90話 ハウゼリア連邦
外が騒がしくなり、目が覚めると、テント内は日差しが当たったことで、明るくなっていた。
同じテント内には、レイリア、オルガさん、アスールさんが青白い顔で、呻きながら横たわっていた。
二日酔いのようだ。
あんなに飲んでたのだから自業自得だ。
シャルたちは、すでに起きて動き出しているのか、テント内には姿が見えない。
テントから出ると、僕に気付いたアンさんが、桶に水を用意してくれる。
「おはよう」
「おはようございます」
僕は彼女への挨拶を済ませると、桶の水で顔を洗い、身支度を済ませる。
そして、お仕置き用のテントが気になり、中を覗いてみる。
中では、エルさんとマイさんが白目をむいて、寝ているというよりも気絶していた。
ちょっと、やりすぎたかな?
僕はリンさんを呼んで、二人の拘束を解いてもらうが、二人はピクリとも動かない。
生きてはいるので、出発の準備が出来るまで放っておくことにする。
この二人も二日酔いだから、起こしたら面倒くさいのが本音だ。
バルベ領への出発の準備が整った頃になると、二日酔いで横たわっていたレイリア、オルガさん、アスールさんの三人もフラフラとしながら集まってくる。
「おはよう。朝食が出来てるよ」
「今は気持ち悪いので……。やっぱり食べます」
レイリアは少し悩んだが、食べるようだ。
そして、オルガさんとアスールさんも気持ち悪いといいながらもガッツリ食べている。
二日酔いなのに、そんなに食べて大丈夫なのだろうか……?
ハンネさんも、サンナさんに付き添われながら、僕に挨拶をすると、朝食を食べ始める。
二日酔いでもガッツリ食べる四人を見て、ファルマティスの女性はたくましいと思ったのだが、ハンネさんは、呆れた表情で食事をする四人を見つめていた。
もしかして、この四人が特別なのかもしれない……。
解放されたエルさんとマイさんも、充血した目の下にクマを作り、フラフラ状態で朝食の席に来た。
そして、二人は水を持ってきたメイドさんに何かを頼んでいる。
彼女は困った表情を見せるが、渋々と頷き、その場を離れる。
しばらくして、メイドさんは小さな樽を持って戻て来た。
もしや……、いや、まさか……。
二人のコップに樽から赤い液体が注がれる。
僕は二人のもとへと急いだ。
「エルさん、マイさん! 何を飲もうとしてるのかな!?」
僕の声に、二人は身体をビクッとさせ、ゆっくりとこちらを振り向き、僕の顔を見て青ざめる。
「ワ、ワイン? ……かな?」
マイさんがたどたどしく、疑問形で答える。
「へぇー。二日酔いなのに、まだ飲むの?」
「「迎え酒?」」
「おバカ!」
パシン、パシン。
僕は、腰のホルスターにおさめられたハリセンを取り出し、二人の頭を叩いた。
「「グハッ!」」
二人は頭を押さえて、テーブルにうなだれる。
「や、やめて、イタタ。叫ばないで……。頭への攻撃もシャレにならないの、頭に響いて……。イタタタ」
エルさんが苦悶しながら訴えると、マイさんは言葉も出せずに苦悶している。
この二人は、バカなのか? こんな状態で、さらに飲もうとするなんて……。
メイドさんにワインを下げるように頼むと、二人は持っていかれるワインに手を伸ばして空を掴むと、悲しげに落ち込んだ。
底なしのバカだ……。
「二人には、ダモクレスの剣ではダメなようだから、また、別の方法を考えるよ!」
「「ちょっと、待って! イタタタ」」
相も変わらず、息がぴったりだ。
