84話 クーデター
リンスバック領のクーデターを阻止する組と、アンテス領へ向かい、領の制圧とマイさんの支援をする組に別れる。
リンスバック領へは、僕とシャルたち僕の奥さん、今回はミリヤさんにも付いて来てもらう。
他にも、リンスバック領ということでカイ、移動手段も兼ねたルビーさんたち、特戦群とメイド部隊の数人にも一緒に行ってもらう。
アンテス領へは、シリウス、ヘルゲさんを中心とした地上部隊と、ジーナさんたちグレイフォックスを中心とした飛竜部隊、陸軍特殊部隊に行ってもらうことにした。
そして、問題は、制圧したとはいえ、まだ統治しきれていない、ここカーディア市に誰を残していくかだった。
アスールさんの妹であるフリーダさんには、まだ使者も送っていない。
本当なら、こういうことに他国の人を使うべきではないけど、サンナさんにお願いすることにした。
彼女は快く引き受けてくれるが、その横で手かせをしたエルさんがブーたれる。
縄が身体に食い込んで痛いと文句ばかり言うので手かせに変えてあげたのに、まだ文句を言うのか……。
「エルさんは、捕まっているんだから文句ばかり言わないでよ。本当なら牢屋に入れるところを、ここに置いてあげているんだから」
「うっわー。フーカ君が王様になった途端、エロそう。間違えた、偉そう!」
わざとだ!
「ハンネさん、エルさんを治安維持部隊に渡して牢屋に戻しちゃって!」
「はい、喜んで!」
「こら! ハンネ! 喜んでってどういうことよ! って、ちょっと待って! フーカ君、何、手配しようとしてるの? もう、文句は言わないからここに置いて! 義理の祖母が牢屋に入れられたら世間体が悪いでしょ。ねっ、ね!」
疲れる……。
そして、ミリヤさんは恥ずかしいのか、お怒りなのか顔を真っ赤にしてうつむいたままだ。
「じゃあ、エルさんはそのままで、あとのことはサンナさんに任せます。カーディア市のことをよろしくお願いします」
「分かりました。お任せ下さい」
僕は皆に指示を出し、リンスバック領へ急ぐことにする。
リンスバックのクーデターは、必ず阻止しなければならない。
リンスバックをとられたら、僕の留年が決まってしまう。
僕にとっては絶対に引けない戦いだ。
「皆さん、リンスバック領のクーデターが成功したら、フーカさんはクズになってしまいます。クーデターは何が何でも阻止しましょう!」
「「「「「はい!!!」」」」」
「クズのために!」
「「「「「クズのために!!!」」」」」
シャルも皆も、やる気を見せてくれるのは嬉しいけど、クズのためには違う!
そんなに連呼しないで欲しい……。
そして、僕たちは、ルビーさんたちに分乗してカーディア市を飛び立ち、リンスバック領へと向かう。
「ん? ちょっと待て! フーカ殿、おかしいぞ」
「えっ? 何かあったの?」
ルビーさんに言われ、僕は彼女の背から下を覗き込む。
しかし、地上におかしなところは見つからない。
「いや、そうじゃない。何で、アスールが私の背でふんぞり返っているんだ!?」
僕たちの視線が、涅槃像のような格好でお菓子を摘まんでいるアスールさんに集中する。
「「「「「……」」」」」
あまりにもリラックスした彼女の姿に、僕たちは言葉を失う。
「ア、アスールさん? 何で、ここにいるの?」
「ん? リンスバック領に向かうのだろう?」
「いや、そうじゃなくて、何で、アスールさんがルビーさんに乗って、くつろいでるの?」
「ん? ああ、そういうことか。わしはいつも乗せる側で、ドラゴンに乗ったことがなかったんだ。だから、わしも乗ってみようと思ったんだ」
「そりゃあ、ドラゴンだからね。乗ったことはないよね」
「そうなのだ。それで、フーカたちに紛れてたら、すんなり乗せてもらえたから、そのまま、今に至っている。いやー、こんなにくつろげて楽な乗り物はないな」
「「「「「……」」」」」
僕たちは、再び言葉を失った。
ドラゴンがドラゴンを乗り物扱いしている……。
「ん? もしかして、ドラゴンに乗ったドラゴンは、わしが初めてかもしれん」
彼女が喜んでいると、ネーヴェさんが近付いてくる。
「ア、アスール……。ドラゴンに乗ったドラゴンよりも、ルビー様、女王に乗って、乗り物扱いしているドラゴンのほうが前代未聞ですよ! さっさと降りなさい!」
「ネーヴェ、どこかに下りたってくれんと、今さら降りれんのだが……」
「なっ……」
ネーヴェさんがうなだれた。
そして、後方を飛んでいるアルタさんとベルタさんもうなだれた。
ルビーさんは一度こちらを振り向いたが、すぐに正面を向いてしまった。
諦めたようだ……いや、呆れたようだ。
そして、複数のドラゴンがうなだれて飛んでいる姿は、とてもシュールだった。
リンスバック領へ入ると、領都リンスバック市から見えない位置に下り立ち、地上を進む。
その道中、アスールさんは、ルビーさんとネーヴェさんに、こっぴどく叱られていた。
