89話 酔っ払い
僕たちは、すぐにでもバルベ領へ向かいたいのをグッと堪え、物資の補充などの準備に時間をあてていた。
シャルとミリヤさんが、ユナハ国の理念と方針をエイルマーさんに教えるのは、すぐに済んだ。
二人からの報告では、彼は長年、アンテス領を治めていただけあって、理解するのが早かったそうだ。
そして、僕たちが目指す国の姿を知って、感心したり感動したりしていたとのことだ。
貴族の中には、僕たちの目指している目標を夢物語だと思っている人もいると聞く。
僕に関して全てを公開してるわけではないから、彼らから見れば、僕の思っていることは異世界の知識や文化になるので、すぐに理解してもらえるとは思っていない。
しかし、エイルマーさんのように真剣に受け止め、理解してくれる人たちもいる。
僕にとっては、それが嬉しくてたまらなかった。
滞在中の個室として与えられた客間で、そんな思いにふけっていると、レイリアが僕の顔を覗き込んでくる。
「フーカ様、バルベ領へ向かう準備が出来たそうですよ。フーカ様は準備が出来てますか? 忘れ物はないですか?」
「うん、大丈夫だよ」
何だか、レイリアが子供を学校へ送り出すお母さんに見える……。
「何ですか?」
「いや、何でもない。早く皆のところへ行こうか」
「はい」
レイリアに、お母さんみたいなんて言えない。
こっちの世界では、彼女と同年代で子供がいる人は多い。
僕が嫌味を言ったと勘違いされる気がする。
そして、暴走するに決まっている。
変な方向に暴走されたら、僕がたまったものじゃない。
「フーカ様? 悩み事ですか?」
「いや、何でもないよ。早く行こう」
「???」
僕は思っていたことを誤魔化すように、首を傾げるレイリアを急かして、皆のところへと向かうのだった。
城の庭では、バルベ領へと向かう準備が終えた皆が、僕を待っていた。
皆を待たせていたと思うと申し訳なくなり、僕は、集まっている輪の中へとそそくさと紛れ込んだ。
「フーカ様、紛れ込んで誤魔化してもバレバレですよ」
一緒にいたレイリアは、僕の肩を掴むと、ニッコリと微笑んで皆にバラしてしまう。
裏切り者ー。
「えーと、待たせてごめんなさい」
僕が皆に謝罪すると、エイルマーさんだけが頭を抱え、嘆いていた。
彼は古い習慣がこびりついているせいか、アンテス領に滞在している間、僕がすぐに頭を下げたり、迷いなく謝罪をすると、「王がペコペコとしない」と、やたらと注意してきていたのだ。
皆は、僕ではなく、エイルマーさんを見て苦笑する。
「エイルマーさん、お世話になりました。アンテス領のことをお願いします」
「陛下、そのような態度は……。わしが言っても治りそうにないので、もういいですわい。そうそう、陛下、これをライナルトへ渡せば、彼はすぐに分かってくれるでしょう」
彼は急にフランクな口調となり、僕の手に手紙を握らせる。
「ありがとう。行ってきます!」
「道中、お気をつけて」
ライナルトさんへの手紙を預かり、僕たちはバルベ領へ向かうため、アスールさんの背中に乗ると、シリウスとマイさんも彼女の背中に乗る。
「わしだけ、荷物が増えてるぞ!」
彼女の愚痴に、荷物扱いをされた二人は、苦い顔をしていた。
僕たちは飛び立った。
そして、バルベ領に向かっていると、ヘルゲさんの部隊に向けて、先に出発していた補給部隊と、その護衛部隊を見つける。
彼らは、こちらに気付くと、旗を大きく振りながら歩みを進めていた。
僕たちは挨拶がてら、彼らの上空で一度旋回してから、先を急ぐのだった。
マイさんとシリウスたちが率いてきた軍は、カイが陣頭指揮をとり、アンテス領とボイテルロック領の境界に向けて、数日後に出発し、境界で陣地を構築することとなっている。
クレーメンスがボイテルロック領に手を回しているかもしれないと考えての対抗策だ。
僕だって、それくらいの知恵は持ち合わせている。
バルベ領内へ入る辺りで、ヘルゲさんたちの部隊を見つけた。
彼らは野営の準備をしているところだった。
すると、こちらに向かって、一頭のワイバーンが飛んできた。
ペスとジーナさんだ。
僕が彼女たちに手を振ると、ペスがはしゃぐように喜びだし、そんなペスを、ジーナさんは抑えるように制していた。
そして、ジーナさんは、ペスをアスールさんのそばに寄せるようにして飛ぶ。
僕は、彼女に「このまま向かっても到着が夜になってしまうので、ヘルゲさんたちの野営にお邪魔させて欲しい」と告げると、彼女は、「夜間の移動は危ないので、今日は我々の野営地で休むように」とのヘルゲさんからの言伝を伝えにきたのだった。
僕たちは、ジーナさんに先導され、野営地から少し離れたところへ、静かに着地していく。
「アスールさん、下にいる人たちの迷惑にならないように、風を巻き起こさないで着地する心遣いが出来るようになったんだね。えらい、えらい!」
僕は彼女の行動に感心して、褒めた。
「まーな。スープを作っていたり、料理をしているのが見えたからな! 土埃が入ったら、せっかくの御馳走が台無しだ!」
「……」
僕が思っていたのとは違う食いしん坊な返事をされ、言葉を失う。
僕の感動を返してくれ!