「フーカ君、昨日のことでも文句を言いたいのだけど、イタタ。今は病み上がりだから、イタタ。やめてあげるわ。でも、あれ以上の拷問を知っているのなら……」
マイさんは、言葉を止めてエルさんと向き合う。
「「ごめんな……ぐぬ。……イタタタ」」
二人で頭を下げてきた。
だが、頭痛が襲ったのか、二人は頭を押さえて苦しみだす。
この二人の相手をしていると、こっちまで頭が痛くなってくる……。
サンナさんとイツキさんの二人を呼び、エルさんとマイさんのことを話して、後は二人に任せ、エルさんとマイさんの相手をするのが面倒くさくなった僕は、その場から立ち去ることにした。
朝食を終えて、しばらくすると、出発の準備が出来た。
僕たちは、ヘルゲさんたちと別れ、先にバルベ領の首都ベメコスリン市へ向かうことにする。
今は、早くバルベ領の領主に、会わなければならないからだ。
ヘルゲさんたちにアスールさんの背から別れを告げ、飛び立った僕たちだったが、すぐにアスールさんが着地してしまう。
ヘルゲさんも何かあったのかと駆けつけてくる。
「アスールさん、どうしたの? 大丈夫?」
「すまん。飛ぶと気持ち悪くて、吐きそうなのだ……」
ドラゴンが飛びながら、ブレスではなく別のものを吐いている姿を想像してしまった僕は、少し気持ち悪くなり、この辺りに住んでる人には鳥のフンよりも迷惑な話しだと思った。
ルビーさんとネーヴェさんがアスールさんを見て、戻ってきた。
僕は二人に事情を説明すると、何とも言えぬ表情を浮かべ、僕に謝罪してきた。
そして、ネーヴェさんの背中に乗り換えることで話しがまとまった。
ルビーさんは自分の背に乗るように言ってくれたのだが、僕たちならいざ知らす、同族のアスールさんを再び乗せるのはどうかという配慮からだった。
具合の悪そうなアスールさんに肩を貸して、ネーヴェさんに乗ると、僕たちは再び飛び立つ。
不安を感じたヘルゲさんが、僕たちにグレイフォックス隊を同行させてくれた。
ペスとジーナさんのコンビを中心にグレイフォックス隊が、ルビーさんとネーヴェさんを囲むように編隊を組んで、一緒にバルベ領の首都ベメコスリン市へ向かう。
道中、ドラゴンたちが、チラッ、チラッと、ジーナさんを意識している。
彼女が竜騎兵だから気になるのだろうか……。
バルベ領内に入ると、アンテス領と似たような風景だったが、作物の種類は違っていた。
アンテス領と比べると、野菜類の畑が多いようだ。
ケイトとヒーちゃんが領内の航空写真を撮りながら、和気あいあいとしていた。
「ん? ケイト、二日酔いは大丈夫なの?」
「私は大丈夫ですよ。それに、途中で酔いが冷めてしまいましたし……」
彼女は二日酔いでうなだれているレイリア、オルガさん、アスールさん、ハンネさんを見つめてから、エルさんとマイさんに視線を向けると、二人への目つきは鋭くなった。
根に持ってるんだ……。
そのまま、ケイトとヒーちゃんの二人と話していると、首都ベメコスリン市らしき姿が遠くにうっすらと見えだした。
「ベメコスリン市っぽいのが見えだしたから、もう少しだよ。ベメコスリン市に着けばゆっくり休めるから、頑張ってね」
僕は、濡れたタオルを額にのせて横たわる六人の二日酔い集団に、優しく声を掛ける。
「フーカ様、もう限界かも……ウプッ」
「へっ?」
レイリアが真っ青な顔で頬を膨らませて、口を両手で押さえる。
「いやいやいや、ちょっと待って!」
彼女と同様に僕も叫びながら青ざめると、シャルたちも異変に気付き、こちらをみて青ざめる。
「わしも……」
「「「「私も……」」」」
