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うちの神様の間違った転移でおおごとに! 女神の使いにされて、僕を頼られても困るのだが……。  作者: とらむらさき


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80話 侵攻、帝都カーディア

 僕たちは、帝都カーディアの城壁近くに移した新しい陣地で会議を行っていた。

 カーディア市は帝都だけあって大きい。

 そして、人口も多い。

 そんなところで市街戦を展開し、さらに街への被害を最小限に、城までたどり着かなければならない。

 こちらの兵員が多ければやりようはあるのだが、兵員は乏しいままだ。

 ゲームのように、勝てば兵員も増えていったりはしない現実に、歯がゆい思いをしていた。


 僕たちユナハ国軍で増えていくのは、敵の負傷者と捕虜ばかりだ。

 彼らが増えれば、その手当てや監視が必要になり、人を割かなければならなく、逆に戦える兵員が減っていくのだ。


 結局、妙案が出ることなく、レクラム領首都カールエンドの時と同じ作戦をとることで、話しはまとまった。


 今回は、アスールさんたちに余計なことをさせないように、僕の護衛として目に見えるところに置くこととなった。

 彼女たちは不服のようだったが、せっかく立てた作戦を、行き当たりばったりな状況にされては困る。

 しかし、アスールさんたちを見ると二人足りない。

 アスールさんの部下のカルメラさんとチャロさんがいないのだ。


 彼女たちが、すでに余計なことを始めているのではと、僕たちはおののき、顔を引きつらせる。


 「アスールさん。カルメラさんとチャロさんはどうしたの?」


 「二人には、私たちが長く国を空けているので、国への報告に行ってもらいました」


 アスールさんではなく、ネーヴェさんが答えた。

 僕たちは、その言葉にホッとする。

 そして、皆はエルさんたちに注目した。

 彼女たちも、ルビーさんたちと同じ期間、国を空けているはずだ。


 「えーと、うちの国は報告を出さなくても、女王がいなくて喜んでいると思いますから大丈夫です。きっと、今頃、仕事が捗っていると思います」


 サンナさんが恥ずかしそうに答えると、エルさんは、「どういうこと?」といった表情を浮かべてから、頬を膨らませて怒り出す。

 そんな彼女を見て、室内は笑い声に包まれた。

 僕も笑っていると、数人からの視線を感じるが、僕はエルさんと違って、ちゃんとやっているはずだ……だから、気にしないことにする。




 あたりが薄暗くなり、完全に日が暮れると、王直下特戦群と陸軍特殊部隊に命令が下された。

 そして、この時、リンさんたちから特殊部隊の隊員に、初めて拳銃とコンバットナイフが配られた。

 今まで、ショートソードと一般的なナイフで作戦をこなしてくれていたことに、僕は驚く。

 僕の表情を見たリンさんから、敵にこの武器が渡るわけにはいかないことと、リンさんたちでさえ、いくつもの試験に合格して、初めて持たせてもらえるのだと、銃を指して説明される。