リンスバック市に向かう道のりはのどかで、農家さんが畑仕事に精を出していた。
本当にクーデターが起きているのだろうかと、疑いたくなる光景だった。
しばらく歩いて進むと、リンスバック市の城壁が見えてきた。
しかし、クーデターが起きている様子はない。
僕たちは不思議に思いながらも、城門へと向かった。
とにかく、クーデターが起きていることを前提に、行動をすることにする。
皆と相談し、まずは城壁の衛兵から情報をもらい、敵の戦力を把握すること。
そして、市内でも情報を集めてから、リンスバック城へ向かうことにする。
カイから、城を一望できる草むらがあることを教えられ、情報を集めた後は、そこで、城の様子をうかがうこととなった。
リンスバック市の城壁に着くと、城壁が制圧されている様子はなく、衛兵たちが慌ただしく動き回っていた。
「あのー、すみません。ちょっといいですか?」
街の城門を護る衛兵に声を掛けると、彼はギョッとして僕を見つめた。
そして、我に返ると、姿勢を正して敬礼をする。
僕は、彼にここの責任者を呼んで欲しいと頼むと、再び敬礼をして走り去ってしまう。
少し経つと、彼が数人の兵士と共に戻ってくる。
唇の上にひげを生やしたおじさんが僕たちに敬礼をすると、彼のそばにいる兵士たちも同時に敬礼をする。
彼がここの責任者のようだ。
「ご苦労様。それで、リンスバックでクーデターが起きているって聞いて駆けつけたんだけど、クーデターは?」
「はっ! 正確ではないですが、およそ千人ほどの反乱軍がリンスバック城を包囲しているとのことです。我々は軍の主力部隊が戻って来るまで、ここを護るように命じられていますので、おおまかな情報で申し訳ありません」
「いや、かまわないよ。それで、反乱軍を率いているのは、誰だかわかっているの?」
「は、はい。それが……」
彼は、カイを見て少し悩むと、再び口を開く。
「カイ様に媚びを売っていた貴族たちが中心となっています。どの人物が、この反乱を企てた首謀者かまでは、残念ながら……」
「カイの取り巻き貴族たちは、捕まってたんじゃ?」
「そ、それが、我が軍の主力部隊が出陣して警備が手薄になった隙に、誰かが手引きをして、牢獄から解放されたようで、申し訳ありません」
「それにしては、動きが早いね」
「は、はい……。おそらく、今の状況になることを予測しての行動だと思われます。我々や城の衛兵が気付いた時にはすでに遅く、城からは、この城壁を反乱軍に落とされないようにとの命令だけが来ました」
「なるほど。ありがとう。それで、頼みがあるんだけど、集められるだけの兵士を集めて、反乱軍に見つからないところで待機してもらえるかな?」
「はっ! かしこまりました!」
彼は敬礼をすると、周りの兵士たちを連れて、駆け足で立ち去っていく。
敵の数も分かったし、後は敵の動向を見て決めるべきだな。
それにしても、千人か……。
「フーカ様、申し訳ありません」
カイが謝ってくる。
「いや、カイのせいじゃないから、この手の連中はカイがいなければ、別の者に寄生してただろうし、カイが気にすることじゃないよ」
今のカイは、更生して立派に働いてくれてるから、彼を庇うことはあっても責めるつもりはない。
しかし、彼は何度も頭を下げてくる。
「カイ、もういいから。それよりも、城を一望できる草むらに案内して」
「はい!」
僕たちは、彼の後ろについて行く。
途中、街の人にも様子を聞いてみたが、新しい情報は入ってこなかった。
リンスバック城の城壁から少し離れた草むらへと到着した。
確かに、ここからならリンスバック城も城壁周辺も見渡すことが出来る。
城の周辺では、確かに、反乱軍が城の城壁を包囲していた。
双眼鏡で様子を見ると、見覚えのある顔もいる。
首謀者とされているカイの取り巻きだった貴族たちの姿だ。
そして、他にも見覚えのある顔を見つけて驚いた。
「えーと、あれ、あれ、あの二人……。例の二人がいるよ」
すぐには思い出せなかった。
僕の言葉に、イーリスさんが首を傾げながら、代りに見てくれる。
「チャド・フォン・アドラムとマシュー・フォン・ベイツですね。他にも貴族主義派閥の顔ぶれがちらほらと見られますね。しかし、エトムント・フォン・シュナの姿はないようです」
「そう、それそれ。チャドとマシュー」
皆は、僕に呆れた視線を送ってくる。
「こんなところで、見つけるとは思いませんでした。彼らがこのクーデターを画策した可能性が出てきましたね。エトムントと、きっと、クレーメンス・フォン・シュミットも関わっているかもしれませんね」
シャルは、あごに手をやり、何かを考え始める。
僕も不安を感じ、ある疑念が頭に浮かぶ。
「「クーデターは陽動?」」
僕とシャルは、同じタイミングで言葉を発した。
皆はこちらを向き、曇った表情を見せる。
まだ憶測でしかないけど、あながち間違いとも思えない。
「ちょっと、待って下さい。ハウゼリア聖騎士団の姿もあります」