連鎖するように、二日酔い集団が口を押えだす。
レイリアが先陣を切って、前方に向かって行く。
彼女につられるように、五人がその後ろをついて行く。
「あっ、ダメ! 前はダメ! 後ろ! レイリア! 後ろ!」
僕は、尾っぽの方を指差して、レイリアに叫んだ。
彼女は、僕の言葉に気付き、黙って頷くと方向を変え、後方へと走っていく。
その後ろを五人がついて行く。
危なかった。
ネーヴェさんの背中も魔法で空気抵抗はないとはいえ、多少の風は感じる。
前方でされたら、僕たちまでもが、とんでもないことになるところだった。
ネーヴェさんの後方につけていたドラゴンとワイバーンは、六人が口を押えて尾っぽの付け根辺りで屈み、身を乗り出す姿を見て、危機感を察したのか離脱していく。
そして、六人は限界を突破した。
異変に気付いたネーヴェさんがこちらを振り向く。
「ちょっと! 私の背中で何を……。いやぁぁぁー!」
彼女が絶叫する。
ルビーさんとイーロさんは彼女の悲鳴に気付き、こちらを振り返る。
事態を把握した二人のドラゴンは、眉間に皺を寄せたようにも見えた。
すると、二人は何事もなかったように前を向いてしまう。
あっ! 見なかったことにした……。
ネーヴェさんは、長い首をうなだれて、しょんぼりした様子で飛び続ける。
たまに、「シクシク。クスン」といった悲しい声が聞こえてくる。
「これはさすがに……。ネーヴェさんに何か謝罪の品をあげないと可哀そうだよね。たぶん、貰ったとしても、心中穏やかではいられないとは思うけど……」
「そうですね。出来るだけネーヴェ様が欲しくても手に入らない物を探しましょう」
僕の意見に、シャルも賛成してくれると、他の皆も頷いていた。
「えっ!? 何かくれるのですか?」
ビクッ。
いきなり声を掛けられ、驚いて振り向くと、目にうっすら涙を溜めたネーヴェさんがこちらを振り向いていた。
「ネーヴェ様にご迷惑をかけた六人中五人がうちの国の者ですから、何かお詫びの品を考えますから、期待してて下さいね! それに、下から見たらドラゴンが何か垂れ流して飛んでると思われたでしょうから、最大限のお詫びを考えます!」
「「「「「ケイト!!!」」」」」
僕たちは、余計なことに気付いたケイトに向かって叫んだ。
僕もそこまでは気が付かなかったが、ドラゴンとはいえ女性のネーヴェさんにとって、今の言葉は精神的にかなりきついと思う。
男の僕ですら、自分に置き換えて考えるのを、脳が拒絶するのだから……。
ネーヴェさんは固まったまま、飛んでいる。
大丈夫なのだろうか……。
彼女はフラフラと飛び出し、僕たちを振り落とすかのように左右に揺れ、水平を保てなくなる。
ダメだった……。
僕たちは彼女の背中にしがみつき、ケイトを睨みつけると、ケイトはペコペコと頭を下げながら、必死にしがみついていた。
ルビーさんとイーロさんが不自然な飛び方をする彼女に近付いて、翼を支えた。
二人のおかげ水平は保てた。
僕たちはホッとする。
後方にいる六人は大丈夫だったのかを確かめると、皆、無事だったが、さっきの揺れで、再び限界を突破していた……。
ネーヴェさんが放心状態から回復した時には、すでにメコスリン市の上空を飛んでいた。
ドラゴンが上空を飛んでいることで、下に見える街では大騒ぎになっているようだった。
そのまま、メコスリン城の上空まで行くと、ペスとジーナさんが城へ向かって急降下をし、城壁にいる兵士に手信号で合図を送った。