僕たちが降りた場所に、ヘルゲさんが迎えに来てくれる。
彼の後ろからは、ジーナさんと大きな巨体のペスも近付いてきた。
ジーナさんとペスとは、久しぶりな感じがして、懐かしさが込み上げてくる。
僕がヘルゲさんとジーナさんに、ねぎらいの言葉を掛けると、二人は少し驚いた表情で恭しく頭を下げた。
そして、二人は皆にも挨拶をする。
その横では、「ガルガル」、「そうか、そうか」などと、アスールさんとペスが話しまくっていた。
正直、少しうるさい。
「何だか、強そうな人たちが増えてませんか?」
ジーナさんは、視線をイーロさんたちに向けたまま話す。
「アハハ。色々あってね……。こちの経緯も、ちゃんと話すから」
「そうですか。向こうにフーカ様たちのテントも用意させてますから、どうぞ!」
「ありがとう」
僕とジーナさんが野営地に向かって歩いていると、ペスが僕に頬ずりをしてきた。
か、可愛い!
「ペス、久しぶりだね。忙しくさせてごめんね」
「ガルルルル」
僕は彼女の鼻先をなでてあげると、嬉しそうな声を上げていた。
野営地に用意されたテントへ着くと、僕たちにも食事が出される。
すると、サッと席に座るアスールさんとレイリアが、出された料理をわき目も振らずにガツガツと食べ始めてしまう。
皆は、ガッツく二人を恥ずかしそうに見つめる。
僕たちが食事をさせていないみたいに映るから、ガッツかないで欲しい……。
僕も席に座り、ヘルゲさんとジーナさんに、今までの経緯を話そうとすると、アルバンがヘルゲさんに報告をしに来た。
彼にも座ってもらい、僕は、食事をとりながら、三人に今までの話しをした。
三人は僕の話しを聞き、最初のうちは驚いたり苦笑したりしていたが、クレーメンスの話しになると、険しい表情へと変わった。
「クーデターは、クレーメンスがチャドとマシューに策を与えて、陽動として起こさせた可能性がありますな。その間に、アンテス領、バルベ領、マイネ領に接触していたとなると、クレーメンスが何を画策していたのか……。これは、気を引き締めなおさないといけませんな」
ヘルゲさんの言葉に、アルバンとジーナさんも黙って頷く。
僕は、彼が僕たちと同じ意見にたどり着いたことで、クレーメンスがとても厄介な人物だと確信した。
おおまかな話も終わり、ヘルゲさんたちにイーロさんを紹介すると、彼らはお互いに挨拶を交わし始めた。
「ジーナは凄いのだぞ! なんと! 竜騎兵の素質持ちなのだ! ヒック」
すると、彼らの挨拶を中断するように、アスールさんが真っ赤な顔をしながら、上機嫌で余計なことを暴露してしまう。
「ちょっと、アスールさん! ん? ヒック? アスールさん……? 顔がやけに赤くない?」
「そ、そんなことは……ないぞ! たぶん……ヒック」
「アスールさん! 酔っ払ってるでしょ!?」
「酔ってません! 頑張ってまーす! ヒック」
「……」
何を頑張ってるんだ? 意味が分からん。
完全に酔っ払ってる……。
「これは、完全に出来上がってますね。申し訳ありません」
「いえ、イーロさんが謝ることではないので」
イーロさんは、彼女が酔っていることを詫びてくる。
アスールさんが酔っ払っていたことで、ジーナさんの話しが有耶無耶になって、助かった。
それにしても、どうして酔っ払っているのだろうと、僕は彼女のいたほうを向く。
そこでは、エルさんとマイさんが顔を真っ赤にして騒いでいた。
そして、ハンネさん、レイリア、オルガさん、ケイトも参加している。
何で、宴会が開かれてるの……?