 彼女の言っていることは、銃の怖さを知っている者の証拠だと思う。


 特戦群と特殊部隊の隊員は、僕たちに敬礼すると、五人組に別れて暗闇へと消えていった。

 この時、偵察部隊は、すでに動いているのだが、彼らに関しては、僕が彼らの任務の邪魔をしかねないと、僕には詳しいことを教えてくれないんだよね……。


 特戦群と特殊部隊が立ち去って、しばらくすると、自陣のサーチライトが点灯する。

 そして、城壁を照らし出すと、敵兵たちが慌ただしく動き出した。

 特戦群と特殊部隊のための陽動が始まったのだ。

 シリウスも本隊の兵士たちと共に準備を始める。

 彼らは甲冑にギリースーツを羽織った姿をしていた……異様だ。

 しかし、シリウスたちは、そんなことはお構いなしに出撃していき、城門のそばで息をひそめて待機を始める。


 しばらくして、城門が開きだした。

 すると、シリウスが率いる本隊は、帝都の中へと飛び込んでいく。

 少し間をあけてヘルゲさんの部隊も後を追うように続いた。


 ケイトの無線機には、ひっきりなしに各部隊からの報告が上げられている。

 その中には別動隊が特戦群と特殊部隊の任務を引き継いだ内容もあった。

 ここまでは、順調に進んでいる。

 難しくなるのは、これから先だろう。




 僕たちは、帝都の城門付近の安全が確認されてから、護衛部隊を率いて城門まで進む。

 その時、後方からおよそ二千の軍隊が向かっていると報告を受けた。

 すぐに飛竜部隊が上空からの偵察に向かい、僕たちは行軍の足を止め、いつでも引き返せる準備をしつつ、詳しい報告を待つ。

 誰もが、後方から来るのは敵軍だろうと腹をくくっていた。

 このタイミングでの挟撃はマズすぎる。

 僕たちは緊張で静かになる。


 ケイトの無線機に、飛竜部隊からの報告が上がきた。

 後方から迫る軍隊は、敵ではなく、アレックスさんが送ってくれた増援だった。

 きっと、アレックスさんが人員を調整して、苦労の末、絞り出した増援だということは想像できる。

 僕は彼に感謝し、大切に使わせてもらうことを誓った。


 増援に来てくれた彼らに、城壁前の陣地を任せ、陣地の警護にあたっていた兵士たちをシリウスたちの増援と、市街地の制圧をしている部隊の増援にまわす。

 市街地制圧の増援部隊の指揮官を誰にするかを悩んだ結果、その指揮を執るのはエルさんたちに任せた。

 ちょっと不安だが、サンナさんとハンネさんもいるから大丈夫だろう。


 エルさんたちが市内に飛び込んでいくのを見送ってから、僕たちも歩みを進める。




 城門をくぐってすぐのところで、市内の様子をうかがう。

 市内では両軍が均衡し、市街戦が激化していた。

 このまままではマズい!

 街にも自軍にも思っている以上の被害が出そうだ。


 僕は、何かいい手はないかと頭をひねる。

 そして、周りをキョロキョロとしてヒントを探す。

 ひらひらとさせたマントをつけている高官らしき兵士が目についた。

 そして、敵兵の指揮官はともかく、一般兵はただ言われるがまま、帝都を護るために戦っているのではないだろうか? という疑問をから、ある案を思いついた。

 やるだけやってみるか、上手くいけば儲けものだし、ダメだったら、また、別の案を考えよう。


 シャルに近付き、ユナハ家とユナハ国の旗を掲げるようにお願いする。

 彼女は首を傾げていたが、すぐに了承してくれた。

 自軍の兵士たちが旗を掲げると、しばらくその様子を見ている。

 すると、敵軍に動揺が走り出していくのが見受けられた。

 たぶん、成功だろう。


 「フーカさん、敵の動きが鈍くなりましたけど、旗を掲げたくらいで、どうしてこんなことに?」


 シャルが質問をしてくると、そのそばでイーリスさんたちも興味ありげに、こちらを見つめてくる。


 「それは、カーディア帝国の上層部が敵対しているだけで、戦っている一般兵は、ここに住む市民と変わりないからだよ」


 彼女たちは、まだピンときていないようだ。

 鈍い……。


 「えーとね、敵兵が全部敵じゃないんだよ。ただ、命令で僕たちと戦っているだけで、彼らはシャル、つまり、皇女殿下と戦っているとは思っていなかったんだよ。戦っている相手が皇女殿下だと分かれば、いくら命令でも、戦っていいのか分からなくなるし、倒すわけにもいかない。それに、シャルは悪政を敷く宰相たちから国を取り戻すことを掲げていたから、命令に従っている兵士たちは、誰が敵で誰が味方なのかが分からくなって、混乱しているんだよ」