その兵士は、手信号で合図をジーナさんに返すと、城内へと消えていく。
僕たちはメコスリン城の上空を旋回して、城からの着陸許可が下りるの待つ。
少し経ってから、城の城壁に兵士が現れると、こちらへ合図を送って、着陸場所を指差した。
そこは芝で覆われた広い庭だった。
僕たちは、その庭へと順番に着地して行く。
着地した後、僕たちは、城から誰か来るのを待っていると、大勢の兵士が走ってきた。
そして、僕たちの少し手前で隊列を組み、敬礼をした後にビシッと立ち尽くしている。
敵対する気はないようだ。
ただ、誰かが来て、何かを告げるなりしてから、行動を起こして欲しかった。
大勢にジッと見つめられたまま放置は、ちょっときつい……。
少し遅れて、がっしりとした体型で少し白髪の混じった五〇代くらいのおじさんがお供を連れて現れた。
この人がここの領主なのは、服装ですぐに分かった。やっと、この放置プレイから解放される。
そのおじさんは、僕とシャルの前までくると膝を折る。
「フーカ・モリ・ユナハ陛下、シャルティナ王妃、ようこそバルベ領へ、お待ちしておりました。私はここの領主を任されておりますライナルト・フォン・バルベと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧なご挨拶、ありがとうございます。僕がフーカ・モリ・ユナハです。よろしくお願いします」
僕は返事をするが、シャルは顔を真っ赤にして立ち尽くしている。
「シャル? どうしたの?」
パシン。
「フーカさん、どうしましょう。王妃って呼ばれちゃった。ヘヘヘ」
彼女は僕の肩を思いっきり叩き、王妃と呼ばれたことに舞い上がっていた。
そして、皆からは、僕までもがジト目で見つめられる。
しかし、二日酔い六人衆は、そんなことは知ったことではないと言わんばかりに、芝生に寝そべっていた。
はしたない……。
ライナルトさんは、僕たちを城内へと招いてくれる。
その道すがら、彼はチラチラとこちらを気にする。
「大変お疲れの方がおられるようですが、こちらへ訪れるのに、何かご苦労でもありましたか?」
彼の質問に、僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になっていく。
シャルたち皆も顔を真っ赤にして、うつむく。
「い、いえ、ドラゴンに少し酔っただけですから、気にしないで下さい。アハハハハ」
「そ、そうですか」
誤魔化せただろうか……。
ライナルトさんは、僕たちを応接室に案内すると、従者がお茶と軽食を用意してくれた。
それぞれ席に着き、用意された物に手をつけ、身体を休める。
ライナルトさんは、特戦群、メイド隊、グレイフォックス隊にも休息のできる場所を用意してくれたのだが、メイド隊の数人には、こちらへ同行してもらった。
彼女たちには悪いが、二日酔い六人衆の世話を、ここの従者にさせるわけにはいかないからだ。
ライナルトさんと、お茶お飲みながら少し世間話しをして場を温めてから、エイルマーさんからの手紙を彼に渡すと、彼は恭しく受け取った。
彼は手紙を読み終えると、ニコリと微笑んだ顔を、僕に向ける。
「この手紙がなくとも、私はユナハ国に従うつもりだったのです。私のもとへも陛下の噂は自然と入ってきました。最初は夢物語を語る者が現れたと戸惑いましたが、権力の集中を嫌い、分散させることで腐敗した内政を立て直すことを考えたり、税を下げて民の経済を活性化させることで税収を上げることを考えたりと、正直、陛下のお考えを面白いと思ってしまいました。その時点で、私はユナハ国のもとで励みたいと決断していたのです」