真面目な話しをしていた僕たちは、彼女たちを見て唖然とする。
すると、僕たちの視線に気付いたサンナさんとイツキさんが、謝りに来た。
「「私がついていながら、申し訳ありません」」
二人が謝る必要はないと思う。
どうせ、エルさんとマイさんが元凶なのは、何となく想像がつく。
「どうして、あーなったの?」
「それが、ケイトのリキュールや酒類の研究に必要かと、我が家で楽しんでいるお酒をカーディアに持ってきたのですが、その一部が、私たちの荷物に紛れ込んでいたようで……」
「それを運悪く、あの二人が見付けちゃったんだ……」
「はい。気付いた時には、皆にも振舞ってしまっていて……。申し訳ありません」
イツキさんは渋い表情で頷くと、再び謝る。
少し大人しくしていたと思ったらこれだ。
これからバルベ領だというのに、あの二人は何を考えているんだ……。
「ケイト! レイリア!」
僕は、楽し気に飲んでいる二人の酔っ払いを呼んだ。
「フーカしゃまー、何ですかー? ヒック。これは私のだからあげませんよー」
「レイリア……。どれだけ飲んだの……」
少しふらつきながらも僕のところまでたどり着いたレイリアは、お酒の入ったコップを大切そうに持って、僕の横にドカッと座る。
一方、ケイトは無言のまま、コップと一升瓶を持ってスタスタと歩いてくると、レイリアの隣に座った。
「ケイトは酔ってないんだ」
「私は酔ってなどいません! ヒック。研究者たるもの……たるもの、何でしょう?」
こっちも酔ってた……。
ケイトの持っている一升瓶のラベルには、『純米大吟醸』と書かれていた。
そして、中身が三分の一くらいしか残っていなかった。
「二人とも、どれくらい飲んだの?」
「「これくらい」」
レイリアとケイトは息を合わせたように、指で四センチほどの幅を示す。
「そんなわけないよね?」
「「じゃあ、これくらい」」
二人が示した幅は、二センチほどに変化した。
「減ってるじゃないか!」
僕が怒鳴ると、二人はケタケタと笑いだし、テーブルをバンバンと叩く。
何が可笑しいのか全く分からん。
これだから、酔っ払いは……。
僕の脳裏に、身近で酒癖の悪かった大人たちが浮かび、自然と溜息が出てくる。
これ以上飲ませるわけにはいかないと、彼女から一升瓶を取り上げると、ウルウルと切なそうな目を僕に向けてきた。
たちが悪い……。
返してとせがまれたら断る自信のない僕は、アンさんに一升瓶を渡す。
「ケイト、今、飲んでいたお酒は、ケイトのリキュールや酒類の研究のために、イツキさんが用意してくれたものだよ。飲んじゃって良かったの?」
今まで笑っていたケイトはスクッと頭を上げ、真剣な表情になった。
「へっ? ……冷たいお水を下さい!」
ミリヤさんがコップに入れた水に魔法をかけ、キンキンに冷やした水をケイトに渡すと、彼女は一気に飲み干す。
「プハー。ちょっと、それ、どういうことですか? エル様とマイ様は、ヒサメ様の新作の飲み物だと、今回はお酒にしてみたと……」
研究のために用意されたと知った途端、彼女の酔いは一気にさめてしまったようだ。
ケイトがヒーちゃんを見つめると、彼女は首を横に振る。
そして、ケイトは、額を押さえて天を仰いでから、うなだれてしまった。
ちょっと、可愛そうな気がする。
「皆さーん! こんなところれー、難しい顔なんてしちゃって、どうしちゃったんれすかー? ヒック。こんなに美味しいお酒を飲まないなんて、もったいないれすよー! 皆もー、飲みまひょー。ヒック」
オルガさんが僕たちのところへ来て、腕を突き出しながら言うと、ゴクッと生唾を飲みこむ音が、複数、聞こえる。
そして、ケイトは皆にお酒を勧めるオルガさんを、余計なことを言うなと睨みつけていた。
さっきまで、一緒になって飲んでいた彼女の豹変ぶりに、僕の顔には自然と苦笑いが出てしまう。
「フーカ様、手伝って下さい……」
「ん? 何を?」
「空き瓶の回収です……。瓶も貴重な研究資料ですから……。私はバカです。あの瓶と貼られた紙で気付けたはずなのに……」
「手伝うから、そんなに落ち込まないで……」
落ち込んだケイトは、どうも苦手だ。
早くいつものケイトに戻って欲しい。