 「なるほど、そういうことでしたか。ですが、フーカさんの上からの物言いが、何故かムカつきます。今、私たちのことをバカだとか、鈍いと思っていますよね?」


 「そ、そんなことは……全然、少しもないよ!」


 シャルに睨まれ、目をそらすと、皆からも睨まれていた。

 ここは、僕が褒められるところだよね? 何で睨まれなきゃいけないんだ……。




 市内で戦っている敵兵の動揺が広まるのは早かった。

 すぐに全体へと行き渡る。

 そして、屋内に隠れて様子を見ていた市民たちは、旗印に気付くと窓から顔を出し始め、僕たちに手を振ってくる人もいた。


 「危ないから、戦闘が終わるまでは顔を出さないで下さい!」


 それを見た兵士たちは、顔を出している家に向かって注意を叫び、忙しく走り回ることとなった。

 彼らには悪いことをしてしまった。


 僕たちが歩を進めだすと、ケイトの無線機が、敵兵に投降する者が多くなり、こちらへ加勢する敵兵まで現れだしていることを告げてきた。

 中には指揮官を捕らえて引き出してくる敵部隊も現れた。

 もう、市街戦を心配することはなさそうだ。

 僕の予想通りに、市街地は、制圧に向かって速度を速めていくのだった。




 僕たちは、安全の確保が確認された大通りを城へ向かって進みだす。

 花弁や紙吹雪が舞うように降ってきた。

 見上げると、二階の窓から顔を出す市民たちからの歓迎だった。

 僕たちは嬉しくなり、手を振り返す。

 すると、彼らから歓声が上がり、手を振り返してくれた。

 僕だけでなく皆も、感動で目をウルウルさせている。


 「フーカ様。カールエンド市の時も、こうすれば良かったのではないですか?」


 「うっ、それはそうなんだけど……。そう、あの時は、竜族の皆さんが暴走してくれたから、それどこらじゃなかったから」


 イーリスさんの言葉に、僕もそう思い後悔したが、思わずアスールさんたちのせいにして、誤魔化してしまった。

 最近、誤魔化す癖が身に着いた気がする……。

 一方、アスールさんたちは、身体をビクッとさせた後、引きつった笑顔で市民たちに手を振りながら、何も聞こえなかった振りを通し続けた。




 城の前へと到着すると、そこも激戦と化していた。

 城に立てこもった連中は、腐敗した内政の中で甘い汁を吸ってきた者が多いだけに、僕たちの掲げる旗を目にしても一歩も引く者はいなかった。

 彼らは負けるわけにはいかないだけに必死だ。

 これでは味方にも多くの死傷者が出てしまう。


 しかし、この状況では、さすがに何もいい案が浮かばない。

 我が身可愛さで、死に物狂いになっている相手では、打つ手なんかない。

 僕は、自然と難しい顔をしてしまっていたのだろう。

 僕を覗き込んできたアスールさんがニコッと笑う。


 「フーカ。そんな顔をするな! わしが何とかしてきてやるぞ!」


 「えっ? ア、アスールさん? ちょ、ちょっと待って!」


 彼女は僕の制止も聞かずに、激戦の中に飛び込んでいき、見えなくなってしまう。

 僕は、心配で血の気が引いていく。

 すると、ルビーさんがポンポンと優しく肩を叩いてきた。

 彼女の脇では、ネーヴェさんが何の心配もいらないと言わんばかりに、ニッコリと微笑んでいる。


 「フーカ殿は心配しすぎだ。アスールは、人の姿で戦ったとしても竜族だ。そこらの人間が敵うわけはない」


 ルビーさんはそう言うが、心配なのはしょうがない。


 「ルビー様、アスールは愛されてますね。フフッ」


 「うむ。ちょっと羨ましいな。アスールが戻ってきたら、これをネタにからかってやろう。アハハハハ」


 二人は、僕の表情を見ながら茶化すような感想を言いながら笑い出すので、とても恥ずかしくなる。

 