「そうですか。ありがとうございます。バルベ領はこのままライナルトさんに任せようと思います。この領地をお願いします」
「はい、身命を賭して励みます」
その後、シャルとミリヤさんがライナルトさんにユナハ国の理念と方針を伝え、カーディア帝国とは根本的に違うユナハ国の憲法と法律を説明し、話し合っていた。
その会話を聞いて、ライナルトさんもカーディア帝国のあり方を憂いていたことが分かった。
僕が思っていたよりも国のことを真剣に考えていた人は少なくなかったように感じるが、何故、どうしようもない国になってしまったのだろう。
ふと、政界は魑魅魍魎の世界だといっていた政治家を思い出す。
政治って怖い……。
おおまかな話し合いが終わると、ライナルトさんからクレーメンス・フォン・シュミットが接触してきたことを告げられた。
クレーメンスは、僕たちがクーデターでバタバタしていた頃に接触してきたそうだ。
はっきりとした証拠はないけど、クレーメンスが暗躍していることは確かのようだ。
分かっていても何もできなところが歯がゆい……。
僕だけでなく、皆もそう思っているのだろう。
皆の表情がとても険しかった。
しかし、話しはそこで終わりではなかった。
「クレーメンスは、シュミット領が隣のトロスト領を制圧し、傘下に収めたことを告げ、バルベ領も隣接する領なのだから、仲よくしようと言ってきました。遠回しに傘下へ入れとの脅しでした」
「「「「「!!!」」」」」
ライナルトさんの口から出た言葉に、僕たちは驚くしかなかった。
いつの間に……。
これは完全な敵対行為だ。
近いうちに、シュミット領と戦うことになるかもしれないと思うと胃が痛くなってくる。
ボイテルロック領、カーディア正統帝国、カーディア新帝国の問題が残ってるというのに、新しい課題を増やさないで欲しい。
さらに悪いことは、シュミット領が反旗をひるがえし、トロスト領を占領したことで、僕たちはマイネ領へ急いで向かわねばならなくなったことだ。
マイネ領はガイハンク国とシュミット領に挟まれた領地なので、シュミット領が敵対したことで孤立してしまったのだ。
僕たちが早く行かないと、逃げ道のないマイネ領はクレーメンスに取り込まれてしまう。
さらに新しい課題を増やしてくれた。
胃だけではなく頭もいたくなってきそうだ……。
ライナルトさんにここで少し準備をさせてもらい、なるべく早くマイネ領へ向かいたいことを伝えると、彼は黙って頷き、考え込む。
「陛下、シュミット領は通してもらえないでしょうから、ガイハンク国を通って行くしかないのですが、他国に入るとなると手続きに時間がかかるのでは?」
「そうだった……。うーん。同盟国ってことで押し通る? 緊急事態ってことで事後承諾にしてもらえないかな?」
「「「「「……」」」」」
おかしな発言をする僕に、皆は黙って見つめてくる。
その目は、また何かやらかす気ではとでも言いたげな疑いの視線だった。
何もしないから、ただ、黙って通るだけだから……。
◇◇◇◇◇
翌日、ライナルトさんに呼ばれ、僕たちは応接室に集まった。
そこで、険しい表情をした彼から手紙を渡される。
その手紙に目を通すと、シュミット領が隣接するトロスト領と合併し、シュミット王国として独立したことが書かれていた。
僕の表情も自然と険しくなってしまう。
しかし、文章はそこで終わりではなかった。