調子が狂って接しづらい……。
数本の空き瓶を見つめると、そのそばでは、ご機嫌で騒いでいるエルさんとマイさんがいた。
こんなにうるさい中、ハンネさんは酔いつぶれて寝てしまっている。
今は、この元凶の二人をどうにかしたい。
僕とケイトで空き瓶を回収していると、シャルとヒーちゃんも手伝ってくれた。
四人で回収した瓶を抱えて戻って来ると、純米大吟醸の空き瓶がテーブルに置かれていた。
僕たちは唖然として、酔っ払いどもに視線を向けるが、レイリア、アスールさん、オルガさんは、ハンネさんと同様、酔いつぶれて寝ていた。
視線を上に向けると、皆の目が泳いでいる。
ヘルゲさん、ジーナさん、シリウスまで……。
いや、ミリヤさん、アンさん、イーロさんも……。
ん? 何で、サンナさんとイツキさんまで目が泳いでるの?
皆、酒好きだった……。
この酔っ払いどもが!
最後の一瓶も空にされたケイトは、愕然として固まる。
「ケ、ケイト……。ごめんなさい。でも、カーディア市に木箱で運び込んであるから、足りない時は、私がリンスバックから取り寄せます」
イツキさんは、ケイトの落ち込みように罪悪感を感じたようだ。
ケイトの身体がピクッと動く。
「ケイト殿、今、いただいたお酒を生産していただければ、我が国に輸出していただきたい! ルビー様、いいですな!」
イーロさんの言葉にルビーさんが頷き、その隣ではネーヴェさんも頷いている。
ケイトの身体がピクピクッと動く。
もう一声!
「今回はエル様がご迷惑をおかけしました。こんなに美味しいお酒を生産されるのであれば、我が国にも輸出していただきたい! そして、我が国は植物研究もファルマティスでは最高位ですので、酒造に必要な材料の提供も致しましょう!」
「分かりました! そういうことなら私も頑張って、イツキ様からいただいたお酒を再現、いえ、それ以上のものを作ってみせます!」
「「「「「おぉぉー!」」」」」
パチパチパチパチ――。
復活したケイトに向けて、歓声と拍手が起こると、彼女も誇らしげな表情をする。
いつものケイトに戻ってくれて良かった。
さて、今度はこっちの番だ。
「これより、エルさんとマイさんへのお仕置きをしたいと思います。ご機嫌で調子に乗っている二人には、『ダモクレスの剣』を味わってもらいます」
「「「「「???」」」」」
僕から発せられた初めて聞く言葉に、皆の頭上には、クエスチョンマークが出ていた。
ただ、ヒーちゃんだけが理解し、顔を引きつらせて苦笑する。
「フーカさん、『ダモクレスの剣』って何ですか?」
「それは、見てのお楽しみということで。シャル、髪の毛を二本、頂戴!」
「ええ、かまわないですけど」
シャルがそう言うと、彼女の背後でアンさんが髪の毛を二本つまみ、ナイフで切る。
僕は、渡されたシャルの髪の毛を大切に握りしめ、リンさんを呼ぶ。
リンさんは、すぐに駆けつけてくれた。
僕は彼女の耳元で、『ダモクレスの剣』がどういうものかをささやくと、戸惑った顔で僕を見つめてくる。
「あのー。そんなことをしても、大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫! ただ、剣が落ちないように細工しておいてね」
「なるほど。そういうことでしたら」
リンさんは納得すると、すぐに動き出した。
リンさんが手を挙げて、合図を出すと、酔っ払ってご機嫌のエルさんとマイさんの周りには、黒い影立ちが忍び寄り、二人を取り囲んだ。
だが、二人は酔っ払っているせいか、全然、気付いていない。
僕たちは固唾をのんで見守る。
黒い影たちは気配を消し、二人の背後へと忍び寄る。
そして、二人の頭に袋をかぶせた。
「「えっ? 何?」」
「「ぎゃぁぁぁー!」」
二人のこもった悲鳴が聞こえると同時に、二人は地面に転がされ、両手両足を拘束されてしまう。
素早い手際で、あっという間の出来事だった。
特戦群の雄姿を初めて見たイーロさんは、青ざめた表情で驚き、ルビーさんに話し掛けている。
そして、ルビーさんは彼の話しに頷くと、ドヤ顔で彼に特戦群について解説をしていた。
何で、ルビーさんがドヤ顔なのだろう……?
