前から、この地では交流がありました。カーディア帝国の方針でドワーフとの交流を禁止するように通達が来てからは、表立って交流はできませんでしたが、この地にとっては古き友人ですので、秘密裏に交流を継続し、友好関係を保ってきました」


 僕たちは、カーディア帝国時代の前から交流が続いていたことに、さらに驚く。

 彼は、そんな僕たちを見て不思議そうにする。


 「そ、そうなんだ。ガイハンク国との友好関係は、そのまま続けてもらってかまわないんだけど、僕もシャルたちも知らなかったから、ちょっと驚いてしまって、別にとがめたりとかもないので、心配しないで下さい」


 「いえ、心配とかではなく、マイ様がご存じのはずですが……」


 僕たちは一斉に、マイさんを睨みつけた。

 この人は、またやってくれた。


 「マイさん、このパターンは、いい加減、そろそろやめて欲しいんだけど」


 「何を言ってるの? 秘密を持つことは、女性の魅力の一つよ!」


 「「「「「……」」」」」


 ドヤ顔のマイさんの言葉に、エルさんだけがウンウンと頷いているが、僕たちは言葉を失う。


 「別にいいけど、それでイツキさんからお仕置きを受けることになったら、元も子もないと思うけど」


 「あっ……」


 マイさんの表情が青ざめていくが、イツキはさんは動かない。

 それどころか、目を泳がせ、顔を背ける。


 「イ、イツキさん、もしかして……」


 「す、すみません。私も知っていました。ガイハンク国と隣接する領地は、シュミットを除いて、ガイハンク国との関係を持っています」


 「「「「「……」」」」」


 僕たちは再び言葉を失う。

 知らなかったのは、帝国の中枢にいたシャルたちだけだったようだ。


 「もーう。皆、ダメダメなんだから。しっかりしなさいよ!」


 マイさんが、ドヤ顔で調子に乗ってきた。


 「マイ。調子に乗りすぎたわね!」


 イツキさんが彼女にアイアンクローを決める。


 「ヒギャァァー! 痛い、ごめんなさい! お姉様!」


 彼女の悲鳴がこだまする室内で、シャルたちは打ちひしがれ、モーリッツさんだけが困惑していた。




 帝国内のことを、何も知らなかったまま過ごしていたことに気付いたシャルたちは、崩れ落ちたまま落ち込んでいる。

 レイリアも一緒になって落ち込んでいるが、本当に分かっているのか疑問だ。

 この場にイーリスさんがいたら、このズシンとのしかかるような室内の空気が、さらに重くなっていたかと思うと怖くなる。


 今はこの重苦しい空気を換えるために、何か声を掛けないと。

 僕が優しい言葉を掛けようとすると、唯一、ケロッとしているケイトが割って入ってきた。


 「うちの国……じゃなかった。元、うちの国って、なんかこっそりとやりたい放題やられてたんですね」


 何、追い打ちを掛けてるの!?


 「ケ、ケイト? かける言葉が違う気が……」


 「えっ?」


 僕が叫ぶと、彼女はさらに落ち込むシャルたちを見て、やってしまった表情を浮かべた。


 「えーとですね。シャル様たちが落ち込む必要はないんですよ!」


 シャルたちを気遣う彼女に、僕はウンウンと頷く。


 「ここまでやられてたんですから、帝国は黙ってても滅んでましたよ。シャル様たちが知ったところで何ともならなかったから、気にすることはないですよ! 結果オーライです!」


 「ちがーう! とどめを刺すな!」


 「あれ? 違いましたか? 終わりが良ければ、全ていいんです。私たちが知っていたからといって、どうにかなったとは思えません」


 「だから、とどめを刺した後に、さらに追い込んでどうするんだよ!」


 「あっ……。えーと……愛嬌(あいきょう)?」


 「そんな愛嬌、迷惑だ!」


 ケイトは腕を組んで悩みだし、僕は頭を抱える。

 シャルたちのいる辺りだけが、お通夜のように、ドヨーンとしていた。

 その中で一人だけ、こちらを振り向いていた者がいた。

 レイリアだ。

 彼女の何かと細かいところに気付く天性の感を、今まで何度も見てきた。

 僕は、彼女の天性の感に期待することにした。


 「ケイト、ケイトの言ってることは間違っていないですが、少し違います」


 うんうん。レイリア、言ってやれ!