イーリスさんから追加の報告をされ、ますますきな臭くなってきた。
皆の表情にも緊張が走る。
「ちょっと、アンテス領へ向かったシリウスたちが心配になってきた。それと、マイさんも大丈夫かな?」
「ええ。ですが、シリウスとヘルゲも頭は切れます。アンテス領でクレーメンスが何かを画策していたとしても、容易には引っかからないでしょう。ただ、叔母様次第だと思いますけど……」
「「「「「……」」」」」
マイさん次第と聞くと、皆が言葉を失う。
僕たちが事態を重く捉えている横で、ハウゼリアのことを聞いたルビーさんたちが、腕を回し、張りきりだす。
僕たちは彼女たちを見て、同時に溜息をついた。
イーリスさんが反乱軍の規模を目測で計算してくれる。
「衛兵の報告よりは少ないですね。千人はいないです。ですが、八〇〇人はいると思います」
「そんな人数で、籠城している城を落とせるの?」
「城内に入れば可能でしょうけど、城壁の防御を上げられてしまったこの状況では、無理です」
「城内に内通者がいて、城門を開けるのを待っているのかな?」
「そうなると、マズいですね。こちらもすぐに手を打たないといけなくなります。ただ、あの貴族たちがクレーメンスに乗せられて、クーデターを画策したのなら、そこまで考えているかが疑問ですが……」
僕たちは、城と反乱軍を眺めながら、皆、何かいい手はないかと悩みだし、黙ってしまう。
ベンさんたちが、すぐに手を打って籠城し、街の城壁にも命令を出したおかげで、僕たちは、すんなりここまでこれたが、もし、街の城壁が制圧されていたら、今頃はかなり苦労させられていたことだろう。
そんなことを思いながら反乱軍を見ていると、不思議なことに気付いた。
「イーリスさん、城門の前に集結しているのが本隊なのは分かるけど、城壁を調べるように分散している部隊がいるようだけど、あれは何?」
彼女は、双眼鏡で確かめる。
「反乱軍は、あの貴族たちが指揮をとっているだけあってバカでしたね。城壁の攻略を考えているようです。おそらく、城内に内通者を用意していなかったんでしょう」
彼女の話しを聞いた僕は、すぐにリンさんを呼ぶ。
「フーカ様、お呼びでしょうか」
「うん。特戦群で、反乱軍の分散している部隊を、気付かれないように倒して欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。直ちに取り掛かります」
彼女は得意げな表情で、そう言うと、足早に立ち去ってしまう。
反乱軍の分散している部隊の様子を見ていると、彼らの背後の草むらから、ギリースーツを着た特戦群が現れ襲い掛かった。
そして、その亡骸を担いで草むらへと引き返していく。
味方なんだけど、その戦い方は背筋がヒヤッとするほど怖い。
僕の横に、ルビーさんたちが来て特戦群の様子を見ると、ブルッと身体を震わせ、僕を嫌そうな表情で見る。
そんな表情で僕を見ても……。
その後も特戦群は、分散している部隊を、一部隊ずつ始末をしては、証拠を残すことなく、草むらへと姿を消すという行動を繰り返した。
すると、僕のもとへ、さっきの衛兵が訪ねてきた。
彼は市内と市の周辺を警備する兵士たち、非番だった兵士たちまでかき集めて、約二〇〇人の兵士を用意できたことを報告に来てくれたのだった。
そして、彼からは、城内にも二〇〇人ほどの味方の兵士がいることを教えたもらった。
合わせて四〇〇人か。
リンスバック軍の主力部隊も引き返してこちらへ向かってる。
彼らが到着するまで、城を制圧させないことだけを考えれば、なんとかなりそうな人数だろう。
それに、城内の兵士が、こちらに気付いてくれれば、反乱軍を挟撃することも出来る。
僕は衛兵に、こちらから合図があるまで、二〇〇人の兵士を反乱軍に見つからない位置で待機させるように指示をだした。
「はっ! かしこまりました」
彼は敬礼をして、立ち去っていく。
後は、特戦群で反乱軍をどれくらい削っていけるかだ。
結構な大仕事をさせてしまっている。
イーリスさんに頼んで、特戦群の人たちには、臨時ボーナスを出してもらおう。
リンさんからの報告を待っていると、僕たちの潜んでいる草むらを影が横切った。
上空を見ると、二頭のブルードラゴンが飛んでいる。
なんで?
僕は、すぐにアスールさんを探す。
彼女はシャルとお茶を飲んでいた。
あれ?
残っているのは、アルタさんとベルタさんだ。
彼女たちを探すと、少し離れたところでケイトとヒーちゃんの二人と話しをしている。
その輪の中にはルビーさんとネーヴェさんもいる。
ここには、五人全員がいる。
どういう事?
僕は上空を眺めると、飛んでいるのは、二頭のブルードラゴンだけではなかった。
頬を冷や汗が、ツーと垂れてくる。
リンスバック市の空は、いつの間にか、おおごとになっていた……。
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