特戦群は、拘束されながらもジタバタしているエルさんとマイさんを、用意されたテントへと連行……というか、担いでいく。
さらっているようにしか見えない……。
僕たちも遅れて、そのテントへと行くと、中では木箱にシーツを掛けただけの簡易ベッドに、エルさんとマイさんが仰向けに寝かされた状態で縛り付けられていた。
そして、二人の顔の上には、シャルの髪の毛で吊るされた抜き身の剣がユラユラと揺れて光を放つ。
良く見れば、剣は髪の毛が切れても落ちないように、数本の紐で固定されていたが、見た目は、髪の毛が切れたら落ちてくるようにしか見えない。
リンさんはいい仕事をしてくれた。
「「「「「こ、これが……ダモクレスの剣……」」」」」
テント内の細工を見た皆が驚き、つぶやいた。
そして、その顔は青ざめている。
リンさんがベッドに縛り付けられている二人の袋を取ると、酔っているからなのか息苦しかったからなのか、真っ赤な顔をしていた。
二人は、自分たちの真上で揺れる剣に気付くと、今まで赤かった顔が青ざめていく。
「「ちょっと、なにこれ!? 放しなさいよ!」」
「騒がない方がいいよ。髪の毛で吊るされてるから、切れちゃうよ」
「「……」」
僕が大声を出す二人にささやくと、黙ってこちらを見つめてくる。
「えーと、これ、『ダモクレスの剣』って言って、王者には常に危険がつきまとっていることや栄華の中でも危険にさらされていることを悟らせる方法なんだ」
僕の話しに、二人は黙ったままコクコクと頷く。
「エルさんとマイさんは、今がどういう状況か分かっているよね?」
再び、二人は黙ったままコクコクと頷く。
「なのに、酔っ払って、どんちゃん騒ぎ。エルさんはカーディアでも酔っ払って、やらかしてるし、マイさんは勝手な行動を取って注意を受けたばかりだよね?」
「「さあ、何のことかしら?」」
二人の目が泳ぎだし、僕とは反対の方向を向き、すっとぼけだした。
さっきから、二人とも息がぴったりだな……。
やらかすこともだけど、同一人物を二人も相手にしているような感じだ。
「エルさんとマイさんには、このまま朝まで過ごしてもらうから、自分たちの立場をよく考えて、ちゃんと反省してね。じゃあ、朝になったら迎えに来るね」
僕は皆を引き連れて、テントを後にする。
エルさんとマイさんから僕を罵る声が聞こえるけど、気にしない。
僕たちは自分たちのテントへ戻るが、少し強めの風が吹いてテントが揺れる度に、エルさんとマイさんのいるテントから悲鳴が聞こえてくる。
うるさい……。
アンさんがあごを押さえて何やら考えている。
「アンさん、どうしたの?」
「いえ、このお仕置きは、シャル様やフーカ様の時にも使えると思いまして……」
「なるほど」
アンさんの言葉に、イーロさんが相槌を打つ。
その途端、シャルとルビーさんたちが一斉に僕を睨みつける。
そんなに睨まれても……というか、今、僕の名前が挙げられてたよね……。
僕は、自らとんでもないことをしてしまったと後悔した。
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