続きに、ハウゼリア新教国がハウゼリア連邦を宣言し、シュミット王国がそれに加盟したことが書かれていた。
その手紙は、近隣の領主に対しての宣言書だった。
国ではなく、領主に宛てているところがあざとすぎる。
僕は、シャルに手紙を渡し、皆にも読んでもらう。
それぞれが読み終えると、険しい表情に変わっていく。
特にエルさんとルビーさんは苛立ち、ムッとしていた。
二人は連邦という言葉にイラついているようだ。
「このハウゼリア連邦って、ハウゼリア新教国がシュミット領とトロスト領を取り込むことを誤魔化しているだけじゃない。きぃぃー! ムカつく!」
エルさんは、ハンカチを噛んで悔しがる。
「そうなるな。シュミット領もトロスト領と合併とはよく言ったものだ。そして、一国家として立ち上げ、ハウゼリア連邦に加盟するとは……。これでは、元カーディア帝国の領地だったとしても、こちらから領地統一のための侵攻が出来なくなった。やられたな」
「そうよ! だからムカつくのよ!」
僕たちよりも、エルさんとルビーさんのほうが悔しがっている。
僕も悔しいのだけど、エルさんがまともな思考をして、相手の策を理解していることに驚き、頭が働かずにポカーンとしてしまう。
「ちょっと、あんたたち、何をボーっとしてんのよ。これは大変なことなのよ! あんたたちの国のことなのよ! しっかりしなさい!」
エルさんが、こちらへ向かって叫ぶ。
僕だけでなく、皆もポカーンとしていたようだ。
「う、うん。ごめんなさい。エルさんが物事を考えて話してるから、思考が追いつかなくて」
「なっ! それ、どういう意味よ!」
彼女は顔を真っ赤にして僕を見てから、皆にも視線を向ける。
皆は彼女に向かってコクコクと黙って頷く。
「あ、あんたたち! 私を何だと思ってるのよ!」
「ヒステリックな酔っ払い?」
「「「ブフッ」」」
僕が思わず答えてしまうと、ミリヤさん、ハンネさん、サンナさんが吹き出した。
エルさんは、頬をヒクヒクさせながら黙ってしまった。
エルさんのせいで、よく分からないことに時間を費やしてしまったが、頭を切り替えて整理しなければならない。
「えーと、シュミット領はシュミット王国になって、ハウゼリア連邦に加盟したから、シュミット王国とユナハ国がやりあったら、ハウゼリアとユナハ国の全面戦争になるってことだよね?」
「そうよ! だから大変なことだと言ってるでしょう!」
エルさんは、興奮気味に返事をする。
「これって、こうなることを狙ってたよね?」
「当たり前じゃない。ハウゼリアとシュミットで口裏を合わせてたのよ。フーカ君じゃないんだから、こんなスムーズに行くわけないわよ!」
何故、そこで僕が出てくるの? っていうか、皆もエルさんの言葉にコクコクと頷き、納得しているんですけど……。
「それにしても、国を造った途端に、後ろ盾となる国も確保するなんて、フーカ様の二番煎じじゃないですか」
「フーカ君も建国する前に根回ししてたし、参考にしたんじゃないの」
「なるほど。フーカ様の姑息さとあざとさを参考にして研究されると厄介ですね」
「でも、こっちにはオリジナルのフーカ君がいるんだから大丈夫よ」
「そうですね。フーカ様なら、もっと姑息であざとく卑怯な手を考えられますからね」
「そういうことよ! 一騎打ちでペスちゃんを使ったり、カイを人質に取ったり、非常識を通り越せる行動を取れるのは、この世界ではフーカ君だけだもの!」
ケイトとマイさんの会話がおかしい。
敵のことで、何で僕がディスられてるの?