 「私たちがガイハンク国と周辺領地の関係を知っていれば、長い時間を費やして、ユナハへ行く必要はなかったんです」


 ん? ……まあ、続きがありそうだ。

 このまま、レイリアの話しを聞こう。


 「知っていれば、私たちはユナハではなく、距離の短いガイハンク国へ向かったと思います。そして、レオパルト王に協力を仰いで、リンスバック経由でユナハに入れました。安全で邪魔をされない道のりを進めたんです」


 「「確かに……」」


 僕とケイトは、ハモってしまう。


 「先に聡明なレオパルト王へ会っていれば、マイ様とエル様に苦労させられることはありませんでした」


 「「うっ、確かに……」」


 僕とケイトは、再びハモった。


 「「ちょ、ちょっと!」」


 もう一組、マイさんとエルさんもハモっていた。


 「それに、フーカ様の珍道中に巻き込まれて、余計なことばかり増え、それも事あるごとに、おおごとばかり起こされて、苦労することもありませんでした」


 「た、確かに……その通りです」


 「へっ?」


 ケイトは賛同するが、僕はアホっぽい声をあげて、一瞬、思考が停止した。


 「私たちは、知らなかったことで、遠回りをし、しなくてもいい苦労を、フーカ様、マイ様、エル様のせいで背負いこんできたんです!」


 レイリアが結論を強調する。

 ケイトはうなだれ、僕、マイさん、エルさんの三人は、別の意味でショックを受け、うなだれた。

 そして、室内は静まり返り、ドヨーンとした空気が、さらに広がっていく。




 「あ、あのー、このままでいいのでしょうか?」


 モーリッツさんが、僕たちを心配する。


 「いつもこんな感じなので大丈夫です」


 自分は関わっていないかのような他人事のヒーちゃんが答えると、その脇で、シリウスが苦笑する。

 ヒーちゃんも、いくつかやらかしてると思うんだけど……。


 いつまでも落ち込む僕たちを、他のメンバーが面倒くさそうに見つめている。


 「お茶にしましょう。待ってても時間の無駄です」


 イツキさんが切り出すと、オルガさんがお茶を淹れ、皆に配った。

 そして、僕たちを放置して、会話を始める。

 その中には、アスールさんを筆頭に、他人事とは言い切れない人たちも混じっていた。 

 なのに、僕たちだけが落ち込んでいて、彼女たちが自分とは無縁のように振舞う姿に納得がいかない……。

 そして、言いたいことを言って満足顔のレイリアも、一緒になってお茶を飲んでいる。

 そんな彼女たちを見ていると、何とも言えぬ悔しさと怒りとが込み上げてくるのだった。




 僕たちは、精神的な疲労感に見舞われながらも復活した。

 だが、シャルだけはいまだに落ち込んでいて、アンさんが付き添っている。

 彼女は責任感が強いから、僕たちよりもショックが大きいのだろう。

 今はそっとしておこう。


 今は僕がしなければならないことを優先しなければ。

 レオさんには、僕からの支援要請とモーリッツさんからの救援要請が送られてしまっているので、レオさんが混乱しないように、その説明文をミリヤさんに書いてもらい、ハウゼリア連邦への対策を、同盟国の代表を集めて協議したいことも追加するように頼んだ。

 彼女が書き終えると、僕は、その書いた文章に目を通し、内容を確認した。

 そして、モーリッツさんに頼んで、ガイハンク国のレオさん宛に送ってもらう。

 これで、シュミット王国のことだけに集中できる。


 少しの間、シュミット王国への対策を考えてはみたのだが、国境付近に駐屯基地を造って警戒することくらいしか、僕には思いつかなかった。

 しかし、基地を造るとなると、兵士にも様々な負担を掛けてしまう。


 僕が、思いついたことをブツブツとつぶやきながら悩んでいると、イーロさんがそばに来た。

 何か、いい案があるのだろうか?