 アスールさんを心配しながら戦場を見つめていると、敵兵が次から次へと吹っ飛んでいく。


 「ほら見たことか! 敵が吹っ飛んでおる。アッハッハッハ」


 「まるで、人間花火ですね。こういう時は何と言うんでしたっけ?」


 「ネーヴェ様、たーまやーです」


 「たーまやー!」


 「えーと……」


 「ルビー様、かーぎやーです」


 「かーぎやー!」


 スパーン。


 僕のハリセンが久々にケイトへ炸裂した。

 彼女はしゃがんで頭をさすりながら、こちらを見上げる。


 「ケイト! 何で余計なことを教えるんだよ!」


 「いえ、花火を楽しんでいらっしゃるので」


 スパーン。


 二発目が炸裂する。


 「花火みたいでも、あれは人なんだから、不謹慎じゃないか!」


 「ごめんなさい。でも、お二人とも楽しんでますよ」


 二人は、アスールさんが敵兵を吹き飛ばし、人間花火が撃ちあがる度に、掛け声を叫んでいた。

 僕はこれ以上、ケイトを叱る気にもなれず、ただ肩を落とす。

 そして、シャルたちを見ると、人間花火が上がる度に、叫びはしなかったが笑顔で拍手をしていた。

 久々に、こっちの世界は物騒すぎると思った。




 ある程度というか、ほとんどの敵を吹き飛ばしたアスールさんが戻って来た。


 「アスール! アスール! ――」


 味方の兵士たちから、大声で彼女の名前が連呼される。

 その中を、彼女は手を振り、顔を真っ赤にして歩いてくる。

 そして、僕のそばに来ると、「これは恥ずかしい」と顔を両手で覆って僕の背中に隠れてしまった。

 こんなに照れているアスールさんを見れるのは、貴重かもしれない。


 「アスール、照れている場合ではないぞ。フーカ殿は、とても心配していたのだから、謝ったらどうだ」


 「そうですよ。フーカ様は、アスールが戦場に向かったとたん、心配でオロオロしていたんですから。それだけ愛されているのだから、心配を掛けたことは謝りなさい」


 ルビーさんたちはニマニマしながら、アスールさんを諭す。

 いや、楽しんでるな……。


 「フーカ。心配を掛けてごめんなさい」


 ヤバい! 滅茶苦茶、可愛い!


 「アスールが仲睦(なかむつ)まじい伴侶(はんりょ)を迎えられて、嬉しいわ。ルビー様、これなら二人の子もすぐに見れますね」


 「うむ。そうだな!」


 やっぱりこの二人は、アスールさんで遊んでいる……。


 プシュー。


 アスールさんは、ゆでだこのようになって固まってしまう。

 そして、その顔は、若干ニヤケていた。

 彼女は、しばらくこのままだろうな……。


 アスールさんのおかげで、城の城門付近の制圧はスムーズに行われることとなった。

 城門をくぐると、大きな広場が出てくる。

 ミリヤさんに頼んで、そこに救護所を設営してもらう。

 シリウスとヘルゲさんは、すでに扉を開け城の屋内へと進んでいたので、彼らについて行った兵士たちも、ここで治療を受けられれば身体に負担はないだろう。

 それに、アスールさんが吹っ飛ばした敵兵たちの治療も行える。

 おそらく、ほとんどが敵対したままだろうが、中には人質を取られて、無理矢理戦わされていた者もいるかもしれない。

 もし、以前にアノンがアルバンへ言った言葉がなければ、人質を取られている者がいるかもしれないことを、僕は気付けなかったかもしれない。




 ミリヤさんが兵士たちを動かし、救護所の設営をしている様子を眺めていると、ケイトの無線機に、ハウゼリア兵の姿を確認との報告が入る。

 僕は一応、釘を刺しておこうとアスールさんたちに目を向けた。

 アスールさんは、僕と顔を合わせるとモジモジとして恥ずかしがる。

 ルビーさんたちがからかうから、彼女の様子がおかしくて調子が狂う。


 「……」


 ルビーさんは何処? ネーヴェさんもいない……。

 他は?

 アルタさんとベルタさんはいた。


 「アルタさん、ルビーさんとネーヴェさんは?」


 僕の質問に、彼女は困った表情を浮かべ、開け放たれた城の扉を指差した。


 「……」


 二人は城の屋内に入って行ってしまったようだ。

 お転婆ドラゴンどもめ!


 「本当は、私たちはここで待機する予定でしたが、行くしかないですね……」


 シャルはそう言って、うなだれる。

 そして、皆は溜息をついて、仕方がないといった表情を浮かべた。


 「わしは行ってないぞ! 偉いだろ! ちゃんとフーカの言うことを聞いていたぞ!」


 「うん、アスールさんは偉いね! 約束を守てくれてありがとう」


 子供か! と思いつつも彼女の頭をなでてあげると、とても喜んでいた。




 僕たちは、先走ったルビーさんたちを追って、城の屋内へと進むこととなった。

 先に入ったシリウスとヘルゲさんの部隊に、ケイトが無線機で連絡を取り、事の次第を彼らに伝えるようにと指示を出すと、僕たちも開け放たれた扉から中に入って行くのだった。

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