そして、マイナスなことで褒められてる。
それも世界で僕だけって……。
僕は、二人から羞恥をさらけ出されたような感じがして、恥ずかしさのあまり、のたうち回る。
「フーカ? 何をしてるんだ?」
「アスール様、フーカさんをそっとしておいてあげて下さい」
「フー君は、葛藤しているんです」
「そ、そうか……」
僕を気にしたアスールさんに、シャルとヒーちゃんが答えるが、その僕の心境を察した言葉は、僕をさらに恥ずかしめた。
僕が落ち着きを取り戻すと、ライナルトさんが僕に何か言いたげだった。
「ライナルトさん、何か気付いたことがあるなら、どうぞ?」
「はい。おそらく、シュミット王国がハウゼリア連邦に加盟したことで、動き出す国が出てくるかもしれません」
彼は嫌な予測を立てるが、確かにその通りだ。ユナハ国を良く思っていない国はハウゼリア連邦が出来たことで、ハウゼリア側につきやすくなってしまった。
「ハウゼリア側につく国が増えるのは困るね」
「確かにそれもありますが、ハウゼリアが加盟国とはいえシュミット王国という領土を広げたことで、まだ、未完成のユナハ国に対して、他の国も動きを見せるかもしれません」
「カーディア帝国なんて大きな領土を取って、統制が行き届いていない今のうちならってこと?」
「その通りです。それに、まだ、ボイテルロック領とマイネ領が残っています。ボイテルロック領がハウゼリア連邦に加盟しないように動くか、マイネ領をハウゼリア連邦に取られないように動くか、どちらにしても動かせる兵も人材も足りません」
「確かに……」
「それに、無理を承知で両領地の制圧に動けば、他の領地が手薄になってしまいます」
ライナルトさんが出来る人で良かったと思う。
しかし、八方ふさがりっぽく感じるのだけど……。
「レオさんに頼んで、マイネ領をガイハンク国で制圧してもらおうか?」
「「「「「……」」」」」
僕の提案に、皆は呆然としている。
「うちの領地にしても、飛び地になってるから護るのが大変だし、制圧する軍隊はガイハンク国を通らせてもらわないといけないでしょ」
「でしょ。って……。そんな簡単に……」
シャルが頭を抱えると、皆も頭を抱える。
そして、エルさんたちとルビーさんたちまでも頭を抱えていた。
「こういうところは抜けてるのよね」
エルさんの言葉に皆が頷く。っていうか、エルさんは他国の人なのに、何だかムカつく。
「フーカ様、飛び地ですけど、海に広く面している領地ですよ。戦略的には軍港と貿易港もおけるんですよ。それに、グリュード竜王国との中継場所にも使えるんですよ」
「うっ。マイネ領はうちで制圧しよう!」
「「「「「バカ!」」」」」
ケイトの説明で、僕は意見をコロッと変えると、皆からきつい一言を浴びせられた。
「うーん。ボイテルロック領は、エイルマーさん、ライナルトさん、それと、シュナ領のアレックスさんに警戒してもらって、その間にマイネ領を制圧しよう。他の国のことは動き出したら考えよう」
「今は、それしか手がないですね」
僕の意見にシャルが賛成すると、皆も頷く。
今はマイネ領へ向かうとして、ハウゼリア連邦に対しての対策も考えておかないといけないな。
連邦ということは、シュミット王国は自主権を持ったハウゼリア新教国に所属する一つの国で同盟国とは違うと思うが、シュミット王国はそれでよかったのだろうかと思ってしまう。
ハウゼリアに騙されて、同盟国のつもりで連邦に加盟したような気がする。
「ねえ、連邦って、こっちの世界だと同盟国の集まりとは違うんだよね」
「同盟とは違いますが、過去には同盟国同士集まりで資金や人材を提供して、連邦という一つの集団を別に創設していましたから、そのあたりは曖昧なところもあります」
「そうなんだ」
ミリヤさんの説明で、シュミット王国の立ち位置が分からなくなった。
深く考えても仕方がない、ハウゼリア連邦として考えて対策を練っておくことにしよう。
僕たちはマイネ領へ向かうべく、準備を急ぐ。
そんな中、マイネ領からガイハンク国経由での使者が来たことを知らされる。
僕たちは執務室に集まり、顔をそろえた。
ライナルトさんからマイネ領領主からの手紙を渡され、目を通す。
その内容は、マイネ領はユナハ国の領地として歩むつもりであることが書かれていた。
そして、以前にシュミット領からの誘いを断ったことで、現在、シュミット王国がマイネ領に向けて軍を動かしている様子が見られることも書かれていた。
僕は、その手紙をシャルに渡す。
彼女は目を通すと顔をしかめて、皆も目を通せるようにテーブルへと広げた。
僕は、皆が手紙に目を通したことを確かめてから、口を開く。
「準備が整い次第、マイネ領へ向かおうと思うけどいいかな?」
「「「「「はい」」」」」
僕たちは、マイネ領へ向かうべく、準備の続きを急ぐのだった。
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