 「フーカ様、私の部下を警戒にあたらせましょうか? ドラゴンが国境付近を飛び回っているだけでも、シュミット王国への抑止力になるでしょう」


 「えーと、他国のことだけど、いいの?」


 「ええ、かまいません」


 「イーロさん、ありがとう!」


 彼は、とてもいい案を提示してくれた。

 ここは彼に甘えようと思う。

 一応、イーロさんの部下の皆さんにもお伺いを立てると、彼らは任せてくれと言わんばかりに、快諾してくれた。


 僕はミリヤさんに頼んで、人数分の大きなサイズの国旗を用意してもらう。

 もちろん、ユナハ国のものだ。


 「これをつけて飛んで下さい。よろしくお願いします」


 彼ら一人一人に手渡していくのだが、受け取ると、彼らはとても嫌そうな顔をする。

 気持ちは分かるが、ここは我慢して欲しい。


 イーロさんの部下たちが協力してくれるなら、駐屯基地もすぐに造れるそうだ。


 「ケイト! 一夜城を国境付近に建てて、駐屯基地にしたいと思うんだけど、準備をしてもらえるかな?」


 「なるほど! すぐに取りかかります!」


 彼女は快く返事をすると、モーリッツさんのところへ行き、彼に説明を始めた。


 あとは、駐屯基地に送る兵士を、どうするかだけだ。


 「シリウス、マイネ領の領軍を中心とした部隊を駐屯基地に配置したいんだけど、そのあたりのことは、分からないから、配置する人数や編成を任せてもいいかな?」


 「はっ! お任せ下さい!」


 彼は返事をすると、ケイトとモーリッツさんの会話に入っていく。

 しかし、しばらくすると、シリウスが僕のところへ戻って来た。


 「フーカ様、すでにモーリッツ殿の采配で、マイネ領軍の部隊が送られてます。人員も編成も申し分ありません。ですが、支援に来るガイハンク国軍との連携が心配なので、そのサポートにあたりますが、よろしいですか?」


 「うん。細かいところは専門家のほうがいいと思うから、任せるよ。よろしく頼むね」


 「はっ!」


 彼は再び、ケイトとモーリッツさんのところへ戻っていく。


 これで、こちらは準備を整えるだけだ。

 あと、することと言えば、シュミット王国が侵攻してこないことを、神頼みするくらいか。

 ん? ツバキちゃんに頼まないとなの……。



 ◇◇◇◇◇



 数日が経つと、一夜城の仕上げられた資材が順々に運ばれていた。

 その運送にはグレイフォックス隊も手伝ってくれていたので、順調に進んでいる。


 「コラー! アスール様! 何ですぐに戻ってこないんですか!? 途中で道草しないで下さい!」


 ケイトが、やる気のなさそうな表情をするアスールさんを叱っていた。

 若干、サボる者もいるが、きっと、順調に進んでいるはずだ……。


 今回は、立地条件の確認やら専門的な知識が必要とされるので、ケイトに監督を任せて、シリウスとモーリッツさんには、彼女のサポートを任せている。

 こういうことになると、ケイトの本領が発揮され、僕の想定を超えた速さで準備が進めらていた。


 また、駐屯基地の建設予定地には、オルガさんと特戦群の一部が、警戒と偵察を兼ねて滞在してくれている。


 優秀な仲間がいて助かる。

 そして、その仲間の一部は、今では妻になったんだと気付くと、ちょっと照れ臭くなる。

 ん? 奥さんが九人もいるのに、誰からもイチャイチャさせてもらっていない気がする……。

 その日の残りは、気にして欲しくていじけて過ごしてみたが、今は忙しく動いていることもあって、誰も気に留めてくれなかった。

 とても切ない。

 誰か、かまってー!




 それから数日も経たずに、ガイハンク国からドワーフの兵士たちが支援に来てくれた。

 僕たちは彼らを歓迎するが、ガイハンク国軍の士官たちは、マイさんを見てギョッとする。


 「マイさんは、少し離れててよ」


 「えっ? どうしてよ」


 「だって、ガイハンク国軍の兵士たちが怯えてるみたいだから」


 「なっ……」


 彼女は口をパクパクさせて、言葉が出てこないでいた。

 そして、プクーと頬を膨らませると、後ろにある席へドカッと座る。


 「酒! 酒、持ってこい!」


 「飲むな!!!」


 僕が怒鳴ると、彼女はテーブルを指でこすっていじけてしまった。

 面倒くさい……。




 僕はガイハンク国軍の士官と話し、シュミット王国との国境付近に滞在してもらえる約束を取り付けた。

 そして、そのことをモーリッツさんに話し、彼には国境付近にガイハンク国軍駐屯基地を造ることを頼み、了承してもらえた。

 これで、シュミット王国はマイネ領へ攻め込めば、ユナハ国とガイハンク国の二国との戦争をも覚悟しなければならない。

 しかし、向こうにはハウゼリアがいる。

 もう一手、何かが欲しいところだ。


 そんなことを思っている僕の前を、ルビーさん、ネーヴェさん、イーロさんの三人が、会話をしながら通り過ぎていく。

 これはチャーンス! これしかない!

 僕は、我ながらよく思いつたと、自画自賛しながら三人を追いかける。


 「ルビーさん! ちょっと待ってー!」


 僕が呼び止めると、三人は足を止めてこちらを振り向いた。


 「フゥー。追いついた」


 「フーカ殿、情けないぞ。もっと体力をつけたほうがいい」


 「は、はい。頑張ってみます」


 ルビーさんに体力のなさを指摘され、素直に受け入れた。ってそうじゃない!


 「僕の体力は置いといて、ルビーさんに相談があるんだけど、えーと、この話しはネーヴェさんとイーロさんにも聞いて欲しいんだけど、いいかな?」


 三人はコクリと頷く。


 「マイネ領に、グリュード竜王国の駐屯基地を置きませんか?」


 「「「!!!」」」


 三人は目を見開いて驚く。


 「急に……。いや、少し三人で話し合う時間をくれないか? すぐに済む」


 「いいですよ。あそこの休憩場所で待ってますね」


 「ああ、すぐに行く」


 ドラゴンへの積み込み作業をする人たちのために造った休憩場所へ向かうと、三人は輪になり相談を始めていた。


 そして、たいした時間もかからずに、ルビーさんたち三人はこちらへ来ると、僕が座っている席の向かい側へ座る。


 「フーカ殿、グリュード竜王国としては、立ち寄れる場所と航路が出来るので、嬉しい話しなのだが、ユナハ国の立場としては、他国に頼ることになるが、それでいいのか?」


 ルビーさんは、ユナハ国のことを気にしてくれていた。

 ちょっと嬉しいと思っていると、彼女の後ろを、ケイトとモーリッツさんが通り過ぎようとしていた。


 「問題ないんだけど、ちょっと待ってね。ケイト! モーリッツさん!」


 僕は話しを続ける前に、二人を呼んだ。


 「何ですか? 今、忙しいんですから、くだらない話しだったら無視しますよ」


 彼女はモーリッツさんとそばに来るが、一言多い。


 「今、マイネ領にグリュード竜王国の駐屯基地を置くことを、ルビーさんたちと相談してたんだよ」


 「そういうことなら……?」


 「「!!!」」


 二人が驚いた表情を見せる。


 「ちょっと、フーカ様! 私たちの知らないところで、何を勝手なことを取り決めてるんですか!?」


 「いやー、思いついちゃったから」


 「思い付きで決めないで下さい! せめて、誰かに相談するとかして下さいよ!」


 「皆、忙しそうだし、善は急げって言うじゃない!」


 「……」


 ケイトは呆れた表情で黙ってしまった。


 「とにかく、話しを聞いて。ルビーさんたちもね」


 皆は黙って頷く。


 「シュミット王国との国境付近にマイネ領軍とガイハンク国軍の駐屯基地を置いても、シュミット王国にはハウゼリアがいるから強気だと思うんだ。それに、シュミット王国とハウゼリアは、マイネ領を強引な手を打ってでも欲しがっている気がするんだ」


 僕は近くにあった小枝を拾い、地面にこの辺りの地図を書く。

 そして、指のような形をした湾を囲むようにあるマイネ領、シュミット王国、ハウゼリア新教国の範囲をつけ足していく。

 皆は、腕を組んだり、あごに手を当てて、その地図を見つめる。


 「ねえ、見て! マイネ領を取られると、この陸側にえぐりこんだ湾が、全てハウゼリアのものになるんだよ。こんなに美味しい地形を、敵は見逃さないと思うんだけど」


 「「「「「なるほど」」」」」


 「そこで、マイネ領をもっと強化するため、グリュード竜王国の駐屯基地を置けば、むやみに攻めてこれないし、さらに、この周辺の制空権も取れるでしょ」


 皆は黙ったままだが、コクコクと頷いて納得していた。


 「そして、もし、シュミット王国がマイネ領に攻め込んだら、今のままでは、ユナハ国とガイハンク国の二国とシュミット王国とハウゼリアの二国の戦争になる。これだとシュミット王国とハウゼリアは、マイネ領へ攻め込むことをためらわないと思うけど、マイネ領にグリュード竜王国の駐屯基地があれば、ユナハ国、ガイハンク国、グリュード竜王国の三国を相手にすることになり、さらに、ハウゼリアは、本国の後ろに位置するグリュード竜王国から、攻撃されるかもしれない」


 「そういうことか! マイネ領に手を出せば、ハウゼリアは挟撃されてしまう」


 「そういうこと! これっていい案だと思うんだけど」


 ルビーさんは納得すると、感心したような表情で、僕を見つめてきた。

 なんか照れ臭い。

 他の皆も、コクコクと頷いて納得している。

 そして、ケイトとモーリッツさんは、「すぐに取りかかります」と言って、ルビさんたちを見ると、イーロさんが「では、私が」と言って、二人と一緒に立ち去った。

 これで、マイネ領に攻め込むなんて安易なことは、考えないだろう。


 その後、ガイハンク国とグリュード竜王国の駐屯基地の建設が追加されたことで、運搬作業の日数が増えてしまったが、シュミット王国に対する警戒網は出来た。

 ただ、アスールさんだけが仕事を増やされたことを根に持ったのか、僕を見る度に寄ってきては、「あー、疲れた。人使い……ドラゴン使いが荒い。ここは酷い王がいる国だ」とネチネチと同じ愚痴を毎回言うようになった。




 城内に用意された執務室で仕事をしていると、ケイトが入ってきた。


 「フーカ様、私の仕事は、ほぼ終わりました」


 彼女からの報告を受けるが、ガイハンク国とグリュード竜王国の駐屯基地の建設は、終わっていないはずだ。


 「ガイハンク国とグリュード竜王国の駐屯基地は、まだ完成してないよね?」


 「そうですけど、そこまでする必要はないですよ」


 「えっ? どうして?」


 「ここの技官には、駐屯基地の設計について全て教え込みましたし、細かい指導もしました。何でもかんでもやってしまったら、技官が育たないじゃないですか」


 「確かにそうだね」


 「そうです。それに、私がいないと修復もできない駐屯基地を建てても意味がないじゃないですか」


 「ごもっとも」


 僕は納得して、彼女の関わった仕事に関する書類を取り出してサインをすると、その書類を終了した案件の箱へと入れる。


 それを見たケイトは、やるべき仕事を終えて、解放されたからなのか、両手を挙げて伸びをすると満足そうな顔をする。


 コンコン。


 「どうぞ」


 扉から入ってきたのは、イーロさんだった。

 彼が訪れたということは、国境で何かあったのかもしれない。

 僕とケイトに緊張が走る。


 「フーカ様、集結していた国境シュミット王国軍が撤退しました。しかし、向こうも警戒のためか、少数の部隊は残しているようです」


 「良かった。少しの部隊を残すのは、当たり前のことだろうから、想定内ってことでいいんだよね?」


 「はい、そうです」


 彼の言葉に、僕とケイトはホッと胸をなでおろす。


 コンコン。


 再びドアが叩かれる。


 「どうぞ」


 入ってきたのはミリヤさんだ。

 その顔には渋い表情が見え、少し焦っているようだった。

 彼女には、イーリスさんの役回りを代役してもらっているので、嫌な予感がする。


 「バルベ領とアンテス領から、ほぼ同時に報せが届きました」


 「もしかして、悪い報告?」


 「はい」


 彼女の返事に、僕、ケイト、イーロさんも自然と渋い表情になる。

 彼女は手に持った手紙を、僕に渡してきた。

 その内容に目を通して、僕は愕然とすると、ケイトに渡す。

 彼女は手紙を広げ、イーロさんと二人で目を通す。

 そして、二人は僕と同じように愕然とする。


 その内容は、カーディア新帝国がボイテルロック領に侵攻したことを報せるものだった。

 僕たちはホッとしたのもつかの間、また、急いで移動しなければならなくなったことにうなだれる。

 あちらこちらへと、引きずり回されているようで、気持ちの悪い感じがする。

 これって、仕組まれてないよね……。

お読みいただきありがとうございます。


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